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第16話 ~両軍の術戦士達が武具で盾や地面を叩き、己を鼓舞していった~


 視界一面に広がる紫苑(しえん)の空と地表をノイシュは眺めていた。


 乾坤(けんこん)の隔てから旭が姿を現し、まばゆい陽光が周囲に照射されていく。


 明瞭となっていく眼下の先では両軍の術戦士隊が対峙していた――


「静かだな……」


 傍らから発せられるウォレンの声を聞き、ノイシュは黙したまま頷いた。


 つい先程までは両陣営から盛んに喚声が上がっていたのに――


 不意に対峙している術戦士隊からささやく様な声が漏れ聞こえてくる。


 大集団による術の詠唱が始まった事にノイシュは気づいた。


 その諸声は瞬く間に前線に広がっていき、やがて戦場を大詠唱が覆い尽くした。


 互いの前線部隊からは薄い光芒が次々と湧き上がり、そして消えていく。


 同時に両軍の術戦士達が武具で盾や地面を叩き、己を鼓舞していった――


――始まるっ、決戦が……ッ


 両軍から湧き上がる殺意や熱気といった感情に、ノイシュは心臓がせり上がる感じを覚えた――


 次の瞬間、激しい角笛の音が耳朶を打った。


 それを契機に両軍より大喚声が発せられる。


 最前線の戦士達が整然と進撃していくのを視認し、ノイシュは思わず眼を細めた。


 両軍の術戦士隊が刃の届く間合いに入た直後、次々と両者の間で白刃が煌めいた。


 甲高い剣戟と悲鳴がこちらにまで届き、ノイシュは唇を噛んだ。


 あまりの気勢に意識を呑まれそうになるものの、強くかぶりを振ってどうにか理性を保つ。


 今のところ両軍の気迫は互角だった、しかし――


「やはり、兵数が足りない……っ」


 傍らからの緊迫した声にノイシュが振り向くと、眼前ではマクミルが剣呑な顔つきを浮かべている。


 思わずノイシュは眼を細めた。


 隊長の言う通りだった。前戦の味方は果敢に立ち向かっているが、予備兵の少ない状況でどこまで耐えられるだろうか――


「前方っ、敵部隊からの術連携が……ッ」


不意に少女の鋭い声が耳に届き、ノイシュは顔を向けた。


 そこでは目尻を美しい鋭角に描くノヴァが敵部隊の後方を指し示している。


 急いで彼女の白い指先の方に顔を向けると、後列の敵部隊が強い輝きを放っている――


――なっ、なんだ……っ


 不意にまばゆい紅蓮の煌きが両軍の最前線から放たれるのに気づき、ノイシュは眉を吊り上げた。


 紅い輝きは地表から生ずるとゆっくりと迫り上がり、両軍の間で壁となっていく。


 その表面に触れた戦士の腕や脚から炎と煙が湧き上がった。


 彼等が悲鳴を上げて転捻する姿を視認し、それが灼ける様な高熱を帯びている事にノイシュは気づく。


 やがて敵の大規模術は大人の背丈の十人分はあろうという高さにまで達した――


「焔の巨壁、術防御か……っ」


 隊長が発する驚きの声を聞きながらも、ノイシュはひたすら前方を見据え続けた。遠目でも分かる程の灼熱と陽炎を放つその大規模術が、不意に僅かに震え出す――


「違うっ、あれは防壁なんかじゃない……ッ」



~登場人物~


ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手


マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手


 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主


 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手


 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手


 エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手



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