204話 ラティナの悩み
お腹いっぱいになっても料理を出され続け、お腹が破裂した夢を見たのは私ことサクラ・トレイルである。マティナ怖い……。
「朝ごはんもいらないわね」
「まだお腹出てる気がするよ」
「もう食べられないのじゃ……」
私が起きたことに気付いたのかカトレアちゃんも起きてきた。コハルちゃんはまだ夢の中で食事をしてるようだ。分かるよその悪夢……。
マティナが起きてくる前にコハルちゃんも起こして自分達で食事の準備をして朝ごはんを食べる。マティナが用意しようとしたらすでに食べたと言って回避するのだ!
食べ終わった頃ラティナとマティナが出てくる。
「おはよう。良く朝ごはん食べられるわね」
「夜足りないの?」
「いや、朝からあの量は無理だから先に適量だけ食べたんだけど……朝は食べないの?」
「マティとおじいちゃんは食べるけど私は食べないよ」
朝ごはんは食べた方が健康にいいけどそれを言うとマティナに必要以上に食べさせられそうだから言わないでおこう。ラティナに恨まれてしまう。
マティナが料理をしに厨房に行くと飲み物を片手にもったラティナが声をかけてきた。
「昨日も思ったけど良くマティと意思疎通ができるね。マティは口数少ないでしょう?」
弱弱しくラティナがほほ笑む。どうしたのだろう。
「私はマティと違って落ちこぼれなんだ。私が求められてるのはマティの通訳。でもサクラさんにはいらないね」
「そんなことは……」
「ん?」
ラティナの言葉を否定しようとしたらマティナが料理を持って戻ってきた。朝から良く食べられるね。
マティナが来たからかラティナの表情は元に戻っている。目線で今の話はしないように訴えてきたため話題には出せなかった。
ジャックさんは起きてくると食事をそこそこに度数の高い酒を大量に飲んでいる。ドワーフだからか酔う様子はなさそうだ。マティナも朝食を食べ終えたらジャックさんに混ざってお酒を飲んでいる。すごいな。
「マティ。準備できたら行くぞ」
「ん」
ジャックさんは樽を数個飲み干したらマティナに声をかけてから外に出ていった。鍛冶場に向かったのだろう。
「行ってくるね」
ラティナも一歩遅れて二人に付いて外に出ようとする。これは……。
「ラティナ。ちょっと時間貰える?」
「え? う、うん。いいよ。……おじいちゃんも気にしないだろうし」
一瞬悩んだ様子を見せたラティナだったけど鍛冶場に行かないで私に付いてきてくれるみたいだ。
「ジャックさんには無断で平気なの?」
「うん」
ラティナは怯えるわけでもなく淡々と頷く。やっぱり……。
―――
そのまま席に戻り四人で話をする。
「さて、改めてラティナに依頼するよ。私の刀を直してくれる?」
「待って。おじいちゃんじゃないとオリハルコンは打てないよ」
「いや、ラティナは打てるでしょう? 昨日も最初は頷いていたでしょ」
「なんのこと?」
ラティナの目が分かりやすく泳ぐ。
「私はエルフだから耳が良いんだ。私がオリハルコンを打てるか聞いたときに最初できるって言おうとしてたよね? マティナができないって言ったらそれに合わせていた」
「あら? さっきの落ちこぼれ発言は何かしら? ラティナができてマティナができないなら決して落ちこぼれなんかじゃないじゃない」
ラティナが肩を震わせる。何か事情がありそうだね。
「知ったこと言わないで! 私は落ちこぼれじゃないといけないの!」
「それはマティナが望んだこと?」
「マティはそんな子じゃない! 侮辱しないで!」
「じゃあ、ジャックさんが望んだこと?」
「ち、違う……。でも私は落ちこぼれなのよ!」
マティナの名前を出した時は即否定してジャックさんの名前を出したときは言いよどんだね。でも否定をしたってことは……。
「マティナは神霊の契約者だから優れていて当然。ラティナは選ばれてないから劣っていて当然だと?」
「っ!」
たぶん誰も言葉にした人はいないのだと思う。それでもジャックさんや周りの人が心のどこかでそう考えて、それがラティナに伝わってしまったのだろう。直接言われたわけでは無く、態度だけがお前は無能だと示してくる。そのせいで自分はマティナよりも劣っていると思い込み、できることであってもマティナができない事はラティナもできてはいけないと一種の強迫観念にとらわれているのかもしれない。
「ラティナ。マティナとラティナに優劣は無いよ」
「でも……」
ラティナの目をまっすぐと見て言葉を贈る。SDSでマティナは鍛冶もできたけどどちらかというと作ることより使うことの方が上手だった。SDSにラティナの名前は出てこなかったけど双子で才能が二つに分かれたのだろう。
「きっとね。ラティナとマティナは二人で一人なんだ。互いに補いあうことができるはずだよ」
なんて、確証もないし合ってるか分からないけど、きっとそうだよね。
「そうなの……かな?」
「うん。自分を信じてみて」
「うん。うん……」
静かに泣き始めたラティナをそっとしておいて三人で客室に戻る。
「前世の記憶の体験談かしら?」
「体験談ではないよ。ま、前世の記憶には変わりないけどね」
有名な心理実験の一つだ。事前情報として教師に優秀な子と普通の子だと伝えてから二人の教育を頼むと無意識の内に優秀な子により多くの機会を与え、考える時間を与えることが知られている。
ラティナは優秀だからこそほんの僅かな差を感じ取って生きてきたのだろう。きっとマティナは……。
次話は明日の17時投稿予定です
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