219話 乱入者
ヤエコールが響き渡るなか、レオナがなかなか動こうとしない私を訝しげに見上げる。
「どうしたのよ」
「引き分けにするつもりだったの。ここから引き分けに持っていくにはどうすればいいか考え中」
「そんなバレバレな八百長は止めてちょうだい。魔族全員を敵に回すことになるわよ」
「ぐぬぬ」
今の私は苦虫を潰したような顔をしてるだろう。良案も浮かばずにレオナの上から降りて手を貸す。レオナが立ち上がると司会の人が無情にも宣言する。
「第四千二百回バトルロワイヤル優勝者は圧倒的な実力を見せつけたヤ――」
ドォゴーン!!
闘技場の外から爆発音が聞こえ、観客達が臨戦態勢をとる。……悲鳴をあげるんじゃないのが魔族らしいね。
『おではグリフス。栄えあるアービシア軍の幹部の一人だぁ。先程の爆撃は警告だ。配下になればよし、ならぬもよし。……ただ、配下にならぬ場合は死んでもらうだな』
拡声器のような物を通した声が響き渡る。グリフスが誰か知らないけどアホなのかな? 魔族相手にその言い方は喧嘩を売ってるだけじゃない?
「グリフスだって!? 生きていたのね」
「知り合い?」
「サクラと初めて会う少し前に殺した相手よ。部下にしたかったんだけど忠誠心が強すぎて魅了できなかったの。でも変ね、前会った時は魔王の部下だったはずなのに……」
「セレスの部下!? それがどうしてアービシアの部下に?」
セレスの部下がアービシアの下に付くとは思えない。レオナでも従えられなかったのなら意志を無視して操るためにアンデッド化したとか? ……でもアンデッド化していたらもっと知能が低いはずなんだよね。ならアービシアのスパイとしてセレスの元に潜り込んでいた? その場合はセレスが気付くよね。…………考えてもよく分からないから捕まえて聞き出そう。
「捕まえてくる」
「待って。行く前にここに居る人達を鼓舞してくれる?」
駆け出そうとしたら腕を掴まれた。鼓舞って何させる気?
「正体を現してアービシア軍と戦う宣言をしてちょうだい。それだけでかなり士気が高まるわ」
「……分かった」
本当に今すべきなのかは分からないけど魔族であるレオナの判断なら従おう。
角と尻尾を外して捨てる。風の魔法で声が全体に届くようにして……。
「私の名前はサクラ! 盟友である魔国の女王レオナードと共にアービシアと戦う物である! 今まで私はヤエとしてこの国に潜入してきた。そこで知ったのは国民全員がとても強く、そして! 自由がとても似合っていると! アービシアなんて小物の下に付く必要などない! 逆にアービシアのことを屈服させてみよ!」
……………………恥ずかしいんだが? みんなポカンと口を空けてるように見えるんだが? この空気をどないしろと?
顔を赤くしつつもレオナをキッと睨みつけるとレオナも惚けた顔をしている。なんでよ!
「先行くからね」
「え、えぇ」
上の空だったけど返事が聞こえてきたから気にせずに、逃げるように姿を消してアービシア軍が待機している場所を探す。思ったよりも魔物の数が多い。けど、二番煎じじゃない?
一先ず放っておいてグリフスを探す。いったいどこにいるのかな?
魔力感知に比較的大きな魔力が二つ引っかかる。一つは少し遠い場所に、もう一つは私の後ろに……。
「あなたがグリフス?」
「んだ。おめえがサクラさまだな?」
振り返ると棍棒を担いだ大男が立っていた。
私を様付けで呼んだ? それってまさか……。
「魔王様の……?」
私の質問にグリフスが頷く。ということはアービシアの軍にはスパイとして潜入してるんだね?
「無駄な抵抗はよすんだな。おめえたちの猶予もあと半年だぁ。観念するだ」
半年でアービシアが動き出す……と。それまでに各国の守りも強化しておかないと。
「この国も? ずいぶんとゆっくり攻めるんだね」
「ここと火山は特別でえ。戦力アップはもぢろんのこと、足りないピースを埋めるためでもある。礎になれることを感謝して逝けえ!」
大振りの攻撃を躱しつつ考える。足りないピースってなに?
ドゴンという音と共に先程まで私がいた地面がえぐれる。当たったら危ないんだけど!?
「グリフス! どういうつもり!」
「あのお方が気にかけている人なら躱すことができて当選だたな」
そう言いつつ棍棒を振りかぶる。これは躱したら街が破壊されるコースかな? 厄介な……。
魔力で障壁を作り背後に衝撃が伝わらないようにしつつ攻撃を躱す。棍棒が障壁に弾かれて体勢を崩した所に潜り込んでアッパー気味に掌底を叩き込んだ。
風魔法でブーストした結果グリフスの巨体が吹き飛んでいく。たーまやー。
セレスの配下ならこれくらいやっても怪我しないでしょう。
―――
グリフスを撤退させてから闘技場に戻り、中をこっそりと覗くと誰もいなかった。流石に避難したのかな?
外に出て魔族を探そうとしたら突然後ろから抱きつかれる。
「おかえりなさい」
「っ! びっくりした。いつの間に?」
一瞬警戒するも声でレオナだと判断して抵抗を止める。……なんで頬擦りしてるの?
「気にしないでちょうだい」
「いや、くすぐったいんだけど?」
レオナの方が身長が高いから髪が耳に擦れてくすぐったい。じゃなくて匂い嗅がないで!
「サクラのいけず」
「ダメなものはダメ! ステイ!」
なんとか振りほどいて距離をとる。
「わんっ!」
わんじゃないよ! あんた犬じゃないでしょうが!
「舐め回すように見られると恥ずかしいわ」
そんなじっくり見てないよ! 身体をくねくねすな! 顔を赤らめるんじゃなーーい!
次話は明日の17時投稿予定です
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