表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/292

86話 エピゴーネンの鏡

 卒業式も終わり、退寮する日がやってきた。

 午前中までが荷造りで午後に移動が始まる予定だ。


 私は荷物を全てアイテムボックスに仕舞い、午前中のやることを直ぐに終えてしまった。

 すると、一回り大きくなったセレスが提案する。


「遺跡に行こう?」

「今から? 午後の移動に間に合わないと思うんだけど……」

「ゲートで行こう!」

「まだ慣れてないんだけど……」

「練習あるのみだよ! どんどん使ってこ?」


 私は魔素の支配(ニブルヘイム・真)を使うことで魔素を自由に使えるため全ての適正を超えて魔法を使えるようになった。もちろん天以外の超級適正である空と時の適正の魔法も使える。どちらもまだまだ慣れておらず、空の適正では視界に収まる範囲の短い距離を移動する瞬間移動(ショートワープ)と一度行ったことがあればどこまでも移動できる空間と空間を繋げる(ゲート)しか使えない。時の適正に至ってはまだ何も成功していない。でもこれはつまり私にはまだまだ成長の余地があるということだ。


 それはさておき今から行くとカトレアちゃんを一人置いていくことになってしまう。


「カトレアも来る?」

「私はミーヤやチコに挨拶してくるわ。直ぐに戻ってくるんでしょう?」


 確認のためにセレスを見ると頷いている。


「そのつもりだよ。じゃあ行ってくるね」

「ええ、行ってらっしゃい」


「ゲート」


 セレスのお強請りに負けて遺跡までのゲートを開く。

 現れたゲートを通るとセレスと戦った場所に出た。半年前に戦ったのが嘘のようにきれいな場所になっている。


「ここにくると前の戦いを思い出すね」

「そうだね! それにしても驚いたよ。まさかスキルを書き換えちゃうなんて」

「一か八かの賭けだったけどね。上手くいって良かった」


 セレスとの戦いの最後、魔素の支配(ニブルヘイム・真)を使い、祝福の後押しを受けた私はセレスの持つ神霊固有のスキルに干渉した。


 セレスは戦いの中で抑えきれなくなると言っていた。最初は魔王としての人格が目覚めたり考えや感情が変わったりしてしまうのかと思ったけどセレスの意思ではないとも言っていた以上、考えが変わってるわけでもなければ敵意や殺気を込めた目で見られているのを覚えている以上、人格が変わったわけでもないと考えた。


 そこで思い出したのがセレスの神霊スキルの存在だ。昔、レオンがセレスは神霊の中でも特殊だと言っていた。その時は何が特殊なのか知らなかったけど、セレスは神霊の中で唯一神霊スキルを二つ持っているのだ。……それも成長と停止といった相反する特性を持つ強力なスキルを。


 これに思い至った私は推測でしかなかったけれど、怠惰の大罪(ベルフェゴール)によって永遠に変わらない器が豊穣の神(デメテル)によって増え続ける中身に耐えられないことで自身の制御が出来なくなり、魔王として暴走してしまうと考えた。


 SDSでセレスが魔王として暴走するのはサクラが死んでから。これはセレスの成長していく力の一部を受け取る成長する器。つまりサクラを失ったセレスが成長の捌け口を失ったことが原因だと考えられる。契約してなくとも魂の欠片はサクラにあるからね。


 ……なんて予測に予測を重ねた推測だったけどあながち間違っていなかったらしい。


 賭けに勝った結果、二つのスキルと私に掛かっていたセレシアの祝福が統合され、新しい神霊スキル、鎮魂歌(レクイエム)へと変わった。これにより豊穣の神と怠惰の大罪によって魔王化する未来からセレスは解放されたのだ。


 セレス曰くこのスキル(レクイエム)の効果は、今いるこの世界に根付きつつも他の世界線まで枝葉のように効力を伸ばし、祝福を通して魔王(セレス)へと干渉し、怠惰をもって落ち着かせる。と、他の世界線で魔王になってしまったセレスを鎮める為のスキルらしい。


 セレスはメディ村に私が帰るのを見届けたら鎮魂歌(レクイエム)を使って他の世界線へと魔王を抑える旅に出ると言っていた。付いて行ってあげたいけれど残念ながらセレス専用のスキルだから私は付いて行けないらしい。


 好きな植物を創ることも、過程をすっ飛ばして結果を知ることも出来なくなってしまったセレスだったが、他の世界線の自分達が誰かの敵にならず、誰かに恨まれることが無くなるのならそれだけで満足だと嬉しそうに言っていた。

 とはいえ、木と水と土の適正を持ち、龍形態への変身もできるため不便になったとも考えていないらしい。むしろ成長できるようになって嬉しそうだ。まだ成長し始めて半年だからそこまで大きくなっていないけどね。


 私に掛かっていたセレシアの祝福はセレスへと返すことになったけど強くなった繋がりは変わらない。今日もセレスの幸せそうな。後ろめたさの欠片も無い気持ちを感じとることができて私も幸せだ。


「ここの壁に手を付けて、魔力を流してみて」


 部屋の中を進み、ある壁の前でセレスにそう言われる。

 言われた通りに魔力を流すと壁が開いた。


「この先に私の母さま(創造神)がいるよ。」


 そう言われて思わず息を飲む。先に進むセレスを追いかけると、とある鏡の前に着いた。


「エピゴーネンの鏡?」

「そうだよ」

「え? もう壊れたんじゃ……」


 セレスが壊したって言ってたよね?


「え? ……あ、そうだったね。壊したよ? でも、エピゴーネンの鏡は私達の母さま(創造神)に会うための試練として母さま(創造神)が設置したものだからね。自然と修復するんだ」


 そうだったのか……。じゃあSDSでも創造神に会うことができたのかな? それにしてもセレスはこんな場所の鏡をどうやって見つけたのだろう? ……はぐれた時にでも見つけたのかな。聞こうとしたら先にセレスから質問が来た。


「エピゴーネンの鏡の試練を突破するには二通りのパターンがあるけどサクラは分かる?」


 二つ? わざわざ試練と言ってるし、その中で複製体が出てくるってことは……。


「複製体との戦いを避けて鏡に触れるか、複製体を倒した後に触れるか。の二通りかな?」

「そうたね。複製体を倒さなかった場合、母さまに会うことはできるけど話すことはできない。試練を突破した人に必要な記憶や知識を授けるんだ。私の場合は、他の世界線の私達の記憶だね」


 思い出してしまったらしい。恐怖と罪悪感が伝わってくる。


「もう大丈夫だからね」

「えへへ。そうだね」


 頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。どうやら気持ちの整理もついたようだ。


「それでね、複製体を倒して試練を突破した時なんだけど……」


 複製体を倒さないとお話できないってことは。


「創造神様に会ってお話しができる?」

「うん。お願い事も聞いてくれるよ?」


 お願い……。それでセレスの魔王化を防げば良かったのでは?


「母さまも万能じゃないよ。創る事には特化してるけど他は……ね?」


 ……ね? じゃないよ……。急に不安になってきたんだけど?


「あれ? 今日も複製体倒して無いよね? 出てきてもないけど」

「もう倒し終わってるよ」


 セレスがドヤ顔してる。うーん。今日来てからは戦闘するタイミングすら無かったんだけど……。複製体と戦って倒すタイミングは……。


「ああ、それで私と戦う前、先に遺跡に来たんだね」

「えへへ。バレちゃったか。サクラは私の魂の一部を持ってるから私が試練を突破してもサクラが報酬を受け取れると思ったんだ」


 まったくこの子は……。再度ドヤ顔してるセレスの頬を引っ張る。おお、よく伸びる。


「私への置き土産って? そもそもこの仕掛けに気付かないかもしれないし、ショックでここに足を運ばない可能性だってあったんだよ? それに、死ぬ前提で動くんじゃありません!」

いひゃいいひゃい(いたいいたい)ひゃって(だって)死ぬ以外に魔王化を防げるなんて思ってもなかったんだもん! それにサクラなら大丈夫! 最初は悲しんでも直ぐに立ち直れるって信じてたから!」

「そう……」


 そんな信用は要らないのだけど? 教えてくれていればもっと穏便に解決できたかもしれないのに。


「ではでは、母さまを呼び出すよ! 心の準備はいい? 一緒に鏡に触るよ!」


 セレスは恥ずかしくなったのか少し早口で促してくる。


「うん、そうだね」


 そして私達は一緒に鏡に触った。

次話は今日の12時更新予定です


評価とブクマ、いいねをお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ