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ルナ

どうしてこうなったのでしょうか。まあ確かに予告通り改造はできましたけど。

 宿に戻って部屋に入った。入ってくるときに女性従業員からの視線が痛かったが気にしない。たとえリイとルナの年下を部屋に侍らせていると思われても関係ないったら関係ない。


「リイ、これが今日買ってきた奴隷のルナだ。お前も好きになにか頼んでもいんだぞ。」


「コーン!コンコン!」


 リイはルナが気に入ったらしく足元にすり寄る。ルナも最初は無表情で知らん顔をしていたがすぐにチラチラとリイを見だした。


「別に撫でてもいいんだぞ。その代わり大事に扱えよ。」


 ルナは最初恐る恐るといった感じだったがだんだんリイを撫で始めた。心なしか表情も少しだけ柔らかいものになっている。ひとしきり撫で終わるとまた硬い表情でこっちを見る。


「さて、俺がお前にやって欲しいことは日常の様々な雑用や俺の質問に答えること、それとリイの世話だ。他にも何かあったら頼むかもしれないが大体はこんなところだな。何か聞きたいことはあるか?」


「…それだけ?」


「ああ、それだけだ。よくあるような夜の世話なんかはさせないしどっかのバカ貴族みたくアレな趣味の対象にはしないから安心しろ。」


「………」


 やっぱりいきなりは信用しきれないだろうな。それでもしないったらしないんだからいいだろ。


「そうだ、ルナはその髪とか耳はそのままでいいのか?」


「…どういうこと?」


「だから髪の色とか変えなくてもいいのかってことだよ。」


「…生まれつきだから変えられない。」


「魔菌に感染してるからその髪のと耳の形なんだろ?だったら工夫しだいで変えられるんじゃないのか?」


「…魔菌?」


 小さくだが驚いた表情をするルナ。自分が魔菌のせいでこうなってるって知らなかったのか?


「じゃあ質問を変える。普通の髪の色や耳の形にしたくはないか?」


「………今更いい。」


 お、今のはちょっとタメが長かったな。別にいいとは言いつつちょっとは未練があるんだな。


「俺ならお前の髪の色も耳の形も普通にしてやれる。知り合いにそれなりに腕のいいマッドサイエンティストがいるからな。そいつに頼んでもいいし材料をもらえればたぶん俺がやれるだろう。どうだ?」


「……別にいい。そんなことをしてもあなたになんのメリットも…」


「よし!じゃあそのマッドサイエンティストのところにいくぞ。リイ、ルナついてこい。」


 ええい面倒くさい!奴隷だからって何でもしてもらえないと思ったら大間違いだ。俺がそこらへんの奴隷を買うような貴族なんかとは違うところを見せてくれるわ。


「コン!」


「…え?」


 乗り気のリイと驚いた様子のルナを連れてまたシュタインの店に行く。なんか最近はずっとあいつのところに行ってばかりな気がするな。


「おーっす!また来たぜー。」


「いらっしゃいませ、シキさん。昨日はキレイな動けない実験体をどうもありがとうございます。おかげで体が動かなくても顔が体を操って動かすという実験結果が得られましたよ。おや?その少女は?」


 おいおい、開口一番そういうこと言うのは止めろよ。見ろ、ルナが不審そうな眼をしてこっちをみてるじゃないか。どうでもいいんだけどさ。


「ああ、さっき新しく買ってきた奴隷のルナだ。ちょっと体が魔菌に感染しててな。それでちょっと協力してほしいんだが。」


「ほう、そうですか。それで何が必要なのですか?」


「持ってる魔菌を見せてほしい。そこから何をするか決めるから。」


「わかりました。ではこちらにどうぞ。」


「おう。ルナはここで待ってろ。リイ、ルナの面倒見ててくれ。」


「コン!」


「………。」


 ルナたちを奥に入れないのはこれから新しく魔法を創るからだ。その魔法の効果によってはルナを失望させることにもなりかねん。それに底が見えない主人ってやつを印象付けるチャンスだ。奴隷に舐められるなんてまっぴらだからな。


 シュタインに連れられたそこは文字通り倉庫だった。棚という棚にびっしりと薬品やら魔物の腕やらが置かれている。昨日渡したマンティコアの素材は比較的手前にあったから奥に行くほど昔の物なんだろう。


「ここが魔菌が置いてある棚ですよ。それでどんなものが欲しいので?」


「そうだな、どんなものがあるんだ?」


「そうですねぇ。昨日話に出た黒魔菌、漆黒魔菌の他にも麻痺魔菌、毒魔菌、誘惑魔菌、魔力魔菌に虐殺魔菌などなどそれなりに数があると自負していますよ。生体を手っ取り早く変化させるには魔菌が一番簡単ですから。」


 最後のやつはなんだよ。それだけ他の魔菌に比べて危険度がかなり上がってんじゃねえか。

 とかツッコミを心の中で入れつつ棚を見せてもらう。魔菌が入っているビンには様々な色の液体が満たされている。シュタイン曰くこの水の中に魔菌を解かして保管しているのだとか。


「お、これなんかいいな。ついでにこれも実験にはちょうどいいだろ。」


 その中から俺が見つけたのは二つの魔菌。筋力魔菌に防御魔菌だ。ふつうと思うかもしれないけどシュタインのコレクションの趣味の悪さは半端なかった。どれもこれも致死性が高いのばっかりだったり下手に感染させると街一つ死の街にできるやつだったりであふれている。その中から見つけ出したんだから十分な成果と言っていい。てか最後のはどこのバ〇オハザード?


 それは置いといて筋力魔菌と防御魔菌をそれぞれスプーン一杯ぶん空の試験管に入れて、新しく魔法を創る。融合(フュージョン)という二つ以上の生き物を融合させる魔法だ。今回は扱いを慎重にしないといけないからちゃんと生物特化型の魔法にしてある。


「さーてまずは実験だな。筋力魔菌と防御魔菌を融合(フュージョン)!」


 すると目の前に半透明のホロウィンドウが出てきた。左側に筋力魔菌、右側に防御魔菌と書かれてある。その下にはそれぞれの特徴が書かれていて、混ぜたい性質を選んで決定するだけで融合が完了するという超チート魔法だった。しかも選べる項目は複数可とか。


「おお!それはなんですかな!なんとも興味深そうですな!いやーやはり私、一度シキさんをバラバラに解剖してみたいですよ。一体中身はどうなってるんでしょうねぇ?」


 隣でシュタインがマッド全開にしているが今は気にしない。そして俺の中身には内臓しか入っていない。


「んーそうだな。じゃあ筋力魔菌からは筋力上昇とスタミナ小上昇、防御魔菌からは物理耐性と魔法耐性を選んでっと。じゃあ決定!」


 融合を完了させてできたものを鑑定で見てみると


ビルドアップ菌

保持魔法:筋力上昇 スタミナ小上昇 物理耐性 魔法耐性


 となっていた。見事に両方の菌のいいとこどりをしてるな。これって強力な魔物同士をひたすら融合させてったらそれこそどっかのゲームのキャッチコピーみたく最強のモンスターがつくれるんじゃないか?


「おお!なにやら新しい菌ができた様子ではありませんか!ありふれた二つの菌からまったく新しい菌を作るとは!実に興味深い!実に興味深いですよおおおおおおおおおおおお!」


「あーはいはい。こいつはお前にやるから。あっちで大人しくしてなさい。」


「おお!ありがとうございます!いいですねぇ~実に実によろしい。研究のし甲斐がありますよ。」


 トリップしたマッドさんは置いといて、ルナの中の菌と融合させるんだったらやっぱり本人のステータスを上昇させるものがいいよな。でもここにあるようなのはどれも危険なものばっかりだしかと言って筋力や防御力を上げさせて体つきがマッチョになんかになったりしたら…おぼろろろろろろろろろ!


「あー、じゃあ菌じゃなくて他の…採集依頼の時の無駄に余った草があったな。あれで試してみるか。」


 亜空間の中から適当に七日草を一束取り出す。それと筋力魔菌を融合してみると今度は草か菌かというようにベースとなる合成対象を選ぶ項目が出てきた。とりあえず菌と選択する。


前衛菌

保持魔法:筋力上昇 スタミナ小上昇 傷の治癒 体力回復


 うん、まさしく前衛戦士に投入したくなる効果を持った菌ができた。すげー攻撃的。


「それは一体なんですかな!もしやそれも」


「はいはい、持ってっていいから大人しくな。」


「ヒッヒヒー!素晴らしいですなあ!ヒッヒッヒ!」


「なんだろう。その笑い声久しぶりに聞いた気がするぜ。」


 ともあれ実験は成功だ。後はルナの体内にいる魔菌と七日草あたりを融合させて体の変形・変色を選ばなければ完成のはずだ。

 七日草を準備してルナたちのところにもどる。シュタインは置き去りだ。さっきから声をかけても返事の代わりにメスが飛んでくる。成分を調べるのにどうしてメスが必要なんだよ。


 ルナとリイのところに戻ってみるとルナがやっぱり固いがどこか優しげな表情をしてリイを撫でていた。リイも気持ちよさそうにしている。美少女と愛玩動物の戯れっていいね。俺が戻ったら撫でるのを止めて硬い表情に戻っちゃったけどさ。


「またせたな。ではこれからルナの髪の色と耳の形を変える作業を行う。失敗するかもしれないから動くなよ。命令だ。」


 あまり命令なんて言いたくはないがこの場合はしょうがない。ルナはどこか恐ろしげながらも首輪のせいで動くことができないでいる。

 七日草をルナの体に触れさせて準備は完了だ。


「よしやるぞ。融合(フュージョン)!」


 ホロウィンドウが出てきた。ベースは菌にして魔力上昇菌のなかから魔力の上昇と魔力耐性小を選び、七日草からは傷の治癒、体力回復を選んで決定する。


「う…あああああああああああああああ!」


 決定した瞬間ルナが顔頭を抱えて苦しみだした。無理もない、耳の形をムリに変えて髪の色素もそうさするんだから痛みが生まれないはずがない。俺とリイがはらはらしながら見守っているとだんだんルナも落ち着いてきたらしくゆっくりと顔を上げた。


「コーン!コーン!」


 リイが嬉しげにルナに駆け寄っていく。俺がいない間にすっかりルナに懐いたらしい。う、うらやましくなんかないんだからな!


「…これは……。」


 元に戻ったルナの髪の毛は透明感のある見事な銀髪となり耳もよくファンタジーで見かけるような笹の葉状になっている。こうするとますます美少女度が上がった感じがする。いや、実際上がってるな。


「おめでとう、無事に終わったようだな。ほら、自分の顔を見てみろ。」


 俺は創った鏡をルナに手渡す。ルナがそれを見ると初めは驚き、その次には髪を一本引き抜いて色を確認し、耳の形を手で触って確かめた。そこでやっと本物だと分かったのか安心したような溜息をつき顔に喜色が浮かんだ。


「どうだ、ちゃんとエルフっぽい色や耳の形になったか?」


「…なれた。本当になれた。………ありがとう。」


 目に涙を浮かべながら恐らく初めて俺に対して向けられた笑顔に俺が「ほれてまうやろー!」みたいな感じに内心なっていると何時の間にやらまたルナの表情が曇っている。なんだろう?まだなにか不満があるのか?


 結局表情の謎は解けないままシュタインの店を出て宿の部屋に戻った。ルナは壁際に立っていて俺はベッドの上でリイを撫でまわして遊んでいた。


 だがどうもルナの視線が突き刺さる。何か言いたいことがあるのか、しきりに俺を見ては明後日の方向を向き、また俺を見ては今度は明々後日の方向を向く。ウザったくなったので聞いてみた。


「さっきからチラチラ見てるが何か言いたいことがあるのか?」


 ルナは少しの間逡巡し、やがて意を決したように言った。


「…髪の色と耳の形を戻してほしい。」


 はあ?と思ってしまった。なにそれ?さっきあんなに喜んでたのに。


「なぜだ?さっきは泣きながら喜んでたくせに。それともなにかあの色や形に思い入れがあったのか?」


「…そうではない。ただ…」


「ただ、なんだ?」


「…普通になっても見せたい人はもう…いない…。」


「…両親や友達はどうした?受け入れてくれていたんだろう?」


「…両親は私を逃がそうとして殺された。村の皆もバラバラになってほとんどが奴隷として売られた。」


 あー。そういうことか。要するに元に戻ったけど見せたい人たちはもういなくなってしまったと。同情はするね。でもなーまた元に戻すのも面倒だし、それに言っちゃ悪いがルナと似たような境遇の子なんていくらでも……。



 待てよ?いくらでもはいないな。

 だってハーフで、さらに通常のハーフの特徴すら持っていないルナをその村人たちは迎え入れてくれたんだから。

 ということはルナは周りと違くっても受け入れられていたってことだ。前の世界で周りと違っていたせいでいい目を見なかった俺とは正反対ってことになる。そういう意味じゃ俺はルナが妬ましい。


 でもルナはそれをムリヤリ奪われたわけだ。しかも両親が自分のせいで死んだ。周りと違ったとしても受け入れてくれた人たちを奪われる………冗談じゃないな。やってらんねえ。


 んでもってさっきの笑顔と直後の悲しい顔……………はあ~まったく。甘っちょろいねえ俺は。あんな顔されたら……もう奴隷として見れなくなっちゃうじゃないの。


「…確かにルナの言う通り両親は死んだかもしれんし受け入れてくれた村人たちも死んだか奴隷になってバラバラにされたかもしれん。」


 とたんにルナの表情が悲しげになった。相変わらず分かりにくいがなんだかんだ言って感情はちゃんと人並みにあるじゃねえか。だったらまだ大丈夫だろう。


「でもお前はその髪に、その耳にあこがれてたんじゃないのか?例え見せたい人はいなくなってもあこがれていたんじゃないのか?」


 「えっ?」という感じに目を見開くルナ。こんな顔できるならやっぱり大丈夫だ。


「見せる人がいくなったからってあこがれることを止めて、欲しいものを捨てて、ただひたすらボーっと過ごしていてなんになる。そんなの生きてるなんて言わない。

 

 …お前、生きていたかったんじゃないのか?

 生きていたかったからこそ魔法を教えられてもどこぞに売り飛ばされないようにわざと失敗して、媚びる動作も覚えなかったんじゃないのか?どっかに買われてろくでもないことをされて死にたくないから売られないように頑張ってきたんじゃないのか?」


 ルナの目がこれ以上ないくらいに見開かれる。なんだ、そんな顔もできるんじゃないか。

 俺は右手をルナの前に差し出して言った。


「お前が生きていたいんなら俺が生かしてやる。死にたくないってんなら死なないように守ってやる。この手をとるならお前は奴隷なんかじゃなく俺の仲間だ。今度は俺がお前を受け入れてやる。さあ、どうする?」


 かなりの葛藤があるのだろう。目を伏せたり開いたりして、手を上げたり下したりしてしばらく迷っていた。数分くらいかかったろうか顔を下に向けていたルナが意を決して、恐る恐る俺の手に自分の手を伸ばし、弱弱しく、でもしっかりとつかんだ。


「よくやった。奴隷じゃないならこいつはいらないな………シキと奴隷、ルナの契約を解除する。」


 ルナを買った時にマルクから教えられた契約解除を思い出し、首輪に手を当てて契約解除を宣言した。すると首輪ははずれ、床にカランと落ちた。


「初めまして。俺がお前の仲間のシキだ。よろしく頼む。」


「コーン!」

 

 リイも俺の肩まで登ってきてあいさつをする。俺たちの仲間(・・・・・・)のルナに。


「…ルナで…す…よろしく…おねがい…しま…す…」


 ルナは静かに、けど大量の涙を流しながら泣いていた。決してさっきまでの固い表情ではなかったと言っておこう。

最後が臭すぎですよね、わかります。

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