第69話 聖剣伝説2
「まず、聖教会は地域ごとに支部が分かれているのは、あなたも知っているわよね?」
「もちろんです。聖教会の上級幹部でもある7人の大司教様が、それぞれの支部をまとめているんですよね」
「そうよ。そして支部から本部への献金額が多いほど、その大司教の聖教会内部での影響力が高まるのよ」
「……献金額で、ですか? 信仰心ではなく?」
愚かなアイリーンが、私の説明を理解できずに小首をかしげた。
「信仰心なんて言っても、目に見えないでしょ」
「そりゃあ見えませんよ。信仰心はつまり人の心なんですから」
「だからよ」
「え?」
「だから代わりに目で見える献金額によって、信仰心を測るのよ。寄付が多ければそれだけ信心深い信者を獲得した、つまりより神に奉仕したってことになるわけ」
「そ、そんなぁ……」
やっと趣旨が理解できたのか、アイリーンがなんともいえない情けなくも惨めな声を上げた。
「その様子だとなんにも知らなかったみたいね。やめてよね、専属メイドの程度が低いと、私まで程度が低いと思われるでしょ。クビにするわよ」
「ううっ……」
「ま、どうせここもお墨付きを与えることで、観光協会からキックバックでも貰って、献金の原資にしているんでしょうよ」
私はお父様から聞いた話を、なにも知らぬ哀れなアイリーンに語って聞かせてあげた。
ちなみに我がセレシア家は毎年、聖教会にそれはもう莫大な寄付をしているため、その辺の大司教なんかよりも、はるかに強い影響力を持っている。
本来は教皇しか泊まれないはずのこのスーパーウルトラスペシャルV.I.P.ルームに私が宿泊しているのも、そういう事情があるからだ。
あまりに膨大な額を毎年献金しているため、神にしか頭を垂れない教皇も、セレシア侯爵には頭を下げるとまで言われるほどだ。
実際には、お父様は世界最高の素敵紳士なので、天地がひっくり返っても、そんな非礼はしないんどけどね。
つまり何が言いたいかって言うと、セレシア侯爵家はそんな噂が立つくらいに、聖教会に対してもものすごい影響力があるってわけ!
「なるほど、そういうことことだったんですね。納得しました。実際にあちらこちらをご訪問されているマリア様がおっしゃると、大変説得力があります」
「まったく、いかにも金にがめついあいつらの考えそうなことよね」
アイリーンが大きくうなずいたのを見て、私は満足して話を締めくくった。
眼下には、相も変わらず聖剣を抜こうと挑戦する無知蒙昧な民草どもがひしめき合っている。
「嘘を嘘とも見抜けずに踊らされる、哀れな愚民どもめが……」
ぷー、クスクス。
ウケるわー!
私はしばらく、最高に気持ちいい気分で、眼下を眺め続けた。
◇
その後は聖教会の幹部や職員から接待を受けた。
しかし至れり尽くせりの最高の歓待を受ける私に、あろうことか歯向かう者がいた。
この地区を管理する大司教に使える数名の司教の1人――ライプニッツ司教である。
ライプニッツ司教は私のお世話係という大任を受けておきながら、やれ贅沢が過ぎるだの、やれ奉仕の心に欠けているなどと、クソ生意気にもこの私に意見してきやがったのだ。
「たかが司教のくせに無礼な! あんたの首を飛ばすくらい、私の力なら簡単にできるのよ?」
私はもちろんブチ切れたのだが、
「俺は神に仕える身。地位に興味などない。たとえ司教の地位を失っても、信仰心を失うことはないさ。俺を首にしたいのならするがいい。そんな脅しで俺の信仰心は挫けはしない」
などと言って、この私に歯向かってきたのだ。
「神に愛されたスーパーセレブたるこのマリア=セレシアに向かって、いい度胸をしてるじゃないの……!」
「神に愛された? ははっ、だったらちょうどいい。そこまで言うなら聖剣を抜いてみなよ?」
「なんですって?」
「だってそうだろ? 神に愛された人間というのなら、神の与えし聖剣だって抜けるはずだよな?」
「はん! あんなもんは観光客を呼び寄せるためのでっち上げでしょうが」
「おやおや、神に愛されたマリア=セレシア様ともあろうお方が、尻尾を巻いて逃げる気かい? だったら、しょせんはその程度の口だけ女ってことだね」
「むっかー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 上等よ! そんなに言うなら抜いてやろうじゃないの! ただし抜けたらアンタは首だからね! 覚悟してなさいよ!」
「ああ、いいだろう。ま、その曇った心では、天地が翻っても聖剣が抜けるとは思わないけどな。はははっ」
こいつ殺す。
絶対に殺す。
社会的に全力で抹殺してやる。
マリア=セレシアを舐めたことを一生後悔させてやるんだから!
「ちょ、ちょっとマリア様! 筋肉ムキムキの大男が束になっても抜けないんですよ? マリア様に抜けるわけないじゃないですか。こんな勝負受ける必要はありません!」
「黙れグズ」
「グズですみません。黙ってます」
私はアイリーンを一言で黙らせると、ライプニッツ司教とアイリーンと私の3人で、聖剣伝説の残された剣の刺さった岩のあるところへと向かった。




