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きっとそれが、あなたの幸せなのでしょう。  作者: 篠宮 楓
時は進む。

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イルクという男。11

「どういうことですか……!」


 イルクの剣幕に内心震えあがったアウルは、迅速に、速やかに、種明かしをするべく、先に凪達を追っていったゼルに加えて追いついてきたフィアにも先にいくよう命令しその場を後にした。イルクを連れて。

 もちろんその場でひと悶着があったのは言うまでもない。凪の後を追いながら説明しろと迫るイルクと、それを聞き入れなかったアウルの間で。

 話し合いが決着つくまで待つことなどできないフィアは、イルクの威圧をまともに向けられながらもさっさとその場を離脱した。

 その場に置いていかれるアウルの方がよっぽど死地に直面した兵みたいだったと、ゼルに追いついた時にフィアは呟いたという。


 そしてアウルがイルクを連れて行った場所には。


「隊長殿!?」

 乗ってきただろう馬の傍らに立ってひらひらと手を振る、隊長の姿があった。

 驚きに思わず声を上げて、そして駆け寄る。

「あの、凪が……っ」

「あぁ、知ってるから大丈夫。凪は黒幕の場所まで私達を連れていく囮で捕まっただけだから」


「凪が黒幕を突き止める為の、囮?」


 イルクはまさか、隊長からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。例えば黒軍師と呼ばれる十軍を統括している軍師からの命令で、秘密裏に凪が囮に決まったと思っていた。隊長が知っているなんて、考えもしなかったのだ。

 だって、隊長だ。あれだけ凪を可愛がっている隊長が、だ。

 当初、二人で行動することで敵の力を散らそうと話した時、確かに囮という言葉は使った。けれどそれは、捕まる為の囮ではない。敵を引き付け、中央、もしくは東から力を分散させるためだ。

 だから相対した場合は、蹴散らすか撒くかの二択だと思っていた。

 だというのに、凪が二重の意味で囮の命を受けていたなんて気がつかなかった。



 それに、確かにそれも気にはなるが、それだけじゃない。



「なぜ、私に何も言ってくださらなかったのですか」


 ここまでくれば、誰にでもわかる。

 すべては隊長を含めた作戦を司る隊員は知っていたという事だ。凪を囮にして、黒幕を暴くという事を。知らなかったのは、自分だけ。

 その事実が、イルクを苛立たせた。

 凪にとって、隊長にとって自分はそれだけの存在だったのかと。


 隊長は苦笑しながら、鐙に足を掛けひらりと馬に飛び乗った。

「今の状態が答えですよ、イルク。言い出しは凪ですが、その判断が正しかった事を今実感しているところです」

「言い出しは、凪……」

 凪、自ら俺を遠ざけ……。

「イルク、行きますよ」

「え、あ、はいっ」

思っても見なかったことを言われ呆然と隊長の言葉を繰り返していたイルクは、慌てて周囲を見渡す。凪との隠密行動は、徒歩。馬を帯同している隊長に追いつくには…。

すると少し離れた場所にいたアウルが、一頭の馬を連れてきた。

「どうぞこの馬を。隊長が引いてきたようですので」

イルクは礼を言いつつ、さらりと飛び乗る。そして駆け出そうとして、アウルに視線を向けた。

「あなたは、どのようにしてこられるのか」

自分が馬を使ってしまったら、アウルはどうついてこようというのか。

 アウルは口端を少し上げて、微かに笑んだ。

「歳を食っても一応は諜報員ですゆえ。それでは私も動きます」

 それだけ言うと手から放った縄を操り枝へと絡ませ、反動をつけて上へと身体を持ち上げた。そのまま闇に紛れて姿を消すと、聴こえるのはすでに先を行く隊長の馬の駆け音のみ。

 イルクは一度顔を振って気持ちを切り替えると、隊長を追うべく自身の馬を走らせた。




その頃、凪は馬に荷物の如く乗せられて……括られて、一路、東へと向かっていた。

 一応気を失っている風を装っているから何も言えないが、本当は声を大にして言いたかった。


 せめて鞍の上に外套とか、緩衝材をかませやがれと!


 イルク達追手から逃げることを最優先にしているからか、凪は両手足の一つも拘束される事なく馬に乗る男の前にうつ伏せで乗せられていた。

 故に、衝撃が胃にダイレクトアタックしてくるわけで。

 夕飯を摂ってからそんなに経っていない自身の胃は、吐かせろとずっと訴えていた。


 ――きもちわりぃ……


 上がってくる夕飯と胃液を何とか喉元で留めつつ、凪は揺れに身を任せた。


 イルク、怒ってたなぁ。


 最後に見た、イルクの傷ついた表情が脳裏から離れない。それでも、やはりイルクに秘密にしておいてよかったと今でも思う。

 自分が囮になると知ったが最後、強く反対されこの作戦が遂行できなかったことは想像に難くない。かといって、わざと捕まる囮にイルクを選ぶことはもっとできない。そのまま闇に葬られそうだ。

 だからやっぱりこれでよかったと、凪は内心独り言ちた。


胸元見やがって……。  

……やっぱり驚いてたなぁ……。


 思わず、口端に笑みが浮かぶ。

 気づかれてないとは思ってたし、あえて気づかせようとも思っていなかったけれど、本当に気付いていなかったのかと笑えてくる。

 次会う時、なんていうかな。おっさんだから、そこまで気にしないだろうか。


 囮として攫われた時点で、あとはもう敵の拠点に連れていかれるまで何もすることがないと割り切った凪は、衝撃を脳内で受け流すためにも他のことを考えて時間を潰し始めた


 イルクだけではなく、自身もイルクに対して誤解していることがあるなんて思いつくこともないまま。

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