250話 シアン
誤字報告ありがとうございます。
時はサクラがゲートを潜った直後に遡る。
私ことサクラ・トレイルはゲートを潜ると真っ暗な世界に立っていた。
「ここは?」
あたりを見回すと枯れかけた木を見つける。大きさはそこまでじゃないけど神樹を彷彿とさせる見た目だね。枯れているのに力強さを感じるのが不思議……。
「それは貴様らが住んでる世界だ」
「アビス!?」
「ふっ。アビスか。俺はまだアービシアだ」
「まだ?」
「気にする必要はない。威嚇してる暇があるならそこに座れ」
突然アービシアに後ろをとられて警戒するも全く敵意を持ってなくて毒気を抜かれてしまう。
いつの間にか前が見える程度には明るくなった空間を進むと遊戯盤の前にセレスが座っていた。
「セレス!」
「サクラ久しぶり。無事に合流できたみたいだね」
「合流? 私がここに来ることを知ってたの?」
「ううん。その子のことだよ」
頭上の鳥? ついてきてたんだね。気付かなかった。
真っ紅に揺らめく鳥が頭をつついてくる。ちょっと忘れてただけなんだから怒らなくてもいいじゃんか。
鳥を軽くあしらいつつ首をかしげる。そもそもこの子誰?
「あー、さすがに気付けないよね。その子は頼りになる味方だよ!」
「気付けない?」
「気にしないで!」
セレスが言うなら信じよう。ちょっと腹立つ動きをするだけで悪い鳥じゃなさそうだし。
セレスに勧められるまま遊戯盤に座ると前の席にはオリディア様が座っている。どうやらセレスとお茶をしていたみたいだ。遊戯盤……といっても盤上は真っ暗でどう遊べばいいのか分からないね。
「サクラちゃんいらっしゃい。久しぶりね」
「どうしてここに?」
「それは私のセリフよ。ここには神しか来れないはずなのに二人とも来ちゃうんだから」
オリディア様は困ったわーと頬に手を当てる。神様しかこれないってどういうこと!? もしかして私はアービシアの娘だから来れたとか? 神霊は普通に神扱いなのかな?
「そんなことより早く座れ。ゲームが始められないだろう」
「アビスちゃん。ゲームっていうのは良くないと思うわ」
「ちゃん付けはやめろ。消すぞ」
「あらあら怖いわね。また封印しちゃうわよ?」
この二人、思ったよりも仲が良い? 軽口をたたき合いつつも険悪な様子はない。アビスはオリディア様に封印されたわけじゃなかったの?
「……サクラちゃん。ごめんなさいね。嘘ついてたことがあるの」
「嘘……ですか?」
「ええ。アビスは弟じゃないのよ。彼は――」
「え!?」
―――
寝転んでいるジークを横目にヴィヴィが説明を続ける。
「そもそも神に性別という概念はないのよ」
「待ちなさい。あなた達もオリディア様も性別があるじゃない」
「ええ。私達神霊は神じゃないから。どちらかというと管理者……の方がしっくりくるわね」
神霊様は一人でも死んだら世界が滅びると言われている存在だしオリディア様の子供なんだから神じゃないの?
「ま、そういうものだと理解してくれればいいわ。で、ママなんだけど……。もともとはシアンという名前の神様だったの。滅びゆく世界を繰り返していく間に人を慈しむ心と愚かな存在だと、人を世界の害だと断ずる心が芽生えたらしいわ」
―――
「もうわかったでしょ? アビスも私も元は一柱の神だったの。元の性格に近かった善なる部分がオリジン、世界の深淵に触れて闇に落ちた部分がアビスになって分かれたのよ」
オリディア様とアビスの生まれについて話し終えたオリディア様が一息つく。
要はオリディア様もアビスも同じ存在だってことだよね? ピッコ○かな? はっ! れってもしかして……。
「アビスを倒すとオリディア様も死ぬの?」
「もちろん。そもそもアビスは今の世界の核みたいな存在なのよ? アビスが死んだら世界が崩壊するわよ」
正直そっちは予想していた。でもオリディア様がいるならなんとでもなると思っていたんだよね。
「それは……」
「この世界の成り立ちについてはすでに話してあるしサクラちゃんだってその可能性に思いつかなかったわけじゃないでしょう? まさか文字通り神頼みするつもりじゃないわよね?」
目を細めて私を見てくるオリディア様にぐぅの音もでない。
「サクラ。俺に協力しないか? 約束をしよう。もし俺に協力したらサクラとカトレアには手を出さない」
「私としてはアビスに協力するのもアビスを倒すのもやめてほしいわ。でも……あなたは特別だからあなたの意志を尊重するわ」
私が特別? 異世界から呼び出されたからかな? まあでもそんなことより……。
「あなたが安全を保障するメンバーの中にセレスやほかの人たちが入ってない時点でお断りだよ」
「そうか」
アービシアはそれだけ言うと遊戯盤の上に手をかざす。すると遊戯盤の闇が晴れ、盤上のものが良く見えるようになる。
「玉?」
「俺が創った世界だ。この中にいれば世界樹……オリジンが創った世界が滅んでもお前の仲間たちは生きていれる」
アビスの言葉と共に枯れかけの世界樹が盤上に移動してくる。暗に私以外の神霊達を助けるって言いたいのかな?
「なんで世界樹は枯れかけてるの?」
「そんなの決まってるじゃない」
「俺が手を回したからだ」
面白くなさそうに膨れるオリディア様を横目にアービシアがほくそ笑む。
一度大きく深呼吸をしてからアービシアを見据える。
「悪いけどあなたの言葉は信じられない」
「かまわんさ。貴様が信じようが信じまいがどうこうできる問題ではない」
「その割にはサクラを警戒してるよね!」
「ちっ」
横から口をはさんできたセレスをアービシアが睨む。
なるほどなるほど。つまり私ならこの状況を打開できるってことだね?
次話は明日の17時投稿予定です
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