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交渉

なかなか進まなくてすいません。いつになったらちゃっちゃと進むのやら…

 今俺たちは獣耳のおっさん三人に案内されながらおっさんたちの村とやらに行っている最中である。おっさんたちは歩いて、俺たちは馬車に乗って案内されながら行っている状態だ。


「…本当にいいの?」


「ああ…。なにせあそこまでやられちゃな…。」


 いや、実際あれは反則だったと思う。なにせ面倒な臭いがしたしなによりいきなり土下座とかするおっさんたちと一緒にいたくなかったから行かないと答えると


「なんだと!我らがここまでして頼んでいるのに断るとは!貴様らに思い知らせてくれる!」


 から始まり、


「ぐう…なんと強い御仁か。我ら一同服従を誓いますぞ。ですからなにとぞ我らが村を。」


 と言っておっさんたち三人が服をめくりあげ腹部を露出し、服従のポーズをとった。気持ち悪いから見なかったことにしてスルーすると


「ま、待って下され!あ!痛い痛い!どうやら病気にかかってしまいました。専用の設備があるのでどうぞ我らが村で治療を。」


 というバカバカしい仮病まで使い、再びスルーすると


「お願いします~。どうか!どうか待って下され~。せめてお話だけでも~。」


 哀れさを強調したいのか妙に語尾を長くして俺の足に縋り付くおっさん三人。いい加減吐くぞとか思いながらそれでも放置していると


「お…お願いするで…ヒック…ござ…ヒック…。どうか…ヒック…我らが…村…ヒック…を…ヒック。」


 なんか泣き出した。しかも俺の足に縋り付いたまま!やめろ離せ掴むな顔を押し付けるな!お前ら自分の年と顔を自覚しろ!獣耳生やしたおっさん三人が十代後半の人間の足に鼻水と涙垂らしながら縋り付くなよ気持ち悪いことこの上ないわ!


「ええーい!分かった!行ってやるよ!お前らの村だろうが街だろうが行って病人治療してやっから離れろうっとおしい!」


 なんてついおっさんたちの醜態に我慢できず言った俺を誰が責められようか。


「いやあー、シキ殿御一行様はすばらしいですなあ。見たこともないような装備!見たこともないような丈夫で大きな馬車!珍しい白色のランクフォックスの使い魔!おまけに美人のハーフエルフ!いやはや、感服いたしますぞ。」


「そうですなあ。特にシキ殿は見た目にそぐわず魔法の腕も見事なことでしたな。なにせあのイーターワームを一撃ですものな。」


「まったくだ。これほど全てを兼ね備えた方を見たことがない。」


 案内されている途中ずっとこの調子だ。上から順にイヌ耳、ネコ耳、ウサ耳のおっさんの順で、初めて会った時と対応が180°違っている。おいこらウサ耳!てめえ最初に会った時の軽蔑の視線はどこ行ったんだこら!


「…獣人族は基本的に強い者に従い、また、親しみや尊敬の念を抱きやすい。恐らく先ほどの戦闘であなたがあの三人に完勝したため態度が軟化したと思われる。」


 あーなるほどそういうこと。自然界の掟みたいな感じですか。さすが獣人族、とだけ言っておこう。決して脳筋なんて思ってないよ、うん。


「それはそうと一体村ってのはどういうところなんだ?行く前に少しでも聞いておきたいんだが。」


「ふむ…そうですな、お話しいたしましょう。」


 答えてくれたのはリーダー格っぽいネコ耳だ。村の話を持ち出した途端、さっきまでの軽い空気が掻き消え、重苦しいものになる。


「我々はもともとこの森に住みついていた獣人族なのですがな、ある日突然あのイーターワームがこの森に現れたことからすべてが狂ってしまい…。」


 話をまとめるとこんな感じだった。


 おっさんたちの村の人たちはもともとこの森に住んでいて特にどこと争うでもなく至って平和に暮らしていたらしい。


 そんなある日、急に森にイーターワームが現れ、森に住む生き物という生き物を次々と喰らってしまった。イーターワームとはその名の通りとにかく生きているものならなんでも食べ、しかも地中に潜ることもでき切られても分裂してしまうたちの悪い魔物だ。


 もちろん村中総出で戦ったがイーターワームは基本的に魔法でないと効率的なダメージは与えられない。獣人族は身体能力に特化しているが魔法はほとんど使えないので、結局効果の薄い剣などで立ち向かうしかなかった。


 しかしそんなことをしても結果は火を見るより明らか。次々と立ち向かったものが殺されていき、最終的には村から一歩も出れない状況に陥ってしまった。


 なぜ村に逃げ込めば安心かというと、おっさんたちの村は特殊な場所に作られていてそこだけは地面が土ではなく石であるためさすがのイーターワームも地中から這い出てこられないとのこと。


 そうはいっても村に何百人という人数がずっと引きこもっていられるわけもなく、だんだんと食糧等の各種問題が浮き彫りになってきて今ではもう餓死寸前の人まで出始めているらしい。


 さらに厄介なのはこの時期に流行るコルボル病だ。ウサ耳がさっき苦しんだ病気がこれで、高熱・身体中の激しい痛み・意識の混濁化などの症状が出る。感染力も高く、ほっておくと死に至る恐ろしい病気だ。


 本来ならこの病気は症状や感染力とは裏腹にそれ程恐ろしい病気というわけでもない。帝都などでも時々流行るが、治療法が確立されており薬の材料も簡単に手に入れられるものばかりで調合の技術も低いので駆け出しの薬師でも簡単に作れる薬の代表として有名だ。あっちの世界でのインフルエンザのようなものだろう。


 しかし今は外に出ればイーターワームが襲い掛かってくるし、薬の材料となるモルクル(あっちの世界で言うアリのような昆虫。すぐ見つかる。)も喰われてしまい治療法が無くなってそのまま放置された結果村中に蔓延。幸いまだ死者は出ていないがもうすぐ出そうらしい。


「で、俺にその病気を治してほしいと。」


「そうなのです。シキ殿の先ほどの魔法はコルボル病をたちまち治してしまいました。つきましては他の村人たちにもその魔法を使っていただきたく…。」


「…私たちがそこについて行くメリットは?」


 ルナが言う。リイを手に抱いたままなのでイマイチ見た目でのインパクトとかには欠けるがそれでも表情はいつもよりも固い。恐らく俺らがそうゆっくりしていい立場でないから言ってくれているんだろう。


「えー、それについてですが…正直言って食料や水は提供できるほどの蓄えはもはやありません。かといってこれといった特産があるわけでもなく報酬の金額もさほど提示できません…ですから…。」


「…私たちは先を急いでいる。こちらにメリットがない以上そちらの言うことを聞く義務はない。」


「そ、それは!……でしたら…私の娘を差し上げます…。どのように使ってもらっても結構です。ですから…。」


 おいおい、死ぬ間際まで謝るような大事な娘を人身御供かよ切羽詰ってんな。ていうか初めて見た獣人がこいつらだからイマイチ獣人の見た目に対していいイメージがないんだよな。正直言っていらない。


「コーン!コーン!」


「…そんなものはいらない。餓死寸前でしかも病気の発症の危険があるような娘は足手まとい。」


 …なんか二人とも獣人の娘って単語が出たら急にトゲトゲしくなったぞ。いや、言ってることは分かるんだがどうも…。ていうかリイ?そんなに必死に威嚇するなよ。獣ポジションは自分だけで十分ってことか?


「そんなものとは聞き捨てなりませんな!俺の娘は世界一の美女ですぞ!あのしっかりした性格!あどけなさこそ残るものの整った女神のような顔立ち!発展途上中の肢体!つややかな髪!ピンと張ったキレイな三角形を作るネコ耳!柔らかくしなやかでそれでいて芯はしっかり入っている尻尾!おまけに料理も裁縫も洗濯も一級品!来れ以上ないくらいのできた娘だ!昔はよく一緒に水浴びをして「父さまのお嫁さんになる」なんて言っていた可愛い可愛い可愛い…!だが最近は一緒に水浴びをしてくれないのだ!それでも陰から娘の成長具合を見るためにこっそり覗いているが年々いい女になってきて将来が楽しみで!楽しみで楽しみで!微笑まれたらいつでも娘のことしか考えられないほど胸がドキドキするような魅力を持った俺のメリル!どこに出しても恥ずかしくない、俺のメリル!それなのに…それなのにいいいいいいいいいい!」


 うん、決定。今からでも逃げようかな?だってこのおっさんキモイし。なんか獣人族とはあまり気が合わなさそうだ。うん、そうしよう、今から逃げよう。そしてこのおっさんが娘を襲わないことを祈ろう。切実に。


「コン…」


「…気味が悪い。」


 だよね。おっさんのあまりの奇行に女性陣が引いてるよ。俺だってそう思うもん。


「よし、じゃあこんなおっさんのことはほっておいて今すぐ次の街に行くか。」


「コン!コン!」


「…是非そうするべき。これ以上気味の悪いものに構っている場合ではない。」


「ま、待ってくれ!ベルクの奇行は今に始まったことではないのだ!だから!」 


「そっちの方がよっぽど問題じゃねえか!これ知ってて今まで放置かよ!そんな村人しかいない村だったらさっさと滅びたほうがいいわ!」


 イヌ耳が必死に弁解しようとするが耳を貸す気はない。だって一歩間違えば近親相姦だよ?しかもおっさんの方はもういつ爆発してもおかしくないんだよ?それ知ってて今まで放置してきた村人たちなんて死んでもいいだろ別に。


「違うのだ!ベルクは妻に先立たれて男手ひとつでメリルを育ててきたのだ。だから必要以上に…。」


「それが行き過ぎてこうなってんだって!ミミズ駆除する前にこのおっさんを駆除しろよ!娘が危険だろうが!」


 ウサ耳もなんとか取り繕うとするがもう無駄だ。もうこれ以上付き合う気はない。


「とにかく俺はもう村になんか行かないからな。おっさんを駆除して口減らしすることを薦めるぜ。」


 シンとフウに言って今まで来た道を逆に行く。さよならおっさんたち。もう二度と会うこともないだろう。


「待ってくれ!ちゃんとした報酬を用意する!」


 それでも俺は止まらずに来た道を戻る。今更どんな報酬があるんだっての。


「イーターワームをすべて殺し、村人全員の病気を治してくれたなら我ら一同、シキ殿の下に着こう!村の娘に手を出すなり食料を持っていくなり好きにしてくれて構わない!」


 これにはさすがに俺も立ち止まった。それってつまり村一個分が俺の奴隷になるってことだよな?


「ヘイス、それは…。」


「分かっている。だがもうこれ以外には思いつかんのだ。どのみち我らはもう少しで死ぬ運命。ならばいっそのこと…。それにシキ殿はハーフエルフを連れているが目立った暴行の痕はなく本人もシキ殿を慕っている様子。ならばそこいらの人間のするような扱いにはならないだろう。」


 初対面でそこまで人物評価するとはな。まあ、ルナは俺が気に入ったからってこの扱いなわけだからこいつらの考えているような扱いになるとは限らないけど。


 それでも村一個分の手下が手に入るのは魅力だ。目的のためにも恩を売っといて損はない。村人たちから本気で慕われたらいざというとき兵力として動員することができるかもしれないし。なにせ身体は丈夫で戦闘向きだからな。こいつらが一斉に蜂起したら並みの兵力じゃ正面からは厳しいだろう。その強さは確かに手放しがたい。


「わかった。そこまで言うなら依頼を受けよう。心配しなくともそこらのバカどもがしているようなことをさせるつもりはないし普段は特に介入もしない。ただときどき俺の頼みを聞いてもらえればいい。」


 俺が振り向いてイヌ耳とウサ耳に言うと二人とも心底安堵した様子だった。口約束とはいえ特にリスクもなく村が救えるんだ、安いものと思っているのだろう。


「では引き続き村まで案内します。…おいベルク。お前の娘は大丈夫だからさっさと行くぞ。」


「ああ、ああ、メリル…俺の可愛くて美しい天使…。今すぐこの手でお前を抱きしめてやりたい…そっと寝ているお前の頬にキスをしてやりたい…ああ、メリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリルメリル」


 これにはさすがのイヌ耳とウサ耳もドン引きだったらしい。無言で距離をとる俺たち。 


「さあシキ殿。我ら二人でご案内いたしましょう。」


「そうだな、よろしく頼むぜ。」


 たぶんこの瞬間が一番俺が獣人のおっさんたちと心を通わせた時だと思う。

亀更新ですがこれからもよろしくお願いします。

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