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小さな龍のレクイエム(改稿版)  作者: セレシア(旧 助谷 遼)
アフターシナリオ ~幻想都市編~
282/292

271話 束の間の

誤字報告ありがとうございます!

 オリディア様を見送り、龍馬と二人取り残される。


「笑え。それがあいつ(シアン)への手向けになる」

「うん」


 龍馬の言葉を聞いて涙をぬぐう。


「スーーー。ハーーー。オリディア様の想いを無駄にしないためにも切り替えないと」


 大きく深呼吸をして気持ちをリセットする。うん。私のやるべきことをやろう。


「ちょっと待った」

「何? これから忙しいんだけど」


 滅びかけているこの世界を維持する方法を見つけないといけないしアービシアが生き残った時の準備もしないといけない。……オリディア様がひょっこりと顔を出すことも期待してるけど、それはきっと難しいよね。


「分かってる。だがアービシアは強い。中途半端にひねくれただけのアビスとは違って明確な悪意があるからな」

「だから早く準備しないと」

「落ち着け。心配しなくとも今ならサクラが生きていればこの世界()滅びない」


 オリディア様にこの世界を管理する権限を譲渡されたから龍馬の言うことは正しい。でもこのまま放置したら最低限世界が存続するだけだ。世界は荒廃し、生き物は死に絶える。カトレアちゃん達も同様に……。


「だから落ち着け。アービシアとの決着がつくまでの時間稼ぎは俺がどうにかする。だからお前はアービシアを倒せ」

「分かった」


 龍馬がどうするつもりか分からないけど信じよう。皆に何かあったら許さないからね!


「俺の魔力を渡しておく。シアンと同じように俺たちも一つの力を二つに分けてるようなものだからな。一つに戻れば対抗しやすいだろう」

「魔力をなくしたら龍馬はどうするの?」


 再生の特性を持った魔力を使って世界をどうにかすると思ってたんだけど違うのかな?


「大丈夫だ。全部渡すわけじゃない。この世界を維持するだけの魔力は残すさ」

「分かった。任せる」


 龍馬は私に魔力を渡した後、姿を鳥に変えた。飛び立っていった龍馬を送り出す。


「ふう」


 疲れが出てその場で座り込む。オリディア様と龍馬のおかげで少し休めるね。……決戦に向けた準備もしないといけないけど束の間の休息は許して欲しい。


 ふとカトレアちゃんの声が聴きたくなる。んー、でも邪魔したら嫌だな……。うん。連絡しちゃえ。


「カトレアちゃん」

『サクラ? やっと連絡をよこしたわね! 遅いじゃない。アービシアはどうなったの?』


 念話をするとすぐに返事が返ってくる。念話でもカトレアちゃんの声を聞くと安心する。


「こっちも結構大変だったんだよ? アビスが出てきたりアービシアが復活したり。それに――」

『そう。空元気でも元気を出せるならよかったわ』


 堰を切ったように話し込んでしまった。ちょっと恥ずかしい。苦笑しつつも私のことを心配してくれてたのが分かった。余計な力も抜けたしやっぱりカトレアちゃんはどんな処方箋よりも効くね!


『あと少し頑張りなさい。例えあなたが何者になったとしてもサクラはサクラよ。それとあの件だけど――』

「うん。ありがとう。じゃあまたね」

『ええ。またね。念話とは言え声が聴けて良かったわ』


 カトレアちゃんとの連絡を終え、新しい権限や魔力の扱いに慣れていく。話してる間に世界も修復され、元通りに戻っていた。龍馬も約束を果たしてくれたね。


 少ししてオリディア様が創った球にひびが入る。


「くそっ! 老害がっ! 手間かけさせやがって!」


 悪態をつきつつボロボロとなったアービシアが外に出てくる。さあ、一騎討ちといこうか!


 ―――


「サクラは大丈夫かしら」


 先ほどまで念話をしていたサクラを想って祈る。


「きっとサクラは大丈夫なのサ! それともサクラのところに遊びにいくのサ?」

「いいえ。ここもサクラに頼まれているものコハルのためにもここで待つわ」


 私の頭の上で寝転んだままポーラが話しかけてくる。周りの花畑に元気がないからか妖精族も姿を隠していたけどポーラだけは私を見かけて姿を見せてくれた。おかげで退屈せずに待っていられたわ。


「いつまで待つのサ。もうずっと試練にこもりっぱなしなのサ?」

「前回も一か月近くかかったもの。今回はそれ以上にかかるってサクラも言ってたし」


 コハルの試練は特別なものらしい。そのせいで時間がかかるらしいけど……。その分報酬も豪華になるらしいわ。豪華ってなにかしら。私の時みたいに武器を願ったら杖だけじゃなくて全ての種類の武器が貰えるとか? いえ、そんなスケールの話じゃないわね。その程度のことでサクラがコハルを試練に送り出すとは思えないもの。


「ふうん? でもご飯を食べなくても生きていけるなんて不思議生物になったのサ。トイレもしないのサ?」

「女の子がしていい質問じゃないわね……。サクラの魔力を受け取ってからは不思議なことに生命維持に必要なはずの行為が一切必要なくなったのよ」


 便利だけどものぐさが移りそう……というかサクラの怠け者が移りそうで微妙ね。それにサクラにも食事やらなにやらが不要になったらお世話できないじゃない。


「カトレアがむっつりな顔してるのサ」

「何言ってるの!? そんな顔してないわ」


 乙女に向かって何を言ってるのかしら。私はむっつりじゃないわよ!


「あら?」


 あたりの植物が再生していく。空に明かりも戻りひび割れた大地にも潤いがもたらされていく。


「サクラはうまくやったの?」

「ううん。まだみたいなのサ。これは応急処置。このままだとすぐにまた元に戻っちゃうのサ」

「そう……」


 妖精族の力で何か分かるのかしら。わざわざ応急処置をするなんて……。いえ、これでみんなも希望が持てるわね。人々を落ち着かせるのもやりやすくなるでしょう。


 みんな頑張って!

次話は明日の17時投稿予定です


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