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第23話 ~突撃しましょう、隊長……ッ~


「まずいぞっ、見ろ……ッ」


 ウォレンの指し示す方にノイシュが顔を向けると、各方面で配置されたレポグント軍の術戦士隊が一挙に動き出していくのを視認した。


 整列な動きではない、雪崩を打ってデドラ女王率いる部隊へと押し寄せてくる――


「そんな、数が多すぎるッ」


 悲鳴の様なビューレの声を聞きながら、ノイシュは強く奥歯を噛んだ。


 決着をつけるべく敵軍が総攻撃を仕掛けたのだと直感する。


 その兵数はこちらの倍以上はいる。


 圧倒的な差だった。


 このままでは最前線の味方が包囲殲滅されてしまう――


――結局、僕達は圧倒的なレポグント軍の戦力の前に為す術がないのか……っ――


  次の刹那、視界の隅で激しい輝きが放たれるのにノイシュは気づいた。


 最前線ではない、別の方向からだった――


――こ、これは……ッ


 思わず掌で顔を庇いながらも視線を向けると、その光源がリステラ王国軍の術士隊から発せられたものだと分かる。


 その光の柱は更にその明度を強めながら上空高く立ち昇っていく――


――そうか、これがヨハネス校長の言っていた合図……っ


 大神官率いる術士隊が発した瑞光の狼煙は次第にその勢いを弱めていき、大気の中に溶け消えていく。


 大神官の恐るべき奸計に、ノイシュは強く眼を閉じた――


――ヨハネス様、あなたは女王陛下まで囮に利用して、この作戦を……っ――


 ノイシュは大きく息を吐き、掌を握った。


 祖国の興廃のために今、自分達がやらなくてはならない事は――


「――突撃しましょう、隊長……ッ」


 ためらいを隅へと追いやり、ノイシュは考えを告げた。


 眼を開くと他の仲間達が皆こちらに視線を向けている。


 驚きを隠せない彼らの表情に向けて、強く頷いてみせた――


「――敵本隊が手薄となった今こそ、反撃の好機です」


 ノイシュはゆっくりと自らの胸を握った。早鐘を打つ鼓動は痛みさえ伴っていた。


 視界の先でマクミルが強く頷いていく――


「ヴァルテ小隊の諸君ッ」


 そう言葉を発すると隊長が仲間達の顔を見渡していく――


「遂にこの時が来たっ、覚悟はいいなッ」


 そして隊長はこちらへと双眸を向けた――


「これより我々は、敵国の君主ラードヘルンを討ち取るべく出撃するっ」


 そして鞘鳴りを響かせながら、彼は片手剣を抜いた――


「仲間達よ、行くぞッ」


 そう告げるとマクミルはもうこちらを見る事なく、単身で丘を下っていく――


「聖都の人々はオレ達の勝利を信じている。やらなくては」


 ウォレンが巨盾を担ぎ、隊長に付き従った――


「女王陛下、どうかご無事で……っ」


 いつもの落ち着きを払った様子のまま、ノヴァが二人の後に続く――


「この勇士達に、(アニマ)の加護があらん事を――」


 ビューレが緊張した面持ちで仲間達の後を追った――


――みんな……っ


 ノイシュは奥歯を噛み締めると、視線を義妹(エルン)へと移した。すぐ傍らで彼女もまた、こちらに眼差しを向けている――


「エルン、付いてきてくれるかい」


 視線の先で銀髪の少女はそっと眼を細め、ゆっくりと頷いた。


「――はい」


――エルン、有り難う……


 ノイシュは義妹(いもうと)に向かい、頷きを返した――


「――行こう、僕達もっ」


そう告げると義妹(いもうと)の手を取り、仲間達の後を追いかけた。


~登場人物~


ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手


マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手


 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主


 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手


 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手


 エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手


 ヨハネス……リステラ王国の大神官であり、メイ術士学院の校長。術士。男性。蒼幻竜という超高位秘術の使い手


 デドラ……リステラ王国に君臨する女王。女性。


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