第72話 聖剣伝説5
「だから勇者の存在を隠すと、マリア様は仰るのですね? 来るべき時に備えて、こちらも手の内を隠しておく、と」
ライプニッツ司教は納得という様子で何度も頷いた。
ライプニッツ司教はかなり頭が切れる。
反抗的だった時はピーチクパーチク小賢しく言い返してきてウザいことこの上なかったが、忠実なる下僕となった今ではなかなか頼もしいわね。
「分かってもらえたみたいで、なによりよ」
「ではこうしましょう。マリア様が勇者になられたことは、一部の上級幹部にだけ伝えるのです」
ちっ、やっと納得したと思ったのに、しつこいわね。
私のことを思ってがゆえなんだろうけど、あんたはスーパーセレブな私の言うことに素直に頷いときゃいいのよ。
「バカね。人の口に戸は立てられぬ、って言うでしょ。これは私とアイリーン、そしてライプニッツ司教。ここにいる3人だけの秘密よ。それ以外には決して漏らしてはいけないわ」
「たしかに知る者が少なければ少ないほど、秘密は漏れにくくなりますが……」
「でしょう? 既に魔王が復活していて、聖教会の上級幹部の誰かが魔王に内通している可能性だってあるわ。今の上級幹部どもの浅ましい姿を見れば、決して否定はできないわよね?」
ライプニッツ司教はそれはもう敬虔な信徒だ。
自らの地位向上のためにお布施集めに奔走する金にがめつい上級幹部の姿に、辟易していても不思議ではない。
「たしかに今の上級幹部には、問題のある人間も少なくありませんが……それでも我々3人だけというのは、やはり少々問題があるのでは……」
ある程度は納得しつつも、ライプニッツ司教はこの意見には不満そうだ。
だから私は説得するための最後の手札を切った。
「勘違いしないでライプニッツ司教」
「え?」
「これはあなただからこそ頼んでいるのよ。神への忠誠心に溢れたあなただからこそ、絶対に外部に漏らさず、そしてもしもの時には速やかに私にコンタクトを取ってくれるであろうと信頼して、私は今こうやってあなたに直々にお願いしているの」
「!!!!」
「事実、あなたの言動は今のこの状況を作り出してみせた。私が聖剣を抜くハメになったのは、他でもないあなたの言葉が原因なのだから。その意味ではあなたもまた、神に認められた人間なのよ。今日ここで、私を聖剣へと導くことが、あなたに与えらえた神の使命だったのよ」
「俺が、神に認められた人間――」
「ええ、そうよ。今のこの状況が――結果が全てを証明しているわ。ねぇ、アイリーン? あなたもそう思うわよね?」
「マリア様の仰る通りです」
「俺は、俺は――」
「もちろんいざという時はライプニッツ司教、あなたが教会の上層部に私が勇者だと進言しなさい。その時は私は喜んで力を貸すわ。聖剣に誓って約束しましょう」
もちろん嘘だ。
そんなつもりは更々ないのだが、そうでも言わないとライプニッツ司教は納得しなさそうなので、そういうことにしておいた。
ま、本当に魔王なんかが出てくるはずがないからね。
口から出任せでなんの問題もないのである。
「承知しました。マリア様の類いまれなる慧眼に、このライプニッツ心より感服いたしました」
「気にしないで」
ちなみに今、私が語って聞かせたおおまかなストーリーラインはとある小説──マナセイロ=カナタニア先生の書いたファンタジー小説の受け売りである。
えらく感激しているライプニッツ司教には、口が裂けても言えないけどね(笑)
「じゃあ納得してくれたみたいだし、とりあえず聖剣は元にしておくわね」
私は聖剣を再び岩へと突き刺した。
なんかもう綺麗にはまってしまう。
1回抜いちゃったからもしかして今後は簡単に抜けるんじゃない? と不安になったので、試しにアイリーンに抜かせてみたが、
「む、無理です~。大地を引っ張っているみたいで、ピクリともしません」
やはりうんともすんとも言わなかった。
本当に聖剣は、私にしか抜けないらしい。
マジほんと勘弁して欲しい。
とまぁこうして。
私が聖剣を抜いて勇者になってしまった件は、闇に葬られたのであった。
ふぅ、一時はどうなることかと思ったよ。
聖剣伝説(完)




