第64話 クズ令嬢、縁日に行く。
「ふうん、これが縁日というものなのね」
私は専属メイドのアイリーンを引き連れて、とある神殿の境内で行われている縁日にやってきていた。
「おや、マリア様は縁日には参加されたことがないんですか?」
アイリーンが極めて愚かな質問をしてくるので、容赦なくぶったぎる。
「私がこんなショボい庶民のお祭りに、参加したことあるわけないでしょ」
それでもわざわざ見に来たのには、もちろん理由があって。
まず、お父様がここの神殿の偉い人と旧知の仲らしく、どうしても私に会って欲しいと頼まれたので、お父さまの顔を立てるためにこの神殿まで足を運んだ。
その偉い人との面会も既にさっき終わったのだが、帰る前に縁日にも少しでいいから顔を出して欲しいと言われ、仕方なくこの庶民向けのお祭りに参加してみたのだ。
が、しかし。
私は即行で自分の判断を後悔していた。
セレブもイケメンもおらず、道の両側に所狭しと並んだウサギ小屋のような屋台では、豚のエサかと見紛うような貧相な食べ物が売られている。
「あ、綿菓子ですよ! マリア様、買ってきてもいいですか?」
「好きにしなさい」
なんかもうどうでもよくなっていた私は、目を輝かせて屋台を指差すアイリーンに、投げやりに言葉を返した。
ちゃんと縁日にも顔を出したから、お父さまのメンツは守ったわよね。
うん、あと5分したら帰ろ。
5分も我慢してあげるなんて、私って本当に優しさの塊だわ。
「あ、金魚すくいですよマリア様! せっかくですし、どっちがたくさん取れるか勝負しませんか?」
「なんで私が金魚なんてすくわないといけないのよ」
「ええ~? 楽しいじゃないですか?」
「金魚なんてすくって何が楽しいんだか」
「最近では、時間内に一本のポイでどれだけたくさんすくえるか、そんな競技もあるんですよ?」
「庶民の感性は本当に理解できないわね」
「おや、まさかマリア様ともあろうお方が、負けるのが怖いのでしょうか?」
肩をすくめる私に、アイリーンがなんとも挑発的に言った。
「……なんですって?」
「こう見えて私は、金魚すくいが大の得意なんですよ」
アイリーンがニチャァと妙に自慢げに笑う。
こ、こいつ!
たかが専属メイドの分際で、この私の前でこの舐めた態度!
得意だからといって調子に乗っているわね!
「どうやらお祭りだからといって、浮かれているようねアイリーン。いいわ、今から特別に相手をしてあげる。神に愛された私と、凡百のあなたの差を思い知りなさい」
「わーい♪」
私とアイリーンはそれぞれタモを持つと、横並びで金魚すくいバトルを始めた。
結果はダブルスコアで私の圧勝だった。
「大口を叩いたくせに、口ほどにもないわね。真面目にやって損したわ」
「マリア様、本当に初めてやったんですか? とても初心者には見えませんでしたが……」
自信満々から一転、完膚なきまでにボコられたアイリーンがションボリとつぶやいた。
「こんなの難しくもなんともないでしょ。ポイを水槽の中に入れたら、勝手に金魚の方からポイに乗ってきたわよ」
「……」
「それとアンタ。ポイは破れやすいから、水の中で動かす時は気を付けろって言ってたわよね? 全然破れなかったんだけど?」
「マリア様みたいに雑に動かしたら、普通はすぐに破れるんですけど」
「さてはアンタ、私に勝ちたいがあまり嘘をついたでしょ」
「……マリア様はお世辞抜きで、本当に神様に愛されておいでですよね」
「アンタは言い訳しかできないの? とっとと敗北を認めなさいな、このグズ」
「調子に乗ってしまい、誠に申し訳ありませんでした。2度といたしません」
アイリーンが悲しそうにつぶやいたのを見て、私は少しだけ気分がよくなった。
うんうん、私の気分を良くするために自ら犠牲になるなんて、さすがは私の専属メイドね。
「さーてと。バカなメイドの躾も済んだことだし、さっさと帰りましょうか」
気分よく撤収しようとした私は、しかしたまたま偶然、子供たちがこんな会話をしているのを耳にした。
「あそこのクジ屋台、お小遣い全部使ったのに、外れしか当たらなかったよ……」
「俺も俺も! 1等とかホントに入ってんのかよ!」
「わたしも全部外れだったの……」
ぷっ!
くすくす。
私はその会話を聞いて内心、笑いが止まらなかった。
「アイリーン、予定変更よ。今から屋台のクジを引きにいくわ」
クソガキどもにわざと聞こえるように、心もち大きな声でいう。




