第33話 ~レポグントにっ……栄光……あれ……~
「アネット、イデム……ッ」
不意に低く唸る様な声が聞こえ、ノイシュが振り向くとそこには手練れの敵戦士ミュンツがいた。
彼の甲冑はいたるところで小札が剥がれ落ちており、その身には無数の生々しい傷が刻まれている。
対峙するマクミルはほとんど手傷もなく、勝敗はほぼ決している様だった。
鉄仮面で素顔を覆った敵部隊の隊長は、仲間達の敗死を前にして何を感じているのだろう――
「――我々はダルビット親衛隊っ、この魂に代えても陛下をお守りするのが、使命なのだッ」
ミュンツが剣先を水平に素早く構えると、まっすぐに隊長へと向けた。
直後に地を蹴り上げていき、そのまま果敢にマクミルへと肉薄していく。
相打ち覚悟の突撃だった――
「攻撃術【灼熱炎塊】ッ」
突如として術句を結ぶ声が耳に届き、ノイシュは視線を向けた。
こちらの視界からノヴァの姿とともに、人の背丈はあろう複数の火炎塊が映る。
彼女の放った猛炎達が瞬く間に眼前を擦過していき、思わずノイシュは顔をしかめながら後ずさる――
――マクミル……っ
とっさにノイシュは視線を隊長へと向けた。
刹那の後、ミュンツの放った剣閃とマクミルのそれが激突して火花が散る――
「うおおおおぉぉッ」
マクミルが裂帛の声を上げながらミュンツの剣を弾き、瞬時に大きく跳躍していく。
直後に巨大な業炎が彼のいた場所へと殺到し、同時に敵隊長の身体を灼き焦がしていく――
「うぐワアアァァ――ッッ」
紅蓮の灼熱にその身を抱かれたミュンツが絶叫するが、新たな炎魔たちは容赦することなく次々と彼を襲っていく。
その度に敵戦士の身体が大きく震え、やがて辺りに肉の焦げた匂いが立ちのぼる――
「レポグントにっ……栄光……あれ……」
微かな声を発し、ミュンツは動かなくなった。
誇り高き敵戦士の死にゆく姿に、思わずノイシュは自らの胸を強く握った。
そうして、どうにか湧き上げる感情に蓋をしようとする――
「どうやら、こちらが負けた様だな」
不意に感情の乏しい声音が耳に届き、ノイシュが顔を向ける。
そこには敵国王のラードヘルンが悠然と佇んでいる。
「ラードヘルン様、どうか剣をお捨て下さい」
マクミルが静かに槌矛を下ろし、その場に跪いた。
「我らとご同行願います。そしてデドラ女王陛下とお会い頂きたく」
次々と小隊の仲間達が座していく姿を見据え、ノイシュは彼等に倣った。
しばらくの沈黙の後、ラードヘルンはゆっくりと握った剣を地面に向かって放った――
「この期に及んで、抵抗など無駄であろう。貴公等の好きなようにせよ」
そう言って敵国の王は顔を横に向けていく。
直後に胸中から激しく感情が迫り、ノイシュは思わず唇を震わせた――
――終わったっ……僕達は最後の戦いに勝ったんだっ、沢山の犠牲を出して――
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手
ミュンツ……レポグント王国のダルビット親衛隊の隊長
ラードヘルン……レポグント王国の国王




