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第18話 ~我が隊は奮戦虚しく、壊滅してございますっ~



「もう一度申してみよっ」


 口に含んだ水を吐き出しながら、トドリムは思わず大喝した。


「貴公の部隊は、どのような状況なのだ……っ」


 そう告げると怒りに任せて手にした杯を投げる。


 すぐさま乾いた金属音が耳朶を打ち、平伏した男の前まで転がるのを視認した――


「――我が隊は奮戦虚しく、壊滅してございますっ」


 そう告げながら眼前の男は更にその頭を下げていった――


「我らの中隊長は、トドリム殿下に後を頼むと申されて……壮絶な討ち死を遂げましたッ」


悪夢の様な事実を告げる伝令役の言葉に、思わずトドリムは砂埃を蹴り上げた。


 この瞬間にも敵軍の迫りくる喚声が耳朶を打ってくる。


 絶えず湧き上がるこの怒りと焦燥をどうすれば良いのか分からなかった。


 開戦から既に数刻が経っており、他の隊から挙がる報告も敗走を伝えるものばかりだ。


 間もなくここにも、敵兵が大挙して攻めてくるだろう――


「――すぐさまこの事を後続部隊に知らせよっ……急ぎ増援をここに送れと要請するのだッ」


「はっ……」


そう告げると甲冑を着込んだ伝令の男は身体を起こし、急ぎ足で去っていった。


 トドリムは早鐘を打つ鼓動を感じながらその姿を見送った。


 果たして味方の到着は来るだろうか――


――こうなれば、我らの手勢だけで戦うしかない……っ 


 トドリムは舌を打ちながら前方を見やった。


 そこには屈強そうな戦士達がこちらに背を向け、整然と隊列を組んでいる。


 兵数こそ少ないものの、リステラ軍の中でも屈強な者達を揃えた。彼等が頼みの綱となるだろう――


「ト、トドリム様ァ……っ」


うわずった声で自らの名を呼ばれ、思わず振り向くとそこには青ざめた顔の男達の顔があった。


 派手な衣服をまとい、普段は耳に心地よい言葉をささやく近習達だ――


「敵がぁっ、敵部隊がすぐそこまで……っ」


そう言って近習達が後退っていく。


 彼らが向ける視線の先に自らも眼を凝らすと、獅子を綴った数多の軍旗が視認できた。


 黒地のそれは視界を覆う様に広がっている。


 旗に綴られた金色の獅子の風になびく姿は、まるで彼らがこちらへと疾駆する様だった――


「うっ、うぁわあァァぁぁッ」


 突如として近習達がかけ出し、そのまま逃げ去っていく――


「き、貴様らっ――」


「良いではございませんか」 


 不意に野太い声が耳に届き、トドリムは声の主へと顔を向けた。


 整然と居並ぶ味方部隊の中でも特に上背のある戦士が一人、こちらをまっすぐに見据えていた。


 名前は忘れたが、確か部隊長だったはずだ――


「いざとなったら何の役に立たない者など、捨ておけば良いのです」


 そう言って彼が礼式をとった。


「殿下、ここは我らが死守します。貴方様は術戦士隊の総大将、今のうちにお退き下さい――」


「――馬鹿を申すなっ」


 トドリムは素早く腕を水平に払った。


「聖都から逃げてどこに行けば良いのだっ、我らが生きる場所は、ここだッ」


 そう言って部隊長を睨んだ。彼は一瞬だけ眼を細めると、敵戦士へと向き直っていった――


「――我が術戦士隊よっ、これより敵軍と交戦するッ」


そう言って部隊長は剣を抜き、高く掲げていく。精鋭部隊の中から力強い喚声が響き渡った――


「――全員、筋力増強術の詠唱をせよッ」


 部隊長の命令とともに、周囲から次々と術句が紡がれていく――


――我らが敗れれば、リステラ王国の滅亡は決まったも同然ということだ……っ


味方の詠唱が戦場の喚声を上書きしていく中、トドリムは手にした剣を強く握りしめた


「皆の者戦えっ、女王陛下のためにッ」


~登場人物~


ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手


マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手


 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主


 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手


 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手


 エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手


 トドリム……王弟であり公爵。リステラ王国軍の術戦士隊の大将。男性。



 

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