240話 対抗策
王の間で合流した私達はまず互いに何があったかを共有した。アービシアに襲われた後、カトレアちゃんとレオナはライアスと同じ牢へと送られたらしい。魔法が使えないはずの牢でも問題なく魔法を使えた二人はライアスを助け出してそのまま地上に出たとか。そのまま私達を探してるうちに王の間に辿り着いてチノ……カトレアちゃんにベッタリしてるドワーフの幼女との戦いになったんだってさ。
私達はレオンを助けられなかった事と呪いに対抗するための鍵となるのがオリディア様の魔力だと分かったことを説明する。
ライアスは悔しそうに拳を握りつつ城に来てからジークに捕まるまでのことを教えてくれた。
「サクラ……」
「うん。レオンはまだ平気そうだね。恐らく私達の記憶も問題ない。なんでか分からないけど私達の記憶は書き換えられないみたいだし」
全員の話を聞いて思ったのは呪いはかなり万能だけど全能では無いということ。私とヴィヴィはもちろん、お守りを持っていないライアスも記憶の改竄が無いことから導かれるのはジークと同格の神霊とそのパートナーの記憶は弄れないという仮説だ。そうなるとカトレアちゃん以外は安全だと考えて良さそう。
「でもボロボロになってたから早く助けに――」
「なんでそのまま置いてきたんですか! せめて回復だけでも……! いえ、ごめんなさい」
レオンがただ捕まってるだけだと思ってたらしいライアスがボロボロになってると聞いて大声をあげる。動揺しすぎて口調も前世のものに戻っている。でもどうしようもない事情があったことは理解できたのか歯を食いしばりながら堪えてくれた。
「私のお守りをライアスに渡しておくよ。それがあれば魔法を使えるはず。ただ回数制限があるから気をつけて」
「おう」
素っ気ない態度だったけどお守りを受け取ってもらえた。後は天の魔法でオリディア様の魔力を真似できれば使用回数の補給もできるし万々歳なんだけど……。
お守り以外で一つだけオリディア様と同じ魔力を扱う方法に心当たりがある。
天魔。ラティナが打ってくれた私の刀だ。取り出して確認してみると刀身に変化が起きていた。
「それいや。しまって」
漆黒の刀身に透き通る白色の線がはしっているのを確認してるとチノから抗議の声が上がる。声が上がった方を見るとチノは顔をカトレアちゃんの胸に埋めでプルプルと震えている。
羨ま……じゃなくてけしからん。そこは私の場所……じゃなかった、カトレアちゃんから離れなさい!
「サクラ?」
「うぐっ。いくらカトレアのお願いでもしまわないよ。その子が嫌がってるのはまだ呪いが消えきって無いから。その子を思うなら我慢させてね」
カトレアちゃんの抗議の目線に心が折れかけるも何とか踏みとどまる。そしてそのまま最悪な可能性に思い至る。もしジークじゃなくても呪いを経由したら記憶を改竄できるとしたら? チノ経由で呪いを受け続けているカトレアちゃんは大丈夫?
「カトレア……。お守りはどうしたの?」
「え? 付けてるわよ?」
キョトンとした顔をしつつも素直に見せてくれる。オリディア様の魔力もほんの僅かながら残っている。この様子なら平気そうかな?
天魔に魔力を込めながらオリディア様の魔力を思い浮かべる。
「やめて! いや! それをやめてっ!」
「安心して、痛くしないからね」
どうすればチノを守れるかが直感的に理解できた私は天魔を振りかぶる。
「サクラ? まさか斬るなんて言わないわよね?」
「大丈夫、斬れるのは呪いだけだから」
「分かった、信じるわ」
カトレアちゃんがチノをしっかりと抱きしめる中、二人に向かって天魔を振り下ろした。
「……ふぅ、大丈夫だと分かっていても怖いわね」
「信頼してくれてありがとう」
私の思った通りチノに残っていた呪いとカトレアちゃんを侵食し始めていた呪いだけを切り離すことができた。やはり天魔にはオリディア様の魔力と同じ効果があるみたいだ。
ふと視線を感じた方向を向く。
「ヴィヴィ? どうしたの?」
「いえ、さすが……と思っただけよ」
「まだ天魔が無いとできなそうだけどね」
みんなに渡してあるお守りも天魔で斬って呪いに対抗するための魔力を注ぐ。
結構疲れるね。
―――
「さて、私の担当はここだったね!」
一緒に乗り込んできた皆と別れてアービシアを探す。私が離れてる間にいろいろと動き始めちゃったからお仕置しちゃうよ!
祝福の庭に入って辺りの様子を植物達に聞く。ふんふん。レオンがジークに捕まっている場所はこっちだね。
「見つけた! うわぁ、黒の魔法が凄いや……」
思わずドン引きするほど濃厚な黒の魔法の気配を感じる。私達神霊には効きにくいけどここまでされると動けないと思う。
「鎮魂歌」
私の魔法で黒の魔法が消えて無くなっていく。ふふん! 白の魔法が無くても対抗できるのだ!
「ぁ? ……ジー――」
目が覚めた途端大声を出そうとするレオンの口を塞ぐ。敵地で叫ぶとかおバカさんなの?
「借りは返したよ! 後は自由に動いてね」
「…………もが」
あ、いけない、口を塞いだままだったよ。てへ?
「セレスか。借りって何の話だ?」
「学園で私が部屋に閉じ込められた時に助けてくれたでしょう? だからそのお礼!」
「……………………そんなことあったか?」
な、ななななんですと!? 空いた口が塞がらないとはこの事だよ! なんで覚えてないのさ!
「いいもん。どーせ私の自己満足だもんね」
レオンのことは助け出したし、サクラのことは龍馬に任せたし、アービシアが隠れている場所にでも突撃しますか!
「待て待て待て! ジークはどこだ。あの裏切り者は許さん」
移動しようとしたらこめかみに血管を浮かべたレオンに邪魔された。私が知ってるわけなくない?
「待ってれば来るんじゃない? 私はアービシアの所に行くから」
「俺も連れてけ、ジークとアービシアは同じ場所にいる気がする」
「いいよ。ついておいで」
光魔法ですっかり回復したレオンを連れてアービシアの元へ向かう。正面入口は王の間にあるみたいだけど……近道しちゃおう! サクラはどこまで進んでるかな?
セレスが言ってるのは104話のことです。もちろんレオンは覚えていません。
次話は明日の17時投稿予定です
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