奴隷購入
やっと念願の奴隷商館に辿りつきました。その内もっと奴隷を登場させたいです。
馬車を買って宿に帰った次の日、今俺は奴隷商館の前にいる。今日は旅に出るときの雑用や御者をしてもらうために買いに来たのだ。しっかりと金貨と白金貨の複製もしているからよっぽどいいのが無い場合を除いて買うつもりだ。
「ま、だめなやつでも雑用ぐらいはできるだろ。もし使えなくても次の街で売り払えばいいし。」
ちなみにリイは宿で留守番だ。奴隷商館なんていう汚い所にわざわざリイを連れて行く気はない。それと昨日俺が宿から帰るとリイが成長していて尾の数は五本になっておりステータスも軒並み上昇していた。こんな感じだ。
ランクフォックス
個体名:リイ
HP:1800
MP:8000
保持魔法:変化 狐火 空歩 部分強化 気功
気功:魔力を直接操ることができる。主に魔力の譲渡・吸収や操作、魔力による傷の治癒など。
気功は魔力を直接操るからどんなに硬い敵でも触れて直接魔力を暴走させることによって内側からダメージを与えられるし相手からMPを奪い取ることもできる。そうすれば相手に魔法を使わせずに勝利もできるから戦闘がぐっと楽になる。いい能力を手に入れたもんだ。
商館に入る。さすがにいきなり檻が並んでいて人のうめき声がするということはなかった。ギルドのようにそれ程大きな空間ではないが小奇麗にされている。
入るや否や男が一人すぐに対応に来てくれた。
「いらっしゃいませ。失礼ですが冒険者のシキさんではありませんか?」
「そうだが、どうしてだ?」
「この街に住んでいるほとんどのものがこのたびの事をしっていますよ。なんでもSSランクの魔物を残虐かつ惨たらしく人がすることとは思えないほどの仕打ちをした後に殺したとか。」
「別にそこまではやってねえが…。だとしたら俺が露払い用の奴隷を買うことも予想してたってか?」
「ええ、ギルドマスターからももしかしたらあなた様が来るかもしれないと事前に連絡があったものですから。本日はよい奴隷をご用意いたしましたのできっと気に入るものがあると思います。私も微力ながらお手伝いいたしましょう。私はこの商会の頭目をしているマルクと申します。」
口車に乗せられそうな気がするが俺のことを知ってるってことは他のウワサ(リイのこととかシュタイン関係のこととか)も知ってるだろうからそうそう下手なまねはしないだろう。右も左もわからないし任せてみるか。
「頼むぜ。今日探してるのは露払いもそうだが賢くて知識のあるやつも欲しい。後は雑用とか身の回りを世話するやつとかかな。」
賢い奴隷ってのはこの世界の常識がほとんどわからない俺のための解説役のためだ。人に尋ねるのなら怪訝に思われることも奴隷相手なら相手の反応を気にせずに聞けるからな。
「賢くて知識のある奴隷ですか…?分かりました。では初めに露払い用の奴隷から案内しましょう。こちらです。」
マルクに連れられて奥の方に行く。ロビーの奥に行き少し行ったところにあるドアを開けるとそこには今度こそ大量の檻があり多くの奴隷と思われる奴らが入れられていた。イメージ通り「う~…」とか「あ~…」とかのうめき声も聞こえる。うっせえな。
「こいつらがそうなのか?」
「いえいえ、こんなそこら辺にいるような雑魚どもとはまったく比べ物になりませんよ。ここは主に身売りをさせられた連中や捕えられたやつらのような一般の奴隷がいるところです。本命はこの奥ですよ。」
さらに連れられて今度は地下に案内された。なんかどんどんイメージ通りな奴隷商館になってってるな。
案内された地下の部屋の中は案外明るかった。意外だ、もっと暗くてジメジメしたところを想像してたのに。
「ここにいる連中が護衛用の奴隷です。どれもこれもどこかの国で兵士をしていたり名のある盗賊で優秀な身体能力をしているものなどの戦いの心得があるやつらです。どうぞご自由にご覧ください。」
見渡してみるといろいろなやつがいた。歴戦の兵士といった体の中年で目つきの鋭いやつ、大柄で筋肉ムキムキなやつ、中には細身で美形な優男なやつも混ざっていた。最後のやつは置くとこ間違ってないか?
「お、ありゃなんだ?リザードマン?」
よくよく見渡してみると明らかに人間ではない種族も混ざっている。リザードマンの他にも大柄な巨人族と思われるやつ、体中毛むくじゃらなドワーフらしきやつなど亜人と呼ばれるような種族もいる。この世界には人間以外のやつらもいたのか。
「人間以外も普通にいるんだな。どこにでもいるのか?」
「亜人たちを見たのは初めてですか?確かにここら辺にはいませんしこの街は人間中心の街ですしね。ですが実際には大陸中にさまざまな種族がいますよ。」
ほらな、こういった基本的な知識もないから質問用の奴隷が必要なんだ。
「ああ、確かに人間以外の種族を見るのは初めてでな。やっぱりドワーフやリザードマンって護衛に向いてるのか?」
「リザードマンは確かにそうですね。ドワーフの方は戦士だけでなく鍛冶や建築といった分野でも注目されています。もっとも、鍛冶のできるドワーフの奴隷が入ってくるようなことはあまりありませんが。」
「へー。まあ確かに鍛冶のできるような奴は戦場とかにはでないだろうから捕まえる機会はないわな。」
などと解説をもらいながら鑑定で奴隷たちを見ていく。人間ではさすがに目ぼしいHPやMPを持った奴はいない。いや、そこらの冒険者よりも優れている奴らも少なくはないんだがやっぱり俺やリイを基準に考えると見劣りしてしまう。
「やっぱ亜人種のやつらのほうが軒並み能力値は高いな。やっぱ買うとしたら人間よりも亜人種か?」
とはいえあまりよさそうなのがいない。それに男だけでむさ苦しい。一緒にいて不快になるような奴隷なら買わない方がいいだろう。
「マルク、もうここはいいぜ。とりあえず一通りみたいから案内を頼む。」
「わかりました。では次は数は少ないですが護衛のできる女の奴隷のところに案内いたします。」
さらに奥の方に連れていかれた。女の護衛用の奴隷は確かにさっきの男どもと比べて数が各段に少なかった。数は男の半分もいない。
「女の奴隷は男よりも高くなりますし護衛もできるとなるとさらに値が張りますがシキ様なら大丈夫でしょう。ご自由にご覧ください。」
ご覧くださいって言われてもな。はっきり言って男よりも能力値が低い。それに見た目もネット小説であるような美人なやつはいなくて女なのにムッキムキなやつやあまり顔のよろしくないものが多い。男よりも能力値が高いやつもいるにはいるが好みじゃなかったり敵意むき出しのやつしかいない。
「なあ、魔法の使える奴隷はいないのか?さっきから見てみると前衛向きのやつしかいない気がするんだが。」
「魔法の使える奴隷は私どものような商館では基本的に出回っておりません。というのも魔法が使えるような奴隷はほとんどが国が高く買い取ってしまうからです。そこらの田舎に魔法が使えるものがいるはずもなく、結果として一般にはほとんど出回っていません。」
そんなに魔法が使える奴隷は貴重だったのか。それならあまり出回るはずはないな。冒険者だったら攫われたりする可能性は低いし奴隷を売るやつも国に持ってった方が高く買い取ってくれるだろうと予想するから国の方に持っていくだろうしな。
「そうか…なら護衛用の奴隷はいいかな。次は雑用のための奴隷を頼む。」
俺やリイよりはるかに弱い奴だったら護衛としてはいらないし邪魔だ。ならいっそいない方が食いぶちが減っていい。
「そうですか…わかりました。雑用の奴隷ということですが主に何をさせるなどということはありますか?」
「これからちょっと旅に出るからな。できれば旅の心得が分かっている奴の方がいいことは確かだ。日常の雑用だったら別に誰でもできるだろうし。」
「わかりました。そうなると元冒険者の奴隷がよさそうですね。ではこちらです。」
途中でいくつかの檻の前を通った。ここの構造はスーパーのようになっていて広い空間に護衛や夜伽用というように何かしらの特徴ごとに奴隷を分けている。だから他の区分のところに行くまでにいろいろな奴隷が目に入ってしまう。マルクもそれをわかっているのかワザと奴隷を見せるようなルートで進んでいる。
鑑定を発動させながら通ったので視界に入った奴隷の情報が入ってくる。やっぱりどいつも似たり寄ったりなんだなあと思っているといきなり視界にMP4000という破格の数字が浮かんだ。
「マルク、ちょっと待ってくれ。気になるやつを見つけた。」
立ち止まってMP4000の持ち主を探す。見つけると愛玩用奴隷の区分で檻の奥の隅の方でこちらを見向きもせず座っている少女がいた。
身長は俺の胸の高さしかなく、髪は短く真っ黒だ。こんなところにいるせいか体は薄汚れているが顔立ちはいい。どっちかっていうとかわいい系の顔だ。
「マルク、こいつはどういうやつなんだ?愛玩用奴隷にしては魔力が高いようだが。」
「こいつですか…。こいつにはこちらもほとほと困っているんですよ。魔力が高いことは知っていますし顔立ちもいいことから仕入れたときは儲けたと思ったのですが…。」
マルクの話をまとめるとこういうことだ。
この少女は人間と亜人が一緒に暮らすとある田舎の村の出身でエルフと人間のハーフといことだ。ハーフは世間的に嫌われる傾向があるがその村ではそういった偏見はなく普通に暮らしていたらしい。
エルフはハーフであろうとも耳は尖っているし髪も黒くなることはなくキレイな銀髪になるはずなのだがこの少女は生まれつき髪は黒く耳は丸かった。それでも村人は区別をせずに少女を受け入れていたらしい。
そんな村に奴隷狩りの盗賊たちがやってきた。亜人種もいたが多くは非戦闘員で盗賊たちの方が数も多くすぐに村は蹂躙された。この少女はハーフであるために盗賊たちに慰み者にされることはなかったがこうして売られてしまった。
魔力が高いことは売られる前に判明していたのでここに来てから魔法を教えられたがまったく使えなかった。しかも村が襲われたことで心を病んでしまったのか常に無表情で感情の起伏が少なく、ろくに声も出さない。
いくら教えても愛玩奴隷の媚びる動作などもしようとはせず、かといって見た目はいいものだから下手に傷つけるわけにもいかない。ほとほと困ってついに檻の中に入れて放置しているというわけだ。
「よくそこまで正確にわかってるな。」
「村を襲って奴隷として捕まえるとしたら事前に準備や情報収集をしなければなりませんから。これはその盗賊からの報告です。」
「へえ、じゃあちょっとこいつを檻から出して見せてくれねえか?」
「よろしいのですか?このようなハーフで使い物にならないやつなど…」
「いいから出してくれ。」
「わ、分かりました…。おい、お前!さっさと出ろ!」
奴隷相手だと一気に乱暴なマルク君。腕を掴んで無理やり外に出す。うん、真近で見るとやはり小さい。…それに女の子相手にあまりいいたくないが臭い。
ステータスを確認するとこうなっていた。
ルナ
種族:ハーフ エルフ・人間
HP:250
MP:4000
保持魔法:ウォーターランス クリエイトウォーター ウォーターウォール ウォッシュ ライト
備考:魔力上昇魔菌に感染
ウォーターランス:水で槍を作り放つ。射程は使用者の力量による。
クリエイトウォーター:水を作り出す。量は使用魔力によって増減する。
ウォーターウォール:水で壁を作り出す。大きさ、厚さは使用者の力量による。
ウォッシュ:対象を洗浄する。
ライト:光球を作り出し周囲を照らす。
魔力上昇魔菌:感染者の魔力を上昇させる。代わりに体の一部を変色・変形させる。
五つも覚えているが魔法は使えないんじゃなかったのか?それに魔力上昇魔菌に感染…これは例の魔菌ってやつかな。こいつのせいでハーフなのに耳が丸かっり髪が黒かったりするわけか。
「こいつってホントに魔法が使えないんだよな?」
「は?え、ええ。そのはずですが何か?」
この反応から察するに売りたくないから偽情報を伝えているわけでもなさそうだ。てことは魔法が使えるとわかったらどこぞに高値で売られるとわかっているからワザと失敗してたのか。
「ちょっと質問に答えてくれ。お前やお前の家は村でどんな仕事をしてた?」
「…………」
無言か。聞いてた通りだな。
「おい!お客様がわざわざ目をかけて下さってるんだ、ちゃんと答えろ!命令だ!」
マルクが命令をすると少女が顔を苦痛に歪めてその場で膝をつく。首についてる首輪がそうさせるんだろう。それでも感情のこもらない声で俺の質問に答える。
「…私の父は村で村長をしていた。私はその後を継ぐために他の村人よりも教育を受けさせられた。」
「ということは読み書き計算、世の中の常識や国同士の情勢もわかるか?」
「…私が売られる前の情報の範囲内でなら答えられる。」
「旅の心得は?ある程度なら分かるか?」
首を縦に小さく振って首肯する。ふむ、ちょうどいいな、こいつは買うとするか。
「マルク、こいつを買おう。いくらだ?」
「こ、こいつを買うおつもりで!?先ほども申しましたように魔法も使えず愛玩用としても役に立ちませんし…」
「くどい。いいからいくらだ。」
「は…はあ…。では、見た目こそいいですが魔力が高いにもかかわらず魔法が使えないこと、感情の起伏が乏しいことを考慮しまして金貨三枚ではどうでしょう。」
「いいだろう。それと金貨をもう一枚払うからこいつの体を洗って、数着着替えを持たせてくれ。残った分はそのままくれてやる。」
「奴隷に対してそこまで…いえ、わかりました。ご用意しましょう。それでは他の奴隷は…」
「そっちはもういいわ。こいつ一人で事足りるだろうし。」
マルクは悔しさをにじませた目でこちらを見ていた。それでも必死になって隠そうとしているのが丸わかりだ。金を持ってると知って高いのを買わせようと企んでたのに一人だけ買っただけじゃつまらんわな。ま、どうでもいいけど。
「そ…そうですか…。ですが他にもきっと気に入るのが…」
「いらねえって言ってんだろ。いいからこの子と契約をさせろ。」
指をゴキゴキ鳴らして凄んでみせるとマルクは怯えだした。SSランクを倒したことは知れているだろうから俺の全身が凶器だとわかってるんだろう。
「ひっ!わ…わかりました。で、ではこちらに…」
その後は契約の間と呼ばれる部屋に通された。ここで奴隷と主人との契約をするのだそうだ。
目の前には小奇麗になったルナがいる。俺をボーっと見続けていてなんの反応も示さない。奴隷ってのはこうなるやつが少なくないのかね?
「それでは契約を開始します。ではシキ様、首輪に血を垂らしてください。そうすれば契約は完了します。」
とナイフを渡された。小指を切って首輪に着ける。それでもルナはなんの反応も示さない。諦めているのかもうどうなってもいいと達観しているのか。
首輪が光る。どやらこれが契約完了の合図らしい。
「お疲れ様でした。これで契約は完了です。」
契約を完了して商館を出た。ルナは俺の後ろをトコトコとついてくる。そのまま俺たちは宿に向かって無言で足を進めた。
次回はルナを改造?します。




