獣人
皆様お久しぶりです。先日ついに課外が終了しました。今は少ない盆休みを迎えているところです。でも明日から学校…。夏休みってこんなものでしたっけ…。
俺たちは今トーラムの街を離れてメルウッド王国に行く最中だ。もう少しでウルカリオン帝国の領土からは脱出できそうな距離にまで来ている。やはりあそこで騒ぎが起こる前に逃げたのがよかったかな。
さて、なぜ俺がトーラムであそこまで派手なことをやったかというと、それは俺の旅の目的に関係している。俺はこの世界で自由気ままに生きると決めた。俺のやりたいことは全てやるしやりたくないことはやらない。そんな生活をして生きていこうと決めたんだ。
もちろんリイやルナにも本人たちの好きなように生きていかせてやりたいと思っている。二人のやりたいことはどんなことであれやらせてやりたいし、いやなことは拒否できるくらいの立場や力を身に付けさせてやりたいとも思っている。
だが、俺たちがいくら頑張ってもできることには限界がある。トーラムの街でのできごとがいい例だ。今後もあそこまで派手にはいかなくとも気分や事情によってはかなり大きな事件を起こすこともいとわない俺としてはあの程度で騒ぎになってイチイチ指名手配されるようなことになっては面倒なのだ。
そこで俺は考えた。いくら冒険者として名をあげても所詮は冒険者━平民だ。いくら俺がランクが高くてもそれだけじゃカバーしきれないところも出てくる。だったらいっそ、この大陸中の国に俺のことをアピールしてしまおうと思った。
ただ冒険者として名をあげるだけではなく、俺の行動原理や俺の力、行い(残虐なのも含む)などを国々に見せつけて俺に絶対に関わりあおうとしない、いや、俺に迂闊に手出しできないような立場でいいから俺をその立ち位置に認定してもらってしまえば俺は晴れて自由の身だ。どこで何しようが捕まらずに俺のやりたいようにできる。
もちろんそんなに上手くいくとは思ってないし障害も多いだろう。しかしもうすでにそのための第一歩となることはもうしてしまった。いまさら後戻りなんかはできない。
次にやるべきことは傭兵依頼を片っ端から受けまくってとにかくどんな国にも俺の名前を届かせることだ。まず最初の一回目から度派手に相手の兵士を殺しまくって俺に危機感を抱かせる。その後も似たり寄ったりな行動をとってそれぞれの国の中枢に『あいつが相手取った国は全て戦争で敗れる』という認識をもたせる。
そして何度かそれをくり返して適当な戦場で叫べばいい。『俺に直接依頼をしろ。そうすればその国を勝たせてやる』と。相手取った国が負けるということは俺を抱き込めば勝利できるということだ。どうしても戦争に勝ちたい国や規模の大きくない小国なんかは俺に依頼を出してくるだろう。その依頼をことごとく成功させていけばやがて『機嫌を取っておけばいざというときには』と思うようになってくる。
そうなったらもうこっちのもんだ。俺は俺のやることを見逃してもらい、国は依頼をすれば必ず勝てる人間の機嫌をとれて戦争時には必ず勝てるようになる、という利害関係が構築される。あまり危機感を抱かせすぎて国同士が連合して俺を倒そうとするようなことにならないように見返り無しで何かしら国々に利益を与えるようなこともしてやれば完璧だ。
トーラムの街であのバカ王子を殺したのにも訳がある。あのバカ王子が今までにないような行動をしたということはあの街の人間やちょっと事情に詳しいやつならすぐにわかる。そして街の状況を見た後なら誰もが王子は誰かに操られていたのだと思うだろう。なにせ今までと言動がまるで別人のように違うんだから。
そうするとあの張り紙からすぐに操ったのは俺だと見当をつけるだろう。そのことは俺の力を誇示するのと国に対しても一歩も引かないという姿勢をアピールできる。
王子が死んで指名手配になるだろうがそれはだいぶ後のことになるだろうと思っている。なぜなら仮にも一国の王子が平民なんかに殺されたなんて知れたら面目は丸つぶれとなる。
あっちにしてもそれは避けたいはずだから指名手配、特に国境をまたいでの手配はいずれはされるにしてもだいぶ後のことだ。そしてそれが出される頃には恐らくすべての準備が終わっていることだろう。
そうすると他国に今回のことはなかなか伝わらないんじゃないかとも思うだろうが心配はない。いくら今は戦火が広がってないとは言ってもどの街にも他国の間諜の一人や二人いるはずだ。そいつらが勝手にそれぞれの国に情報をもたらしてくれるだろう。
帝国側もそのことはわかっているんだろうがだからといってそれを黙認することと表立って認めることとは別問題だ。下手に国境をまたいで指名手配を頼んだら表立って認めてしまうことになってしまうのだ。高ランクの冒険者とはいえ平民に国の警備をかいくぐって一国の王子が殺され、あまつさえ操られて王家の邸宅を大々的に荒らされて王家のメンツを潰してしまったことを。
そういったことがあるだろうから今はわりとのんびりと馬車の旅を満喫しているところだ。あともうちょっとで帝国の国境を越えられる。そうすればまたしばらく自由の身だ。
あ、因みに王子を操った魔法は新しく作った精神操作っていう魔法だ。読んで字のごとく相手を操る魔法だな。これは王子だけでなくそこらへんを歩いていたやつらの何人かにも使った。
いきなりあんなこと言われても基本的に貴族とかには絶対服従という精神が刷り込まれているこの世界の人たちが動けるわけがないからきっかけを作ってやった。誰かがやってしまえばそれにつられて他の奴も動くからな。集団心理ってやつだ。
「というわけで国境を越えたら自由だ。どっか行ってみたいところはあるか?」
「コーン!」
「…あなたと一緒ならどこにでも。」
どうやら特に目的となるようなところは無いらしい。まいったな、あまり変なところに行って時間がかかるのは面白くないんだが。
「わかった、じゃあ国境を越えてここら辺で一番大きな街に行くぞ。俺は少ししたら前に言った通り傭兵依頼を受けたいからな。」
「コン!」
「…わかった。」
会話をしているうちに国境を超えたらしい。これで晴れて自由の身だ。周りの景色はうっそうと茂っている大森林で、国境を超える前からこんな状態だった。静かな森で、まだ魔物には襲われてないがこの規模ならいつ襲われてもおかしくなさそうだ。
「…おかしい。」
「ん、なにがだ?」
「これ程の大きさの森ならもっと生き物の気配があってもいいはず。そうでなくとも鳥の声もしないのは不自然。」
確かに妙だ。ついこの間まで鳥の声に耳を傾ける生活とは無縁だったから気づかなかったが静かすぎる。これほどの森で鳥の声もしないのはおかしい。
「言われてみればさっきから探査になにもかかんねえしな。考えれば考えるほどこれはおかしい。」
「コーン!コーン!」
「ん?リイもなにか見つけたのか?」
探査には何もかかってはいないが、リイはカテゴリとしては魔物の部類に入る。魔物同士の気配のようなものが俺たちよりもわかるのかもしれない。さっきから同じ方をずっと凝視してるし。
「…下?」
「リイ、どうしたんだよ下なんか見て唸って…まてよ。」
もしやと思って探査の設定を少しいじくる。するとリイが下を見て唸っていた意味が分かった。
「こりゃ失敗したな。リイがいなかったらここで終わってたかもしれん。次から気を付けねえと。」
というやいなや俺はシンとフウのところに行き、手綱を外して二匹を持ち上げる。俺の筋力をもってしても二匹同時は少し重いが大丈夫。許容範囲だ。
「タイミングを合わせてっと。………よっと!あぶねえあぶねえ!」
俺がシンとフウを担ぎ上げた次の瞬間、横幅五メートルほど地面が盛り上がり、そこから巨大なミミズみたいなやつが出てきた。目はないが本来ミミズにはないであろう巨大な口が大口を開けて出てきたのはさっきまでシンとフウがいた場所だった。
ちなみに馬車は無事だ。俺が二匹を抱えるとすぐに背で思い切り後ろに押したからな。
「もしかしてこの森が静かすぎるのってこいつが手当たり次第食ったからなんてオチじゃねえだろうな。…まあ、地面の下まで探査の範囲を広げてなかったら俺らもそうなってたんだろうけどさ。」
そう、さっきまで俺は探査の条件を『地上部分にいる魔物・動物』としていた。これだと上空や今回みたいに地下に潜んでいるやつは発見できないから危うくこいつに食われそうになったわけだ。今度からこまめに範囲を変えておこう。
「よくもビビらせてくれやがったなミミズごときが。いいぜ、お前ぶっ殺して地面の肥やしにしてやんよ。」
二匹をおろしてザ・アクセルを抜き、ミミズに向かっていく。この速度なら余裕で切れると直感し、事実穴から這い出してきて身動きが取れない状態のミミズを真っ二つに切り裂いた。さっさとこの場を立ち去るべく後ろを向いてルナたちに話しかける。
「潜れるってことを除けばなんてことないやつだったな。おーい、じゃあさっさと進もうぜ。」
「コン!コンコン!」
「…後ろ!」
「は?」
ドン!と衝撃が来たような感じがした。いや、鎧のおかげでダメージなんてものはないが後ろにはさっき切ったミミズ以外は…
「おいおい、いつの間に二匹に増えてんだ?」
そう、さっき切ったのと同じミミズが二匹俺の後ろにいた。片方はさっき切ったミミズのいた穴に、もう片方はちょうど俺が切って地面に落ちたミミズの体があったところにいた。どうやら今の衝撃は後者の方が尻尾?に相当するところで俺を殴ったかららしい。
「…切ったらすぐに分裂した。恐らく切れば切るほどその数を増すと思われる。」
「なるほど、じゃあ魔法か押しつぶすかしないとな。」
だがここは森だ。恐らく火の魔法が一番手っ取り早いんだろうがそうなると火事になる。それは避けたい。だったら重力魔法ってとこだな。
「超重化!」
20倍の重力で二匹同時に押しつぶす。するとあっさりと二匹は潰れた。斬撃に耐性はあっても打撃なんかには耐性がなかったらしい。
「今度こそ大丈夫だよな?完全に潰れたし、まさか潰れた血肉から再生するなんてことはないだろうな?」
「コン!」
「…恐らく大丈夫。ここまでだともはや蘇生は不可能。」
「そっかそっか、なら安心だな。…ん?まて、またなんか近づいてくるぞ。」
今度こそ探査に生体反応が引っかかった。この反応は魔物や動物の反応じゃない。この森の近くに住む人間かなんかか?
しばらくするとその反応の主たちがこっちにたどり着いた。一瞬剣を構えかけたがすぐに解いた。そいつらはウサギやネコやイヌの耳を頭から生やし、尻尾も生えていて体毛も心なしか人間よりは濃いめのやつらだった。
「…獣人族。」
やっぱりか。ファンタジーじゃよくいるよな、獣人。シュタインもここらへんじゃ見かけないがいるっていってたし。だがな、厳つい男にまでネコ耳がついているとはどういう了見だ。獣耳をつけていいのは女性だけだぞこら!
「あんたたちは一体誰だ?何のためにここに来た?そしてその血だまりはなんだ?」
ネコ耳生やした厳ついおっさんが質問攻めにしてくる。他の連中もそれぞれ武器を構えてこちらを警戒してくる。当たり前だわな、この状況見れば。
「落ち着け落ち着け。俺たちは旅しててな、この森を抜けようとしたんだがその途中ででっかいミミズみたいなやつに襲われたんだ。で、その血だまりはその残骸ってわけ。」
「ばかな!」とか「信じられん!」とかいう声が残りの二人から聞こえた。信じられなくてもこれが真実なんだからしょうがない。
「ウソをつくな!今この森にいる生物はイーターワームだけのはずだ!あんなやつにたった二人でかなうわけがないだろう!」
ウサギ耳を生やしたこれまたアラフォーらへんに見えるおっさんがわめき散らす。だから獣耳は女性だけの特権だって言ってんだろ。
戦ったのって俺一人だけなんですけどね。それにあれイーターワームってのか。やっぱりこの森が静かなのはあいつの性なのかね、名前的に。
「とにかく殺しちまったもんはしょうがないだろ?それに嘘じゃなくて事実だって。この森に他の生き物は今いないんだろ?だったらあの大量の血だまりは一体なんだってんだよ。」
「自分たちが連れてきた奴隷かなにかを面白半分に殺したのではないのか?これだから人間というやつは!」
またまたウサギ耳のやつがわめく。おいおい、なんか大量殺人の疑惑までかけられちゃってますよ、俺。事実だけど。
「なあ、獣人族って人間と仲悪いのか?」
「…人間は自分たち以外の種族を亜人と言って見下す傾向が強く、ムリヤリ奴隷にすることも少なくない。獣人は体が丈夫なため護衛や『趣味の悪い趣味』の対象として使われるのが通例。」
ルナが少し辛そうな顔しながら答えてくれる。そういやこいつもそうやって奴隷にされたくちだった。悪いことをした。
『趣味の悪い趣味』ってことは恐らくあれだな。俺がよく襲ってきたバカどもにやったやつ。身体が丈夫だから長いこと楽しめるってことなんだろう。ホントに趣味が悪い。
「悪いな、嫌なこと聞いて。」
ルナの頭を撫でてやる。いや、こいつって数日前まで奴隷だったんだよな。だったらまだその時のことを引きずっててもおかしくない。俺がバカだったな。今も顔赤くしてうつむいちゃってるし。しかしなんで赤?普通嫌なこと思い出すなら顔って青くならね?
「おい、さっさとこっちの質問に答えないか!」
だからいい加減うるさいってウサギ耳。てか質問に答えろって言われてもこれ以上何を言っても証拠も何もないからな?さっき言った以上のことは言えないからな?
「おいおい、何を好き好んでこんな森の中で大量虐殺しなきゃいけないんだよ。それにこれ以上質問されても何も証拠がないからな?お前らが信じなきゃ俺が言ってることは全部嘘になっちまうだろ。とにかくさっき言ったことが真実だ。」
「うるさい!とにかくこんな血だまりを作った人間を信じられるか!食料を全部おいていくなら見逃してやる、さっさと寄越せ!」
今度は山賊宣言だよこのウサ耳。何もしなくても俺に対する印象が悪くなってんだけど。でもまあ俺、よく頑張ったよな?下手に出て我慢したよな?ここらで実力行使に出てもなにも問題ないと思うんだ。
「よさないか!確かにこの人間の言うとおりだ。こっちが信じなければ質問の意味がない。それでは我らは誇りも何もないただの強奪者だ。」
今まで黙ってたイヌ耳がウサ耳をなだめてくれる。話が分かるじゃないか。誇りがうんぬんは理解できないけど。
「だが!」
「よせ。このままいけば戦闘は避けられないだろう。戦闘になると死傷者がでるかもしれん。そうなっては状況は悪化する。俺たちは貴重な働き手なんだぞ。」
ネコ耳のおっさんもウサ耳をなだめてくれる。血気盛んな奴らばかりじゃなくて助かった。ちょっと残念な気もするけど。
ウサ耳も二人の話を聞いたからなのか悔しそうではあるが渋々「わかった」とだけ言ってそのまま押し黙った。
「すまなかったな。とりあえず君の話は信じることにしよう。このまま行ってくれて構わない。」
「そうか、ならそうさせてもらうぞ。」
シンとフウに再び手綱をつけ、ルナもリイも乗り込みさあ出発するぞというところでいきなりウサ耳がうめき声をあげて倒れた。
「おい!ゾルダ!しっかりしろ!」
「くそ!ついに俺たちの中からも発症者が!」
なんかわめいているが俺には関係ない話だ。発症者とか言ってるからあまり近寄りたくないしさっさと行ってしまおうと思っていると血だまりの下からまたミミズが出てきた。
「キシャアアアアアアアアアア!」
「イーターワーム!くそ、こんな時に!」
「血の匂いにつられてやってきたというのか!」
なんか血の匂いとか言っちゃってるけどもしかしてこれって俺のせい?…まさかね。だってこいつらがいるなんて知らなかったし。あのときは身を守るために仕方なくやっただけだし。
「ゾルダ!しっかりしろ!すぐに連れ帰ってやるぞ!」
「そうだ!これを機に我らがこいつを倒せば!…ぐああああああああああ!」
「ヘイス!くそおおおおおおお!」
後ろでバトルなようっとおしい。しかも叫び声とか上げちゃってるし。うるさくてしょうがない。ムシムシ。さっさと行っちまおう。
「があああああああああ!くそお!くそお!すまない!メリル、すまない…父さんはもう…ここまで…」
死亡フラグみたいなの立てといてホントに死にそうになってるし!しかも死に際の言葉が娘に対する謝罪とか!
やめろよ!ただのおっさんがやってんじゃないんだぞ!ネコ耳つけた厳つい顔のおっさんが真剣な表情でそんなこといってんだぞ!シュールすぎて笑えるわ!
「くそ…神よ。せめて、せめて!…村で…苦しんでる子供らを…お助け下さい…。」
おいイヌ耳!お前もか!お前もいい年こいたおっさんの顔だからな?頭にイヌ耳付けた毛深いおっさんだからな?はたから見てて痛々しいぞ!身体的なケガって意味じゃなく!
「ええい!いい加減お前らうっとおしいわ!そしてお前邪魔!超重化!」
ぐしゃあ!という音を立ててさっきまでのミミズと同じように簡単に潰れた。まったく、なんでこいつなんかに手間取ってんだか。
「ついでだ。お前らも回復しといてやる。そしてウサ耳。お前はむかつくが一応やってやるから感謝しろ。」
イヌ耳とネコ耳のおっさんにはヒールを。ウサ耳はさっき病状がどうとか言ってたから一応上位版のメガヒールをかけておく。すぐに三人の傷は治り、死にそうだったウサ耳もケロッとした感じになっていた。
「おお!これは一体!」
「一体何が…き、君は何者なんだ!」
「これは…」
三者三様の反応を示すがこれでいいだろう。これ以上は関わってやる義理もない。再び俺が馬車に乗って行こうとすると
「待ってくれ!頼む!」
呼び止められたので少し振り向いてみるとさっきの三人が横一列に土下座していた。獣耳生やして全員アラフォーくらいの年で厳つい顔をしたおっさんたち三人がキレイな土下座。…何この状況?どうしてこうなった?
「無礼を承知で頼む!どうか、どうか俺たちの村に来てほしい!」
タイトルを見て獣耳っ子がでると期待した皆さん申し訳ありません。おっさんです。おっさんしか今のところ出てきません。いまさらですがこの作品おっさんが出てくる頻度高いですね…。どうしてこうなった… orz
次回からの更新も不定期ですがその時にはどうぞ読んでやってください。では!




