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ルナ sideルナ

 前の話のルナ視点です。彼女はクーデレを目指しているんですがクーデレの心理描写って難しい…。

 私は生まれつき周りとは違っていた。私は、エルフである父と人間である母との間に生まれた。本来ならハーフであっても髪は銀色だし耳の形は尖っているが私はそうではなかった。


 真っ黒な髪、人間のように丸い耳。どちらもハーフであるなら出てくるはずがない特徴だ。子どものころにそれを聞かされて、世間でのハーフに対する扱いを知って、私は本当に恐ろしかった。


 でも多種族が入り混じって住むこの村の皆はそんな私でも受け入れてくれた。エルフで幼馴染のジーナはいつも一緒に遊んだし向かいの家に住むリザードマンのベルンドおじさんはときどきおやつやお小遣いをくれた。


 ここに生まれてきてよかったと心底思った。あたりまえだったけどここの皆が大好きだった。一生この幸せが続くと思っていた。


 けどその幸せはある日突然壊れた。いきなり人さらいを生業とする盗賊たちが大挙して村を襲ってきたからだ。盗賊たちは極力殺さないようにはしていたけど、抵抗したものは容赦なく殺していったから死んだ人は少なくなかった。


 自警団の団長だったベルンドおじさんと自警団の皆は盗賊を追い払おうとして盗賊達の圧倒的な人数差に勝てなくて返り討ちにされた。


 魔法が得意な種族のジーナは家族ぐるみで捕まった。魔法が使える奴隷は国が高く買い取ってくれるからあまり手荒なまねはされないけど中には盗賊たちに慰み者にされる人たちもいる。ジーナも盗賊たちにかわるがわる犯されて最後の方には正気を保ってなかった。


 私もハーフで異常ではあるけどエルフだ。私もあんな風にされるのかと思うと物凄く怖かった。父は一度捕まった私たち一家を逃がすために動いた。逃げることには成功したけど途中で見つかって父が囮になって私と母を逃がそうとして殺された。母も追いついてきた盗賊達の攻撃から私をかばって死んだ。


「おい、こいつどうする?さっきの男が父親だとしたらこいつハーフなんじゃねえの?いくらなんでもハーフは国も買い取ってくれねえだろ。」


「待て、今確認してる…だめだな。やっぱりこいつエルフと人間のハーフだわ。」


「しかもハーフにしては髪も黒いし耳も丸い。こんなやつ売れねえし誰も抱きたがらねえだろ。殺すか。」


 それを聞いて背筋が凍った。逃げなきゃいけないのに腰が抜けて立てない。でも父も母も死んでしまって村もあんな風になってしまってはもうダメだ。いっそここで母と一緒に死んでしまおうかとも思った。


「まあ待てよ。いくらこんなんでもエルフの血筋ってことは魔法が使えるかもしれねえだろ。一応は持って帰ろうぜ。どうする?こいつだったら死ぬまで犯ってもどやされねえと思うぜ?」


「は、勘弁してくれよ。こんな薄気味悪いガキ、頼まれたって抱きたかねえや。」


「違えねえ。ま、どうしても売れなきゃ遊びながら殺すか。それくらいなら役にたつだろ。」


 ヒャッヒャッヒャ!と笑う盗賊の二人組に抱えられて私は連れて行かれた。恐怖はあったけどこうなったらもうどうでもいいという気持ちが心の大半を占めていた。


 案の定国には買ってもらえず、その時にはこいつらに嬲り殺しにされるかとも思ったが幸か不幸か一般の奴隷商館に買われた。奴隷商館の人も最初はハーフで異常な容姿をしていたとしても魔法が使えるエルフの血筋を手に入れられたと喜んでいたがその態度はすぐに変わった。


 捕まった時はどうなってもいいと思ったが嬲り殺しにされることを逃れ命をつなぐと途端に死ぬことがまた怖くなった私が、魔法をいくら教えられてもワザと失敗して魔法が使える奴隷として売られないようにしたからだ。


 当然商館の人たちは私を罵った。ハーフであることも手伝って、同じ奴隷同士でも私と関わるような人はいなかった。


 それどころか私を虐めれば食事を増やしてもらえると吹き込まれた同じ牢の人たちにしつような嫌がらせをされた。身体を直接傷つけることは禁止されていたがそれでも精神的に追い詰める方法はいくらでもある。無視や罵倒はもちろんのこと食事を取り上げられたり睡眠妨害をされたり裸にされたりもした………。


 しばらくすると商館は私を魔法の使える奴隷として売り出すのをあきらめて愛玩奴隷として売り出すことにしたらしい。私は男性に媚びる動作をひたすら教えられたけど全部やらなかった。今度は商館の人たちも粘ったけど私がどうやってもやらないとわかると匙を投げたようで私を牢の中に入れて後は放置した。


 牢の中でのいじめは無くならなかったけど私はそれでもよかった。むしろこれで誰にも買われずに命が助かったと喜んだ。


 けど私の期待は裏切られた。貴族のような鎧を着て剣を七本持った私よりも少し年上の少年が通り過ぎたと思ったらすぐに戻ってきて私を指名した。もしかして私は買われるのだろうかと捕まった時と同じように背中に冷たいものが走った。


 結果として私は買われてしまった。主人となった少年は私を買っただけでなくさらに余分に支払って私をキレイにして新しく服を着せるように頼んだ。最初に聞いたときは一体何のつもりなのだろうと思ったがもしかして買われた後すぐに襲われてしまうのだろうかと想像してしまったら途端に怖くなった。


 商館を出て少年の後ろをついて行き宿の中に入るとなんだか視線をあちこちから感じた。女性の顔を見てみると明らかに同情の視線を送ってきていたのでやはりこのまま襲われてしまうのだろうと絶望した。折角ここまで頑張ってきたのにここまでなのかな…。


 部屋に入るとそこには白くて小さなキツネがいた。どうやら少年の使い魔らしい。


「リイ、これが今日買ってきた奴隷のルナだ。お前も好きになにか頼んでいいんだぞ。」


 私はどうやら使い魔よりも下の立場らしい。いまさら尊厳もなにもないがやはり動物、魔物以下と言われているようで悲しかった。


「コーン!コンコン!」


 リイと呼ばれた使い魔は嬉しそうに私にすり寄ってきてくれた。最初はムシしていたけど次第に気になり始めた。確かにかわいい。だんだん撫でたくなる衝動が湧いてきた。けどそんなことをしたら一体何をされるか…。


「別に撫でてもいいんだぞ。その代り大事に扱えよ。」


 なんと撫でてもいいとお許しが出た。恐る恐る撫でてみると毛並みは柔らかく、いつまでも撫でていたいような感触だった。ここしばらく浮かべていなかった笑みがこぼれるような気がして、頬が少し緩んでしまった。


「さて、俺がお前にやって欲しいことは日常の様々な雑用や俺の質問に答えること、それとリイの世話だ。他にも何かあったら頼むかもしれないが大体はこんなところだな。何か聞きたいことはあるか?」


 そんなことでいいのかと思った。奴隷をしかも女でわざわざキレイにして着飾らせた奴隷に手を出さずに雑用や使い魔の世話程度でいいのかと思った。

 雑用はともかく使い魔の世話はむしろやりたいし質問に答えるなんてもはや仕事ともいえない。


「…それだけ?」


 ついそう聞き返してしまった。だって本当にこんなことで奴隷の仕事が終わるとは思えなかった。何か裏があるのかもしれないとも…。


「ああ、それだけだ。よくあるような夜の世話なんかはさせないしどっかのバカ貴族みたくアレな趣味の対象にはしないから安心しろ。」


 すぐに信用できるわけは無いが言葉の上ではしないと言っているから信用してもいいのだろうか…。でも人の、しかも奴隷の主人のいうことだ。いつ変わってもおかしくはない。


「そうだ、ルナはその髪とか耳はそのままでいいのか?」


 今度はいきなり訳の分からないことを聞いてきた。そのままでいいとは一体どういうことだろう。


「…どういうこと?」


「だから髪の色とか変えなくてもいいのかってことだよ。」


 この人はなぜそんなことを言うのだろうか。あの時商館の人から説明があったのに。


「…生まれつきだから変えられない。」


「魔菌に感染してるからその髪のと耳の形なんだろ?だったら工夫しだいで変えられるんじゃないのか?」


「…魔菌?」


 私のこの紙と耳は魔菌のせいだと言っているのだろうか。一目で私の魔力が高いことを見抜いたのはすごいなと思ったけどまさかそこまでわかっているというのだろうか。この人は一体何者なのだろう…。


「じゃあ質問を変える。普通の髪の色や耳の形にしたくはないか?」


「………今更いい。」


 ちょっと動揺してしまった。まさか治せるのか?と一瞬思ったけどすぐにそんなことはありえないと思ったしなにより元に戻せたとしてももう見せたい人は…。


「俺ならお前の髪の色も耳の形も普通にしてやれる。知り合いにそれなりに腕のいいマッドサイエンティストがいるからな。そいつに頼んでもいいし材料をもらえればたぶん俺がやれるだろう。どうだ?」


「……別にいい。そんなことをしてもあなたになんのメリットも…」


「よし!じゃあそのマッドサイエンティストのところにいくぞ。リイ、ルナついてこい。」

 

「コン!」


「…え?」


 まさか本当に本気で治そうとしてくれるのだろうか。けどマッドサイエンティストって…まさか怪しげな手術や実験台にさせられるんじゃ…。


「いらっしゃいませ、シキさん。昨日はキレイな動けない実験体をどうもありがとうございます。おかげで体が動かなくても顔が体を操って動かすという実験結果が得られましたよ。」


 連れて行かれた店の店長と思われる怪しい白衣を着た男がそんな言葉を言った途端目の前が真っ暗になった。キレイな実験体?実験結果?やはり私はここで世にも恐ろしい実験の被検体にされるのだろうか…。いやだ、まだ…死にたくない。


「ルナはここで待ってろ。リイ、ルナの面倒見ててくれ。」


 そういって二人して奥に行った。やはり奥で実験の準備をするんだろうか。でもその前の会話は…いや、ここまで来てそんな希望を持ってはいけない。やはり私はここで…。


「コーン!」


 リイがすり寄ってくる。この子はどうなんだろう。私の見張りとしてここにいるのだろうか。それとも本当に私に懐いてくれているんだろうか。後者だったら嬉しいけど…。


「コーン!コンコン!」


 また撫でて撫でてとすり寄ってくる。とたんにまたこの白い毛並みを撫でたい衝動に駆られる。周りをキョロキョロと見渡してだれもいないことを確認する。撫でると本当に気持ちいい。いつまでもこうしていたい。


「またせたな。ではこれからルナの髪の色と耳の形を変える作業を行う。失敗するかもしれないから動くなよ。命令だ。」


 命令をついにされてしまった。作業ってどう考えてもいやな感じしかしない。しかも失敗するかもって…。


「よしやるぞ。融合(フュージョン)!」


「う…あああああああああああああああ!」


 そんなことがかけられた瞬間、頭が今までにないほど痛くなった。やはり怪しい実験の実験台にされてしまったのだ。頭が焼けるように痛い。耳と髪が特に熱い。耳が変形するような感じがして毛根が焼けている気もする。


 しばらくすると頭の痛みは消えた。渡された鏡を見てみるとそこには父のような透明感のある銀髪と尖った耳があった。生まれてから一度も持ったこともないそれらがそこにあることが信じられなかった。

 毛を抜いたり触って確かめても見たけどやはり本物だった。


「どうだ、ちゃんとエルフっぽい色や耳の形になったか?」


「…なれた。本当になれた。………ありがとう。」


この人の言っていたことは本当だった。この人は本当に私のために髪と耳を元に戻してくれた。ああ、子どものころからあこがれたこの姿に本当になれるなんて!気づけば私はこの人に対して初めて笑顔を向けていた。目からも涙があふれている。


 そんな喜びもつかの間。私は思い出した、思い出してしまった。私がこの髪にあこがれたのはうらやましさではあった。でも、一番大きな理由はこの姿を見せたい人たちがいたからだ。


 どうやら短くはない奴隷生活は私の心をかなり蝕んでいたらしい。何があってもネガティブなことしかかんがえられなかった。あこがれの姿になれたとしても…。

 何時の間にか表情はいつもの固い、けどいつもよりももっと悲しい顔になっていた。


 宿の部屋に戻ってからも気分は晴れなかった。見せるための人がいないならこの姿になれたとしてもほとんど意味なんてない。ならいっそ前の方がよかったぐらいだ。そしたら無意識のうちに彼のことを頻繁に見ていたのだろう、彼の方から


「さっきからチラチラ見てるが何か言いたいことがあるのか?」


 と聞かれてしまった。正直に『前の髪と耳に戻してほしい』といえたらいいのに。でもそんなことをしたら今度こそ酷いことをされてしまうかもしれない。でも…それでも…


「…髪の色と耳の形を戻してほしい。」


 と意を決して言ってしまった。彼はなぜだ?と顔に書いていそうなほど疑問に思った表情をしていた。当たり前だ、さっきまでは本当に喜んでいたのだから。


「なぜだ?さっきは泣きながら喜んでたくせに。それともなにかあの色や形に思い入れがあったのか?」


 彼がそう聞くのは当然だ。けど私が髪と耳を元に戻したいのは別に思い入れなんかがあるわけじゃない。


「…そうではない。ただ…」


「ただ、なんだ?」


「…普通になっても見せたい人はもう…いない…。」


 そうだ、見せたい人はもうこの世にいない。この世にいる人だってもうどこにいるのかわからない。


「…両親や友達はどうした?受け入れてくれていたんだろう?」


「…両親は私を逃がそうとして殺された。村の皆もバラバラになってほとんどが奴隷として売られた。」


 両親も死んでしまった。私をかばって二人とも死んでしまった。逃げたのも私の一家だけで他の村の人たちも連れて逃げることなんてできなかった。私は彼らも見捨てたのだ。


 こんなことを仮にも主人に対して言ってしまった。いや、主人でなくとも親切でしてくれたであろうことを否定されたのでは腹が立って当然だ。事実彼は押し黙ってしまった。きっとこれからの私への罰を決めているのだろう。


 やがて思考を終わらせ、どこか決意したような、慈しみを持ったような目で私を見つめて彼は言った。


「…確かにルナの言う通り両親は死んだかもしれんし受け入れてくれた村人たちも死んだか奴隷になってバラバラにされたかもしれん。」


 本当にその通りだ。全部私のせいとまで言い切る気はないが両親は本当に私のせいで死んでしまった。


「でもお前はその髪に、その耳にあこがれてたんじゃないのか?例え見せたい人はいなくなってもあこがれていたんじゃないのか?」


 目を見開いてしまった。

 …確かに一番の理由は両親に、村の人たちに見せてあげたかったことだけど…ずっと憧れていた、父のキレイな銀髪。私の髪の方がキレイだよといってくれた大好きな父のあこがれの銀髪…両親や村の人たちのことなしにあこがれていないと言えばウソになる。


「見せる人がいくなったからってあこがれることを止めて、欲しいものを捨てて、ただひたすらボーっと過ごしていてなんになる。そんなの生きてるなんて言わない。

 

 …お前、生きていたかったんじゃないのか?

 生きていたかったからこそ魔法を教えられてもどこぞに売り飛ばされないようにわざと失敗して、媚びる動作も覚えなかったんじゃないのか?どっかに買われてろくでもないことをされて死にたくないから売られないように頑張ってきたんじゃないのか?」


 そうだ、私は生きていたかったんだ…。生きていたくて、死にたくなくて…だからあんなひどいところでも耐えて生きてきたんだった。どれだけ罵られても、どれだけいじめられても…。 


「お前が生きていたいんなら俺が生かしてやる。死にたくないってんなら死なないように守ってやる。この手をとるならお前は奴隷なんかじゃなく俺の仲間だ。今度は俺がお前を受け入れてやる。さあ、どうする?」


 いいのだろうか?私は…生きていていいのだろうか。父が死に、母が死に、村の皆が殺されて奴隷にされてバラバラになっていても…それでも彼らの分まで…私が生きていたいから…生きていてもいいのだろうか…………。


 どれくらい迷っていたのだろうか。ほんの一瞬のようにも、何時間のようにも思われた。やがて私はゆっくりと頭を上げ、恐る恐る手を伸ばした。弱弱しいけど、それでもしっかりと彼の手を握った。

 彼は私の手を優しく包み込んだ。


「よくやった。奴隷じゃないならこいつはいらないな………シキと奴隷、ルナの契約を解除する。」


 彼が私の首輪を外してくれた。カランと乾いた音がした。けどそんなことどうでもよかった。彼は本当に…私を信じて…私を仲間だと言ってくれたのだ。 


「初めまして。俺がお前の仲間のシキだ。よろしく頼む。」


「コーン!」

 

 リイも「よろしく」と言ってくれている。私も言わなきゃ。この人達に、私の仲間に。


「…ルナで…す…よろしく…おねがい…しま…す…」


 いつの間にか目からたくさんの涙が流れていた。でも、私はきっと嬉しい顔で、嬉しい涙を流せていたんだと胸を張って言えた。 



いきなりではありますがここでお知らせを。


 実は明日から約一か月間、おそらくほとんど更新できないと思われます。というのも実は私受験生でして…明日から朝も夜もなく勉強漬けという地獄です…。


 ですが更新自体を止める気は毛頭なく、必ず一か月したら更新を、いや、少しずつ書いて行って短くともその期間中に更新ができるように努力させていただきます。


 皆さんのおかげでお気に入りやポイント、PVやユニークが増えていく度に嬉しい気持ちにさせられて勇気をもらうことができました。


 決して短くない期間ではありますがお別れですが必ず帰ってきます。その時はどうか温かく迎えてやってください。


 では、しばらくの間さようなら。頑張って勉強してきます!

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