第17話 ~殺意を向けられた少女~
――ッ……ミネア……ッ
いつの間にか最後の死霊兵が義妹と対峙している。
彼女が手にした槍斧を骸戦士に向け、懸命に突きを繰り返すものの相手は身を翻しながら確実に間合いを縮めていく――
「があああぁぁッ」
次の瞬間、骸戦士が勢いよく剣を振り上げた。
甲高い金属音が周囲に響き渡り、義妹の槍斧がその刀身を輝かせながら上空へと舞い上がっていく――
「ミッ、ミネア……ッ」
ノイシュは眼を見開き、大きく腕を振って駆け出す。
夢中で術を詠唱しながらも前方を見据えると、首をゆっくりと左右に振りながら後退る義妹の姿があった。
敵戦士が斬撃の間合いに入るのを視界にとらえる――
――やめろぉオォァオオ――ァッ
あまりにゆっくりと光芒が身体から放たれていくを感じながら、ノイシュは急いで剣を構えた。
死霊兵が大きく武具を振り上げると、不意に歯を剥き出しながら口許を吊り上げる。
義妹が大きく瞳を見開き、ゆっくりと膝から地に崩れていった――
「アアァォアァ――ッッ」
とっさにノイシュは地を蹴り、義妹の長い髪を掠めながら敵前へと跳跳した。敵戦士がこちらに気づいて視線を向けてくる――
――発現せよ……ッ
ノイシュは腕を大きく引き絞り、光芒を刀身に伝えていく。
不意に死霊兵が身体を捻りつつ剣を大きく斜めに振り下ろしていくが、構わずこちらも一気に剣先を突き出していく――
「刺突剣ッ」
瞬時にノイシュは腕より固い感触を感じるが、すぐに柔らかいそれへと変じていくのが分かった。
そのまま躊躇なく剣先を押し込んでいき、やがて柔らかい塊にまで達するのをとらえる。最後には刀身から臓物らしきものが強く脈打つのさえも感じた――
直後、ノイシュは脇腹に衝撃がはしるのを感じた。
瞬く間にそこから熱い温度が広がり、不意に視野が激しく傾いてそのまま横倒しになる――
「ノイシュ、ノイシュッ――ッ」
ミネアのき叫ぶ声を聞きながらノイシュは口元を歪めた。
内蔵を強く握られた様な痛みが全身に広がり、思わずうめき声を漏らしてしまう。
地面に伏した顔に生温かい液体が流れてくるのが分かった。たぶん、自分の鮮血だろう――
「……この、くたばり損ないがっ」
ノイシュは耳元に届く悪態へとゆっくり顔を上げた。そこには眉間に皺を寄せ、いかにも嫌悪する様な表情でこちらを見るエスガルの姿があった――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手
エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士。




