221話 かくれんぼ
五人でグリフスの所に向かう前に魔物の軍勢を確認しに行く。場所は……魔国の正門前か。初めて来た時に緊張しつつ通ったのが懐かしい。
現場に到着すると魔族達が奮闘していた。魔物の数が七割がた減っている。魔族側の負傷者もチラホラ確認できるけど被害は多く無さそうだ。
「ここは放置でいいかな? それとも誰か残る?」
「なら私が残るわ」
「レオナ? なにを企んでいるのよ」
私の問にレオナが残ると答えるとカトレアちゃんが警戒心を露わにする。私もレオナは意地でもついてくると思っていたから意外だ。
「なにも企んでないわよ! ただ以前にグリフスのこと叩きのめした事があるからいない方がいいと思ったのよ」
それどころか殺したって言ってたよね。……どうやってレオナ達の目を掻い潜ったんだろう。セレスが介入した? いや、当時セレスは私の傍にいたから何もしてないはず……。もしかして――
「難しい顔してないでさっさと行くわよ」
「あ、うん。レオナ、ここはよろしくね」
「任せなさい!」
何か思い浮かびそうだったけど考えが纏まる前に霧散してしまった。……そのうち思い出すよね?
レオナが手をブンブン振ってる気配を感じながらグリフスを吹き飛ばした方向に向かう。私の狙いが逸れてなければ監視役の敵と一緒にいるはずだ。
「ヴィヴィもこっちで良かったの?」
「ええ、向こうに何人もいらないもの。レオナ一人で十分だわ」
たしかにさっきの状況を見る限りイレギュラーに対応できる存在一人で事足りるね。なんなら放置しても問題無さそうだったし。
監視役が隠れていた場所に到着するとそこには洞穴があった。中を覗くと真っ暗で光が入っていないみたいだ。
「そうとうな闇魔法の使い手かな?」
「この魔力に覚えがあるわ……。なんでどいつもこいつも……」
ヴィヴィが頭を抑えて唸る。ヴィヴィらしからぬ声が聞こえたよ!?
「この先に魔国の先王がいるわ。レオナがしっかりと止めを刺したの確認したのになんで生きているのかしら」
「……念の為に聞くけど確実に殺したって事だよね?」
「ええ、もちろんよ」
ならグリフスも本当に一度死んでいて、先王同様蘇生したってこと? 命の蘇生は神霊でさえ出来ないはずなのに……。敵は思っていたよりも厄介のようだ。
中に入る前にライトの魔法で闇を払おうとする。うーん。少し奥に進めただけでライトが見えなくなってしまった。
「かなり強力な闇魔法だね」
「魔力感知でなんとかできるかしら」
「私はサクラの頭にでも乗ることにするわ」
状況把握のままならない状態だと戦い難いよね。それに闇自体に仕掛けがあるかもしれないし……天の魔法で闇を退けようか。うん、上手くいきそうだ。
「サクラの魔法は便利ね」
「あはは。干渉してる範囲限定だけどね」
一度闇を払っても干渉を辞めた途端闇が戻ってくる。大元を叩かないとイタチごっこになりそうだ。
「なんでもいいわ。進みましょう」
洞穴の中に入るとグリフスと先王の気配がグッと強くなる。
「慎重に進もう」
嫌な予感がして注意喚起をしつつ洞穴の奥に進んでいく。……気配の感じ方に何か違和感を感じるよ。
「どういうこと?」
洞穴の最奥に辿り着くも二人はどこにもいなかった。
「見逃したのかしら」
「分岐路が無かったから私達が見逃しても向こうが襲ってくると思う」
「もしかしたら戦闘を嫌って隠れているのかもしれぬのう」
「闇に文字通り紛れ込んでいたら見つけようがないわね」
洞穴の中をくまなく探すも隠し部屋などの仕掛けがあるわけでもなく洞穴の外に出ることにした。
「闇のせいで魔力感知が効かないのが痛いわね」
「洞穴の奥に閉じ込める罠じゃなければよいのじゃが……」
…………それでは!? いや、例え閉じ込められてもゲートがある以上外に出ることは簡単だと思うけど急いで外に出た方が安全かもね。
再度天の魔法で闇を退かしつつ入口まで戻る。行き帰り合わせて洞穴の中全てを確認できたはずなのに結局二人は見つからなかった。何事もなく外に出ると二人の気配が弱まる。
「あっさりと出れたのう」
「ここはなんだったんだろう」
外で話をしている間も変わらず洞穴の中から二人の気配がする。
「闇に紛れ込んでいた?」
ふと洞穴の中でカトレアちゃんが言っていた事が脳裏を過ぎる。
「どうしたの? 紛れるもなにもいなかったじゃない」
「文字通り紛れ込んでいたとしたら?」
全員からの顔にハテナマークが書いてある。なんて説明すればいいかな?
「闇と一体化してるというか、闇に取り込まれているというか? そんな感じ」
「なるほどね。言いたいことは分かったわ。そしたらどうするの?」
「うーん、どうしようか……」
二人とも闇と一体化していると仮定するといくつかのパターンが考えられる。二人とも自らの意思で闇と一体化してるパターン。この場合、監視役がグリフスを盾にするかもしれないけどグリフスも自由に動けるはずだから問題ない。次にグリフスが闇と一体化して監視役を閉じ込めているパターン。これはほぼ無いと考えていいだろう。それなら私達が洞穴に入った時に放り出しているはずだ。また、逆のパターンも考えられる。もしそうだとしたら闇に攻撃を仕掛けるとグリフスを盾にされてしまう。……そして最後に考えられるのは第三者の可能性。これは一番面倒なパターンだと思う。グリフスを助け出すには早く判断する必要があるし、アービシア軍以外とも戦う必要が出てくるかもしれない。
「コハル、あの闇から欠片の気配は感じる?」
「しないのじゃ。というか魔国のどこからも感じ取れん」
もしかしたら闇が色欲の欠片かとも考えたけど違ったか……。
次話は明日の17時投稿予定です
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