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リイの本音

おかげさまで気づけばお気に入り登録件数が151件に達しました。これもみなさんのおかげです。

では本編をどうぞ。

 素材を回収してシュタインのところに向かう。リイへの肉はもうすでに広場に着いたとき与えた。ていうか剥ぎ取り終わったマンティコアを見たら俺から離れてそっちにすっ飛んでった。あわてて追いかけて俺も食ってみたけどあれは絶品だった。スケイルベアーもよかったけどやっぱりSSランクともなると肉の味も段違いだった。

 その場で焼き加減を血の滴るレアにして食っていて、口の周りを血まみれにしていた場面をギルドの職員が見ていたらしく「魔物の肉を生で食べるなんて…」みたいにな感じに怖がられた。そんなに怖かったのかよ…女性職員なんか半泣きだったぞ。


「コーン!コンコーン!コーン!」


「確かに旨かったよな、あれは。また今度出会う機会があったらまた狩るか。」


「コーン!コーン!」


 かなり上機嫌なリイを愛でているうちににシュタインの店に着く。


「おーっすシュタイン。」


「おお!シキさん!どうやら今回は派手にやったそうですねぇ。SSランクの魔物を単独で倒したとか。」


「さすがに知ってるか。ほら、土産だ。マンティコアの素材だぜ。俺が持っててもあまり意味がないからやるよ。」


 と言って亜空間からマンティコアの素材をいくつかカウンターに置いていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!貴重なSSランクの魔物の素材がこんなに!素晴らしい!実にすばらしいですよ、これは!これほど貴重なものを頂いてもよろしいのですか!?」


「言ったろ、使い道がないって。武器や防具は自分でなんとかなるしどうせならお前にやって面白いもの作ってもらった方が楽しそうだと思ってよ。」


「そこまで私のことを…シキさん!私はあなたに出会えて本当に幸せです!見てて下さい、これらで絶対にご満足いただけるものをお作りしましょう!」


 これが美人な女性に言われた言葉なら手放しで喜べるが相手はマッドでクレイジーなサイエンティストだからなあ…。


「まあそう気張るなよ、気長に待つさ。それより聞いてくれよ。昨夜から素材を寄越せっている連中が着始めてきてさ、ここに来る途中でも何人か狙ってきやがんの。自分たちならできるとか思ってんのかね?」


「まあそういう人たちは必ず出てきますからねぇ、仕方ないと言えば仕方ないですが。それでその襲ってきた方たちはどうしたので?」


「あー、宿に二人置き去りと地面に生き埋めにしてきた。後で二人組の方は持ってくるわ。とはいっても首から下がまったく動かないからあまり面白くないかもしれんが。」


「動かないのですか?まったく?」


「ああ、脊髄をちょっと特殊な方法で切ったからな。外傷はないしそこ以外は切れてねえよ。」


「それでしたら試したい実験があったのでそれに使わせていただきましょうかねぇ。」


「なんの実験だ?」


「いえね、以前に友人から宴会を盛り上げるために何かいい道具はないかと頼まれたのですが…」


 何その普通な相談。こいつにそんなことを頼めるやつがいたのか。ていうか友達いたのか。


「いたんですよ、失礼な。まあ実際は今の私を知らない昔の知り合いからの頼みだったのですが。」


 やべーまた知らない間に言っちゃってたのか。自重自重っと。てかその知り合いもよくしばらく会っていないシュタインにそんなこと頼んだよな。


「そこで私は考えました。宴会を盛り上げるには宴会芸。宴会芸といえば腹踊りと。」


「まあそうなのかもしれんがさ…。で?」


「その時に作った薬がこれです。腹踊り薬。エストマゴ・バイラリン


 いつの間にか手に持って見せてきたのはビンに入った青色の液体だ。よく見てみると液体の中にとて小さなものが浮いているのが見える。


「ルビはいいがしょーもない名前の薬だ…。」


「これを腹部に振り掛ければほんの少し(・・・・・)体中が痛んだ後に腹部に人間の顔が出来上がります。ちゃんと生きてますし言葉も発しますよ。」


「リアル人面相!?いやいやいやいや!そこまでリアルにする必要ねえだろ!」


「しかも振り掛ける部位は腹部でなくともOKというとても使いやすい設定となっています。」


「腹踊りが関係まったく関係なくなってる!」


「ですが問題がありましてねぇ、発する言葉がどれも『腹減った』『死にたい』『助けて』などのネガティブな発言しかしないんですよねぇ。さすがに盛り上がらないと思ったのか『俺が悪かった、許してくれ。』と言ってそのまま逃げるように帰っていきましたよ。」


「それ絶対にお前が思ってるような理由で断ったのと違うからな!絶対に次は我が身かとか思って必死になって逃げただけだからな!」


「やはりあのとき黒魔菌の分量を3ではなく漆黒魔菌で5にするべきだったんでしょうかねぇ?」


「知らねぇよ!ねえ俺の話聞いてる?しかもなんでネガティブになるってわかってるのにわざわざもっとネガティブになりそうなものに変えて分量増やしてんだよ!」


「今回の実験ではネガティブな発言だけではなくとにかく動くものに噛り付く習性が出て身体を勝手に動かすようになってしまうのが動かない身体でも出るのかの実験をしてみようかと思いまして。」


「なんでそれを宴会芸でやれると思って頼んだ奴に見せたんだよ!嬉声(きせい)が悲鳴に変わるわ!」


「というわけで死んでおらず完全に動かない身体は大歓迎です。代金は支払うので是非持ってきていただきたい。」


「どこまでもマイペース!?…わかったよ、後で持ってきてやるよ。それよか魔菌ってなんだ?」


「魔菌というのは簡単に言ってしまうと極小の魔物みたいなものです。一匹ではほとんど無害ですが増やしたり生物の体内に入り込んで増殖したりすると目に見えるような効果を発揮するんでよ。」


「へえーいろいろな種類があるんだ?」


「ええ。その数は数万種ともそれ以上とも言われ、未だに見つかっていない魔菌も多いのですよ。そのせいで田舎では未発見の魔菌のせいで未知の症状が出たものを遠ざけたり捨てたりするなんてこともあるらしいですね。種類によっては感染もしますし。」


「周りからしたら確かに恐怖だからな。しょがないっちゃしょうがないか…。」

 

 それでもやはり俺はいい気はしない。未知の症状が出たら出たで研究所とかで調べてもえらえばいいじゃねえか。それをしないまま捨てるなんざ…


「なんにせよそんな場面にはお目にかかりたくねえな。」


「そうですねぇ、貴重な研究材料がみすみす捨てられるところを見るなんてまっぴらですよ。」


「いやそうじゃなくて…いや、やっぱいいや。」


「ところで何のお話でしたっけ?」


「あーっと、確か俺が人に着け狙われて困ってるって話だな。」


「でしたら奴隷でもお買いになればよろしいのに。」


「でもよお、たかだか奴隷で露払いができるのか?」


「それは物によりますよ。奴隷の中には戦争で負けた国の兵士が捕まって奴隷にさせられたなんて人もいますからね。お金に糸目をつけないのであればそういった高級な部類に入る奴隷も買えるでしょう。」


「なるほど。さっき白金貨を5枚くらいもらったんだがそれで足りると思うか?」


「それだけあれば十分でしょう。むしろそれだけあれば小さい奴隷商会の奴隷なら店ごと買い占められるかもしれませんよ。」


「そっか、じゃあ今度行ってみるわ。じゃあ今言ったバカどもを持ってくるぜ。」


 店を出て宿に向かおうとする途中でなんか周りがざわついてるのが気になってきた。最初は街中だし気のせいかとも思ったがそうでもないらしい。同じメンツが俺の周りを徐々に囲むようになってきて、少しずつ人気のないところに連れて行かれている。お、そろそろ仕掛けてくるな。


「おい、そこのガキ、止まりやがれ。」


 声をかけた奴はどっかで会った気がする。どこだっけな。


「コーン!」


「ああ、そうだ!朝に会った名を名乗る暇もなく公衆の面前でなす術もなく俺に惨敗して生き埋めになったモブキャラその1だ!」


「ぶっ殺すぞこらあ!俺の名前はベネラスだ!今朝はよくもコケにしてくれやがったな、さっさとマンティコアの換金代を寄越せ!」


「うわあ~ベネラスとかなんのヒネリも珍しさもねえよ。きっとその場で思いついたから名前考えるのを面倒くさがった親が適当に付けたんだろうな、可哀想に。親の愛情を受けられなかったからこんなに醜く顔と心が歪んだんだろうって想像つくわ。あざ笑うけど。」


「うるせえ!もう怒ったぜ!命だけは助けてやろうと思ったがぶっ殺してやる!」


「手も足も出ないどころか鼻しか出てなかったのに?」


「はん、そういって余裕ぶってられんのも今の内だ。」


 すると周りを20人ぐらいの男が取り囲んだ。全員着ているものはバラバラで、裏通りにいるような格好のやつから冒険者風の格好のやつまでいた。片っ端から声をかけたんだろう。


「自分一人じゃ勝てないからってお友達呼んで囲むとか醜いどころの話じゃねえな。きっと前世は馬糞の類だったに違いない。いや、むしろその馬糞に喜んで飛んでいくハエとかの類か?」


「空元気しやがって!てめえら、やれ!」


 周りを囲んできた連中が一斉に向かってくる。けど、


「遅すぎだろ。よくこの程度で勝てるとか思ったな。」


 身体能力ではこいつら全員を集めてもかなわないほど圧倒しているのでザ・クリアーを抜いて応戦する。とりえあず死なないように手足の腱を切る程度にとどめておく。後でやることがあるからな、極力生きてもらいたい。


「ぐああああああああ!」

「どうなってる!どうして刀身がないのに…ぎゃあああああああ!」

「やめろ、やめろやめろ!来るなあああああ!」

「か、囲め!囲んじまえば…」

「ムリだ!囲む前に全員やられて…うわああああ!」


「コーン!コーン!」


 リイも本来の姿になって狐火で応戦してくれている。いい子が家族にいるもんだよ、俺は。


「や、焼ける!足が焼けるううううううう!」

「あのキツネなんなんだよ!色が白いキツネなんて見たこと…」

「くそおおおおおお!話が違え!簡単な仕事だったはずじゃ…うわああああああ!」


 あっという間に死屍累々。全員手足の腱を切られて血を流しながらも生きてはいる。肉が焼ける匂いもしていて手足がもう炭化しているやつもいるがまあ生きてられるだろう。この後どうなるかはわからないが。


「う…うそだろ…こんなことが…」


「うわー、お友達呼んで自分は高みの見物なんてかっこつけた上に全員殺られたら一人で腰抜かすとかハエ以下でしょ。馬糞でもハエでもないやつってなんて罵倒すればいいんだ?逆に尊敬するね。」


「ひッ!た、頼む!い…命だけは…」


「わかった。じゃあ『命だけ』は助けるけど他はどうなってもいいな。」


 こいつだけは意識を刈り取るだけにとどめる。もしこいつのランクが本当にAランクだとしたら好都合だ。他のやつらよりじっくりと相手してやろう。


「うーん、こりゃガルク達までは無理かな?シュタインにはちょっと協力してもらわなきゃな。」


 今日はこれからやることができた。こいつらをシュタインのところまで運ばないとな。


「リイ、俺はこいつらの相手をするから夜まで忙しい。先に宿に帰ってるか?」


「コーン!コンコーン!」


 首を横に振る。どうやら手伝ってくれるらしい。健気なやつだ。でもリイは俺がこんなことしているのをどう思ってるんだろう。自慢じゃないが俺がやってきたことやこれからやろうとしていることは普通なら嫌悪をもよおすものだ。それなのになんでついて来てくれてるんだ?


「リイ、ちょっとこの間みたいに人間の姿になってくれないか?」


「コン?コーン!」


 リイの体から煙が出て煙が晴れるとこの間の美少女の姿になっていた。あわててワンピースを着せてやる。


「ご主人様、どうしたの?」


「あのさ、リイ。今更なんだけどお前は俺がこんな風に人に酷いことしてるのは大丈夫なのか?普通なら嫌いになったりすると思うんだが…。」


 リイはちょっと怪訝な顔をして少し考えるような仕草をしたがすぐに笑顔を浮かべて言ってくれた。


「リイはご主人様を嫌ったりなんかしないよ。野生じゃ死ぬことなんてよくあることだもん。確かにご主人様が理由もないのに人を傷つけたりするなら嫌だけどいつもちゃんと理由があるし、ひどいことするときだって相手の方から襲ってきたときだけだもん。」


 …なんかジーンときた。健気だ愛いやつだと思っていたけどこれほど俺のことを好きでいてくれるやつなんて初めてだと思う。親にはこういう態度とったことないし、俺のことを全部見てそれでも好きでいてくれるなんて本当にありがたい。


「リイはご主人様が大好きだよ。助けてくれたこともそうだけどいっつも大事にしてくれる。本当のお母さんやお兄ちゃんたちよりもずっと優しくて、いっつも守って気にかけてくれる。ご主人様と一緒にいられるのが本当に嬉しいんだよ。」


 いつの間にかリイを抱きしめていた。これほど俺のことを好きでいてくれるなんて思わなかった。絶対に悲しい思いをさせないようにしよう。絶対に。


「ありがとう、俺もリイが大好きだよ。でも今日はもう宿に帰りな。こいつらを運ぶのは一人でできるしシュタインと話さなきゃいけないこともある。それにあまりこういうことにリイを関わらせたくはないんだ。」


「わかったよ。じゃあ今日は先に帰ってるね。」


 リイを人間の姿のまま送り出してから作業に入る。さて、こんなに健気なリイを巻き込んで散々好き勝手してくれたんだ、相応の礼はさせてもらう。

 

 これからの予定を頭の中で立てつつ、シュタインの店にバカどもを亜空間に入れて隠蔽(スニーク)を発動しつつ移動する。



どうしてこうなった!前半の軽いノリに比べて後半はちょっと固めになっちゃいました…。本当だったらここはもうちょっと軽くやる予定だったのに…。作者の力不足ですねぇ。

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