第65話 クズ令嬢、クジ屋台に行く。
「綺麗な貴族のお姉ちゃん、クジを引きにいくの?」
「だめだよ。やめた方がいいよ。あそこぜってー当たりが入ってないもん!」
「あの、やるなら一緒に見ててもいいですか?」
私の言葉を耳にしたクソガキどもが、わらわらと集まってきて話しかけてくる。
「もちろんいいわよ。神に愛された私が当たりを引き当てる瞬間を、その目で見ていなさいな」
くくく!
この貧相で貧乏で哀れなクソガキどもに、資本主義のなんたるかを目の前で見せつけてあげるわ。
そして己の生まれの不幸を嘆かせてあ・げ・る♪
くふふ。
久しぶりに愚民どものいい顔が見れそうね!
私はクソガキどもを引き連れてクジ屋台に向かった。
クジ屋台につくと、別のクソガキどもがクジに外れて落胆しているところだった。
しめしめ。
まだ当たりクジは出ていないようだ。
「あの箱の中に入っているクジを引いて、当たりが出ればいいわけね」
「シンプルなクジ引きですね」
景品に目を向けると、庶民にしてみればまぁまぁ豪勢と思えるのかもしれない品物が並んでいる。
正直よく分からない。
だって私はリッチでセレブだから、こういったまず縁がないローステータスな物については、逆に目利きができないのよね。
あー、セレブすぎて辛いわー。
庶民の気持ちを分かろうとしても、住んでる世界が違い過ぎて分かりようがなくて辛いわー。
ごめんねー!
「あら? あれはアーニャのとこのブランドのブーツじゃない」
と、私は1等賞のブーツに目が止まった。
アーニャは私の元クラスメイトで、セレシア家のスポンサーによって売り出したブランドが大ヒットし、今や大陸中にその名を馳せる若手デザイナーだ。
ちょうど今、私もアーニャのデザインしたブーツをはいていた。
と言っても?
私のはついこの間デザインされたばかりの、世界に一つしかないオーダーメイドだけどね!
私のためにアーニャが特別に精魂込めて仕立てた、スーパーグレイトなブーツだもんね!
逆に1等賞のブーツは少し前に出た、いわゆる型落ちだ。
それでも手に入りづらいし、庶民には高級品なんでしょうね。
知らないけど。
まったくもう。
アーニャってばこの短期間ですっかり有名人になっちゃって。
しかし有名になったこともあって、私はアーニャを真の友人に格上げしてあげていた。
今を時めく有名デザイナーが、私にたいそう恩義を感じていて、何でもお願いを聞いてくれるというのは、なかなか悪くないステータスだからね。
この前も拠点を置いているシュヴァインシュタイガー帝国から帰国したアーニャが、忙しい合間を縫って、わざわざセレシア侯爵家まで会いに来てくれて、このブーツを手渡してくれたし。
私としてはとっても気分が良かったし、すぐ帰るというのを引き留めて歓待してあげたら、『今の私があるのは全てマリア様のおかげです。ぐすっ……』と涙を流して喜んでいた。
うんうん。
そこまで思ってくれているなんて、殊勝な心掛けね!
それはそうとして。
私は屋台の店主に向かって言った。
「当たりが出るまでクジを引くわ」
「えっ?」
「当たりが出るまでクジを引くと言ったのよ」
「え、いや、あの、その……」
当たりが出るまでくじを引いてやると言っているのに、屋台の店主はなぜか動揺したような様子を見せた。
「ぐずぐずしないでくれる? 私は待たされるのがとっても嫌いなの。あなたのノロマさを、私に共有させないでくれないかしら?」
「お、お金はお持ちで? 仮に最後まで当たりが出なかったとすると、全てクジを引くことになって10万近くになりますが……」
「アイリーン」
「かしこまりました」
アイリーンが懐から100万の札束を取り出して、屋台の台の上に置いた。
相変わらず露出が多くぴったりとしたメイド服のどこから取り出しているのか分からないが、今はそれはいい。
「足りるわよね?」
「えと、その……はい」
店主は真っ青な顔で首を縦に振った。
なんだこいつ?
さっきから意味が分からないわ。
「ま、神に愛された私ならすぐに当たりを――下手したら一発で1等賞を引いちゃうでしょうけどね」
むふふ。
クソガキどもと店主に、選ばれし人間のなんたるかを見せつけてやるわ。
私は意気揚々とクジを引き始めたのだが――。




