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第11話 ~エルン、これからは僕の代わりに、ノイシュさんに力を貸すんだ……っ~


――超高位秘術……っ


 次の瞬間、ミネアが腕を横に振り払うと魂放出術が勢いのまま落下していく。その先には斃れたバスティやロンデの身体があった――


「まさか、そんなっ……


ノイシュがそう声を上げた途端、魂を弄ぶ魔蛇達が次々と取り憑いた。そして戦士達の遺骸が再び開けることのない両眼を剥くと、ゆっくりと起き上がっていく――


「こちらもいくぞッ」


 そう告げるミネアの声に急いでノイシュが振り向くと、視界を埋める程の巨大な火炎塊が忽ち落下して来るのに気付く。あれ程の大きさを避けるなど不可能だ――


「うわあああぁぁッ」


 絶叫するヒャルトが両手を払った瞬間、激しい風が吹き荒れるとともに厳しい寒気をノイシュは肌に感じた。周囲の空気が一瞬にして張り詰め、放たれた術の軌道から凍り付いた空気が白く霧の様に立ち込めるのを視認する――


 直後、視界の隅で一閃する輝きに気がつくとノイシュは急いで視線を向けた。光に包まれた黒焦げの死霊兵達がそれぞれ大きく剣を振りかぶっている姿をとらえる――


――あれはっ、衝撃剣……ッ


 直後、彼らの巨剣が大きく振り下ろされた。その刀身に宿った煌きが空に散るや甲高い音を立てて下草が激しく薙いでいく――


「く……ッ」


 ノイシュはとっさに駆け出し、衝撃波へと向かっていった。視界の先では両眼を閉じて術に集中する少女の姿が映る。衝撃波の勢力圏へと踏み入れたのか風圧を肌で感じ、瞬く間にそれが強くなっていく。思わず身体の均衡を崩すが何とか足先だけは前に動かしていき、半ば少女に体当たりしながらもその肩を掴むと、そのまま地面にねじ伏せる――


 刹那の後、耳をつんざく高音が耳朶を打ち、ほぼ同時に轟音と強い閃光が上方から迫ってきた。自らの髪が衝撃波に弄ばれるのを感じながら、ノイシュは巨大な猛炎魔と高位凍結術が激突した事に気づいた――


「エルンちゃん……っ、大丈――」


「おっ、お兄様ぁァァ――ッ」 


突如として少女の叫び声が耳許で響き、不意に抑えつけていた身体が持ち上がっていく。急いでノイシュが顔を向けると視線の先では懸命に前方へと駆けていく銀髪の少女がいた。さらにその先では衣服を血で染めながら倒れていく少年の姿があった――


――ヒャルト君……っ


 ノイシュは急いで立ち上がると彼らの所へと駆け寄っていく。


「うッがぁァ……ッ」


 ヒャルトの側まで来るとノイシュは膝を折り、傷の具合を見やった。彼は苦悶しながら両手で胸を抑えており、患部からはおびただしい血が溢れ出ている。きっと、衝撃波を浴びてしまって……ッ――


「お兄様ッ、しっかりしてッ」


エルンが兄の肩にその顔を埋めながら、細かく身体を震わせている。不意にヒャルトが妹を一瞥し、強く目を閉じる。


「エルン……ッ」


 ヒャルトが眼を開けると、こちらに鋭い視線を投げかけてくる。


「――ノイシュさんっ、どうかあいつを、あの悪魔の様な女を倒して下さい……っ」


 少年でありながらその言葉には強い殺意が込められており、ノイシュは思わず息を呑んだ。


「僕達の村は……あいつに全員魂を吸い尽くされてっ……父上や大神官だった母上だけでなく、部下や罪のない村人さえも……っ」


そこまで告げるとヒャルトはうなだれた。ノイシュは何も言うことができず、ただ彼の言葉に耳を傾けるしかなかった――


「母上は僕達だけでも逃がそうと、筏に乗せて……なのに、僕は仇さえも討てない……っ」


 ヒャルトの瞳から涙が溢れ出し、頬を伝っていく。彼の震える声にノイシュは思わず強くつむった。


――ミネア、君は何てことを……ッ


「ぐっ、ごはっ……」


 突然ヒャルトが咳き込むと血を吐き出した。


「ヒャルト君、もう喋らないでっ」


 思わずノイシュはそう声をかけるが、ヒャルトはまるで聞こえないように切なる眼差しを彼の妹を向けた。


「エルン、これからは僕の代わりに、ノイシュさんに力を貸すんだ……っ」


「お兄様、いやぁアァッ」


銀髪の少女が嗚咽しながら激しく首を振った。


「大神官ッ、聞くんだッ……」


 ヒャルトが妹に向けて苦しげな声を出した。


「このままじゃ、ここにいる全員が死んでしまうッ……兄の、最期の願いだ……」


 深傷の少年の話を聞き、ノイシュは死霊兵達の方を向いた。彼らは次の攻撃に入るべく詠唱を始めている――


――確かに早く何とかしないと、この陣は全滅してしまう……っ――


「……はいっ……お兄様……ッ」


 ふと耳許に少女の小さな声が届き、ノイシュが顔を向けると少女が頬を涙で溢れさせていた。


「……約束だぞ。良い子だ、エルン……」


 ヒャルトがそう告げると、ゆっくりとその身体を地に伏せていく。


「ノイシュさん、どうか彼女に口づけを……ッ」


~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手


 ヨハネス……リステラ王国の大神官であり、メイ術士学院の校長。術士。男性。


 ヒャルト……バデォン部族の少年。攻撃術士。


 エルン……バデォン部族の少女。超高位秘術の使い手。


 ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。アニマ吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』。


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