第3話 ~幻滅したよね、私のこと……~
「――すぐ戻るからっ、きっと……っ」
ノイシュはそれだけ言うと踵を返し、急いで修道士の後を追った。
胸の中は様々な気持ちが絡み合い、まともに理屈で物事を考えられなかった。
ふと傷痕に障らないよう速度に気を配るものの、幸いに何も痛みは感じない。
ノイシュは安堵の息をつくと、再び意識を前方へと向けた。
微かに聞こえる彼女の足音を頼りに通路を折れ、階段を下り、時々擦れ違う他の兵士の間を縫う様に進んでいくと、やがて人気の無い小さな中庭に出る。
急くこちらの思いとは裏腹に、その場所は温かい日差しに溢れており、植えられた木々の上では小鳥たちが仲良く戯れていた。
その中の一番大きな樹の傍らに、ノイシュは目当てとなる少女の後ろ姿を見つける――
一度大きく息を吸い、呼吸を整えるとノイシュは回復術士の元へと歩み寄る。
僧服姿の少女はこちらの足音に気づいたのだろう、強く眼を閉じると後ろ髪をこちらに振り向けてくる。
ノイシュは静かに歩を進めていき、彼女の前で立ち止まった――
「……私、どうかしてた……っ、いつの間にか、人の命よりも戦いの趨勢や自分がどうなるかの事ばかりで……っ」
不意にビューレが深くうなだれていった。
「誰かの命を手折るノイシュ達の気持ちも、考えないで……幻滅したよね、私のこと……」
ビューレのささやくような声を聞き、ノイシュはゆっくりと首を振った。
「――そんな事ない、だって……っ」
ノイシュは眼を細めて回復術士を見据えた。彼女が静かにこちらへと視線を向けてくる――
「……だって君は、僕の命を助けてくれた。君が治癒術を施しながら、僕の手を握ってくれたこと……絶対、忘れないよ」
不意にビューレが眼を大きく開いた。そして静かに眼を細めていき、そのまま微笑みを浮かべる――
「……ありがとう、ノイシュ」
顔に青痣のある少女の瞳から、一粒の涙が頬を伝った――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手




