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133.比類なき破壊

133話目です。

よろしくお願いします。

 戦闘開始の報を聞いたヴェルナーは、すぐさま手勢を全て引き連れて国境方面へと出張った。とにかく状況を把握するにも現地へと赴く必要があると判断し、なおかつ可能な限り最大の戦力で敵を叩くべきだと判断したからだ。

「情報は?」

 どうにか覚え始めた森を、念のためオータニアに案内させて進みながらヴェルナーは尋ねる。


「詳しくはわかりません。騎士アルトドルファーの部下が駆け込んで帝国兵との戦闘が始まった、と報告があったのみです」

 イレーヌの報告は簡潔で好ましいものだったが、それだけに情報が少なすぎた。

 森の中で馬は使えず、ヴェルナー以下部下たちは全員、走りにくい森の中、根や草をかき分けて走る。


 数時間後、森の外縁近くに到達したところで、先行していた兵士たちが引き返してきた。

「敵の数は一千名に近い人数です!」

 絶叫の様な報告に、兵士たちは動揺する。

「せ、千だって……」

「こっちは百人もいないぞ?」


 絶望的だ、とざわめく兵士たちに、アシュリンとイレーヌは不愉快そうに顔を顰めた。

 だが、口を開いたのはヴェルナーが先だった。

「狼狽えるな。一千名が来たということは、ここで帝国の兵を一千名減らせるということだ」

 都合が良い、とヴェルナーは笑う。

「アルトドルファーがどういう理由でそんな大集団と戦端を開いたかは不明だが……」


 部隊の足を止めたヴェルナーは振り返り、ブルーノ以下自分を注視する臣下たちへと目を向けた。

「とりあえずは、助けねばなるまい。失敗したからといって見捨てるような真似を俺はしない」

 しかし、とヴェルナーは言う。


「俺の命令に背いた結果というのであれば、助かった命はそう長く保てると思わないことだ。これは俺の国に所属するものの大原則と知れ」

 兵士たちは改めてヴェルナーの在り方に畏怖の念を覚えた。

 一千名の敵を葬ることが当然で容易いことであると言い、王として忠臣には報い、裏切り者は許さぬと明言したのだ。


 そして、これからそれを証明するつもりであることは皆がはっきり確信していた。

「アシュリン、イレーヌ。二人は俺と共に敵の殲滅を手伝え。ブルーノ、残りの者たちを率いて森の中で待機。最初の爆発後に突撃してアルトドルファー以下同胞を抱えて森へひっこめ」

 ブルーノは息を飲んだ。逃げ遅れればアルトドルファーたちと共にヴェルナーの爆破に巻き込まれるかも知れない、と。


「そんな顔をするな」

 ヴェルナーは笑って鎧を着たブルーノの胸に拳を当てた。

「お前を殺そうなど思ったことは無い。余計な心配をせず、デニスより先に派手な戦功をあげておけ。自慢できるぞ?」

「なぁるほど! そういうことなら、頑張らねぇと!」


●○●


「ひぃ、ひぃ……」

 百倍の軍勢を相手に、逃げ回ることでアルトドルファーはどうにか命を長らえていた。

 少数を相手に矢を温存しているのか、帝国兵は矢を使うことなく馬上槍で追いかけまわしてくる。

散り散りに逃げることでアルトドルファーと十名のラングミュア兵は生き延び、体力が続く限り走っていた。


 しかし、アルトドルファーたちは森に慣れておらず、入れば迷うこと、罠を避けて行こうにも全力で駆け込んでの判別は無理だと判断し、森の外縁から国境近辺をぐるぐると回っていた。

 そんな時だった。

 土煙をあげて迫りくる帝国兵たちが、突如として弾け飛んだ。


「な、な……」

 爆発の余波で地面に転がったアルトドルファーは、何が起きたか理解できずに呆然としていた。

 その頭上を、ぼろ雑巾のように千切れて飛んでいく帝国兵たち。

「ひいっ!?」

 飛来した馬上槍が顔のすぐ横をかすめて地面へ突き立つと、ようやくアルトドルファーは状況を知る。


 中央がはじけ飛んだ帝国兵は混乱の極みにあるが、その中に立て続けに次々と土塊の様なものが遠くから飛び込んでいくのが見えた。

 どこから来ているのか、とアルトドルファーが首を巡らせると、森の方で小柄な人物が一抱えはあろうかというそれを放り投げているのが見えた。

 そして、その近くから数十名の男たちが駆けてくるのも。


「助かった……?」

 その呟きは、目の前に雷撃がほとばしり、足止めされた帝国兵たちの動揺する声にかき消された。

 さらに、自分の目の前にも粘土のようなものが拳程度の大きさでぼとぼとと落ちて来たことで、それが何なのか気付いたアルトドルファーたちは慌てて立ち上がる。


「た、助けてくれ!」

「助けてやるから、さっさと来い!」

 駆けつけてきたブルーノに腕を掴まれ、引きずられるようにしてい森へと向かいながらアルトドルファーは安堵に包まれていた。

「十人いただろう! 他の連中はどうした!?」


「……死んだ」

「ちっ!」

 アルトドルファーの返答に舌打ちをしたブルーノは、それでも半数が残っているのは奇跡だな、と呟いた。

「仕方なかったんだ! 状況が……!」


「報告は陛下に直接やれ」

「へ、陛下に……」

 ブルーノは聞く耳を持たず、アルトドルファーを引き連れて大急ぎでその場を離脱する。モタモタしていたら爆発に巻き込まれてしまう。

「ふぅ、ふぅ……」


 全力で往復し、ようやく森へとたどり着いたブルーノが振り返りながら腰を下ろすと、数百メートル離れた場所では大規模な爆発が立て続けに起きていた。

 爆発は一か所ではない。

 帝国兵の集団はアルトドルファーたちとの分断に使われた小爆発、中央部を吹き飛ばした大爆発、退路を断つように後方広範囲で立て続けに起こる中規模の爆発に翻弄されている。


 いや、翻弄という生易しいものではない。

 敵の足を止め、まとめて爆殺していた。狩猟ではなく、戦闘でも無く、ただただ一方的に蹂躙されている帝国兵。

「うおお……陛下はこれだけ立て続けに攻撃して、なおかつ威力もそのままなのか」

 ブルーノはヴェルナーの魔法が持つ桁外れの能力に舌を巻いた。


「これだけできるんなら、千人の敵が相手でも余裕ある発言できるわけだ」

 味方が巻き込まれない状況であれば、なるほどヴェルナーの能力は敵無しだろう。ブルーノは騎士としては粗野な人物であるが、頭脳が劣るというわけではない。

 目の前の惨状を冷静に観察して、結論を出していた。

「ということは、俺たち凡人が陛下のために役立てるとしたら、しっかり敵と味方を分ける“下準備”をするってことだな」


 わかりやすくて良い、とブルーノは笑った。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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