第2話 ~私っ、何も知らないでッ……ノイシュ様を少しずつ、疑い始めてて……ッ~
「暗紅の悪魔っ……あのミネアと云う人は、あなたにとって一体……ッ」
眼前の少女から意表を突く言葉をかけられ、思わず顔を背けてしまう。あの時、僕がミネアに放った言葉を聞いていたんだ――
「……彼女は、僕の義妹だったんだ」
ノイシュはゆっくりと自らの胸を強く握った。
「……ミネアと僕は、義兄妹として何年も一緒に生きてきた。でも、戦場で僕を助けようとして、あんな姿に……っ」
「ノイシュ様……」
「僕は結局、ミネアを守れなかった……君のお兄さんの事だって、だから僕のせいなんだ……っ」
ノイシュがゆっくりと視線をエルンに向けると、少女の瞳から一滴の涙が溢れていくのを視認する――
「だからせめてっ、君だけは守りたいんだ……ッ」
ノイシュはそのままエルンのまなざしを見つめ返す。彼女の瞳の奥は濡れていた――
「――ごめん、こんな事を言われても、迷惑だよね……」
ノイシュは自らの掌を強く握ると、彼女から顔を背けた。
――エルン、君にとってはきっと僕も、家族の仇だよね……ッ
「ごめんなさい……ッ」
不意に前から駆け寄る足音が耳朶を打ち、ノイシュが視線を戻すと同時に少女が胸元へととび込んできた――
「私っ、何も知らないでッ……ノイシュ様を少しずつ、疑い始めてて……ッ」
――エルン……ッ
嗚咽が混じる彼女の声を聞き、ノイシュは奥歯を噛み締めた――
「私ッ、あなた様を信じますっ……筏の上で死ぬかもしれなかった私達を……あなた様は、助けてくれた……ッ」
ノイシュはむせび泣くの少女の頭を撫でながら、彼女の胸中に想いを馳せた。両親だけでなく、唯一生き残った兄までも失った彼女の悲しみと不安は、一体どれほどのものだろう――
「どうか私を……っ」
エルンの声が聞こえて視線を下ろすと、次々と涙を溢している彼女の顔が眼前にあった。
「私をあなたの義妹にして下さいっ、お義兄様……ッ」
――エルン……ッ
「……うん。約束するよ」
ノイシュは両眼を閉じてエルンの肩に両手を置いた。
「これからはずっと、君は、僕の義妹だから」
「はい――」
次の瞬間、何かの空気音が耳に届いた。途端に少女の顔が赤くなり、お腹を押さえていく。
「ご、ごめんなさいっ、お義兄様……っ」
どうやら義妹のお腹から発せられたものらしく、思わず微笑んでしまう――
「もう粉焼き屋さん、開いているかな。行ってみようか」
穏やかな口調で声をかけると、眼前の義妹がほほんでいった。
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
エルン……ノイシュの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手。




