252話 レオナとヴィヴィ<カトレア視点>
ジークとヴィヴィに対抗するためにシルビア様が素早く指示を出す。
「レオンとライアスの二人は私の補佐を、カトレアはレオナの補佐をお願いします。マジュリーとリヴィの二人は全体支援をお願いします!」
マティナは……ショックでまだ動けなさそうね。虎徹さんは……ダメだわ。今まで見たことが無いほど怒り狂ってる。話しかけたらこちらまで巻き込まれそう。だからシルビア様も指示を出さなかったようね。
レオナが飛び出してヴィヴィの元へと向かう。私は……空を飛べるわけじゃないし二人のためにもサポートに徹した方が良さそうね。
ヴィヴィの影から手が広がってくる。レオナはそれを一瞥もせずにヴィヴィの頬を殴った。
「いたそ……」
思わず自分の頬をさすりながら影の手の対処を私が肩代わりする。桜色の焔魔法で照らすと影は薄まり手が消滅した。
「ありがとう。防御だけよろしく」
「分かってるわ。思いっきり喧嘩してきなさい」
「ママ……」
「誰がママか!」
思わず突っ込みを入れちゃったけど少し落ち着いた顔をしたレオナを見て軽くため息を吐く。ちょっとは頭の切り替えができたみたいね。私も……気付かないうちに緊張してたみたい。でもまさか神霊様と戦うことになるとは思わなかったわ。
ちょっと楽しみにしている自分に気付いて少し驚く。私サクラに毒されてる……。
「いったいわね。このわからず屋!」
「わからず屋はあなたの方よ! 相談もせずに勝手に諦めて! 一言くらい相談しなさいよ!」
口喧嘩をしながらヴィヴィは爪をレオナは血液魔法で作った斧を振り回す。近くにいる竜達が巻き添えになってミンチになっていく様を眺めつつ私はヴィヴィの魔法に対処していった。
「眠りなさい」
「させない!」
闇魔法で精神に作用して眠らせようとするヴィヴィに同じく精神に作用する魔法で対抗する。レオナの相手をしながら別の仕掛けができるなんて流石ね。
「相談したらどうにかできた? 世界が滅ぶのよ! 神にしか……いえ、ママでさえ対処できないことなの! お願いだから。私の言うことを聞きなさい!」
「どうにかできなくてもどうにかするのよ! オリディア様が頼りにならないのはセレスの一件で分かっていたことじゃない!」
オリディア様……いろいろと言われてますよ。私も同意見ですけどね。
「そうよ! でもアービシアなら……すべては無理でもここにいる人達だけは助けられるの! あんな奴でもすがるしかないのよ!」
ヴィヴィの叫びと共に尻尾がレオナに振り下ろされる。叩き落される途中で威力を殺しつつ空中でレオナをキャッチする。
「大丈夫?」
「ええ……」
「どうしたの?」
心配したらまじまじと顔を見られた。顔にゴミでもついているかしら?
「あなたいつから空を飛べるようになったの? というか天使様みたいね。綺麗な羽してるわよ」
「へ?」
今の状態を見てふと我に返る。確かに私今空を飛んでるわ……。後ろを見ると尻尾の数が九本に増え、背中に半透明な羽が見える。何事!?
「ちょっと体が重くなったけど不快感はないわね」
むしろサクラが近くにいるみたいで落ち着くわ。我ながら単純だと思うけど今なら誰にも負けないわね。
「一緒に戦いましょうか」
「……ええ、お願いするわ」
少し気後れしているレオナの手を引っ張ってヴィヴィのもとに近付く。
「面倒なことになったわね。なんで大人しくついて来ないのよ……」
私を一瞥したヴィヴィがぼそりと呟くと周辺にいた竜達を影が多いヴィヴィに吸収された。
「あなた達が悪いのよ? 私の好意を踏みにじるから!」
思いっきり羽ばたかれて体勢を崩す。
早く空を飛ぶ感覚を掴まないといけないわね。姿勢を戻してる間にヴィヴィの爪が目の前に迫る。
「カトレア!」
「大丈夫!」
思いっきり吹き飛ばされるもダメージはない。体も頑丈になってるようね。空を飛んでヴィヴィの後ろに……行き過ぎたわ。
「目を覚ましなさい!」
ヴィヴィが私に気を取られてる間に目の前に移動したレオナが再度ヴィヴィをひっぱたく。けどヴィヴィも竜を吸収した影響で防御が硬くなっていて効いた様子はない。
その後レオナがチャンスを見て話しかけたり殴ったりするもヴィヴィに話を聞く様子はない。
どうやったらヴィヴィに声が届く?
ふと戦っていてヴィヴィの様子がおかしいことに気付いた。戦闘中、私のことが気になるのかちらちらとこちらを見てレオナに懐へ入り込まれることが多いみたい。
「ヴィヴィ! 私を見なさい!」
「なに? ついてくる気になった?」
「いいえ。違うわ。あなたが間違っている証拠が私よ!」
きっと、サクラはその為に私に力を与えたんだと思う。レオナじゃなくて私に力を渡したのはレオナより私のことを信頼してるからよね?
「何を言うつもり!? 私の努力を否定しないで!」
「私の力を見なさい! サクラが与えてくれた力よ!」
レオナとスイッチしてヴィヴィに接近する。杖に魔力を込めて影を払い、ヴィヴィが取り込んだ竜を引きはがす。
「その力がなに? 関係ないでしょう?」
「関係あるに決まっているでしょう! あなたがサクラに教えたのよ! サクラは神になる素質を持っていると!」
私の言葉に一瞬ヴィヴィが動揺する。今が畳みかけるチャンスね!
「オリディア様が諦めたセレスだってサクラが助けた! あなたの言う神の魔力だってサクラの作ったお守りで対抗できた! アービシアが最も警戒してるのもサクラよ!」
「違う! サクラのお守りじゃ対抗できてないわ! だからママの魔力で補強する必要が――」
「ええ! サクラのお守りはオリディア様の魔力にも耐えきったのよ!」
腕を部分的に大きくしてヴィヴィを取り押さえることに成功する。
「世界の崩壊にあらがうことができるのはアービシアだけじゃない。サクラにだって十分可能性があるのよ」
「私は……間違ってないわ! 皆のために動いているの! 私は間違えちゃいけないのよ……!」
悲痛な声で叫ぶヴィヴィにレオナが近付いてくる。
「いいえ、間違ってもいい! 間違ってもいいのよ。でも間違いを認められるようになりなさい」
レオナはヴィヴィを叩くことなく優しく頭を撫でた。
「わた……しは みんなが たいせつ だから」
「分かってるわ。私達のことを考えてつらい選択をしたのも分かってる」
ヴィヴィが通常の姿に戻る。
もう拘束する意味はなさそうね。解放してあげましょう。
私がヴィヴィから離れるとレオナがぐったりとしたヴィヴィをそっと抱きかかえる。
「みんななら わかってくれるって りかいしてくれるって おもったのよ」
「そうかもしれないわね」
涙を流すヴィヴィの体から黒い靄が出始める。
「ほんとうは わかってたのに……ごめんなさい。ごめんなさい」
「いいのよ。いいのよ……。あなたは頑張ったわ。だから……ゆっくりお休み」
レオナの頬を伝った涙は何に当たることもなく地面を濡らしていた。
次話は明日の17時投稿予定です
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