第24話 ~我らの目標はレポグント王室を示す白色の獅子の紋章だっ~
すぐ隣から苦し気な息遣いを感じ、ノイシュはゆっくりと振り向いた。
眼前には眉尻を上げながら歩み続けるエルンの姿があり、大きく身体の軸を揺らしながらも小隊の仲間達と速度を合わせようとしていた。
「大丈夫かい、エルン」
「ごめんなさい……っ」
気丈に応える少女の姿をノイシュは見すえた。
訓練を積んでいない彼女にとって、小隊の仲間達が歩む速度に合わせるのはやはり大変なのだろう。
出発をしてから二千歩は踏破しているはずだった。
既に丘は下り切っており、進む先では高く昇った陽が広い平原を明るく照らしている。
しかし、むしろここから先の行程が大変なはずだ。
もはや自分達は敵軍から離れた場所に陣取っているのではない、四方から喧噪が響き渡り、そう遠くない場所で白刃の輝きが視認できる――
不意に視界の奥から瞬き続ける光が強くなっていくのを視認した瞬間、ヴァルテ小隊の仲間達が次々とその場でうずくまっていく姿をノイシュはとらえた――
――あ、あれはっ……
「エルン、伏せてッ」
思わずノイシュが叫ぶと同時に彼女の腕を掴み、自らもそのまま地面へと倒れた。
「あ……っ」
少女の声を耳にしながらもノイシュが地に顔を着けた瞬間、強烈な明度が視界を容赦なく塗りつぶしていく。
きつく両眼を閉じているにも関わらず、放たれた閃光が容赦なく瞳孔へと侵入してくる。
ノイシュはとっさに少女の背中から覆い被さった。
遠くで何かの爆ぜる轟音が耳朶を打つ――
――エルン、しっかり……っ
やがて純白に彩られた視界がゆっくりと元に戻っていくのを感じ、ノイシュは彼女の身体から離れた。
どうやら敵術士隊による術連携が行われたらしい。
おそらく目標はデドラ女王陛下の率いる術戦士隊だろう、もちろん大神官ヨハネスの率いる術士部隊が相殺しただろうが――
「……もう大丈夫だよ、エルン」
ゆっくりと身体を起こすエルンに向けてノイシュが声をかけると、義妹の少女がこちらへと顔を向けてきた。
「ありがとうございます、お義兄様――」
「――よし、ここからは進軍の速度を上げていくぞ」
エルンの声に被せる様に、隊長の大声が響き渡った。
「いいか、我らはもう戦いの最前線にいる。いつ敵部隊に遭遇するか分からない、決して気を抜くな……っ」
マクミルの話を聞き、ノイシュは強く奥歯を噛んだ。
一気に緊張が実感となって胸中に湧いてくる――
突如としてマクミルの身体から仄かな黄色い光が湧き上がってくるのを、ノイシュは視認した。
光彩から敏捷性増強術を発現させたと分かる――
「敵本隊を発見するまで俺が先導する。他のみんなは散ることなく集団となってついて来い。我らの目標はレポグント王室を示す白色の獅子の紋章だっ、敵陣深くにいるだろうから、気づいたらすぐ知らせてくれ――」
「――エルン、術の詠唱を頼む……っ」
思わずノイシュが義妹に声を上げると、マクミルをはじめ他の仲間達が一斉にこちらへと眼差しを向けてきた。
「ノイシュ」
「ノイシュさん、それはいったい――」
口々にそう告げる仲間達の声を聞きながらも、ノイシュはエルンを見据え続けた――
「――今こそ、君の発現する術増幅の力を貸してほしい」
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手




