店長たちの裏側
一応これからつなげやすいようにギルドと絡めようと思って書きました。
「これはこれはシキさんもう来てくれたのですか。おお!もしやこれらは!」
「そうだ、実験協力者だ。なるべく体に傷をつけないようにしといたぜ。」
「ん~いいですねぇ、すばらしい。私がやるとどうしても体に毒なんかが入ってそれを抜くのに時間がかかるのですが見た限りそれらの状態異常にはかかってませんし外傷もない。実にいい検体ですよ。さしつかえなければどうやったのか教えていただいても?」
「なにも特別なことはしてねえさ。ただ怖いものを見て勝手に気絶したってだけだ。」
結構泣いたからな、こいつら。それにしてもその中の一人はしきりに『お母さん、お母さん』言ってたけど母親関連で怖いことってなんなのかね?
「おやおやおや!それはそれは恐ろしいものを見たのでしょうねぇ。」
「ああ、全員怖がって地面に泣き叫びながらのた打ち回ってたよ。でだ、報酬の件なんだが…。」
「おお、そうでした!ちょうど今やりたい実験がありましてねぇ、ちょうど検体が欲しかったところでしたから助かりましたよ。それも含めて考えませんとねぇ。なにかご希望はあります?」
「店頭にあるものはさっきあらかた見たから今はいいかな。金も特に不自由はしてねえし…そうだ、通信機みたいなのはあるか?そうすりゃ検体が欲しい時は予約もできるだろ?俺もシュタインが面白いもの作った時には連絡欲しいしな。」
「そんなものでよろしいんですか?ならちょうどよいものがありますよ、これです。」
シュタインがカウンターの下から取り出したのはビー玉みたいな二つの水晶玉だった。
「これはちょっと前に作った世界初の通信機なのですがいかんせん使い勝手が悪すぎましてねぇ、対応した水晶を持った相手と連絡がとれるのはいいのですが連絡がとれる相手の数だけこの水晶を持たなければいけないので多いとかさばってしまうのですよ。おまけにどの水晶がどの相手に対応しているか分からないですから『連絡相手の水晶がどれかわからない』なんてことがザラに起きてしまいます。だからしまっていたのですが…。」
「一人や二人ならほとんど問題ないだろ、そんなの。それよりも世界初なのか、これ?」
「えぇ、遠距離の相手と会話をするような魔法は開発されていませんし我々のような魔道具士が今までどれだけ研究を重ねても未だに通信機の魔道具はこれ以外開発されていないはずですからね。もしや知らなかったのですか?」
「世情に疎くてな、ほとんど右も左もわからねえんだわ、これが。」
「シキさんは本当に面白い方ですねぇ。一体どのような生活を送ったらそのようになるのですか?」
「そうだな…世界の果てやその先とかに住んでたらこうなのかもな。」
「世界の果てですかぁ、そこまで行けたらどれ程の研究材料があるのでしょうかねぇ。」
「きっと未知のものがやたらあるだろうよ。ほら、報酬も決まったし持っていきな。その拘束具はサービスだ。付けたやつが動けば電気が走って動けなくなるぜ。」
「そんなものまでつけていだたけるとは!私の報酬なんて微々たるものですねぇ、もっとなにか差し上げたいのですが…。」
「いいって、その分これからに期待するとするさ。なんか面白そうなもののアイディア持ってきたらできる限り試してみてくれる程度でかまわねえよ。」
「では何か思いつきましたらどうぞ遠慮せずにお持ちください。研究させていただきますよ。」
俺とリイはシュタインの店を出た。リイは朝から変わらずに一心に肉を食い続けている。ずっと食ってるけど大丈夫なのか?ちょっと心配になってきた。
「なあリイ、お前そんなに食って大丈夫なのか?」
「コン!コンコン!」
返事はちゃんとしてくれるようだ。その時は俺の方を見て話してくれるからいいが会話が終わるとすぐに肉を食うのに必死になった。本当に何もなければいいが…。
「何かあったらすぐに言えよ?俺たちはもう家族なんだから。それじゃ、宿に戻るぞ。」
「コン!」
心なしか肩の上で肉を食いながらも体を摺り寄せてくるリイをかわいがりながら宿の部屋に戻った。晩飯は帰る途中で露店で焼き鳥のような串に肉のささったものを売ってたのでそれで済ませた。なんで腐るほど肉持ってんのに肉くわにゃいけんのだか。うまいからいいが。
さて、明日は討伐系の依頼でも受けるかね。
side店長たち
「おやぁ、あなた方もギルドマスター殿に報告ですか?」
「シュタインさんもーガンデさんもそうなんですかー?」
「ふん…お前らと一緒になるとはな。」
この三人、店がら冒険者達がよくやってくるのでギルドとちょっとした繋がりがある。店に来た将来有望と思われる冒険者の発掘や逆にマナーの悪い冒険者の摘発などをギルドから各々頼まれているのだ。もちろん他の店にもいるのだが今回この三人が同時に来た理由とは…
「私は店にシキさんという興味深い冒険者が来たので報告をと思いまして。」
「私もーそうですー。シキさんはー不思議な人でしたー。」
「…同じだ。」
そう、先ほど三人の店に訪れたシキのことについてだ。
「あの方は面白い方でしたよ。私の店に入ってきたと思ったら私の実験協力をしてくださると約束をしていったと思ったらそう時間がかからないうちに四人も連れてきてくださりましてねぇ。なかなか馬が合いそうな人でしたよ。」
「シュタインさんのお店に入るなんてー勇気がありますねー。」
「…ふん、趣味が悪い証拠だ。」
ちなみにシュタインの店は普段は人は近寄らない。例えこの街で唯一の魔道具屋であろうともあの店に入ろうなどという物好きはおらず、また一部の物にはシュタイン自身のことも知られているため滅多に人は寄り付かないからだ。何も知らない旅の冒険者ですらあの外見と店の評判を聞いただけで近寄ろうとはしないのだ。
シキも店のことを聞くたびに行かない方がいいと言われ続けたが全部無視していた。自分に自信があったこともそうだが魔法がかかっているといわれている道具を一目見たいという欲求が勝ったからでもある。
「では準備もよろしいようですし三人で報告といきましょうかねぇ。」
「はいー。」
「…ふん。」
三人が入った部屋は冒険者ギルドのギルド長室の中である。その中で机に向かいながら書類に目を通している男、バルタックがいた。彼はもともとはSランクの冒険者だったが当時のギルド上層部から引退間際に幹部にと招き入れられた経歴がある。引退し年を取った今でもAランクの上位クラスの力があるといわれている豪傑だ。
「よく来たな三人とも。何か奇妙な冒険者を発見したとのことだが?」
「はい、ギルド長。どうやら私たち三人ともシキさんという冒険者のことでそれぞれ報告があるらしいので順番に報告をと思いますがどうでしょうか?」
「いいだろう、では順番に頼む。」
「ではまずは私から。シキさんは私の店に入ってきた後に私の実験協力を申し出てくれただけではなくその日のうちに四人も連れてきてくれました。しかも連れてきた四人にまったく外傷もなく、体内から毒の類も検出されませんでした。おかげでキレイな素材が手に入りましたけどねぇ。」
「お前の趣味は自重してくれとさんざん釘を打っておいたはずなんだがな。いくら裏通りの連中とはいえそう何人も連れていくのはよせといったはずだ。今はよくても止めないとその内お前を捕まえなければならなくなるぞ。…今は置いておくとしてそれだけか?」
「いえ、他にもありまして。というのも彼が持っていた財布です。見た目も素材も間違いなくそこらへんにあるような麻の類だったのですが気配は間違いなく魔道具で、中を確かめてみるとドゥーム以上の収納能力があることが分かりました。
しかも彼は私の目の前でもう一つ同じものを作って見せて私の店で買った商品をそのまま入れたのです。」
「なに?ドゥーム以上の収納力だと?しかも目の前でつくっただと?」
ドゥームとは魔道具の一つで小さな袋の中に袋の大きさ以上のものを入れられる上級の冒険者から王国の騎士までの上級者層で使われているものだ。収納力は見た目の10倍以上を収納できるのがそれでも10倍までが限度だ。シキの持つそれとは比べるべくもない。
そして製作にも素材は上級の魔物の皮を使い、かける魔法も十分に魔力と準備を重ねた上でようやく作れるものであるので需要に比べて供給はかなり低い。持っていることが強者としてのステータスと言われている。
「はい、信じられないでしょうが事実です。では私の報告はこれで。」
「次はー私ですねー。シキさんが連れてたランクフォックスのリイちゃんなんですけどー、色が白かったんですよー。」
「色が白かった…染めたとかではなくか?しかも使い魔として連れていただと?」
本来なら魔物の色が変わるなどということはありえない。変わっている個体はユニークと呼ばれ同種族以上の実力を持っている。その事例も珍しく、一般にはあまり知られてないため街中にいても特に騒がれることはないが、見るものが見ればわかる。
もし本当に本来色が黒いはずのランクフォックスの色が白かったらそれはユニークの可能性が高く、しかも使い魔として連れているとは珍しいなどということでは済まされないのである。
「まったくどんなやつなんだ、そいつは…。分かった、最後にガンデの報告を頼む。」
「…あいつの装備を見た。七本の剣以外は特に何も持っていないようだったがその剣の一本一本がすさまじい性能だ。恐らく伝説級いや、下手をすると神級まで行くかもしれん。防具も軽鎧だったがその剣と価値は同等だ。これも伝説級か神級までいくだろう。」
当然ながら武器にもランクがある。下から順に ノーマル━レア━マスター━古代━伝説━神と上がっていく。その中でも最上位層にあるランクの武器は各国の王族の家宝などでせいぜい数本だけ伝説級が現存するだけで神級はもう世界中のどこにもないと言われているほどの代物だ。それをただの冒険者が持っているとは…
「信じられん…お前たちを疑っているわけではないがやはりそんな存在がいるということはすぐには信じられないな…。ユニークとおぼしき使い魔を持っていて、魔法使いと思ったら神級に届きうる武器防具とドゥーム以上の性能の道具を所持。そんなおとぎ話のような存在がいるとは…。」
「信じられないのはわかりますよ、ギルド長。ですが今は事実を見極めるためにしばらく様子をみる程度にとどめてはくださいませんか?」
「まあそれはいいが…お前の実験に協力している時点であまり性格はいいとは言えなさそうだな。」
「とても興味深い方なんですがねぇ。気も合いますしいい友人関係が築けそうなんですよ。」
そうして夜は更けていく。
次回こそ、次回こそは魔物と戦わせたいと思います。ランクアップの時は近いですかねぇ?
個人的にはシュタインのようなキャラが大好きです。




