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第17話 ~伝説の巨獣が、霊力の身体を得て復活していく~


「違うっ、あれは防壁なんかじゃない……ッ」


思わず叫ぶ自分にノイシュは気づいた。


 直後に灼熱の壁は味方リステラ部隊側が膨張し、瞬く間に爆ぜていった。


 激しい破裂音が容赦なく鼓膜を叩き、ノイシュは耐えられずに耳を塞いだ。


 それでも何とか前方を見据えると、熱く滾った無数の粒状物がリステラ軍全体へと降り注いでいる――


――そんなっ、あんな高温を戦士達が浴びたりしたら……っ


 ノイシュが奥歯を強く噛み締めた直後、不意に後方からまばゆい煌きを感じた。


 反射的に顔を向けた途端、強い閃光が網膜に焼きつけられる。


 青紫の染みが視界を遮る中、ノイシュは眼を細めながら光源を探った。


 そこでは青白い光りが巨大な楕円を形づくっており、その四方からは突起状のものが伸びていた。


 下部の二本は巌の様に太く、上部はそれに比べてやや細い。


 楕円の最上部からは輝きが帯状に伸張しており、その先端が大きく二つに割れている。


 そして楕円の後方には最も長大な煌きが左右に広がり、まるで肢体から翼が生えている様だった。


 その姿はまるで――


――あれは、竜……ッ


 ノイシュは大きく瞼を広げた。


 かつてこのイアヌ大陸に存在していたと伝えられる伝説の巨獣が、霊力の身体を得て復活していく。


 輝く巨竜がそのあぎとを開いた。


 驚いた事にその口から鳴き声を発し、周囲へと響かせていく。


 ノイシュは顔をしかめ、両手で耳を抑えながらも巨竜を見据え続けた。


 その巨大な両翼が激しくはためき出し、直後に烈風が湧き起こる。


 最前線では周囲の砂塵や灌木が宙に舞い上がっていくのが見えた。


 竜はなおも鳴き声を上げながら翼の開閉動作を速めていき、暴風もまた勢いを増していく。


 やがて蒼き獣の前方に巨大な竜巻が発生し、上昇気流が渦を巻きながら低木を根こそぎ巻き上げていく。


 地鳴りの様な轟音が耳許を容赦なく聾し、ノイシュは頭痛さえも感じて身を屈めた。


 森の木々が強く枝を震わせ、幹までも揺らしながら悲鳴を上げる――


「――見――敵の――攻撃が――っ」


 途切れがちな修道士の声に何とかその意味をとらえ、ノイシュは視線を向けた。


 いつの間にか荒ぶる旋風はリステラ軍を全体にまで及んでおり、嵐の渦が灼熱の炎魔達を呑み込むとそのまま天空へとさらっていく。


 高々度へと煽られたそれらは互いの身を衝突させる度に激しく燃え上がり、やがて消し炭となっていった――


――ヨハネス猊下……っ


 ノイシュは大きく唾を飲み込んだ。


 大神官の超高位秘術はこれほどの威力を誇るのか……っ――


 不意に右腕を強く握られ、ノイシュが振り向くとそこには銀髪を左右に纏めた少女が立っていた。


「ノイシュ様……っ」


 ノイシュは大きく息を吸うと、彼女に向けて微笑んでみせた。


「……大丈夫だよ、エルン」


そう言って眼前の少女の頬を優しく撫でた。義妹はただ静かに、こちらを見上げていた――


――校長先生、どうかご武運を……ッ


 ノイシュは少女に触れる手とは反対の掌を、強く握った。


~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手


 マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手


 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主


 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手


 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手


 エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手


 ヨハネス……リステラ王国の大神官であり、メイ術士学院の校長。術士。男性。幻の蒼き竜を召喚する超高位秘術の使い手


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