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ラッキースケベですか?いいえ不可抗力です

ちょっとした定番をつたないながらもやらせてもらいます。

 …なんだ、この状況は。いや、落ち着け。ちゃんと確認するんだ。順番に記憶をたどっていけばどうにか思い出せるはずだ。今俺の目の前には一人の少女が寝ている。年は10歳くらいで肩と腰の間まで伸びた長くて白い髪に整った顔。その道の連中が見れば間違いなく犯罪に走るだろう魅力を備えている。

 そしてここが重要だが…その少女は何も着ていない(・・・・・・・)のだ。


「お…おかしい。俺は確かに昨夜疲れていたから帰るとそのまま寝てたはずだ。リイも肉食ってたのを覚えてるし…ってそうだ!リイ!リイ、どこ行った!」


 よくよく考えてみると起きてからリイの姿を見ていない。見える範囲にいないだけかもしれないがそれ程大きくない部屋だ、そう簡単に見失うはずがない。外に出たか?とも思ったがドアが開いた形跡もないしちゃんと鍵もかかっている。リイが自分で出ていったのなら鍵が閉まっているはずがない。


「ん…んーん…ふぁー。」


 そんなことを考えていると少女が目を覚ました。ちょうどいい、いろいろと聞きたいことがあるしちゃっちゃと聞きたいことを聞いてしまおう。返答次第では…


「あ、ご主人様!おはよう!」


 待て。待て待て待て。こいつ今なんて言った?ご主人様?誰が?俺はいつのまに奴隷を買ったんだ?しかも昨夜は一人で寝てたはずだぞ。


「お…お前は誰だ。どうしてここにいる。」


「え…なんで?なんでそんなこと言うのご主人様…。昨日まであんなに可愛がってくれたのに…。」


「いやいや、俺はお前なんか知らんから。適当なこと言わないで正直に…」


「知らないなんて嘘だもん!初めて会った時に体洗ってくれたし、体中見回してたじゃない!それ以外にも『見せつけてやるか』って言って人前でじゃれあったりお肉たくさん買ってくれたり他の人に撫でまわさせたりしたじゃない!」


 少女は俺の上に覆いかぶさったまま一気にまくしたてる。長めの髪が俺の顔にかかって不覚にも少しときめいてしまった。いや、落ち着け。こいつのことを俺は知らない。ということはこいつが言っていることはただの妄言であってそんな事実は…


「そんなぁ…本当に忘れちゃったの…?」


 だ、騙されない。騙されないからな、俺は!そ、そんな潤んだ目で今にも泣き出しそうになってたり心底悲しそうな顔をされても俺は騙されないぞ、絶対に!…ん?あれ?今こいつが言ったことをやった相手に心当たりがあるぞ。もしかしてこいつって…


ゴン!


 …ん?なんだ、今の音?少女の後ろから聞こえてきた。見てみるとそこには…


「あ、あの…使い魔をお持ちということですからお部屋の清掃に来たのですが…。ご、ごめんなさい!」


 ああ…確かにリイを連れてきたときおっちゃんが言ってたな。『毎日掃除のために宿の人間が部屋を訪ねる』って…。確かに言ってたなぁ…。きっと昨夜もいろいろあって疲れてたんだろうなぁ。そしてそんな朝早くに宿の人間が訪ねてくるわけないから今は朝じゃないんだろうなぁ。…や、やべえ今の状況は非常にマズイ。俺を擁護するものが何もねえ!


「ま、待ってくれ!い、何時からいたんだ?」


 俺は逃げる途中の掃除に来たというお姉さんに尋ねる。あ、危なかった…あとちょっとで完全に逃げられるところだった。


「そ、その…そちらの子が『昨日まで可愛がってくれてたのに』のところからで…す…。ごめんなさい、失礼します!」


 そのままお姉さんはダッシュで今度こそ完全に逃げて行った。そっかー、そんな最初からかー。きっと急にご主人様なんて言われて混乱してたから聞き逃してたんだろうなぁ。んで掃除はしなけりゃいけないから鍵を開けて入ったらこの状況だったと。…終わったな、俺。この状況はさすがに言い逃れできねえわ……。


 さて、ここで改めて今の状況を説明しよう。今少女は全裸で俺の上に馬乗り状態。目には涙をため悲しい顔をしていてさっきの『昨日まで可愛がってくれてた』発言から聞かれていた。そしてその後には『ご主人様』『体を洗った』『体中見て回った』『人前でじゃれあった』『いろんな人に撫でまわさせた』などなど数々の誤解を受けそうな発言。


 それに対して俺は『お前なんか知らない』『適当なことを言うな』など女性をさんざんもてあそんだ挙句捨てたともとれる最低な発言…。

 つんだあああああああああ!もうだめだ、これ以上は俺が何をどう言おうが言い訳にしか聞こえねええええええ!こういう宿の人間って噂話とか敏感だからすぐに広まっちまうううううう!少なくともこの宿の女性従業員からは白い目で見られること確実だああああああああ!


「どうしたの、ご主人様?どこか痛いの?」


 いや、痛くはない、痛くはないんだよ。ただどうしようもなくやっちまった感がしてじっとしてられないんだ…。



 しばらく経ってから落ち着いた俺は少女に向き合った。因みに今少女は俺が作ったワンピースを着ている。女物なんてよくわからなかったから比較的イメージしやすいワンピースにした。最初は「窮屈だから着たくない」ってさんざん駄々をこねたが「着てくれないと話ができないんだ」の一言ですぐに着始めた。下着は…想像に任せる。ただ、「服の下に服を着る理由が分からない!」って駄々をこねていたとだけ言っておく。


「お前、もしかしてリイか?」


「そうだよ、ご主人様!やっと思い出してくれたんだね!」


 やっぱりか。俺はまだこっちの人間とはあまり長く交流をしてないから話した奴は限られてくる。しかもその中でこの少女が言ったことをした心当たりはリイしかいない。


「でもなんでいきなり人間の姿になってんだ?そんなことができたのか?」


「んーん、違うよ。昨夜、もらったお肉を食べきって眠いなーって思ったら体中が熱くなってちょっとしたら落ち着いたからご主人様の隣で寝たんだよ。この間もそうしてくれてたし。」


「じゃあ原因はリイにもわからないのか?」


「わかるよ、たぶん成長したんだと思う。昨日お肉いっぱいもらったし。」


 それからリイに聞き込みをした結果こういうことらしい。

・ランクフォックスはある程度経験を積んだりすると成長する種族である。例えば戦いをくり返したり自分より強者の肉を食べたりとかだ。

 どうやら昨日の肉はほとんどがリイよりも上位の存在の肉だったらしく、しかも早く成長して俺の役に立ちたいと思ったリイは昨日一日中肉を食べることに集中してたんだとか。


・成長したランクフォックスは尻尾が増え、尻尾が二本以上になると尻尾の数だけ個別の能力を身に着けることができるらしい。そして今は無意識で能力を発動させ人間の姿になっている。恐らく昨夜は初めての成長で能力の制御ができなかったのだろう。


・今のリイの尻尾は四本。リイによるとこれはランクフォックスの大人の個体が持つ本数と同じなんだとか。リイのステータスはこの通りだ。


ランクフォックス

個体名:リイ

HP:1000

MP:5000

保持魔法:変化(チェンジ)狐火(フォックスファイア)空歩(スカイウォーク)部分強化(パーツアップ)

付与魔法:変化(チェンジ)


変化:姿かたちを自由に変化することができる。植物や鉱物などには変化できない。

狐火:炎を発現させる。出現場所、規模は使用者の力量によって変わる。同時に出せる数は尾の数まで。

空歩:魔力を消費して空中を歩くことができる。

部分強化:身体の一部を強化する。強化部分の複数化と強度は使用者の力量によって変わる。


 今は変化で少女の姿になっているがその気になればどんな姿にもなれる。(オスにもなれる。させる気は絶対にないが)試しにキツネの姿に戻ってもらうとリイの親のあのゴミキツネと同じくらいの大きさになっていて尻尾の数も四本に増えていた。


「たった数日でよくこんなに大きくなったな、リイ。昨日態度が素っ気なかったのは成長しようとしてくれてたからなんだな、うれしいぞ。」


「コーン!コンコーン!」


 俺が抱き上げて撫でてやるとうれしそうな顔をしてじゃれてくる。ああ~ホントにカワエー、リイとなら誤解されたままでもいい気がしてきた…ってだめだだめだ!やっぱムリ。俺は人を傷つけるのには耐えられても女性に白い目で見られるのには耐えられねえ。


「さて、そろそろ出かけるか。リイの戦闘能力も見たいし今日は討伐依頼でもとろう。」


「コン!」


 もう噂が広まっているのか女性従業員から冷たい目で見られ、おっちゃんからも『気持ちはわかるがほどほどにしてやれよ。』などありがたいお言葉をいただいた。もうやだ…宿代もったいないけど宿変えようかな…。 


「まずは腹ごしらえだよな。リイはもう肉はいいのか?」


 首をフルフルと横に振る。まあ上位の肉は皆食っただろうしランクアップした今となっては上位の肉は手持ちにないからがっつかなくてもいいわけか。でもそうなるとリイは俺のためにあんなに必死に食っててくれたってことになるよな…愛いやつだ。また宝石肉買ってやろう。


「というわけでやってきたぜ、コイル。とりあえずもんじゃ五つ頼む。」


「らっしゃい。もんじゃってなんだよ、モモル焼きだ。…その肩のキツネはなんだ?」


 腹ごしらえのためにコイルの店でもんじゃを頼む。リイは出かけると言ったら変化で昨日までの大きさになって俺の肩に陣取っている。


「こいつは昨日仲間になったリイってんだ。」


「コン!」


「へえ、お前使い魔持てんだな。剣なんか指してるからてっきり剣士かと思ったが。…っとまたせたな、モモル焼きだ。」


「剣も魔法も両方いけんだよ、俺は。ほい、銅貨五枚。」


 リイは最初もんじゃを嫌がっていたがもんじゃの匂いを嗅いで、俺が先に食ってみせると恐る恐る口をつけてみた。すると気に入ったのか二つをあっさりと食べ終え、結局追加で三つ注文してやった。どうやら食いしん坊なのは元からであるらしい。


「ごっそさん、今日もうまかったよ。まあ宿で飯食うよりも高くついちまったけどな。すっぽかした俺が悪いんだが。」


「今んとこお前くらいだよ、これ買ってくれるのは。俺としてはずっと宿の飯をくいっぱぐれて欲しいところだ。」


「まあ、リイも気に入ったみたいだしな。ちょくちょく来るようにはしてやるよ。」


 コイルの店を離れ、冒険者ギルドに向かった。中に入るとそれまでにぎやかだったのがスッと静まった。そういえば昨日バカをゴミ箱シュートした気がするからそのせいか。人をぶん投げるやつなんていくらこの世界でもほとんどいないってことだな。


「ふむ、この依頼が妥当だな。やっぱりゴブリンなんて雑魚はいらねえや。」


ランクE

依頼料 銅貨10枚

依頼内容 コボルト5匹の討伐

備考 ナルーダの森でコボルトが増えてきているため狩ってほしい。5匹以上狩るごとに銅貨1枚を報酬に上乗せする。


 せっかくだから昨日話題に上ったマリーちゃんのところに行こう。あれ?なんで話題になったんだっけ…ああ、そうか!一番最初にリイを撫でて、七日草を数えるのに夢中になってんなーとか思ったからだ。そーだそーだ、謎はすべて解けた。


「マリーちゃん、この依頼を受けたいんだけど。」


「あ、シキさんにリイちゃん。あれ、私名乗りましたっけ?」


「いや、マリーちゃんが可愛いって皆が噂しててな、それを聞いたんだよ。俺こそ名乗ったか?」


「か、かわいいだなんてそんな…。シキさんの名前を知ってたのは昨日ギルドカードを提示してもらった時に名前を見たんですよ。」


 あー確かにやったな、そんなこと。まだ見ぬ店に思いをはせてたからそのことをすっかり忘れてた。確かにそんなこともやったな。


「まあ、本当のことだからな。それよりもそれを頼むわ。」


「あ、はい。ではいってらっしゃいませ。お気をつけて。」


 行く前にコボルトの特徴を調べておく。普通の犬が二足歩行したような感じだ。特徴は犬並みの嗅覚とゴブリン同様集団行動をして雑魚装備をしている。戦闘力はゴブリン並みかそれ以下だが足の速さと嗅覚で追撃とかも普通にするからゴブリンよりもたちが悪い。

 

 昨日のあのクマのことも調べてみたらランクの区分はAになってた。見た目同様のタフさと筋力だけでなく特定部位が鱗で覆われているためその固さを利用した攻撃は強力らしい。その肉は絶品で、その他の体の部位もほとんどが結構高値で取引されているらしい。丸ごととってあるから後でそのまま売りに行こう。


 ナルーダの森っていうのは俺が七日草を抜いていた森だったので、いつも通り門のおっちゃんに声をかけてツンデレをもらい、森に入った。探査ですぐさまコボルトを5匹発見する。


「リイ、試しにこいつらの相手をしてみてくれ。」


「コーン!」


 雄たけびをあげながら変化を解き、元の姿に戻るとコボルトの一体に一瞬で詰めより部分強化したであろう右前脚で一気に首を刈り取った。その勢いを失わないまますぐ次のコボルトに詰め寄り一閃。またもやコボルトの首が飛ぶ。


「グルルルルル!」


 コボルトの一体が反撃をくらわせようと突っ込むがリイは狐火を突っ込んできたコボルトに対して見もせずに使い、頭を丸焦げにする。それと同時に残り2匹の足にも狐火が広がりこちらもすぐに丸焦げになった。後は簡単に首を狩って終了という鮮やかな行動だった。


「いいぞ、リイ。すばらしい!お前がこんなに強いなんてな。」


「コーンコンコンコーン!」


 鮮やかすぎたのでものすごく撫でまわしてやる。リイも嬉しそうにじゃれついてくるという最近定番の光景が広がりそろそろ帰るかというところで


「グルオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ものすごい雄たけびが聞こえ、探査に今までにない飛び切りの反応があった。


 

次回は戦闘回です。苦手ではありますが頑張らせていただきます。

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