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冬季雷

 ◆


 十一月中旬、その日は朝から肌寒かった。

 空はどんよりと曇り、乾燥した落ち葉が寒風で舞い上がる。

 一度舞った落ち葉がカサカサと音を立て、石畳の上を舐める様に這っていく。

 偶然――落ち葉が俺の足下で止まる。風が止んだ。


 馬車から降りた俺は元老院の入り口を見上げ、トガの首もとを両手で掴む。

 背筋が凍るような寒さは、何も外の空気のせいだけではない。内から這い上がる様な冷たさがあった。


 今日、帝都は血に染まる――。


 俺はこれを止めない。利用する為だ。

 もちろん市民に被害だって出る。それを最小限に抑える努力はするが……。

 とにかく最悪の事態を考えれば、身体の内側から震えが来たとしても仕方の無い事だった。

 

 午前十時の少し前――。

 元老院の開会を待っていたかのように雨が降り始めて。

 まるで世界が冷凍庫にでも入れられたかのように、一気に気温が下がっていく。


「もう冬だな」


 誰かが言った。

 他の議員達は身震いしながら、「暖房を」などと呑気なことを言っている。

 彼等は今日、これから起こることを知らないのだ。


 白い息が俺の横で踊った。


「見て見て、蒸気機関車!」


 上を向き、「ホッホッ」と白い息を吐く。甲高くて張りのある凛とした声が、俺の耳朶をうつ。

 俺が無反応でいると彼女は顔を俺に向け、「むぅ〜〜」と不機嫌そうな顔をして……。

 少し鼻の頭を赤くした、黄金色のアホ毛をぴょこんと曇天へ向けるガブリエラだった。


「お前もやれよ、蒸気機関車。一人でやってたら馬鹿みたいだろ」


「いや俺さ、客車だから。煙とか出ないの」


「あ、そうなの? にしても寒いなぁ〜〜……帝都がこの時期、こんなに寒いって滅多にないよ」


「ああ――……雪、降るかもな」


「あ、それってさ……アレク――おれ、知ってるぞ。タツロー天気予報って言うんだろ?」


「は?」


「あれだよ、あれ! 雨は夜更け過ぎに〜〜雪へと変わるだろう〜〜ってやつ!」


「いやお前……アマタツとヤマシタが混ざってるよ……」


 ガブリエラもこれから起こる事は知らない。

 もちろん聞かれても教えてやらないし、だいたいコイツは俺の言う事をまったく聞かないので、教えても意味なんて無いだろう。

 

「違うって! あれだよ、あれ! うぅ〜ん、サイレンナ〜〜イト、ん〜〜んん〜〜ホ〜リ〜〜ナァ〜〜イトッ! ってやつ!」


 ああッ! 素っ頓狂な声! 音程合ってないし!

 

「それは天気予報じゃあなくてだな、クリスマスの名曲だよ! しかも何でそこ歌うかな! もっと有名な箇所があんだろッ!」


 俺は歌い始めたガブリエラのオデコをズビシッと叩き、議場の中へと入った。

 中はとても暗く、明かり取りの窓から見えるのは外の薄暗い空だけだ。


 ザアザアと降りしきる雨の音と共に、肌を刺す寒気も同じく窓から流入していた。

 となれば議員達にとって喫緊の課題は、この寒さであろう。次は議場の暗さか――。

 ともあれ武装した兵士達が方々に松明で明かりを灯し、議場の明度を温度を確保すべく動いていた。


 呑気なものだな……。


 “ピシッ――ガラガラガラガラガラ”

 

 そのとき季節外れの雷鳴が轟き、「ひっ」と議員達の情けない悲鳴が聞こえた。

 まったくクロヴィスが皇帝を暗殺しようと云うなら、おあつらえ向きの日だ。


「きっと君は〜〜〜〜かみなりぃぃぃぃいいい!」


 廊下からガブリエラの悲鳴も聞こえた。どうやらまだ歌っていたらしい。そして肝心なところが雷に変わっていた……。そんなの、もう来ない方がいいよ。

 せっかく高まってきた俺の緊張感を台無しにしやがって……お前が一番呑気だなッ!

 まったく………いっそアイツにも伝えて手伝わせるか!?


 いや、駄目だ。駄目に決まっている。

 確かにアイツが知れば現状に一石を投じることが出来るが、代わりにそれは――何か変な問題が起こるということだ。


 もしも陰謀に向かない人ランキングがあったら、きっとガブリエラは堂々の第一位。

 そんなヤツに手伝わせるなんて、無茶と無謀をミックスした宇宙船にカニを乗せて飛ばすようなものだ。となれば飛ばないどころか横に歩き出す……。


 それに今日これから起こる出来事は、大半の議員達だって夢にも思わないことだ。ここに一石を投じる意味なんて、まったく無い。どうせ皆、議会など早く終れと念じているだけだろう。

 まるで義務教育で学校に通う小学生、中学生と同じような心理だ。


 いや――実際に元老院の時間配分は学校に近いのだから、それも当然か。

 基本的に午前十時から始まり午後三時で終る。たとえ長引いたとしても午後五時までが限度だ。

 その日に出すべき結論が早々に出れば、午前中で終ることもある。どちらかと言えば例年は早く終る日の方が多いらしいが……。


「は〜〜早く帰っておやつ食べたい……な、アレク(チラッ)」


 うん……――もうガブリエラは放っておこう。

 とにかく今日は、残念だけど長い一日となるのだから。

 

 ◆◆


 俺は議場の最後列にある指定席――というかロサ家の末席に腰を下ろした。隣にはいつも通り澄まし顔のクロヴィスがいて、「おはよう」などと気安く手を振っている。


「おはよう、アレクっち」


「おはようございます、クロちゃん」


 初日以来、俺達は同じ席に座っていた。

 挨拶を交わすのも毎日のことだが――それも今日で最後になるのかも知れない。

 

 何せクロヴィスは俺を仲間に引き入れたいと言いつつ、今の今までコトの真相を語らなかった。

 したがって俺がコイツに「やめろ」と言うこともなく、ずるずると今まで過ごしていたのだ。

 まあ別に友達じゃあ無いので、コイツが破滅したところで全く心は痛まないが……。

 というか「アレクっち」という呼び方をするヤツなんか、積極的に破滅させてやりたいのだが……。


 そうそう――あの日以降、ネルファは非常に役立ってくれた。

 

 彼は優秀な組織を独自に持っているし、本人もそれなりに優秀だ。

 けれど総大司教になるほど優秀な弟が居たため、その存在が目立たなかったらしい。

  

 しかも彼の弟――マヌエル・ロムルス総大司教は辣腕で有名な男だ。

 いかな策謀も強引にやり遂げ、自らのスキャンダルすら利用するほどの精神力を誇っている。

 つまり彼は優秀であるのみならず、強靭で恐ろしい男なのだ。


 そこへいくとネルファは貴族然とした男で――言い換えれば現状維持に重きを置いていた。

 だからこそ現執政官たるペガサス家当主、サーペンス家当主とも仲が良く、末永く四公爵家で帝国を支えていきたいと考えているらしい。

 という訳でネルファには帝国を奪う気概など無いし、そういう野心を抱く弟とも相容れないとのこと。


 まあ実際、俺が見たところネルファはマヌエルにもクロヴィスにも及ばないが……それは言わないでおいてあげるとして……。


 それより意外だったのが、チュロス・ロサだ。

 彼もやりようによっては、こちら側に引っ張れると思っていたのだが……。

 実際のところは彼が野心ある息子と孫――つまりマヌエル・ロムルスとクロヴィスの後押しをしているという。ならばある意味では彼こそが、本当の黒幕だった。


 それが分かっただけでも、ネルファを味方に引き入れた成果としては上々だ。

 俺がリナ、ルナを使って調べ上げた情報だけでは、彼等三人の強固な結びつきまでは分からなかった。

 当初は彼等の間に楔を入れ、分断しようという策を考えたが――それは俺の甘い考えに過ぎなかったようだ。


 だからこそネルファは、このままではロサ家が彼等に潰されると思ったらしい。

 それで家の実権を奪うべく行動を起こしたら――俺にあっさり踏みつぶされたという悲しさだった。

 

 とはいえクロヴィス達の陰謀を潰せばロサ家にも存続の目はある。

 このことを信じたからこそ、ネルファは俺にしっかりと協力をしてくれたのだ。


 とまあそんな訳で明確な作戦決行日こそ分からなかったが、ロサ家については手駒、勢力、資金源、武力などなど――多くの情報を得る事が出来た。

 そうして得られた情報を精査すれば、皇帝誘拐――或は暗殺の決行日を割り出すなど容易いこと。

 むろん、それが今日であった。


 しかし俺がここまで突き止めていることを、隣のクロヴィスはまだ知らない――。

 

 もちろん……クロヴィスがネルファを泳がせたという線も、まだ残っている。

 だがそうなると彼が用意した人員、物資などは全てが無駄になるわけで――ならばその可能性は低いはずだ。


 今日は皇帝も総大司教もユリアヌス皇子も登院し、議会を最後まで見守るという。そういった事情からも、今日である可能性は非常に高いのだ。

 だからこそ俺はナナを通してテオドラにも出馬を願い、来て貰うことにした。


 いくら俺が皇帝を避難させたいと言ってテオドラの令旨りょうじを出しても、クロヴィスがユリアヌス皇子を担いで近衛軍団を動かせば不利になる。

 これを覆そうと思えば、テオドラの存在は重要であった。


 それに皇帝本人の信頼という意味でも、俺とユリアヌスでは比較にならない。

 結果として皇帝が息子の言動に従い命を落とすのは勝手だが、そうなってはガブリエラがユリアヌスのお嫁さんになってしまうのだ。


 あっ……、ちょうどテオドラが登院してきたらしい。

 武器を携えた数人の女官を引き連れ、議場の横にある上階の席に腰を下ろした。

 彼女は元老院議員ではないから、貴賓ということであそこへ座るのが常らしい。


 当然、女官の中にはナナもいる。俺はチラリと彼女を見て、小さく頷いた。

 ナナはやんわりと微笑み、目を細めている。どうやら女官が板についてきたらしい。


 ゼロスが今のナナを見たら喜ぶだろうな。

 白を基調とした優美なドレスを身に纏い、きらびやかな槍を手にしている姿はとても美しかった。


 あれ――階下のガブリエラがテオドラを睨んでいるぞ。テオドラも黄金色の手摺から身を乗り出して、ガブリエラを睨んでいる……。


「グルルルルルルルルル……!」


「ガルルルルルルルルル……!」


 なんだなんだ、この猛獣対決は。


 一方、少し遅れてやってきたユリアヌス皇子の方は、閣僚席の方に腰を下ろした。

 彼の場合は少し特殊で、皇子という立場から何となく閣僚の席が用意されたのだ。

 今思えばそれもクロヴィス達の敷いたレールであり、彼はそれに気付かず乗り続ける、哀れな豚さんに過ぎないのだろう。


 そして最後に皇帝と総大司教が手を携え現れて、万雷の拍手に迎えられる……。


 ともあれ、これで準備万端整った。

 だから俺は隣のクロヴィスに目を遣り、それから腕を組んで目を瞑る。

 そして今日、起こるべき騒動に思いを馳せ――その全てを打ち消せるかシミュレートしていくのだ……。


 まず帝都に炎が燃え広がったら、真っ先にゼロスが動く。

 二百の兵を二十の部隊に分け、手分けして消火活動に当たらせるのだ。

 

 火をすぐさま消すのは帝都の大火に乗じて起こるであろう暴動を、少しでも小さなものに抑える為。

 その際、声を大にして市民にも手伝ってもらう。間違っても彼等を暴動へ加担させない為に。


 幸いにして今日は雨。

 自然発火で帝都が火の海になる様な事は無い。

 にも拘らず次々と火災が起これば、誰もが放火を疑うだろう。

 この点をゼロスが声を大にして訴えれば、彼は労なく味方を増やせるはずだ。


 恐らく暴動は、核になる集団が最初に暴れ始める。それに続いて市民が暴徒と化す流れであろう。

 だからこそ市民が流れに乗る前に、善意の衣で包むのだ。


 同時にリナの暗殺教団アサシンが周辺に目を光らせ、危険と思われる人物の首を狩る。

 その場所場所にいるであろう、暴徒のリーダー格だ。

 リーダーを失えば暴動は発生しないか、したとしても統制を欠く。


 ああ、そうだ……。

 この暴動を起こす人材を、どこかの領地から流入させたようだとネルファは言っていたが。

 どこから流入したか、誰の手引きで入ったかが分からなければ、最悪の場合クロヴィスに言い逃れられる可能性があるな……となると出来れば何人かは生きたまま捕えて欲しいが……。


 とはいえ、元々こちらは数的に劣勢。

 ここで首謀者を捕えろと命じたところで、現場は混乱するだけだろう。

 まして指揮官であるリナは今、俺の影の中にいる。

 それに――それを重視して市民に被害が多く出てもマズい。その辺のさじ加減はゼロスに任せるとしよう。


 ――ここまでは、こんな感じか。


 それから近衛隊も問題だ。

 彼等がユリアヌス皇子と合流し、部隊を集中させれば帝都における最大兵力となる。

 俺がマーモスから上陸させた千名余の兵力では、到底太刀打ち出来ないだろう。

 だから近衛隊も消火に参加させ、元老院にいるユリアヌスの命令が届かないよう通路を塞ぐ。

 

 次にランス君だ。

 ランス君は可愛い。尊い。でも男の娘じゃあ無かった。女の子だった。

 ――――以上!


 ではなく……!


 彼女は直属の近衛兵を率いて議場内に待機。

 彼――ではなく彼女には、テオドラの親衛隊という名目も与えてある。

 俺の見立てでは、皇帝の警護兵四名が最も怪しい。彼等が皇帝を攫う尖兵と見て、まず間違い無いだろう。

 つまりランス君はテオドラの命を受けた体で皇帝の身の安全を確保し、その後の防衛指揮を執る事となる。


 まあ――平民がこれをやるのだから、貴族達が知ればさぞ怒ることだろうな。

 だがこれを機に、彼女には将軍への階段を上って欲しいものだ……。

 任務に成功すれば、少なくとも彼女は騎士階級に上がるのだから。

 

 さて次は、と。

 次は恐らく、元老院が暴徒を装った兵に踏み込まれるだろう。

 これに対し防御側の近衛兵は壊滅、ないしは戦線を放棄するはずだ。

 もちろんこれはクロヴィスの策謀による。

 だからこの敵の背後を俺の私兵が襲い、鎮圧するわけだが――。

 この鎮圧に当たるのがレオン率いるマーモス兵八百だ。


 彼は前回マーモス戦で留守番だったから、今回はとても張り切っている。

 敵を鎮圧したら皇帝を含め議員達を港まで警護するのも彼なのだが――まあ、失敗は無いだろう。

 港まで行けばアイーシャとトリスタンが船で待っているので、要人達を乗せれば、これで作戦終了となる。


 まあ、万が一想定外なほど大量の敵が沸いたとしても、アイーシャとトリスタンが陸戦兵を率いて駆け付ける手筈だ。結局ディアナのやつ、兵を千五百も送ってくれたからね。

 それにアイーシャは元々が帝国の軍人だから陸戦も得意だし、トリスタンの力もティグリスが「保証する」と言っていた。

 何でもティグリス曰く――。


「トリスタンは俺とアントニーを足して二で割った様な男だ。要するに――」


「つまりトリスタンは、男も女もどっちもイケるのか? バイだな! 要するにバイセクシャルだ!」


「いや違う――アレク。お前の脳はウジでも沸いているのか?」


「まさか。百合の花が咲いているだけだ」


「……まあいい。要するに攻守の均衡という意味においては、俺達に勝るってことだ」


「ふぅん……――なんだ、お前ら雑魚だな」


「アレク、お前な。つまり俺達三人が揃えば、たとえお前でも勝てないって言ってんだよ! そんぐらい俺達ゃ強ぇーぞ!」


「そか、じゃあ各個撃破してやるよ。一番最初はお前な、ティグリス。怒ってすぐ向かってきそうだから、罠に掛かりそうだし。デュフ、デュフフ」


「てめぇ、まじでぶっ殺すぞ、アレクッ!」


「やれるもんならやってみろ〜〜!」


「だったらてめぇの百合の花、引っこ抜く!」


「すみませんごめんなさい、それだけはご勘弁を……」


 ――とのことであった。そんな訳だから安心であろう。

 あれ、この会話で安心出来る要素、あったかな? まあいいや。


 あとは艦隊の指揮だが――これは安定のヴァレンスに任せてある。

 アイツは「アイーシャやトリスタンを差し置いて、俺でいいんですか?」なんて言っていたが……俺はヴァレンスの艦隊運用に絶対の信頼を置いているんだ。

 アイツがいたからマーモス戦も勝てたし、それこそアイツを差し置いてマーモス海軍を他の者に託すなんて、出来っこない。


 さらにふねには最終兵器ドムトも積んでいる。これが本当の切り札だ。

 なんでもディアナが相当な改良を加えたそうで、今やマーモス最強の戦士だとのこと。ミネルヴァも魔法を使わなければ、手に負えないらしい。

 

 ……ええと、手紙にはこう書いてあったな……。


『万が一ドムトが暴走したら、尻尾――先端に赤い球体がある――を引っ張れば止まるよ』


 尻尾付けるなよ! ていうかドラ〇もんかよ! というツッコミは置いておくとして。


『と言うのも……実は今のドムトは魔石で強化した魔臓により、肉体の機能を保っている。つまり生物学的に言えば、竜や合成獣キメラなどの幻獣に近い存在なんだ。

 それだけに彼が望めば火を吐く事も出来るし、氷を吐く事だって可能だろう。もちろん目からビーム……――は出ないけれど……もしかしたら頑張れば……うーん……』


 どうやら目からビームは出ないらしい……残念だ。


『でもその代わり、ドムトの怒りが高まったら左目が赤く輝く仕様にしておいた。効果は無いけどカッコいいからね』


 さすがはディアナ。男のロマンをよく理解している!

 筋肉、改造人間とくれば、目は赤く光らなきゃね!

 ――って、重要なのはそこじゃあ無い。


『ていうのは全部ウソだけど……』


 おい! なんだよ! 全部嘘だったの!? 凄く期待したのに!


『ただ彼――あれから凄く鍛えててさ。とにかく今の彼なら、一人で一個大隊を相手にしても不足は無いと思うよ。

 たぶん、そうだな……戦力的には〇.五ガブリエラってところかな。

 そんな訳だから、とにかくアレク……君とガブの無事を遠くマーモスから祈っているよ――美と知の女神ディアナ・カミル』


 知らなかった、ガブリエラって戦力の単位なんだ……。

 そして〇.五ガブリエラが大隊級の戦力ならば、つまりガブリエラ本人は連隊級の戦力ということ。もうなんだ……、馬鹿にするのは止めておこうね。

 あとディアナのやつ。最後、名前書くの面倒になったのかな? ガブって……ガブって……。

 それにしれっと自分のことを美と知の女神とか言ってさ――……絶対コイツ、飲みながら手紙書いたよね……。

 

 しかし――まあそんな訳だから、皇帝陛下と元老院議員を連れて港に辿り着けば俺達の勝ちである。


 ただ問題は今も俺の隣に座っている男……クロヴィスが何を考えているのか分からない点だった。

 コイツはコイツで今日の勝利を確信しているのだろうか?

 

 午前の議会が終わると、クロヴィスは大きく伸びをして……。


「まったく――自分が発言をしない会議ほど退屈なモノは無いと思わないか、アレクシオス」


「まあ――退屈はしますけれどね。その方が気楽だ、とも言えるでしょう」


「それはね。だからと言って彼等に帝国の行く末を任せる、というのも気が気じゃあ無い……ま、もっとも――まだ私達の出番では無いと思えば、諦めもつくか。

 ともあれ――さ、アレクシオス。食堂へ行こう。何もせずとも腹は減るものだ」


 彼は俺の肩をポンと叩いて立ち上がった。そしていつもと同じく俺を誘い、食堂へと向かう。

 この緊張感の無さがいっそ不気味で、キリキリと胃が痛んだ。


 けれど俺は胃を押さえて立ち上がり、クロヴィスの後に付いていく。食事は出来る時にしておくべきだ。

 今日の前半が何事も無く終ったからといって、何一つ安心など出来ないのだから……。

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