表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/105

第21話 ~ミネアッ、大神官にとどめを~


(うで)をッ、私の腕をぉぉォォッッ……」


 エスガルが叫喚(きょうかん)憤怒(ふんど)、そして血飛沫(ちしぶき)を周囲に()き散らしているのをノイシュは見た。


 先のないひじの傷口をかばいながら数歩後退(あとずさ)りするものの、すぐに大神官は表情を(あらた)めるとこちらを鋭くめ付けてくる――


「このっ、死ぬがいいッ……」


 敵神官がもう片方の腕をぎ払った瞬間、発現した楔型(くさびがた)の波動が自分に向かって放出されるのをノイシュは視認(しにん)する――


――くっ……ッ


ノイシュは強く奥歯を()んだ。


 (またた)く間に距離を縮めてくる攻撃術を前にしても、もう立ち上がることさえできない。


 迫り来る閃光(せんこう)が視界一面に広がり、ただ眼を細める――


 次の瞬間、眼前に切迫(せっぱく)した表情のウォレンが再び姿を現した。


 大神官の秘術(ひじゅつ)さえも()()いた巨躯(きょく)の戦士が、今度は(いかずち)やじりに向けて大盾(おおたて)()き立てていく――


 刹那(せつな)の後、甲高(かんだか)い金属音が大音(きょう)を立てて断続的に耳朶(じだ)を打った。


 楔形の波動が巨盾(きょたて)を撃ち()える度に、彼の身体が衝撃(しょうげき)を受けて大きく()れる。激しい火花が周囲に飛び散っていく――


「ミネアッ、大神官にとどめを……っ」


不意に脇からマクミルの声が聞こえてきて、思わずノイシュは義妹(いもうと)へと()り向いた。

 視線の先では、彼女もまた眼を見開きながら隊長の方を向いている――



「今、あいつを討ち取らなければ、これまでの戦いが全て無駄になるッ……」


マクミルは苦痛に顔をゆがめながらも、無理に立ち上がろうと足掻(あが)いている――

  

「今、動けるのはお前しかいないっ、奴を殺るんだッ」


 隊長の命令に、義妹の唇が小さくわななくのをノイシュは見た――


――ミネア……ッ


 不意に義妹が唇を引き結び、地を()った。


 そして途中で落ちていた槍斧(ハルバート)を拾うと、そのまま敵神官へと距離を縮めていくのが見える。


 エスガルは苦しそうに歯を食い(しば)っており、その場を動けないでいる。瞬く間にミネアが大神官の前に立ちはだかった――


猊下(げいか)、お覚悟を……っ」


 ミネアが槍斧の刃先をエスガルに向け、大きく振りかざした。


「くっ、小娘が……ッ」


 傷を(かば)いながら顔を上げる大神官に対し、ミネアが上瞼(うわまぶた)を細めて(ねら)いを定めていく。


 彼女が呼吸を早めて身体を(ふる)わせた。


 その(ひとみ)には(なみだ)()まっているのが見えた――


 不意に、エスガルが口許を吊り上げた。


「フンッ、(おど)かしおって……」


 ミネアが眉尻(まゆじり)を上げてさらに槍斧を振り上げるが、やがて両膝(りょうひざ)を地に着けた。彼女の(ほお)からは次々と(なみだ)(あふ)れていく――


「やらなきゃっ……私が止めを刺さなきゃいけないのに……ッ」


 義妹が深くうつむきいた。エスガルがゆっくりと腕を持ち上げ、嗚咽(おえつ)()らす少女へとてのひらを向ける――


「私と同じ秘術(ひじゅつ)を使える者など、断じて許されんっ……今、ここで死ぬがいいッ」


 再びエスガルの身体から赤黒いもやが発せられていく――



~登場人物~


ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の(じゅつ)戦士で、剣技と術を組み合わせたじゅつけんの使い手


ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹いもうと。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、れい力を自在にあやつる等の支援術の使い手


マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手


 エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援(きゅうえん)部隊の指揮官。男性。術士。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ