表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/74

第64話 クズ令嬢、縁日に行く。

「ふうん、これが縁日というものなのね」


 私は専属メイドのアイリーンを引き連れて、とある神殿の境内で行われている縁日にやってきていた。


「おや、マリア様は縁日には参加されたことがないんですか?」

 アイリーンが極めて愚かな質問をしてくるので、容赦なくぶったぎる。


「私がこんなショボい庶民のお祭りに、参加したことあるわけないでしょ」


 それでもわざわざ見に来たのには、もちろん理由があって。


 まず、お父様がここの神殿の偉い人と旧知の仲らしく、どうしても私に会って欲しいと頼まれたので、お父さまの顔を立てるためにこの神殿まで足を運んだ。


 その偉い人との面会も既にさっき終わったのだが、帰る前に縁日にも少しでいいから顔を出して欲しいと言われ、仕方なくこの庶民向けのお祭りに参加してみたのだ。


 が、しかし。

 私は即行で自分の判断を後悔していた。


 セレブもイケメンもおらず、道の両側に所狭しと並んだウサギ小屋のような屋台では、豚のエサかと見紛うような貧相な食べ物が売られている。


「あ、綿菓子ですよ! マリア様、買ってきてもいいですか?」

「好きにしなさい」


 なんかもうどうでもよくなっていた私は、目を輝かせて屋台を指差すアイリーンに、投げやりに言葉を返した。


 ちゃんと縁日にも顔を出したから、お父さまのメンツは守ったわよね。

 うん、あと5分したら帰ろ。

 5分も我慢してあげるなんて、私って本当に優しさの塊だわ。


「あ、金魚すくいですよマリア様! せっかくですし、どっちがたくさん取れるか勝負しませんか?」


「なんで私が金魚なんてすくわないといけないのよ」

「ええ~? 楽しいじゃないですか?」


「金魚なんてすくって何が楽しいんだか」

「最近では、時間内に一本のポイでどれだけたくさんすくえるか、そんな競技もあるんですよ?」


「庶民の感性は本当に理解できないわね」


「おや、まさかマリア様ともあろうお方が、負けるのが怖いのでしょうか?」

 肩をすくめる私に、アイリーンがなんとも挑発的に言った。


「……なんですって?」

「こう見えて私は、金魚すくいが大の得意なんですよ」


 アイリーンがニチャァと妙に自慢げに笑う。


 こ、こいつ!

 たかが専属メイドの分際で、この私の前でこの舐めた態度!

 得意だからといって調子に乗っているわね!


「どうやらお祭りだからといって、浮かれているようねアイリーン。いいわ、今から特別に相手をしてあげる。神に愛された私と、凡百のあなたの差を思い知りなさい」


「わーい♪」


 私とアイリーンはそれぞれタモを持つと、横並びで金魚すくいバトルを始めた。

 結果はダブルスコアで私の圧勝だった。


「大口を叩いたくせに、口ほどにもないわね。真面目にやって損したわ」

「マリア様、本当に初めてやったんですか? とても初心者には見えませんでしたが……」


 自信満々から一転、完膚なきまでにボコられたアイリーンがションボリとつぶやいた。


「こんなの難しくもなんともないでしょ。ポイを水槽の中に入れたら、勝手に金魚の方からポイに乗ってきたわよ」


「……」


「それとアンタ。ポイは破れやすいから、水の中で動かす時は気を付けろって言ってたわよね? 全然破れなかったんだけど?」


「マリア様みたいに雑に動かしたら、普通はすぐに破れるんですけど」


「さてはアンタ、私に勝ちたいがあまり嘘をついたでしょ」

「……マリア様はお世辞抜きで、本当に神様に愛されておいでですよね」


「アンタは言い訳しかできないの? とっとと敗北を認めなさいな、このグズ」

「調子に乗ってしまい、誠に申し訳ありませんでした。2度といたしません」


 アイリーンが悲しそうにつぶやいたのを見て、私は少しだけ気分がよくなった。

 うんうん、私の気分を良くするために(みずか)ら犠牲になるなんて、さすがは私の専属メイドね。


「さーてと。バカなメイドの(しつけ)も済んだことだし、さっさと帰りましょうか」


 気分よく撤収しようとした私は、しかしたまたま偶然、子供たちがこんな会話をしているのを耳にした。


「あそこのクジ屋台、お小遣い全部使ったのに、外れしか当たらなかったよ……」

「俺も俺も! 1等とかホントに入ってんのかよ!」

「わたしも全部外れだったの……」


 ぷっ!

 くすくす。


 私はその会話を聞いて内心、笑いが止まらなかった。


「アイリーン、予定変更よ。今から屋台のクジを引きにいくわ」


 クソガキどもにわざと聞こえるように、心もち大きな声でいう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ