第25話 ~ミネアッ……ダメだッ、止めるんだッ~
――僕の霊力なんてたかが知れているけど、でも、それでも……ッ
不意にノイシュは胸の奥が強く震えるのを感じた。頬を伝う涙が熱を帯びる――
「ずっと一緒だよ。最期まで……」
滲んでいく視界の先で、彼女の頬からも一滴の涙が溢れていく。
「ノイシュ……」
震える義妹の声を聞き、ノイシュは強く眼を閉じて意識を集中させた――
「ヒャェビギィッッ」
大神官の意思なき声を聞きながら、研ぎ澄ました意識の中でふとノイシュは優しく清らかな何かに気づいた。そのまま感覚をそちらへと向けていくと次第に大神官の声や術の衝突音さえも消失していく。直後に瞼の奥で瞬きが発せられ、そして深紅に染まっていく。おそらく義妹とともに、大神官の超高位秘術をこの身に受けたのだろう――
――ミネア、ごめんね……
ノイシュはゆっくりと両瞼に力を込め、自らの魂が消滅していくのを待った――
――――――――――
視界が暗転していくものの未だ意識は明瞭である事に気づき、ノイシュはゆっくりと両眼を開き、そして大きく広げた――
「こ、これは……っ」
眼前ではなおも褐色の髪の少女が大神官と対峙している。そして彼女が纏った暗紅の光芒が大きく膨張し、自分達を包み込んでいるのが分かった。エスガルの放つ【魂吸収術】は未だに激しくこちらへと攻め立ててくるが、義妹の発する圧倒的な超高位秘術の燐光を前に次々と霧散している――
「エガゥゲディッ」
エスガルの驚愕と錯乱に満ちた声がノイシュの耳に届いた――
「ノイシュ……」
傍らで義妹の声が聞こえ、静かに顔を上げると彼女がこちらへとまなざしを向けていた。
「ありがとう……っ」
ミネアの頬から次々と涙が伝っていく――
「そう、今なら……っ」
ミネアが大神官エスガルへと視線を向けた。
「……この瞬間なら、彼を倒すことができる。きっと……ッ」
背を向けて立つミネアの声音は、強い決意を含んでいた――
「ミネアッ……ダメだッ、止めるんだッ」
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、魂吸収術という超高位秘術の使い手
エスガル……レポグント王国の大神官。魂吸収術という超高位秘術の使い手。男性。術士。




