第31話 ~誰も失いたくない、大切な人を……ッ~
「――参るっ、女王陛下の為にッ」
瞬時にマクミルが鎚矛を構えながら跳び出していった。
対して敵部隊の隊長ミュンツが剣を斜めに振り下ろしていく――
「おおオオォォッッ」
刹那の後、両者の武具が激しく打ち鳴らされて火花が周囲に飛び散った。
マクミルはすぐに体勢を立て直すと、動きが影をひく程の速度で次撃を放っていく。
が、驚くことにミュンツもまた引けを取らない素早さでそれも捌いた。
相手も信じられない程の使い手だった。
両者は次々と手数を繰り出していく。
マクミルが相手の脇腹を狙い、槌矛を払う。
しかしミュンツの片手剣により薙ぎ払われる。
直後に敵将の剣が鈍く光った。
隊長の眼を狙い突きが繰り出される。
瞬時にマクミルが首の動きだけで躱す。
二人の動作は衰えるどころか、さらに加速していく――
――マクミル……ッ
ノイシュは眉間に皺を寄せながらも詠唱を続けた。
加勢したくとも足手まといになるだけなので、隊長を信じるしかない。
自然と鼓動が速くなっていく。
ノイシュは懸命に意識を集中させるものの、彼らに比して自分の術の発現は余りにも遅い――
「――発現せよっ、【猛襲巨氷刃】ッ」
いきなり敵方から術句を結ぶ声が響いた。
すぐさまノイシュが前方に視線を向けると、アネットが純白に輝く両手を大きく広げている。
彼女が素早く屈んで両手を地につけた瞬間、瞬く間に大型獣程の大きさはあろう氷の塊が次々と発生していく。
鋭い刃と化した氷塊は瞬く間に地を伝いながらこちらに迫ってきた。
ノイシュが慌てて視線を後方に向けると、そこにビューレとエルンの姿を視認する――
――まずいっ……
ノイシュは荒く息を吐き、奥歯を噛み締める。
このままでは、確実に彼女達が犠牲になる……ッ――
「うおおおぁぁッッ」
裂帛の声とともに全身を甲冑で固めた戦士が脇から躍り出た。
大柄な男は手にした巨大な盾を乱暴に地面へと叩きつける――
――ウォレン……ッ
直後、巨大な氷塊が甲高い音を立てて巨盾と激突した。
行き場を失った氷塊が盾と対峙し、瞬く間に見上げる程の大きさへと膨れ上がっていく。
ウォレンは顔をしかめながら自らの体重をかけて盾を支えた。
その重さと冷気のせいか、次第にウォレンの身体が細かく震え出す――
――僕は、もう……っ
思わずノイシュは片足を前に踏み出す。
――誰も失いたくない、大切な人を……ッ
ノイシュは胸中が熱くなるのを感じつつ術句を結んだ。
すぐさま発現させた術の輝きを刀身へと伝える。
眉に力を込めながら、仲間達に襲いかかる敵戦士達を見すえた――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手
ミュンツ……レポグント王国のダルビット親衛隊の隊長
アネット……レポグント王国のダルビット親衛隊の隊員




