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恋あり友あり――しかして反乱

 ◆


 元老院の豪華な食堂に入ると、そこはずいぶん込み合っていた。未だ止まない雨のせいで、普段なら外へ出かける議員達も今日はここで食べるからだろう。

 お陰でいつもの席に腰を下ろす事が出来ず、クロヴィスが少し不満顔を浮かべている。

 四人掛けの席に向かい合って座ると、開口一番クロヴィスは周囲を見渡し毒づいていた。


「まったく――雨ごときで狼狽えおって……俗物どもめが」


 苛立たし気に言うのは、込み合っているからだけだろうか?

 俺はクロヴィスの顔を覗き込み、今日の策謀に不備があったのでは無いかと探りを入れる。


「雨で狼狽える議員なんて、居ないと思いますがね。それともクロちゃん――あなたこそ何か不安があるのでは?」


 例えば昼休み、元老院議員達が外へ出ている時に皇帝を狙おうと思っていた――それならば私兵の数も減っているからやり易かったのに、生憎と今日は雨。それで目論みが外れ、ここが議員達で溢れている。

 ……となれば狼狽えているのは予定の狂ったクロヴィス自身ということになるけれど……。


 しかしクロヴィスは魚介のふんだんに使われたシチューを給仕が運んでくると、途端に引き結んだ唇を緩め笑顔になった。


「寒い日はこれに限る。私はね、アレクっち。元老院で食べる食事の中で、コレが一番好きなんだ。ただまぁ――暖かい日に食べるより寒い日に食べる方が、断然美味しいのだけれどね」


「さいですか……」


 ……結局いつも通りか。

 クロヴィスはポーカーフェイスを貫き、水面下にある焦りを覗かせない。

 仕方が無いので俺も、お気に入りの料理を注文することにした。

 ケフテデスという名前のミートボールが俺のお気に入りで、スパイスの調合が絶妙なのだ。


 そう言えば以前これをガブリエラに紹介し、


「食べたらキンタマ出来るかもよ」


 と言ったらアイツ、顔を真っ赤にして怒ったな。

 まあ、竿とセットじゃないと意味も無いので仕方が無いか……。


 それから俺はサラダも注文した。

 トマトやキュウリ、オリーブの実などの上に山羊のチーズが乗ったこのサラダも、中々に美味い。

 世の中にはトマトが苦手と言う人も多いが、俺はどっちかと言えば好きだ。

 あのグチュグチュ感を無視して酸味を味わうなら、フルーツに近い爽やかな野菜だと思うのだけど。


「随分と気に入ってくれたようだな、その料理を……教えた甲斐があるよ」


 テーブルに頬杖を付いて、ワインを一口含んだクロヴィスが言う。

 実際、この料理を最初に教えてくれたのはクロヴィスだった……。


 だって仕方が無いだろう。

 元老院で食事したことなんて無いし、最初は何を食べたら良いのか分からなかったし!

 そしたら見慣れたミートボールの料理を紹介してくれてさ、そりゃ食うって! 週に二回は確実に!

 カレーとかハンバーグとかあったら、そっちの方がいいけどね!

 ハンバーグ的なのはあるけど、どっちかっていうとメンチカツだしね!


 というかミートボール食べたら胃の痛みが治った……。


 俺はてっきり緊張から胃が痛んでいたと思っていたのだけど、考えてみたら朝から忙しかったので朝食を摂っていない。

 てことはだ、つまり俺って……――。


【悲報】〜空腹により腹痛がおきました〜


 という事だったらしい。

 なんて鋼のメンタルだ。自分で自分が信じられないぜ……。


 ――まあ、それは良しとしよう。

 

「いやホント、美味しいんですよね、これ」


 俺はハフハフ言いながらミートボールを口に含み、嚥下する。

 何と言うか寒い日に暖かいモノを口にすると、それだけで幸せだ。


「アレクシオス。君は本当に美味しそうに食べるね。その姿を見ていると、私まで食べたくなってくるよ」


「あ、どうぞ。四個あるから一個取っていいですよ」


「うむ――失礼、頂こう。代わりに、と。君にはこれを……」


「イカですね?」


「うむ。形が不気味だからと怖がる者も多いが……これもこれで美味なのだよ」


 なぜか敵と料理をシェア……。

 しかし毎日一緒に昼食を摂っているので、気持ちの上ではもはや完全にお友達。この辺がクロヴィスの人徳なのだとしたら、ある意味では本当に素晴らしい。

 もしも俺にガブリエラというファクターが無ければ、コロっと彼の軍門に下っていたことだろう。


 などと仲良くやっていたら、ガブリエラが引き攣った笑顔で手を振っている。

 そんな彼女の隣で太っちょ皇子のユリアヌス殿下が、カチキチに固まっていた。


「あ、あの席に行くのかね?」


「は、はい。だって殿下とクロヴィス卿はお友達でしょう?」


「し、しかし、あの席にはアレクシオス卿がいるぞ」


「お、おれ……じゃなくてわたくしのお友達ですから」


「お、お友達?」


「はい」


「本当に、お友達か?」


「……はい、もちろんです」


「う、うむ。ならば……」


「では、行きましょう」


「……気は進まぬがな……」


 何やらブツブツと話した後で、二人は真っ直ぐこちらの席へ向かって来た。

 ガブリエラが俺の隣にストンと座ったので、耳元に口を近づけ小声で聞いてみる。


「……なんで来たんだよ?」


「だって、声掛けられちゃったんだよ! 殿下となんか二人っきりで食事したくないし!」


 小声なのに張りのある、不思議な声が俺の鼓膜を叩いた。


「分かるけどさ……」


「いいから! おれとコソコソ話していると、また疑われるぞ!」


「う、疑われるのはだいたいオマエのせい……――」


「アレクは、もう黙ってろって!」


 ガブリエラは俺の耳をチョンと引っ張ったあと、わざとらしく笑った。「おほほほほッ!」

 それから言い放つ。


「これはこれはクロヴィス卿ではありませんかぁ〜〜! 今日は込み合っているので、相席で構いませんかぁ〜〜?」


 って……もう座ってるからな!


 クロヴィスは苦笑している。

 彼は引き攣った笑みを浮かべて立っているユリアヌス殿下を見上げ、軽く肩を竦めていた。

 しかしガブリエラは気にせず、言葉を畳み掛けるように続けている。


「さあさあ、殿下はクロヴィス卿の隣にお座り下さい! 確かお二人は親友だと聞いておりますので〜〜!」


「そ、それはそうだが……ガブリエラどの……」


 ユリアヌス殿下は俺とガブリエラが隣り合って座っている様を苦々しく見ていた。

 先日ガブリエラが言った事を、きっと知っているのだろう。

 とはいえ先日の話は、あくまでも噂の域を出ていないはず。

 だから殿下は俺に確認することも出来ず、身体を左右に揺すって弛んだお腹をブルンンブルンと震わせていた。

 ……なんだあれ、スライムか? 間近で見ると凄いな。トガが盛り上がっていらっしゃる……。


 などと俺が目を細めて殿下のお腹を見つめていたら、ついに殿下が不満を口にされた。


「その、なんだな――ガブリエラどのの隣にセルジューク子爵が座るのは、如何なものかと余は思うのだが……」


 ふむ――。

 俺は立ち上がり、殿下の前で跪こうとした。


 とはいえガブリエラの気持ちは分かっている。

 コイツと結婚したくなくて色々と策を弄しているのだ――ここで席を譲ってやる気などは無い。

 などと決意して足を動かしたのだが、なんとクロヴィスが俺達の味方をしてくれた。


「殿下――別に良いのではないかな? セルジューク子爵は元々ガブリエラさまの部下。仲が良くても当然だし、気心が知れているのでは?」


「う、うむ――そう言えばそうであったな」


「それにセルジューク子爵はテオドラ殿下の想い人。今日は殿下もおいでになっておられますから、滅多なことも無いでしょう」


「……――確かに!」


 どういう訳かニッコリしたユリアヌス殿下は、そのままクロヴィスの隣に腰を下ろした。

 まあこれは、クロヴィスが上手く皇子を操ったということだろう。


 だがこれは、貸し借りで言えば一個借りか……。

 俺がそう思っていることを察したのか、クロヴィスが唇の端を軽く吊り上げ、俺のミートボールを一個奪い取った。


 ムキィィィィィ! 

 借りは借りでもミートボールで返すとは言って無いぞォォォォ!

 それは最後の一個で分けておいたのにィィィィ! お楽しみだったのにィィィィィイイイ!

 そもそも貴様には既に一個、くれてやったではないかァアアアアアアッ!


「キィェェエエエエエッ! 天誅ッ!」

 

 許せないので俺はクロヴィスのシチューからホタテを奪い、口の中に放り込む。


「ああッ! 私のホタテをッ! 最後の楽しみにしていたのだぞッ!」


「私だってミートボールを楽しみにしていたのだッ!」


 ――などとバトルを繰り広げたらユリアヌスがケラケラと笑い、「そなた等、まるで子供ではないか」などと言い始めて……。

 けれどすぐ真顔に戻ると俺達とガブリエラを順に見て、声を低めて言い出した。


「こほん……、せっかくだから真相を聞かせて頂きたいのだが……あの件――ガブリエラどのがセルジューク子爵に結婚を申し込み、オクタヴィアンどのに一蹴されたというのは本当の話なのだろうか?」


 見ればユリアヌス殿下はプヨプヨの顔を蒼白にして、運ばれて来た鳥の丸焼きをツンツンとフォークの先で突ついている。ぷっくりと膨れた鳥の腹部がユリアヌスそっくりで、思わず「共食いかッ!?」と突っ込みたくなった。

 クロヴィスも笑いを噛み殺してその様を見つめ、それから俺とガブリエラの顔を交互に見る。


「まあ、先日のことだが――両執政官にガブリエラどのがその話をしていたのは、私も確かに聞いたな」


「なに――クロヴィス。どうしてその話を、すぐ私に教えてくれなかったのだ?」


「そう言われても……」


 お――なんとクロヴィス、あの日のことを皇子に黙っていたらしい。今は頬を指でポリポリと掻いている。


「いや、申し訳ない。てっきりガブリエラどのの冗談だと思ってね。いやはや――まさか殿下まで本気になされるとは……」


「……冗談、なのか?」


 パァァァっとユリアヌスの顔が輝き、満面に笑みが浮かぶ。彼は太っているから、その様がやけに福福しい。

 ガブリエラはちょうど給仕の女性を呼ぼうとしていた所だったので、手を挙げたまま固まっていた。そして皇子をジロリ――射抜く様な視線で睨み――……。


「じょ、冗談などでは……あっ、あっ……アレクッ……な、なにおぷぷぷッ……」


 ガブリエラは両手で口を抑え、「うーうー」と言っている。もちろん俺のせいだが……。


「なんだ、ガブリエラどの。やはり冗談であったのか! なんだ、なんだ!」


 これでユリアヌスは冗談だったのだと信じ込み、お腹をポンポン叩いて狸の様に喜んでいた。


 一方ガブリエラ、こめかみに血管を浮かべてキレる寸前だ。

 しかしここでキレたら大変なことになるので、俺はガブリエラの脇腹をくすぐり続けていた。もちろん正面からは見えないように。

 それで彼女は、こんな反応になっていたのである。


「――ぷっ、くくっ! あははははははッ!」


 穴の空いた風船のように、ガブリエラの口から空気が漏れた。

 余程くすぐったかったのだろう――続けて大きな笑い声が響き渡る。

 ただ楽しそうな声とは裏腹に、その視線はまるで刃のよう。俺を睨み付ける彼女の目は、つまりとても恐かった。


 だが怯まない。ここで疑われては、殿下の不安を呷るだけだ。

 今後の為にも俺は今、噂の火を消す事にした。


「そ、そうなんですよ、殿下! ちょっと冗談でオクタヴィアンさまにそんなことを申し上げたら、そりゃもう怒られちゃいましてねぇ!」


「おい、アレクッ!」


 ギロリ――ガブリエラが睨んでくるが、今ここを凌げば問題無いのだ。


「信じろッ!」


 俺の言葉にガブリエラは「……うん」と一言応え、その後は黙ってくれた。


「あははは! そうか、なんだ、そうであったのかぁ! 余、まったく安心したぞ! どれ、もっと料理を注文しようではないか! さ、ガブリエラどの、なんでも好きなものを頼まれよ!」


 こうして皇子の誤解は無事に解け、俺は無駄に和やかな雰囲気で昼食を摂ることになったのである。


 ◆◆


「あはははは! セルジューク卿も災難であったな。オクタヴィアンどのと揉めたりしなければ、今頃はテオドラとの婚約も纏まっていたであろうに。まあしかし――全てが頓挫した訳では無いし、余としても卿が妹の婿になれば良いと思っておる。

 ああそうだ、何であれば余がオクタヴィアンどのに取りなしてやろう。うん、それがいい――……となれば其方、余の弟ではないかぁー! うわはははははッ! 我が弟よッ!」


 ユリアヌス殿下はクリームパンみたいな手でワイングラスを持ち、上機嫌で俺に言った。

 うん、まあ――こんな人を『お兄ちゃん』とは呼びたく無いね。不愉快だ。

 だけどどうやらこの席には、この件に関して俺よりも不快感を持っている人がいるらしい。


 ――ピシリ。


 俺の隣でワイングラスに皹が入った。

 紫紺の液体が“ツーッ”とガブリエラの顎を流れて伝う。

 どうやらガブリエラがグラスを歯で噛み割ったらしい。俺はナプキンを彼女の顎に当て、衣服が汚れないよう拭いてやった。


「ア、アアアア、アレクは……さ。あ、ああああああ、あのっ、虎みたいな……さ。お、おお、おおおおおお、女がいいわけ?」


 何だかガブリエラ、怒りが頂点に達しているのか声が凄く震えている。

 今まで気付かなかったけど、ガブリエラとテオドラって本当に仲が悪いようだ。

 というか結構仲が良かった様な気もするのだけれど、それは俺の思い過ごしだったのかな……。


 だがユリアヌス殿下はガブリエラの変化に気付かず、威勢良く手を挙げグラスの交換を給仕に申し出ている。


「――このような場所で、こんな不出来なグラスを使うでないッ! 余のガブリエラどのが口を怪我でもしたら、どうしてくれるのだッ! キ、キキキキキ、キス出来なくなっちゃうんだからねッ!」


 ユリアヌス皇子は怒っていた。

 ガブリエラも怒っている。

 なのに方向性がまったく違うので、困ってしまうのは給仕であった。


 だいたいガブリエラがグラスを噛み割ったのだから、悪いのはガブリエラなのだ。

 あとキス出来なくなっちゃうとか言われた結果――ドン引きしてガブリエラの怒りが冷めていた。


「あ、いや……このグラスを割ったの、おれだし……いいですよ? キスはどっちにしろ絶対しないし……」


「ええい、新しいグラスを早く持ってくれば許してやるものをッ!」


 けれどユリアヌス皇子はガブリエラに良い所を見せたいのだろう。でっぷりと肥えたお腹を揺らし、厨房へと駆け込んでいく。そしてスタッフに怒鳴り散らしていた。


「こらぁー! 新しいワイングラスを寄越すのだ! 我こそは政戦両略の天才! ユリアヌスであるぞー!」


 うん、皇子。俺ね、飲食店のスタッフに威張り散らす政戦両略の天才って初めて見ました。

 あとね、そういう人って女の人にモテないらしいですよー……、実際ガブリエラ、額に手を当て頭を左右に振っているし。

 まあ、ガブリエラを女の人という括りに入れれば、だけど……。


 そんなガブリエラを見て、クロヴィスが微笑み声を掛けた。

 

「ガブリエラどのは、殿下のことがお嫌いなのですね」


「は? 別に嫌いじゃあ無いぞ」

 

 ガブリエラが眉間に皺を寄せ、青い瞳から凍てつく波動を放つ。

 だが流石にここで本心を言う程、ガブリエラはアホの子ではない。


「どっちかって言うとクロヴィス……オマエの方が嫌いだ」


 ……というのは思い過ごしで、どうやらガブリエラは本当にアホの子である。

 しかしクロヴィスは動じる事も無く、身を乗り出してガブリエラに畳み掛けた。


「フッ、フフフッ……では、言い方を変えましょう。あなたはユリアヌス皇子との結婚を望んでいない。どころか――アレクシオスをテオドラさまに渡したく無い――もっと言えば、先日語ったことは全てが事実。あなたはアレクシオスと結婚したいのでは?」


「ば、ばばばばばばばばばば!」


「ば?」


「バカこと言うなよッ!」


 ガブリエラが真っ赤になって、両手を突き出しブンブンと振っている。

 そうだ、ばか言うなクロヴィス。

 ガブリエラはこの前、女の子が好きだと認識を改めたんだぞ。


「バカなこと? フッフフ……。あなたが私に協力してくれると言うのなら、私はあなたの望みを叶える事も出来るのですが……? どうします? ――もっとも私の推測が違っているのなら、この話は無かったことに……――」


「ちょ、ちょっと待て、クロヴィス。それはホントにホントに本当か?」


「もちろんですよ……考えてみて下さい。ロサ家が協力すれば、あなたとアレクシオスを結婚させるなど、雑作も無いことだ……」


「お、おおおおおお、おぉん!?」


 ガブリエラが鼻血を出した。

 それから俺のトガの裾をチョンと摘み、布巾で鼻を押さえながら俯いて言う。


「……協力って、何をしたらいい?」


 おいー! ガブリエラー! それでいいのかー! 何でそっちに傾いたー!

 事態はもはや切羽詰まっているんだぞー! 配置も済んでいるんだぞー!

 ここでお前が協力したら、クロヴィスの計画を認めるってことになるんだぞー!

 帝国がひっくり返るぞー! ……あ、まあそれは別にいいが……。


 だが、そうなると俺がテオドラを裏切るということに。

 いや……表面上はユリアヌス皇子が最高権力者になるなら、テオドラの身は安全。

 けれどここまで協力してもらって、やっぱりもういいです……っていうのもなぁ。


 俺は背もたれに身を埋め、ガブリエラを見た。


 だけど元々はコイツの為に考えた計画――コイツがクロヴィスの計画に乗るなら、仕方が無いか。

 でもガブリエラのヤツ、これじゃあ目的と手段が逆だぞ。

 だってユリアヌス皇子と結婚したくないから俺と結婚しようと言っていたのが、今の感じだと俺と結婚することが目的みたいで……。


「う、嘘を付いて騙すなよ、クロヴィス……だ、だだだだ、だいたいさ、どうやっておれとアレクを結婚させるんだ? あっ、これはあれだ、参考までに聞いてやるってヤツだからな勘違いするなよ?

 ……お、お、おれはほらアレクシオスのことなんて全然好きだし愛してるし結婚したいだけなんだからな!」


 ガブリエラ、目がグルグルだ……。

 ニヤリと笑ってクロヴィスが答える。


「簡単です。私はアレクシオスがロサ家を相続しても良いと思っているし、アレクシオスがロサ家の当主となれば、レオ家の令嬢との結婚も――良縁となるでしょう。

 もっともその際アレクシオスには私の右腕として、帝国の現体制を打倒する手伝いをしてもらいますがね……」


「「なっ!」」


 俺とガブリエラの口から、同時に驚きの声が漏れた。

 正直、そこまで言う――と思ったからだ。


「名案だ!」


 こら、ガブリエラ。もうお前は黙ってろ。


「クロちゃん……その発言は反逆罪にあたる。意味が分かって言っているのか」


「なに、誰も聞いていないさ」


「私が聞いている」


「それがどうした、アレクっち。君が帝国に忠誠心など持っていないことは、とうに承知しているが?」


「だとしても、クロヴィス卿――あなたを潰す目的で告発することだって可能だ」


「……アレクシオス卿、私は君を高く買っているのだ。私の持つ全て――その半分を与えても惜しくは無い程に。ただし――」


「ただし?」


 クロヴィスは目を瞑り、苦笑した。それからガブリエラに向き直る。

 

「なに、先ほどの条件です。ガブリエラさまの望みを叶える代わりに、私にも協力してもらいたいことがある――ということ」


「何をどう、協力すればいいんだ?」


 ガブリエラが目をキラキラさせ、身を乗り出していた。

 もうコイツ、全然止まらないな……。


「なに――私の恋にも協力して欲しいのですよ。つまり……ディアナ・カミルが私の妻になるよう、説得して貰いたい」


 俺とガブリエラは顔を見合わせ、「うーん」と唸る。

 だが俺はすぐに「駄目!」と言った。

 しかしガブリエラは「説得してみよっか」などと寝言をほざき……。

 なので俺はちょっと……ガブリエラの頭をノックした。


「おーい、入ってますかー? ガブリエラさんは、親友を売る様な人なんですかー?」


 そのとき幾人かの元老院議員達が慌てふためき、食堂へと駆け込んできた。


「火事だ!」

 

「元老院が敵兵に囲まれている!」「敵とは何だ!? ここは帝国の中枢だぞ!」という声も飛び交って――一気に食堂が混乱の坩堝となる。


「どうやら、始まった」


 クロヴィスがニヤリと笑う。

 俺は言った――。


「ああ――……始めてしまったようだな。もう間に合わない……交渉は決裂だ」


「アレクシオス。知っていたのか……まさか!?」


 クロヴィスの笑みは引き攣り、頬に一雫の汗が伝っていた。

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