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狂乱

一応休み中の模試が終わったので一段落と思い書いてみました。

「終わったな。」


「ええ、終わりましたねぇ。」


 俺とシュタインは心地よい疲労感と達成感に酔いしれていた。実際よくやったと思う。徹夜こそしてしまったがたった二人でこの偉業ともいえる作業をこなしたのだ、ちょっとくらいほめられてもいい気がする。


「いやホントに助かったぜ、シュタイン。一人だけだったらここまではやれなかった。」


「いえいえ何を言いますか。私こそこんなすばらしい経験をさせてもらったのですからむしろお礼を言いたいぐらいですよ。」


「だったら助かる。じゃあこれで一先ずはお別れだな。このまま俺たちはこの街を出ていくから。」


「つまらなくなりますねぇ。何かあったらいつでも連絡してください、ご相談に乗らせていただきますよ。」


「わかった。じゃあな、短い間だったが楽しかったぜ。」


 シュタインとも別れを告げて俺はルナとリイのいる宿に向かう。時間は鐘四刻、つまり朝の四時だ。この世界でもまだ早く、早朝というには遅い時間だ。これから馬車を受け取って出発する。三日後に来ると言っておいたから起きているいないは別にしてできてはいるはずだ。起きてなかったらそのまま持っていけばいいし。


「おーい、二人とも。朝だ、出発するぞ。」


 宿の部屋に戻り起こそうと極力抑えてだが声をだして起こす。ルナは椅子に腰かけたまま舟をこぎ、リイはそのルナの膝の上でスウスウと眠っている。俺が声をかけると二人とも起きだした。


「…おかえりなさい。」


「ただいま。それよかなんでベッドじゃなくてイスで寝てんだ?」


「…あなたが作業をしているのに私たちだけ寝ているのは不公平。」


「えーっと、つまりさっきまで起きててくれたってことか?」


 コクッとうなずいて首肯してくれるルナ。本当にいい仲間を持ったもんだ。なんというか男冥利に尽きるな。


「ありがとよ。それじゃあそろそろ出発するぞ。」


「…了解した。」


「コン!」


 宿を引き払って馬車を受け取りに行く。宿屋の人間はこんな時間に出払うのかと驚いていたが俺が冒険者だというと納得した。どうも依頼かなんかにでかけるものと思ったらしい。

 そのままシンとフウを迎えに行く。幸いにも店は開いていて、黙って持っていくという荒業はしなくてよくなったのはよかった。


「馬車を受け取りに来たんだが、大丈夫か?」


「ああ、あんたか。馬車はできてるがこんな時間にどうしたんだよ?」


「依頼で他の街に行くことになってな。今から出発すると夜になる前に着くことができるし、届け物系のの依頼だから早い方がいいだろうと思ってな。」


「そうか、冒険者ってのも案外大変なんだな。わかった、あの二匹を連れてくる。馬車と道具も持ってくるからちょっと待ってな。」


 店員はそのまま奥に引っ込んでいった。しばらく俺たちが待っていると表の方から声をかけられた。準備をして店の前に持ってきてくれたらしい。


「シン、フウ、三日ぶりだな。こいつらは俺の仲間のリイとルナだ。仲良く頼むぜ。」


「コン!コンコン!」


「…よろしく。」


「グル!」「ガウ!」


 前者の鳴き声はシン、後者の鳴き声はフウだ。リイは二匹にすり寄ってるし二匹も子供を愛でるようにじゃれている。ルナは二匹の頭を撫でていて、二匹とも大人しくそれを受け入れている。どうやらそれぞれ仲良くなれたようだ。


「それじゃ朝早くから悪いが頼むぜ。速いとここの国の領土を抜けたいんだ。」


「グル!」「ガウ!」


 早速馬車に乗り込む俺たち。注文通り縦幅横幅は拡張されていて、人が四人は寝れるスペースがあり寝てもまだ余裕がある。乗る人間は俺とルナだけだし、リイは小さいから問題にならない。

 余ったスペースに誰でも飲めるように水と食料をある程度置き、日用品の類も置いておく。これでちょっとした部屋の一室のような内装に仕上がった。


「さて、馬車の準備もできたし出発するぞ。なにかまだやることがあるやつはいるか?」


「コン!」


「…問題ない。」


「グル!」「ガウ!」


 全員問題ないようだ。御者はとりあえず俺がやろうとしたがどうやらこの二匹はとても頭が良いらしく、俺が「門まで頼む。」というと自分たちで門の方まで進みだした。おかげで慣れない御者をしなくてもよくなり荷台に乗り込むことができた。



「よし、着いたな。これでこの街ともお別れだからきちんと挨拶しておかなくちゃな。」


 門の前で止めてもらい、街の方を振り返る。本来なら門にいるはずの衛兵たちはとある理由で皆眠ってしまっているのでここで止まっていてもなんの問題もない。


「『これ』を見たときのこの街の連中の顔を見れないのは残念だがこればっかりはしょうがないか。…よし、この街の皆ありがとう。お礼にちょっとばかし普段じゃ見れないものをみせてやるからな。」


 これで挨拶は終わった。シンとフウに進んでほしいと頼み、馬車を進める。これでこの街ともお別れだ。準備は万端、仲間は絶好調。立つ鳥跡を濁しまくったが気にしない。これからは俺の、俺たちの旅の目的のために冒険を始める。









sideガルクパーティー 


 鐘五刻、つまり朝の五時、ほとんどの人間が起きだして間もない時間だというのに街中がざわついていた。普段だったらばもっと静かで、母親は朝食を作り、父や子供たちは仕事に行く準備をするための静かな、それでいて温かみのある声が響く時間帯であるはずなのにも関わらずだ。


 街は異様な空気で溢れ返っていた。街中ではあるが澄んだ空気が漂っていたはずなのに今は血の匂いでむせ返るようだ。この時期には珍しく暗く曇った日であったこともその雰囲気を作るのに一役買っている。


 ガルクのパーティーはいつものようにこの時間に起きだし、準備をし、朝食をとってからギルドに向かおうとしていた。本来ならこのくらいの時間からでないとよい依頼は他人にとられてしまうのだ。


「なんだか街の様子がおかしいですね。いつもなら商店通り以外はもっと静かなのに。」


「そうっすね、それになんか街中から血の匂いがしないっすか?」


「そうね、普段から嗅ぎなれてるからつい見落としそうになったけど確かに変だわ、こんな街中で。」


「それにさっきから街の連中が急いであちこち動き回ってんな、どうしたってんだ、一体?」


 ガルク達は宿からでるやいなやこの空気に気が付いた。ガルク達の言う通り、街は本来なら発するはずがない程の血の匂いを発し、あちこちで人々が騒ぎ、何事かとささやき合っている。


「とにかくちょっと話を聞いてきますね。」


 顔がよく、物腰が柔らかなルークが事情を聞きに動く。普段からこういう仕事は彼に任せているので、他のメンバーたちはそれを待つ形になった。そしてそう長くない間待っているとルークが顔色を変え、急ぎ足で帰ってきた。


「ねえ、どうしたのよ。あんたらしくもない。」


「そ…それが…街のあちこちで死体が転がっていて…。」


「だがな、路地裏なんかにいきゃあいつでも連中の何人かは死んでるしそういう連中が道端で死んでるってのも珍しくないだろ。なんでまた?」


「それなんですが、どうやらその死体はどれもこれもひどい状態らしくて僕も途中で見かけたんですが…とにかく来てください。」


 ルークがこれほど取り乱すのは珍しい。いつも冷静で、ちょっと大がかりな討伐系依頼を受けたときなどは彼が参謀役を果たし、そうでないときでも他の皆をいさめる落ち着いた役回りなのだ。そのルークの取り乱した様子からただ事ではないと思った仲間たちは即座にルークの案内に従い、その現場を見た。


「これって………。」


「うへえ………。」


「一体どうしたってんだ、これは…。」


 その現場は街の広場だった。広場と言っても大きなものではなく、現代でいうところの鉄棒やブランコや滑り台がある程度の小さな公園程度の広さだが、昼ごろには街の主婦たちが立ち話をするためによく使われている場所だった。


 そこには普段はなかったベンチのような細長い台があり、その上に男の生首が三つ置かれていた。どの首もべったりと血で汚れており、表情は目を見開き、恐怖のみを映し出している。


「こりゃひでえ…一体誰の仕業だ…。」


 冒険者に多くみられることではあるが、この世界では人を殺すことは例えそこら辺の街人であっても珍しくはない。というのもあまり平民に対する法律が機能していないためだ。

 

 法律は一応決められていて、犯罪を犯せば処罰の対象になるのはもちろんだが何をすればどうされるのかという知識が平民にはないためだ。そんなことを覚えているくらいなら自身の仕事の内容を覚える。どうでもいい知識を集めるために時間を割く人間はあまりいないのだ。


 もちろんその場で衛兵に見つかれば連行されるし、その場で見つからなくともある程度の捜査はされる。大きな事件になればなおのことそうだが、『見つからなければ大丈夫』という心理がある程度平民たちには備わっているため例え殺したとしても隠匿する傾向にある。路地裏にでも転がしておけば大体それで済んでしまう。良心の呵責に耐えられるかどうかは別だが。


 なのでこのように殺した奴を晒し者にするというのは本来ならありえない。これだけのことをしてしまうと衛兵が血眼になって犯人を捜し出すのは目に見えているしそんなことをしてメリットなどないからだ。


「あ、見て下さいっす。なんか下の羊皮紙になんか書いてあるっすよ。シエラ、頼むっす。」


 この中で完璧に文字が読めるのはシエラだけだ。ルークもこのパーティーになってからシエラに習い始めているが、それでもまだすらすらと読むまでにはいたらない。なので、大事な情報だと思ってギルはシエラに代読を頼んだ。


「そう、じゃあ読むわね……え?なにこれ!どういうこと!」


「どうした、シエラ。一体何が書いてあったんだ。」


 シエラが読んだ文章の内容、それは以下の通りだ。



 他人の財産を力ずくで盗もうとした者に断罪を

                 ━━━━━━━━━マンティコアを狩りし者より


「マンティコアを狩りし者………シキか。」


「彼ですか…それなら多少は納得できますね。彼の素材を横取りしようと思った人間を撃退して見せしめというところですか…。」


「だとしてもこれはやりすぎよ!一体何考えてるのかしら…。」


「でもこれだけっすか?そりゃ確かにショックな光景だけど街中が騒ぐことっすかね?」


「そうだな、確かに言っちゃなんだがこの程度でこの騒ぎはおかしい。他にも何かあるはずだ、そっちも調べてみるぞ。」


 そうやって手分けをして調べてみること約一時間。行く前に決めたとおりに宿の前に集合し、それぞれの調査結果を述べる。


「ホントにこりゃあ…ヒデエなんてもんじゃねえな。」


「本当に…彼は一体なんでここまでしたんでしょうね…。」


「ねえ、これってやっぱりシキがやったことなの?ここまでやられると逆に信じられないんだけど。」


「いやほんとに…どっかの国の宣戦布告とかじゃないっすよね…?」


 調べてみれば見るほど街中はヒドイありさまだった。もはや狂気に満ちているという表現すら生ぬるいような惨劇がこの壁の内側で、絶対に安全だと思っていたこの壁の中で起きたのだ。この事件のせいで街中がそわそわと落ち着かない雰囲気で満たされている。


 ここでいくつか街中の死体の例を挙げてみよう。


 とある城壁の一角では壁一面に血でできた模様が広がっていた。それはまるでものすごい力で叩きつけたような状態で潰されていた。周りには叩きつけられた人物のものだったであろう内臓や脳しょうが散乱して悪臭を放っている。


 普段は人が多く集まっている噴水がある広場では数種類の死体が転がっている。


 あるものは靴下を裏返したように体中の皮を裏返した状態の死体が巨大な針に刺さっている。しかも驚くべきことにこの死体、皮は裏返っていても内臓はそのまま中に詰まったままなのだ。皮に目立った傷がないことから人間の体を解剖することに慣れている者の犯行だと思われる。


 またあるものは首が切断されて十字架に逆さにはりつけになっていて、首があった場所からの出血であたり一面を血の海に変えている。しかも切断された首は十字架のてっぺんに無造作に突き刺さっている。


 またさらにあるものは鉄柱に彼自身の手足で縛り付けられている。恐らく両手両足の骨を砂ほどになるまで砕けば可能なのだろうが、そうなるまでにどれ程の時間と苦痛が必要だったのかは想像もつかない。


 これ以外にも木が二本並んでいるところでは縦に裂かれた死体の半分ずつがそれぞれの木にぶら下がっていたり、木に逆さに吊るされた挙句体中を切り刻まれていたりとかなりの死体の数があった。


 しかも呆れたことに、どの死体も一つとして同じ死に方をしたものがいないのだ。皆鉄柱にくくりつけられていたりなどの共通点はあるものの、同じ死体のさらされ方をされているものが何一つない。まるでこの街全体が死に方や拷問の『博物館』のようになってしまっている。


 そして少し街を歩けば目につくのが街のほぼ中心にあると言っていい屋敷の前にある大きなギロチン台だ。


 実はこの屋敷、この街に住んでいたあの王子の住処であった。本来なら攻め込まれた時のことを考えてもう少し目立たないところに建てられるべきであるそれだが、当の王子の『この僕が隅に住んでいて下賤な平民どもが中央附近にいるなど我慢ならん。』という一言で作られたおよそセンスがいいとは言い難い成金趣味のケバケバしい屋敷だ。


 そして今、そのギロチン台の上に一人の男がゆっくりと階段を上り、右手に持った水晶に向かって声を発する。


「この街に住む全住民の者よ、どうか聞いてほしい。私はウルカリオン帝国第三王子、コスイン・シュラード・ウルカリオンだ。」


 街中に王子の声が魔道具を通じて響き渡る。その声に反応してか、近くにいた人たちがその周りに集まり、いつの間にか大きな人ごみにへと姿を変えた。


 この魔道具は本来なら敵襲などがあったときに住民に指示を出す時に使われる、声を拡大させる「拡声の水晶石」だ。


 しかもこの水晶石、拡声するための音を設定することができるため、一つの水晶石を使って声を響かせれば街中に設置されてある他の水晶石がその声を拾い、拡声して発し、また次の水晶石が…というように一つの水晶石を使えばどこからでも街中に声を届かせることができる仕組みがある程度の大きさの街では作られている。そのため、今のこの王子の声も街中に響いているのである。


 因みにこれを使って連絡手段として活用できないかと言われれば答えは否と答えざるを得ない。なにせ声を拡声しなければならないのでメッセージの内容が第三者に漏れ、しかも配置された水晶石がなんらかの理由で喪失した場合あっさりとつながらなくなってしまうからだ。


「皆は今のこの状況に不安を覚えていることと思う。しかしこれは殺された彼ら自身の邪な行いに対するとある個人の報復によって行われたことである。その相手はすでにこちらで特定し、この街を出たことを確認している。よって皆に危害が及ぶことはない。」


 街中が静まり返って王子の言っていることを聞いている。街中の人間の心に浮かんだことはただ一つ「これは本当にあの王子なのだろうか。」ということだ。


 街の人間の知る王子とはこのような落ち着いた言動をしないし自分たちのことを考えたりもしない。いつも自分の我儘ばかりを押し通し、気に入らなければいたぶり、気に入った女がいれば無理やり連れて行く。しかも連れて行く時に抵抗されて少し引っ掻かかれたぐらいで大騒ぎをする始末だ。


「だがしかし、すべての衛兵は眠らされ、今の今まで対処することができずこのように皆の不安を煽ることになってしまった。本当に申し訳なく思っている。本当にすまない。」


 街の人間全員が思った。「この男は王子ではない。よしんば王子だとしても誰かに脅されているに違いない。」と。でなければ説明がつかなかったからだ。今まであれ程自分たちを虫けらのように扱ってきたあの王子が自分たちに謝罪をするなどということに対する説明に。


「思い返してみれば今までの私は本当に愚かだった。自分のことばかりを考え、他人の迷惑をかえりみずに醜態をさらす…本当に情けない。このような私はもはや生きているに値しない…。」


 「そうだ、お前なんか死んでしまえばいいんだ!」声にこそ出さないがその言葉はこの街に住む住人のほとんどが心の中で言っている言葉だ。特に直接王子とその取り巻きから被害を受けた者たちからその声が多く上がる。それほどまでにこの王子はこの街の住人達に対して非道なことをくり返していたのだ。


「よって私は今、この場で命を絶とうと思う。これで私が傷つけてしまった者たちの傷が癒されるとは思わないが、せめて死してわびようと思う。それと、私の屋敷にあるものはすべて皆に譲渡することにした。中の金品も、権利書も、屋敷そのものも、奴隷も門番もメイドも従者も…すべてだ。どのように分配してもらっても構わない。」


 そういうや否や王子はギロチンの刃の下に自らの首を差し出した。自分で首に枷をはめてちゃんと刃を首に受け止められるようにし、手に持ったナイフでギロチンの刃を支えているロープを切り出した。このロープを切ってしまえばあとはもう刃が王子の首を刎ねるだけとなってしまう。近くにいるものはもちろん、声を聴くだけの人たちですらあっけにとられたように静かにしている。


「では皆の者、本当にすまなかった。」


 その一言を最後に王子の首は胴から離れた。そして飛んで行った首はベシャ!という嫌な音をさせて地に落ちた。


 その光景を見てどのくらい経っただろうか。屋敷の前にいた人たちが驚きから我に返り、次第にざわつき始めた。そして皆口々に「本当に屋敷の物を略奪していいのだろうか?」という疑問を周りに投げかける。


「いいじゃねえか!あのクソ忌々しいゴミ王子に俺たちが何度泣かされたと思ってる!これくらいしてもらわねえと割に合わねえだろうが!」


 その声がすると同時に数人の男たちが人ごみの中をかき分け、屋敷に入ろうとする。門の前には本来いるべきはずの門番の姿はなく、門は簡単に開いた。そして男たちは人々の視線を背に、堂々と中へと歩を進めていく。


「そ、そうだ!あんなやつに遠慮してたまるか!俺たちは今まで散々いびられてきたんだ!これぐらいやらなきゃだめなんだ!」

「そうだ!ウチの娘はあいつに無理やり連れていかれたんだ!たった一人の肉親だったのにだ!」

「ウチもよ!主人の顔が気に入らなかったからって散々殴られた挙句に殺されたわ!復讐したっていいはずよ!」


 次第に「そうだそうだ!」という声も大きくなり、広まっていく。そして屋敷の中になだれ込むまでに時間はかからなかった。


 成金趣味ながらもそれなりに手入れされた庭はボロボロとなり、もとのキレイな姿の見る影もない。

 屋敷の中の金や高級品と思われる物を巡って人々が争い、整えられていた室内は強盗と化した暴徒によって荒らされた。


 屋敷で働いていた人間たちは次々と取り押さえられていった。

 男は今までのストレスの発散と、どうして今まで助けなかったのだという思いを込めて殴られ、蹴られ、拷問された。一日が終わるころには外の死体と遜色ないか、それ以上の損壊具合になっていた。

 女は男たちに組み伏せられ、一人残らず犯された。それも何十、何百という男たちにだ。その日一日が終わるころには女たちはもう正気を失い、自ら進んで慰み者になるか死んでしまうかとなってしまった。もっとも、そうたたないうちに全員死ぬだろうが。


 悪夢のような一日が終わり、ガルク達は宿の一室に集まっていた。ガルク達自身は略奪には参加せず、遠くから大人しく見ていただけだった。なんとなくあの集団の中に入って狂気に身を浸すのを恐れたためだ。


「ヒデエ一日だった…。」


「ええ…。」


「ホントよね…。」


「こんなことってあるんすね…。」


 メンバーたちは全員が疲れていた。あの集団を遠くから見ているだけでなんだか自分たちの中身が狂気に浸食されているような気がして、それを防ぐのに必死だったのだ。


「やっぱり今回のことってシキが仕掛けたことなのかしら…こんな大がかりなことを。」


「その可能性は高いでしょうね。死体の中にベネラスの死体も交じってましたから。」


「ああ、確かにあのベネラスならやりかねないっすね。そういうウワサも聞いた気がするっす。」


 ベネラスは確かに本人が言ったようにAランクの冒険者だ。ただそれは、他人が完了した依頼を横からかっさらったり、報酬を横からかすめ取りその金で装備を整えて依頼を成功させたりして得たランクだ。 そのことはこのあたりの冒険者の間ではそれなりに有名だったが確たる証拠がないこと、被害者が全員脅されているのかは分からないが口をつぐんでいることによって苦々しく思われながらも見逃されてきたのだ。


「俺もベネラスがシキを狙ってるっていうウワサは聞いたことがあるな。…ということは殺されてた連中はベネラスがシキを仕留めるために用意したやつらだったってことか?」


「そうかもしれないわね。ベネラスは裏の連中とも結構繋がりがあったって話だし。…だからってこれはやりすぎだけど。」


「それにあの第三王子もやはりシキさんの仕業だったのでしょうか。あの王子は絶対にあんなことをする人間ではありませんでしたし、なによりこのタイミングでは絶対に関わっていると考えていいでしょう。」


「でも何のためにっすか?ベネラスたちのことはともかく、王子を殺して一体なんになるんすかね?」


「それは…。」


「ともかく、これはやりすぎだ。例え全てがシキの仕組んだことであろうとなかろうと遅かれ早かれ指名手配されるぞ。」


 そう、今回のこれは本当にやりすぎたのだ。いくら正当防衛といってもこれだけのことをすればさすがに国も黙ってはいられない。しかも王子すら操って意図的殺害した可能性もある。王子が言ったことがシキが言わせたことだとするならば、シキは王族の持ち物や体面までもズタズタにしたことになるのだ。こうなってはいずれ国を超えて指名手配されるだろう。


「もう一回会ってじっくり問い詰めたいところね。国に捕まる前に会えたらだけど。」


「そうですね、こうなってはもう手の施しようもありません。」


「いい冒険者になれそうだったのに残念っすね。」


「ま、仮にも一度命を救ってもらったんだ。少しくらいは無事を祈っといてもバチはあたらねえだろうがな。」


 そう、こうなってはもうシキはいずれ大陸中の国から追われる立場となるのは間違いない。なぜわざわざシキがこんな大がかりなことをしたのか、どうして大陸中から追われるようなことをしたのか。ガルク達の中では答えはでなかった。

なんだかんだでちょいちょい更新する自分です…。やっぱり自分は読んで下さる皆さんが大事ですね。

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