ランクアップ
なんとか早めに切りの悪い回の続きを投稿することができました。文章が強引だったりしなければいいのですが…。
「あーよく寝た。気分はすっきり、体力は完全に回復。目覚めは…最悪…。」
昨夜俺を狙ってきた強盗二人が床に転がりながら「んーんー」と不愉快なうめき声をあげ、目からは大量の涙を流し、表情は苦痛と絶望に染まっている。はっきり言ってすごく醜い。なんで朝から不細工な男の崩れた顔を見なけりゃならんのだ。
「よーし、お前ら。今日は楽しい楽しい手術の日だ。知り合いにいい腕の魔道具士がいるからそいつに任せておけば今まで見たことがない体になれるぜ、きっと。」
うめき声が一層強くなる。赤くはれ上がった目からもさらに膨大な涙を流し必死にイヤイヤをしている。気持ち悪!
「そんな気持ち悪い顔をさらすなよゴミども。大丈夫だって。世界でただ一人の肉体の持ち主になれると思ったらいいじゃんか。」
「むー!むーむー!」
「んん!んー!」
「おお、おお。そんなに嬉しそうにしちゃって。やっぱり男ならすごい肉体にあこがれるよな、分かるぜその気持ち。」
本人たちの了承も得たしさっさとマンティコアを換金してくるか。と思い部屋を出ようとすると
「…そんなところで何してんの?」
「ひ!ち、違うんです!これは…えっと…お、お部屋のお掃除に来たので別にお邪魔をしようと思ったわけでは…ご、ごめんなさい!どうか殺さないでください!」
またしても俺は掃除の人が来る時間まで寝てたらしい。部屋のかぎを開けて入り口でこっちを顔を青くしながら見ている昨日とは違う子がいた。確かにこの状況は女の子にはつらいかもしれないけどさ、
「そんな土下座までしなくていいって。ほら、立って。」
と俺が手を差し伸べようとしたら
「た、立ちます!立ちますからヒドイことしないで!……いやあああああああああああああ!」
物凄い速さで立ち上がってほんのちょっとの間許しを乞うてきたかと思ったら耐えきれなくなったのか悲鳴を上げて逃げ出した。昨日の噂もあるとはいえなんて扱いだ。俺だって傷つくんだぞ…。
「コーン」
「リイ、起きたか。じゃあまたコイルのところでメシ食おうな。」
「コン!」
部屋を出る前に男たちに目隠しをする。帰ってきたらシュタインのところに連れて行くと言ったら物凄い嫌がった。シュタインの悪名も結構有名らしい。距離さえ取ればおもしろいと思うんだがな。
「いやー悪いね、おっちゃん。また店の子困らせたみたいで。」
「ああ…あれからずっと泣き喚いたままで今日はもう使い物にならなくなっちまったな。今は他の連中が慰めてるとこだ。一体なにやったんだ。」
こっちを少し睨みながら聞いてくる。そんなにあの光景がショックだったのか。おっちゃんにもあの子にも悪いことしたかな。
「昨夜さっそく部屋に二人組が侵入してきてな。身体を動けなくして口を糸で塞いでこれからの処遇を言い渡すところで入って来ちゃったんだよな。さすがに悪いことしたよ。」
「あんまりウチでそういうことは控えてくれよ。昨日お前のところに行ったやつだって後が大変だったんだからな。」
「そっか。じゃあこれをあの子らに渡しておいてくれ。謝礼金だ。」
「昨日に引き続きすごい額だな。一人につき銀貨50枚も。もうマンティコアの素材は売っちまったのか?」
「これからだよ。じゃあ行ってくるわ。」
コイルのとこに行く途中で周りからチラチラ見られている気がする。気がするじゃなくて本当に見られてるんだろうけどな。そんなに有名になっちまったのか?俺は。
「おいお前!マンティコアの素材を寄越せ。Fランクのやつになんかもったいねえ!」
なんか小物臭がするやつが絡んできた。こいつもマンティコアの素材を狙ってるっていうやつらの一人かな。昨日のやつといいウザったい。
「んだよお前も自分の力を勘違いしちゃった有象無象の連中の一人かよ。大体SSランクを倒した奴に真っ向から道の真ん中で寄越せ発言とか腕だけじゃなく頭も弱いのか?」
「うるさい!俺様をそこら辺の雑魚と一緒にするなよ。俺はAランクのベネ…」
「ハイさよなら、モブキャラその1さん。大地操作。」
なんか長くなりそうだったのでさっさと黙ってもらう。地面を自在に動かすこの魔法でモブキャラを地中に引きずり込んだ。
道の真ん中だったし人目もあったからさっさと鼻だけ地上に出して後は生き埋めだ。まわりから驚愕の声が上がったけど皆もうるさいのがいなくなったから別にいいよな。
「さっさとメシを食いたいんだ、俺たちは。じゃあな。」
「コーン!コーン!」
「急かすなってリイ。今行くからさ。」
今度こそコイルの店に向かう。昨日の冒険者ギルドのときにみたいに人が進むたびに道を開けてくれるから通りやすくてすぐに着いた。
「やっほー。今日も来たぜ。」
「おお!シキじゃねえか。昨日からお前の噂で街は持ちきりだぜ。すげえことやったんだって?」
「ああ、そのせいか襲われたり怖がられたり散々だぜ。そういえばお前はそういうの気にしないのな。」
「俺にとっちゃただ一人の客だからな。それに俺以外の連中が何やってようが俺みたいのは日々を生きるだけで精いっぱいだからな、そんなこと気にしてらんねえよ。」
「そっか、この状況でそう言ってくれるのはありがたいな。とりあえず10枚くれ。」
「さっすが。そうこなくちゃなあ。待ってろよ、今焼く。」
「コーン!コーン!」
「ハイハイ、すぐできるから待ってな。」
よほどもんじゃが気に入ったのかリイがコイルの足元でしきりに急かす。ああ、やっぱり俺のリイは癒し系だな、何やってても絵になるわ。畜生コイル、うらやましいぞ。
「待たせたな、できたぜ。」
「コーン!」
「お、うまそう。」
もんじゃを堪能した後はギルドに向かう。ここでもまた俺を見るなり静まり返り、職員が奥にすっ飛んでったかと思うとすぐにバルタックが出てきた。
「来たな。じゃあ早速マンティコアの素材の買い取りを始めてもらおうか。」
「分かっている。ついて来てくれ、裏に大きな広場がある。」
バルタックについて行くとかなり大きな広場に通された。マンティコアをそのまま出すには狭いけど十分な広さがある。
俺は亜空間からマンティコアを出した。
「さあ、早速頼む。」
「分かった。では鑑定班、頼むぞ。」
バルタックの後ろにいて今まで控えていた奴らが道具を片手にマンティコアに群がっていった。ときおり「おお!」だの「これがSSランクの素材か!」などの声が聞こえるがまあどうでもいいな。
「ところであれだけ騒ぎになったのだからあれから大変ではなかったか?」
「ああ、昨夜も寝る前に二人組に襲われたしここに来る途中でも一人に絡まれた。まあ全員ろくに体も動かせないようになったけどな。感覚も奪っちゃったし生き埋めにもしたし。」
「…さすがはシュタインが気に入るわけだ。倒し方が実に常軌を逸している。」
それって遠まわしに「やることが人間じゃない」って言ってるように聞こえるぜ。実際その通りなんだが。
「あれ?シュタインを知ってるのか?」
「ああ。あれでも一応冒険者に関わりのある店の店長だからな。良くも悪くも気になった冒険者のことを報告してもらっているのだよ。」
「なーる。それで俺の評価は?」
「詳しい事を言うわけにはいかんがとりあえず信じられない存在という認識だ。」
「ふーん。ま、どうでもいいけどさ。」
シュタインの野郎、一体なんて言いやがったんだ?後でじっくりと聞き出しておこう。
「それはそうと、無駄に群がる連中が多くて困ってるんだよな。どうにかならないのか?このままじゃ今度は『マンティコアの素材の金を寄越せ』なんてまた群がってきそうなんだよ。」
「ふむ、そこら辺まではギルドの管轄外だからあまりどうしてやることもできんが街を出るなり戦闘用の奴隷を買うなりすれば多少はマシになるのではないか?」
「まあそうなんだけどさあ、やっぱり元を絶たないとダメなような気がするんだよな。」
「それこそ時間がたつのを待つか街をでるしかあるまいよ。」
だよなー。とか相槌を打ちつつ話をしていると鑑定が終わったらしい。結果をバルタックと聞く。
「お待たせしました。全体的に少し焦げていますし部位によっては完全に破壊されているところもありますが比較的良い状態です。一部を売らないという話でしたが?」
「ああ、知り合いの…てかシュタインのところに土産にと思ってるんでな。魔道具の材料になりそうな部位ってどこらへんだ?あとウチのリイに食わせるために肉を少しと思っているんだが。」
「SSランク程の魔物はどこの部位でも何かしらの価値があります。魔道具の材料ということでしたらそれこそ体のどの部位でも使えると思いますが。肉はそうですね、腹部あたりの肉が一番美味なのではないかと。」
「そうか。因みに全体を買い取るとしたらいくら位になる?」
「でしたら希少性と素材自体の価値を考慮しまして白金貨10枚になります。」
「じゃあ全部の部位をそれぞれ半分ずつ売ることにする。白金貨5枚ってことでいいか?そういや白金貨5枚って大体どのくらいだ?」
バルタックに白金貨の価値を聞いてみる。
「そうだな…だいたい下級貴族の屋敷が白金貨4枚ほどだと言われているはずだ。」
そりゃいいな。手持ちの金だけでちょっとした家が建てられるのか。それにしても下級貴族でそれなら上級貴族とやらの連中の屋敷はどうなってんのかね。
「各部位を半分ずつですね。では剥ぎ取り作業に入りますのでしばらくお待ちください。」
といって鑑定係の人はギルドの中に戻っていった。俺も戻るかと思った矢先に
「そうだ。シキ、君のランクアップの準備が完了した。この後すぐにカードを更新したいと思うがどうだろう。」
「へえ、こんなぽっと出をいきなりランクアップなんてしていいのかよ。」
「マンティコアを単独で倒したほどの実力ならばむしろ下級のランクに置いておくわけにはいかない。それだけで他の低ランク冒険者の仕事を取ってしまうことにもなるからな。」
「そうか、因みにどこまで上がるんだ?」
「Aランクまでだ。これほど大幅にランクアップした例も他にはないだろう。さすがにSランクまでは経験と君に対する評価がまだ正確に定まっていないので無理だったが。」
「構わねえさ。んじゃ早速受付に行ってくるぜ。」
ランクアップのためにマリーのところに行く。マリーがしてくれるかと思ったが、上の階にランクアップ用の窓口が別に設置してあるためそこに行かされた。
「ランクアップをしたいんだがここでいいか?」
「はい、ここで大丈夫ですよ。あら?あなたは…。」
「ああ、知ってたのか?」
「え、ええ…。マンティコアを単独で倒しただけでなくあのシュタインさんと趣味が合い友人関係にあり話しかけてくる人間には人とは思えない方法で地獄を見せ、なおかつ女性に対してあまり…その…。」
わーーーーーーー!あの宿屋でのリイ事件がもうここまで広まってんのかよ。宿屋のお姉ちゃん達のネットワーク広すぎだろ。
「まあ…そこに関しては今は触れないでおいてくれ…。それよりランクアップの件なんだが。」
「そ、そうですね。ギルドマスターから話は聞いています。Aランクで間違いありませんね?」
「ああ、頼むわ。ほい、ギルドカード。」
「確かに。それではしばらくお待ちください。」
またもや奥に引っ込まれて待たされる俺。ひーまーだー。この時間がひーまーだー。
「コン!コン!」
「ああ、ちょっと腹が減っちまったのか?ちょっと待っててくれよ。あとちょっとで買い取りが終わるから、そしたら残った肉全部食っていいからさ。」
「コーン!コーンコーン!」
「はは、楽しみに待っておきな。」
「お待たせしました。こちらが新しいギルドカードになります。お確かめください。」
「はいはいどうも。っと確かに。」
「それではCランク以上になりましたので傭兵依頼を受けることが可能になりました。説明をお聞きになりますか?」
「おお、頼むぜ。」
「では。傭兵依頼とは主に各国から依頼される傭兵になる内容の依頼です。依頼を受けるとギルドからギルドカードとは別に傭兵カードというものを渡されます。」
いろいろ受付嬢から説明を聞かされ、まとめるとこうなった。
・傭兵カードには魔法がかかっており、味方した国に何か不利益なことをしてもわかるように行動記録機能がついている。それはギルドの方で依頼達成前に確認されるのでそれによって依頼の成功か失敗かを判断する。
・もし依頼を受けるだけ受けて後は隠れてばっかりで戦闘をしていなかったということがあると例え味方した国が勝っても依頼不達成ということになり報酬は出ない。また、情報を相手国側に流したりすると厳罰が課され、登録抹消も十分にありうるとのこと。
・戦争に出て活躍したり依頼主側の国の目に留まるような活躍をした際には国側から召し抱えられる、貴族の地位などを与えられる、領地内で優遇されるなどの褒美をもらうことがある。それらの褒美は受け取ってもちゃんとギルドから報酬は出る。
・腕が良いと国側から直接冒険者に傭兵依頼を頼むこともあるらしくその場合にはギルドは関与せず当事者同士で報酬や罰則は決めなくてはならない。例えそこでトラブルがあってもギルドは関与しない。
が大まかな仕組みと注意だ。これは要は味方した国を裏切らずにただ戦ってりゃ報酬は出るってことだな。何か不備があればまた後で聞いてもいいだろう。
「わかった、ありがとな。そろそろ買い取りの準備も終わっただろうから行くわ。」
「はい、おめでとうございます。お気をつけて。」
下に降りるとギルドの職員から声をかけられた。報酬と買い取りの準備ができたから素材カウンダ―に来て欲しいらしい。
「お待たせしました。これがマンティコアの買い取り金額です。白金貨5枚ですのでお確かめください。」
周りから「おお!」とどよめきの声が聞こえる。白金貨なんて基本的に国同士で使うだけで一般の連中には一生目にする機会もないからな。そう考えるとちょっと優越感。
「確かに受け取った。じゃあ。」
「はい。それではお気をつけて。」
さーてと、亜空間に入れて白金貨の複製も完了したし次はシュタインのところだな。その前に残った部位が広場に残ってるらしいからそれも回収しないと。




