第21話 ~結局僕は、死ぬ直前まで弱虫だった……ッ~
「俺はサガムさ。貴様の死に神だッ」
直後、死に神ことサガムが一気に打ちかかってくる。とっさにノイシュが片手剣を構えた直後、耳をつんざく剣戟が鳴り響くとともに眼前で火花が散った。
「はああぁェぁ――ッ」
裂帛の気合いを発したサガムが再び大剣を振り下ろしてきた。ノイシュは懸命に受け止めるが、その余りの強い太刀筋にたまらず両肩までが悲鳴を上げる――
「どうだ、増強された俺の腕力は……っ」
そう告げながら死に神の戦士が容赦なく剣閃を放つ度、ノイシュは自らの構えた剣が下がっていくのを視認した。とたんに胸の中で黒い不安が湧き上がっていく――
――くッ、だめだ……っ
思わずノイシュは眼を細めた。もう両腕は痺れて力が入らず、不意に剣を落としそうになるのを何とか堪える。反撃を試みようにも幾度となく襲いかかってくる猛攻を防ぐのがやっとだった――
次の瞬間、放たれた剣の軌道がこれまでと違う事にノイシュは気付いた。その凶刃がまっすぐに突き出されていき、こちらの剣下へと差差し込まれる。しまった、と思う間もなく一気に相手の大剣が振り上げられていく。瞬時に掌から肩まで振動がはしり、頭上で上空へとはじき飛ばされていく片手剣を視認する――
流されるままに自らの剣をノイシュが眼で追っていくと、不意に上体を反らしながら大剣を振り上げるサガムの姿を視認した。全身に震えがはしるのを感じ、とっさにノイシュは左腕を頭上へと掲げた。歪んだ笑みを浮かべるサガムの表情が掌で隠れた刹那の後、左腕から鈍い衝撃が生じる――
「うあああぁァェァ――ッ」
骨の破砕音が脳内で響き、同時に強い痺れが左腕を駆けめぐった。眼前へと地面が急激に迫り、額から打ちつける。舞い上がった砂塵を大量に吸い込み、否応なく咳きこんだ。どうにか立ち上がろうとするが、斬られた腕からは多量に血が溢れ出し、灼ける様な激痛が全身を縛って声さえ出せない――
――やっぱり、僕は一人じゃ何もできないんだ……ッ
不意に目頭が熱くなり、ノイシュは次々と涙が頬を伝っていくのが分かった。何とか止めようと思うものの、溢れる感情がどうしても言うことを聞かない。ノイシュはもう一方の掌を強く握った。胸中には痛みと無力感の感情が渦巻いており、どうして良いかさえもう分からない――
――結局僕は、死ぬ直前まで弱虫だった……ッ
不意にノイシュの脳裏から義妹の姿が浮かんだ。ずっと一緒に過ごし、傍にいた少女は微笑みながら真っ直ぐに翠眼のまなざしをこちらに向けている――
――ミネア……ッ
涙で霞んだ視界の先に立つ義妹が、静かに口を開いた。
「生きて、ノイシュ……ッ」
幻想の発した声が明瞭に耳朶を打ち、ノイシュが思わず眼を見開くとそこには真紅の戦士服に身を包んだ少女がいた――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、魂を自在に操る等の支援術の使い手
サガム……レポグント王国軍の術戦士。衝撃剣や増強術の使い手




