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小さな龍のレクイエム(改稿版)  作者: セレシア(旧 助谷 遼)
アフターシナリオ ~地底公国編~
211/292

202話 偏屈

 非常口を通り抜け、ドワーフの国である地底公国に入国したのは私ことサクラ・トレイルである。らせん状の緩やかな坂道を降りているけど裏道なのかドワーフの姿は見えないね。


「暑さがましになってきたのじゃ」

「不思議ね。場所だけみると暑くなってもおかしくないのに」


 そういえば非常口を閉じていた扉を触っても熱くなかった。耐熱遮熱の材料で道も扉も作られているのだろう。ところどころに光っている石があって道の中も暗くない。オリハルコンでは……ないね。

 数時間、魔物が出ることも無く平和に道を進んでいくと非常口と同じ扉が現れた。


「ここから中に入れそうね」

「そうだね。あまり使われてなさそうだけど大丈夫かな?」

「本当はもっと見やすいところに入り口があったんじゃないの?」


 ジト目を向けてきたカトレアちゃんから目を逸らす。ドワーフ公国が火山にあると聞いたら入り口も火山にあると思うじゃんか。中に入ったら正面口を探してみよう。


 一応ノックしてから扉を開く。さて、公国はどうなって。


「きゃーーー!」


 デジャブかな?


 ―――


「あなた達は誰?」


 どうやら何かに襲われていたわけではなく私達が突然現れたことに驚いたようだ。驚き好きたのか目元が少し赤くなっている。マティナの面影がある?


「私はサクラ。あなたはマティナの知り合い?」


 マティナの名前を出した途端にドワーフの少女は顔を曇らせる。なにかあったのかな?


「私の名前はラティナ。マティの双子の妹だよ。マティの所に案内しようか?」


 しかし顔を曇らせたのも一瞬で直ぐに人懐っこい笑顔になる。どうやら触れられたくないみたいだ。気付かなかったことにして本題に入る。


「いや、マティナと会ったのは一度だけだし向こうは覚えてないと思う。それよりジャックさん知らない?」

「おじいちゃん? いくらマティの知り合いでも余程の事が無いと武器は打ってくれないと思うけど……」

「紹介状を貰ったんだけどダメかな?」

「うーん。話は聞いてくれるかもしれないけどおじいちゃんがサクラさんを気に入らないと武器は打ってもらえないと思うよ」

「そっか」


 門前払いはされないくらいの信用は得られるけどその先は私次第ということか。そうだ。マティナも鍛冶が上手だったしラティナも鍛冶ができるのでは?


「じゃあその時はラティナにお願いしてもいい?」

「え!? う、うん。……いや、マティにお願いしてみて。お菓子をあげれば喜んで作ってくれるはずだよ」


 最初は驚きと共に喜んだ顔をしていたけど段々と言葉がしぼみ最後はしゅんとしてしまった。二人に劣等感でも持ってるのかも。


「気が向いたらラティナにも作って欲しいな」

「うん」


 はにかみつつ頷くラティナ。うーん、信じてないな? 心の壁を取り払うのはおいおいとしてラティナの案内に従ってジャックさんの家に行く。


 辺りを見渡すと岩をくり抜いた後に分厚い扉を付けている建物が多い。


 案内された家のドアを開けるとドワーフのおじいさんが鉄を打っていた。どうやら鍛冶場みたいだ。このおじいさんがジャックさんかな? おじいさんは鉄を見たまま声を出す。


「どこに行っていた」

「ご、ごめんなさい。お客さんのサクラさんです」

「向こうで打ってろ」

「はい。サクラさん。こちらが祖父のジャックです。私はやることがあるのでこれで失礼します」


 ラティナはジャックさんの声に委縮しつつ奥に移動していった。ジャックさんは私達を気にもせず鉄を打ち続ける。


「無視って感じ悪いわね」

「作業が終わるまでは静かに待とう」

「暇じゃのう」


 カトレアちゃんが眉をひそめるが宥めつつ静かにジャックさんの鍛冶を見学する。気難しい人だと聞いていたし、反発して追い出されたらどうにもできなくなるからね。


 暇になったコハルちゃんがカトレアちゃんに寄り添って眠り数十分経ったころ、ジャックさんが鉄を打ち終える。どうやら刀を打っていたらしい。反りも綺麗でかなり薄い刀だ。切れ味は凄そうだけど使用者を選ぶタイプだね。


「まだいたのか」

「ちょっと?」

「カトレア待って」


 刀を確認し終えたジャックさんの第一声にカトレアちゃんが突っかかる。尻尾の揺れをみるとだいぶ不機嫌のようだ。


「初めまして。ジャックさんに修復して頂きたい刀があります。こちらは真田様からの紹介状です」

「ふん」

「ぐるるる」


 紹介状を見せるも鼻で笑うだけで相手をしてくれない。カトレアちゃんの怒りが蓄積してきて段々と抑えるのが大変なんだけど。語彙力戻して!


「ジャックさんなら魔刀でも打てるとお聞きしたのですが嘘だったようですね。期待外れでした」


 おっと、ちょっとだけ挑発するつもりだったのに棘が多くなっちゃった。ま、いいよね。


「あん?」

「芯となる魔刀と材料にオリハルコンを用意しましたがジャックさんには扱うのが難しいようですね。他の人を当たります」

「オリハルコンだ? 嘘吐くんじゃねえ……ぞ」


 アイテムボックスからオリハルコンを取り出して魔力を流しつつひらひらと振る。


「馬鹿な……。なんで貴様のような小娘が持っている」

「はぁ。依頼人を小娘呼ばわりですか。紹介状に書いてあるでしょう? 私はマティナさんと同じ神霊の契約者なんですよ」


 アイテムボックスにしまいなおして外に出ようとする。ラティナに打ってもらおう。


「見せろ」

「お断りです。今までの態度からあなたは信用できないと判断しました。見せた瞬間盗まれたらたまったもんじゃありませんから」


 睨みつけてくるジャックさんを真っ向から睨み返す。


「それは儂にしか扱えん。打ってやるからさっさと寄こせ」

「先ほどお断りしました。では」


 いつまでも上から目線のジャックさんに背を向けて外を出る。呆然としてるジャックさんの姿がドアの向こうに消えると同時にカトレアちゃんがあっかんべーをする。さ、ラティナが出てくるまで待ちますか。

次話は明日の17時投稿予定です


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