928 クマさん、ジュウベイさんと戦う その2
突きの構えをするジュウベイさんの上に大きな花が咲いた。
わたしは直感的に魔力で子熊を作り出し、構えをする。
一瞬のことだった。
考えていたら間に合わない。
ジュウベイさんとわたしが同時に動く。
ジュウベイさんが作った魔力の花とわたしが魔力で作った子熊がぶつかり合う。
衝撃が伝わってくる。
その衝撃の中、ジュウベイさんが突っ込んでくる。
突き出された刀がわたしに迫ってくる。
避ける。
三段突きをさせないため、避けると同時に思いっ切り、刀を弾く。
ジュウベイさんの腕が上がり、手から刀が離れる。
だけど、ジュウベイさんは止まらない。
もう1本の刀が襲ってくる。
もちろん、この刀の存在も忘れていない。
体を反らし、もう片方に持っていたナイフを刀に向けて切り上げる。
ジュウベイさんの両手から刀が離れる。
わたしはナイフを持ち替え、拳を握る。
足に力を入れ踏み込み、腕を振るう。
わたしの握りしめられたクマパペットがジュウベイさんの顔を殴る。
ジュウベイさんは吹っ飛び、地面を転がり、倒れる。
ジュウベイさんは地面に倒れたまま動かない。
小さく息を吐く。
「終わった」
面白かった。
なんだかんだで、楽しんだ自分がいた。
ほんの一瞬も気が抜けなかった。
倒れているジュウベイさんに目を向ける。
ジュウベイさん、動かないけど死んでいないよね?
確認のためジュウベイさんに向かって歩き出そうとしたとき、くまゆるが「くぅ~ん」と鳴く。
なに? と思った瞬間、歩き出した先のほうに刀が落ちてきた。
落ちてきた刀は地面に突き刺さった。
危なかった。
あのまま歩いていたら、突き刺さっていたかもしれない。
「くまゆる、ありがとうね」
教えてくれたくまゆるにお礼を言って、上を見る。
もう1本、空に飛ばした。
上にはクマの光が光っている。
もう1本の刀の行方は分からない。
どこかに、飛んで逃げたりしてないよね。
そう思っていると、上から微かに音が聞こえてくる。
そして、刀が落ちてきたと思った瞬間には、ジュウベイさんの近くの地面に突き刺さる。
「危なかった」
もう少しずれていたら、もう一本の刀はジュウベイさんに刺さっていた。
危ないものは空に飛ばすものじゃないね。
石でも危険だ。
マンションから物が落ちて下にいる人が怪我をするって話は聞くし。
とりあえず、2本の刀は落ちてきたのでジュウベイさんのところへ歩き出そうとすると、ジュウベイさんが動き出す。
生きていた。よかった。
「ジュウベイさん、わたしの勝ちだよね」
立ち上がるジュウベイさんに声をかける。
だけど、ジュウベイさんは無言。
ジュウベイさんはゆっくりと立ち上がり、ふらつきながら地面に突き刺さった刀を抜く。
「もしかして、まだ戦うつもり? わたしの勝ちでしょう」
「ユナ! 構えろ」
カガリさんの声がした瞬間、ジュウベイさんがわたしに向けて飛び込んでくる。
ナイフで受け止める。
カガリさんが声をかけてくれていなかったら、間に合わなかったかもしれない。
「斬りたい……」
ジュウベイさんの目は虚ろだ。
だけど、ジュウベイさんの体は動き、斬りかかってくる。
避ける。受け流す。
今まで戦ってきたジュウベイさんの動きと違う。
「ジュウベイの奴は、妖刀に飲み込まれている」
いつの間にか戻ってきていたカガリさんが説明してくれる。
黒男との戦いについて聞きたいけど、今はジュウベイさんだ。
それにここにカガリさんがいるってことは勝ったってことだ。
「妖刀に飲み込まれているって」
「ジュウベイが持っているのは妖刀狂華じゃ、殺しに来るぞ」
カガリさんは地面に突き刺さっていたもう一本の刀を封印しながら言う。
どうやら、刀が逃げないように封印してくれたみたいだ。
それじゃ、残りは一本。
「ジュウベイさん、目を覚まして!」
声を掛けるが、ジュウベイさんに反応はない。
「お主が殴ったことで、ジュウベイのやつは気を失い、そこを妖刀に飲み込まれた」
カガリさん、どこから見ていたの?
最後にジュウベイさんを殴ったところは見ていたみたいだ。
「それじゃ、どうしたら」
「ジュウベイの手から妖刀を離すしかない」
やっぱり、それしかないよね。
ジュウベイさんは刀を振るう。
軽く躱す。
殺意は伝わってくるが、心が籠もっていない攻撃は怖くない。
ただ、刀を振っているだけ。
鋭くなければ、速くもない。
先ほどまでの高揚感や楽しさはどこにもない。
邪魔をされた気分。
ジュウベイさんの体で情けない攻撃はしないでほしい。
二流どころか三流。
ジュウベイさんの攻撃の面影はない。
妖刀を扱う人間が三流なら、怖さはない。
まだ、三流の妖刀を持っている一流の実力者のほうが怖い。
もっとも怖いのは一流の武器を一流の人間が扱うことだ。
今のジュウベイさんは弱々しく刀を振るう。
なんだろう。
ジュウベイさんが貶められているように見える。
「それで、カガリさんのほうは?」
弱いジュウベイさんの相手をしながら、カガリさんに尋ねる。
「倒した。くまゆるに回収してもらおうと思ってな、男は縛って放置してきた」
流石、カガリさんだ。黒男を倒したなんて。
「くまゆる、回収してきて」
縛ってあると言っても、逃げられるかもしれないので、くまゆるに回収を頼む。
「くぅ~ん」
少し心配そうに鳴く。
「こっちは大丈夫だから」
「くぅ~ん」
もう一度、お願いするとくまゆるは黒男を回収に向かう。
「それで、お主。ジュウベイをどうするつもりじゃ」
ジュウベイさんはなにも考えずに斬りかかってくる。
「いや、気を失っているのに、もう一度殴ってもいいのかなと考えているんだけど。どう思う?」
ジュウベイさんの攻撃を躱しながら、カガリさんに尋ねる。
「構わんのでは? じゃが、気を失っても攻撃を仕掛けてきておるから、無駄かも知れぬぞ」
確かに。
そうなると、さっき同様に思いっきり刀を弾くしかないね。
わたしはジュウベイさんが振ってくるタイミングに合わせて、思いっきり刀を弾く。
ジュウベイさんの腕は上にあがるが、刀は手から離れない。
「魔力で固定されておる」
「えっ、それじゃ、どうしたら」
「斬るしかないじゃろう。お主にできないなら、妾が代わるぞ」
それって、ジュウベイさんの手首を切り落とすってことだ。
ジュウベイさんの手首を切り落とせば、二度と刀が持てなくなる。
それはジュウベイさんにとっては死ぬより辛いこと。
クマの魔法なら治せる可能性もあるけど、あくまで可能性だ。
傷や大怪我なら治せることは証明済み。
でも、切り落とされた腕がくっつくか分からない。
やったことがないのだから。
経験がないことは、どこまでできるか分からない。
でも、この程度の相手なら手首を切り落とさなくても大丈夫だ。
それにジュウベイさんとの決着はわたしが付けないといけない。カガリさんに任せるわけにはいかない。
「斬らせろ」
斬らせるわけがない。
情けないジュウベイさんは見たくない。
「カガリさん、刀を貸して」
「刀じゃと? この妖刀か?」
先ほど封印した妖刀を手にしながら尋ねてくる。
「ううん、カガリさんの持っていた刀。あれって、名刀なんだよね」
「ああ」
「妖刀に負けないよね」
「ああ、負けない」
「それじゃ、貸して」
カガリさんは腰にあった刀を手にすると、迷うこともなく「ほれ、受け取れ」と言って、放り投げてくる。
わたしはジュウベイさんの攻撃を躱し、体を回転させて、両手に持っていたナイフをクマボックスに仕舞い、カガリさんの放り投げた刀を受け取る。
刀だ。
ちょっと、わくわくする。
ジュウベイさんが攻撃してくる。刀を鞘から抜き、ジュウベイさんの刀を受け流し、左手に持つ鞘をどうするか一瞬悩む。
クマの着ぐるみに腰に鞘を差すところはない。
借り物を放り投げるわけにもいかない。
それに鞘を投げて「ユナ、敗れたり」なんて、宮本武蔵みたいなことをジュウベイさんに言われたら、なにか悔しい。
もっとも、妖刀に操られているジュウベイさんがそんなことを言うわけがないし、妖刀に操られていなくても言わないと思うけど。
そんなくだらないことを考えながら、わたしは鞘はクマボックスに仕舞う。
何度か、受け止めたり、受け流したりする。
間合いはこのぐらい?
ナイフと刀では扱いが全然違う。
感覚も違う。
でも、徐々に刀に慣れてくる。
ジュウベイさんの攻撃を綺麗に受け流す。
この距離感。
もういいかな。
ジュウベイさんの刀を受け流し、後方にジャンプしてジュウベイさんと間合いを取る。
「ジュウベイさん、解放してあげるね」
なにも考えず、斬ることだけを考えている妖刀は、わたしに向けて駆けてくる。
素人。
なにも考えずに突っ込んでくる。
ジュウベイさんの面影は何もない。
怖さはない。
クマボックスから鞘を取り出し、刀を納め、腰を落とす。
刀は腰に置き、左手で鞘を持つ。
そして、右手で柄を掴む。
ジュウベイさんが走ってくる。
タイミングを計る。
ジュウベイさんがわたしに向けて刀を振りかざしてくる。
その瞬間、右手を振り抜く。
抜刀。
ジュウベイさんの動きが止まる。
わたしは振り抜いた刀を鞘に収める。
カチンと音が鳴ると、ジュウベイさんが崩れ落ちる。
「お主、信じられないことをするのう。刀を斬るなんて」
カガリさんにはジュウベイさんの刀を斬ったところは見えていたみたいだ。
「上手にできてよかったよ」
ジュウベイさんの刀は柄の近くで斬れて、地面に落ちている。
「いやいや、お主、自分がどれだけ凄いことをしたと思っておる」
「居合だけど」
「それは分かっておる。それを簡単にやっておるから、言っているんじゃ。走ってくるジュウベイ。さらには振り下ろされる刀に向けて、刀を斬ることが、どれだけ、バカげたことか」
「本来のジュウベイさん相手だったら、できなかったよ」
動きは単調、フェイントもない。ただ斬りかかってくるだけ。
だから、できたことだ。
「それに、この刀が良かったからだよ」
鉄? 鋼? ミスリル? 刀の材質は分からないけど。
妖刀を斬ることができたのは、カガリさんが持っていた刀のおかげだ。
やっぱり、刀ってカッコイイよね。
刀を褒められてカガリさんは少し嬉しそうだ。
そんな話している間に、カガリさんは折れた刀に封印を施してくれる。
「これで大丈夫じゃろう」
これで、全ての妖刀の回収が終わった。
「ありがとう。いい刀だったよ」
わたしはお礼を言って、カガリさんに刀を返す。
「くぅ~ん」
くまゆるが背中に黒男を乗せてやってくる。
男は土魔法で体を巻かれ、項垂れていた。
こっちも気を失っているみたいだ。
「ジュウベイの奴も運ぶことになれば、妾たちは歩いて帰るしかないのう」
くまきゅうがいれば、ジュウベイさんと黒男はくまゆるに任せて、わたしとカガリさんはくまきゅうに乗って帰れたんだけど。
呼びかければ、来てくれると思うけど。
いきなり、くまきゅうがサクラたちから離れて駆け出したら、サクラとシノブは驚くことになる。
わたしは少し考え、すぐに思いつく。
「くまゆる、その男をジュウベイさんの隣に置いて」
くまゆるは倒れているジュウベイさんの隣に来ると、背中に乗せている男を転がす。
ジュウベイさんの隣に男が並ぶ。
「なんじゃ、くまゆるに乗せるんじゃなかったのか?」
「それでもいいんだけど。それだと歩いて帰ることになるでしょ」
「それじゃ、どうするのじゃ?」
わたしは土魔法を使う。
地面が浮かび上がり、四方に車輪が付き、台車になる。
そして、その台車の前にクマゴーレムを作る。
初めて王都に行ったときに盗賊を捕まえた。そのときに檻付きの台車を作ったことがあった。
それと同じようなものだ。
「それじゃ、帰ろうか」
「相変わらず、想像が付かないことをするのう」
わたしとカガリさんはくまゆるに乗り、クマゴーレムを動かす。
ジュウベイVSユナは終わりましたが、今回は妖刀狂華VSユナでした。
でも、これで本当に終わりです。
「ユナ、敗れたり」は宮本武蔵と佐々木小次郎ネタです。知らなくて、気になる方は調べてみてください。過去に佐々木小次郎を知らない人がいたので、一応。
※次回の投稿ですが確定申告(税金の報告)の準備をするため、遅れるかもしれません。そのときは申し訳ありません。
※「くまクマ熊ベアー」のコミカライズが読める「コミマガ」のアプリが始まりました。ちなみに他社作品の有名作品も読めますので、よろしくお願いします。あと、お気に入りに入れていただけると嬉しいです。
※くまクマ熊ベアー10周年です。
原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。
よかったら、可愛いので見ていただければと思います。
リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。
※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。
詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)
コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)
文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




