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第22話 ~戦いの行方(ゆくえ)~


――ミネア、逃げるんだ……ッ


 ノイシュは何とか上肢(じょうし)を起こすが、それ以上は身体中に痛覚(つうかく)が広がるだけで全く自由がきかない――


――ダメだっ、ミネア……ッ――


 刹那(せつな)の後、突如(とつじょ)としてノイシュの視界に紅蓮(ぐれん)燐光(りんこう)がほとばしる。


 燃え(たけ)る音と(はだ)()がす熱を感じ、それが灼熱(しゃくねつ)(かたまり)だと気づく。


 放たれた無数の火炎(かえん)術が大神官のいる場所へと飛翔(ひしょう)していく――


「くっ。新手の攻撃術士かっ……」


 不意に大神官のかすれた声がノイシュの耳に届いた。


 刹那(せつな)の後にエスガルが大きく跳躍(ちょうやく)するのを朧気(おぼろげ)な視界でとらえる。


 直後にミネアの長い髪をもてあそびながら火炎弾が擦過(さっか)し、大神官の立っていた場所へと着弾すると(またた)く間に(ほむら)が立ち上っていく――


「ノイシュさんっ、大丈夫ですかっ」


 突如(とつじょ)として傍から落ち着きながらもりんとした声が聞こえ、ノイシュは思わず目頭を熱くさせた――


「ノヴァ……だ、大神官は……」


舞空(ぶくう)しました。信じられない事ですが……」


すぐさま詠唱(えいしょう)を始めるノヴァの声を聞きながら、ノイシュは何とか手負いの大神官を追跡(ついせき)しようと試みる。


 が、すぐにエスガルらしき姿は虚空(こくう)と混じり合い、判別がつかなくなった――


「……どうやら、逃がしてしまった様ですね」


 緊張をはらみつつもあくまで落ち着いた少女の声を聞き、ノイシュは首を横に()った。


「……追っ手が来るかもしれない、すぐに離脱を――」


直後、強(れつ)な脱力感に襲われてノイシュは両手を地につけた。


 (しゅん)時に視界が暗転し、()遊感の後に身体へと軽い衝撃(しょうげき)がはしった―― 


「ノイシュ……っ」


頭上から別の少女の声が降り注いでくるのにノイシュは気づき、顔を向けるものの視界がぼやけて上手く判別できない――


「……ビューレ、なのかい……」


「はいっ……」


 ふと(わき)腹の傷口に温かいものを当てられてノイシュが思わず手を伸ばすと、柔らかい何かの感(しょく)を覚える――


「あの、ノイシュ……っ」


 不意に回復術士の(まよ)う様な声音(こわね)が耳に届き、ノイシュは彼女のどこかに()れていたことに気づく。


 とっさに手を離そうとするが、素早く包み込まれる――


「大丈夫ですっ、こんな傷、こんな……ッ」


 ほのかな光芒(こうぼう)を視界にとらえた直後、ノイシュは傷に触れる温もりが広がっていくのが分かった――


「きっと治癒(ちゆ)させますから、絶対に……っ」


 言葉とは裏腹に少女の声は切迫(せっぱく)していたが、それさえも次第に遠くなっていくのをノイシュは感じた。


 寒気が身体の外側から(しん)へと広がっていき、思わず眼をつむる。


 意識が(うす)れていくとともに、まぶたの奥では義妹(いもうと)や死んだ父親、そして自分が見捨ててしまった子供達の姿が浮かんでくる――


――ゴメン、みんな……ッ


 ノイシュは思い切り(さけ)んだつもりだったが、自分の声が耳に届かない。あれほど身体中で暴れていた激痛さえももう感じなかった。


――これは、(むく)いなのかな……決して少なくない人達を(あや)めた自分が(むか)えるべき、当然の帰結……っ――


 ()ける様に消えていく意識の中、身体を()さぶられる感覚と(かす)かな義妹の声が最後の記憶(きおく)だった――



~登場人物~


ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の(じゅつ)戦士で、剣技と術を組み合わせたじゅつけんの使い手


ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹いもうと。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、れい力を自在にあやつる等の支援術の使い手


マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手


 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術(たい)性の持ち主


 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々なこうげき術の使い手


 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手


 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援(きゅうえん)部隊の指揮官。男性。術士。



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― 新着の感想 ―
とっても面白いです! 情景描写がとても上手く、気づいたらどっぷりと作品世界に浸っていました。 戦地へ向かう恐怖や葛藤、覚悟…命を懸けて戦うということがどういったものかが、とても丁寧に繊細に描かれていて…
[良い点] 第Ⅰ章まで読了。Twitterから来ました。  雰囲気の作り方が上手いなと思いました。一つの一つの描写が丁寧で、義兄妹の距離感や戦場の空気をその場で味わっている感覚になります。  完全に…
[良い点] 描写はすごく丁寧で重厚感のある文章になっていると思います 世界観等、設定はちゃんと作りこまれているのだろうなと感じました [気になる点] ルビの振り方が独特というか、正直よくわかりません …
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