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第4話 ~私……っ、勇気が欲しい……っ~

重い色の板床に視線を向けながら、ノイシュは廊下を進んでいった。

 

 窓から差し込む陽光は弱く、肌に感じる空気もどこかよどんでいる。ノイシュは思わず息を吐いた。


 間もなく軍事法廷で審問が開かれるという、仲間達の思いが散り散りになっている中で――


 ノイシュは目当ての扉まで辿り着くと冷たい取っ手を握り、開けていく。


 視界に映るのは飾り気のない椅子や机、くすんだ亜麻色の敷布、そこに腰を掛ける翠色の瞳をした少女――


「ノイシュ……ッ」


 耳に馴染んだ声を聞き、ノイシュは胸に強い鼓動を感じた。義妹がまぶたを震わせながら、こちらにまなざしを向けている――


――ミネア……ッ


 ノイシュは扉を閉めると、はやる気持ちを抑え切れずに褐色の髪の少女へと歩を進めた。


 つられる様に義妹が立ち上がるのが見える――


「待たせてごめん……っ」


 そう告げながら彼女を抱き締めた。


 腕の中の少女がゆっくりと自分の肩に顔を埋めてくる。


 長い髪から仄かな甘い香りが漂い、心が優しく溶けていく――


「……ノイシュ、逢いたかった」


「本当に、ごめん」


 ノイシュは義妹と顔を見合わせ、ゆっくりと唇を重ねた。


 柔らかく、温かい感触が胸の奥を震わせる。


 このまま僕の身体など溶け消してしまいたい、そして彼女のアニマに触れて、ずっと一つのままでいられたら――


 ゆっくりと彼女の唇が離れていくのが分かり、ノイシュは少しずつ自意識を取り戻していくのを感じた。


 ノイシュは大切な人を見つめながら、少女の背中に回した腕の力をそっと緩めた。


「……ビューレは」


 義妹が目尻を細め、不安げに瞳を揺らしている。


 ノイシュは努めて微笑んでみせた。


「……みんなを呼びに行ったよ。すぐに来ると思う。君に、ごめんって言ってた」


 目の前にいる少女が、ゆっくりと首を振った。


「大丈夫……悪いのは私だから」


 ノイシュは胸の奥がうずくのを感じ、小さく息を吐いた。


「ミネア、どうか自分を責めないで……僕達にとって、今回が初めての実戦だった。それに君の支援術がなければ、間違いなく僕は死んでいたよ」


 そう告げて、ノイシュは思わず俯いた。


――そう、きっと僕は死んでいた……いや、もしかしたらヴァルテ小隊自体が全滅していたかもしれない。それに……っ――


 ノイシュはそのまま静かに眼をつむった。


「……それに、本当のことを言うと僕は嬉しかったんだ」


「え……」


 義妹の困惑する声音を聞きながら、ノイシュはゆっくりと顔を上げた。


「……君は、任務よりも人の命を優先した。たとえ相手が心を歪ませた敵神官だったとしても……」


 ノイシュは眼の前の少女を見つめながら、そっと微笑んだ。


「やっぱり君は、僕の知っている心優しい人だったから……」


 不意に胸の奥が震え、言葉尻を震わせえてしまった。


 義妹の瞳からは止めどなく涙があふれていく――


「ノイシュ……ッ」


 義妹が自分の胸にその顔を強く押しつけてきた。


 子供の様に泣きむせぶ彼女の肩に両手を絡め、ノイシュは強く眼を閉じた。


――一体、いつまで僕達は戦い続けなくちゃいけないのだろう……これだけ傷ついているのに、まだ戦いを……っ――


「私……っ、勇気が欲しい……っ」


不意に彼女の声が胸の中で響いた。


「どんな困難にも負けない、強い魂が……っ」


 ノイシュは抱き締める少女の声を聞きながら、深くうつむいた。


――ミネア……


 ノイシュは口を開くが、胸の片隅から生じる思いを上手く言葉にできない。


 そっと息を吐くと、ひたすらに彼女の頭を優しく撫でた。



 

 ~登場人物~


ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の(じゅつ)戦士で、剣技と術を組み合わせたじゅつけんの使い手


ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹いもうと。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、れい力を自在にあやつる等の支援術の使い手



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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは28話まで読書しました。物語の起点としては主人公の少年が何かしたからではなく、もともと世界には戦乱が渦巻いていて、その中で生きていく少年少女のストーリーですね。 主人公であるノ…
[良い点] ミネアは戦いには向いてないんじゃないかな……人を殺せるようになりたいって、何だか違う気がする(;´・ω・)複雑です
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