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アレクシオスは気付かない

 ◆


 ペドリオン宮殿へ入るにあたって、俺は商人ミダスの手を借りた。

 彼と提携している商人のフリをして、後宮の手前まで入り込んだのだ。


 ここは宮殿の大手門から入り、東へ歩いて門を一つ越えた先、二つ目の門の手前。

 その二つ目の門こそ、後宮へと繋がる最後の門だ。

 辺りは石壁に囲まれた広場になっていて、その一角で俺は門衛の男に声を掛けた。


「この娘がテオドラさまの女官になりたいと申しておりまして……お取り次ぎをお願いしたいでゲス。つきましては、お手数を掛けますので……些少ではございますが、こちらをお受け取り下さいませでゲス」


「お、おお……中々にずっしりと重い……金貨か。よし、少し待っていろ」


 賄賂を少々握らせると、門衛の男は笑みを浮かべて女官に声を掛ける。

 その女官が奥へと走り、少しだけ地位の高そうな別の女官を連れて来た。


 女官に連れられた女官というのは何とも微笑ましい百合だが、しかし楽しんでいる場合ではない。

 彼女が「テオドラさま付きの女官ですが……」と名乗ったので、こちらにも賄賂を渡すことにした。

 こんなところで足止めされている時間は無いのだ、急がねば。


 しかし、彼女は賄賂を受け取らなかった。代わりに眉根を寄せて、胡乱な目で俺を見る。

 流石にテオドラの近侍ともなれば、教育もしっかりしているのだろう。迂闊だった。


「あなた――本当に商人ですか? 物腰や言葉遣いも妙ですし、わたくしに賄賂などと……外套を捲って顔を見せなさい――衛兵も衛兵ですわ。なぜこのように怪しい者を見咎めず、わたくしを呼ぶのですかッ!」


「ゲ、ゲス……?」


 やばい、バレたか。

 といっても悪事を働こうとしていた訳でも無し、武器を隠し持っている訳でもない。 

 衛兵は先ほど金を受け取っているから、フラフラと気付かないフリをして遠くに行った。

 となれば、この女官を納得させれば良いだけだが……。


 俺はローブのフードを降ろし、女官を正面から見つめた。

 言葉使いをいきなり直せば、さらに怪しまれるだろう。

 ここは一つ、ゲスい商人を貫き通すしかないか。


「こ、これは失礼しましたでゲス。ミダスどのの証書も持参しておりますで、女官さま――ご確認をお願いいたしますでゲス……」


「…………」


 女官が目を瞬きながら、俺の顔をぼーっと見ている。

 むむ……鼻毛でも出ていたのだろうか?

 しかし、いまさら確認など出来ない。


「あのう、女官さま?」


「あっ……はっ……すみません、あの……まさか、そんなに……綺麗なお顔をされていたなんて……まるで貴族のご子息のような……」


「はぁ……いちおう毎朝、顔を洗っているでゲス」


「そのような意味ではなくて……」


 言葉をそこで切った女官が、口元に手を当て咳払いをする。「こほん」


「――そ、それより、どのようなご用件かしら?」


「はぁ……実は我らと取引のある一族の娘が、是非にもテオドラさまの女官になりたいと申しまして。我らとしても無碍に扱う訳にいかず、このように連れて参った次第。合否は問わぬまでも、せめて姫さまに、お目通り願えればと存じゲス。あ、もちろんミダスどのの証書も用意していますでゲスから、ご確認を」


 俺は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、女官に見せた。

 彼女は小さく頷き、上目遣いに俺を見ている。


「あの……確認して欲しいでゲス」


「あ、は、はいっ。なるほど、こちらの女性が――エルフでしょうか? 彼女が女官になりたいと……わ、分かりました――姫さまには責任を持って、わたくしが取り次ぎましょう。ただ、あなた――」


「はいでゲス?」


「その、あなたのお名前を、教えて頂けますか?」


 むむっ――まさか名前を聞かれるとは。

 まあいい、最悪の場合を想定して、偽名くらいは考えてあるし。


「へい、あっしの名前はピタゴラス。商人のピタゴラスでごぜぇやすでゲス」


「そ、そうですか、ピタゴラスさん……あなた、まだお若いわね? 見習いの商人でいらっしゃるの?」


「いえ、ミダスのダンナと提携しておりやして、独立してやっておりやすでゲスよ。主にスイッチを売ったり、定理を売ったりしているでゲス――ピタッゴラァァアアア! スイィィィィィイイイッツ! と言えば、地元で大人気でゲス」


「そ、そうなのね? よく分からないけれど……帝都には、よくいらっしゃるの?」


 女官が祈る様な仕草で、俺を見ている。

 よく見たら明るい茶色の髪と、輝く様な青い瞳が美しい女性だ。

 年齢も、俺と同じくらいだろうか。膝下までのスカートが風で揺れていた。


 風というのは、時に官能の悪魔となる。


 正面に立つ女官さまの髪が、風のせいで俺の顔の前に流れ……。

 それと同時に百合の香りが鼻孔をくすぐり、俺は思わず目を瞑って堪能した。

 この女官はきっと、百合をベースにした香水を使っているのだろう。

 まったく、百合の香りを漂わせる女官がいて、その女官が百合で百合の百合っぷるとか――やはりここは楽園。デュフフフフフフゥゥ!

 花の百合と華の百合が、見事なまでのコラボレーショォォォォン!


「帝都には、あまり来ないでゲスが……後宮というのは緊張するでゲスね。なんとも百合の香りがスンスンスンスン――ズズッ――ゲフォオオオオアッ!」


 しまった! 思わず百合の香りを堪能したら、鼻の吸引力が最大になってしまったぁあああッ!


「いやああああああああッ! 私の髪を鼻で吸い込まないでぇぇええええ!」


「す、すす! すまないでゲス。女官さまが、余りにも麗しい百合の香りだったものでッ!」


「い、いいのです。べ、別に、き、気にしませんわッ! あは、あはは……」


 引き攣って微笑む女官さまの髪に、俺の鼻水が付着している。

 そこはかと無い申し訳無さから、俺は懐の布でそっと彼女の髪を拭いた。


「そう仰って頂けると助かりますでゲス、女官さま。本当に申し訳ないでゲス」


「あっ……あなたっ、女の髪を気安く触るものではっ……」


「すみませんでゲス。だけどせっかくの綺麗な髪に、あっしの鼻水が……」


「き、綺麗って、そんな……わたくしなど、姫さまの足下にも及びませんわ。あ、あなたは本当の美しさを、まだ知らぬのです」


「んー……そうでゲスかね? あっしは、そう思わないでゲスけどね?」


「あなた、それって……そ、その――妙な訛りを直しなさい。そうしたら――」


「そうしたら、何でゲス?」


「な、何でもありません。とにかく、ここで暫くお待ちなさい! そちらの女性をテオドラさまに、案内して参りますわ。ただ、女官として採用されるかどうかは、保証致しかねますが……」


「あ、はい。よろしくお願いしますでゲス」


 ツイと踵を返し、女官さまは背を向けて歩き出す。それから一度だけ立ち止まって首を横に向け、思い出したように彼女が言った。


「わたくしの名は、シエラと申します。何かあれば、お呼びなさいな」


 再び歩くシエラさんを見ていたら、ナナが俺の耳に口を寄せてきた。


「あたしも同感。その喋り方、どうにかしなよ」


「いや……いい感じに商人っぽいかと思って」


「商人を馬鹿にしてねぇか?」


「いや、まったくしていないが?」


 ナナと話していたら、またもシエラさんが振り返った。


「あなた、何をしていますの? 女官になりたいのでしょう? 行きますわよ、さっさと付いて来なさい」


「あ、そうだった。あたしが女官になるって話だった」


 ナナが慌ててシエラさんの後を追う。小さく舌を出すその様が今日の衣装と相まって、ナナを闊達な少女のように見せた。


 俺は二人に手を振ってから、さて――と腕を組む。

 ここで待っていろと言われても、単純に暇である。

 すると衛兵の一人が側に来て、ニヤニヤしながら口を開いた。


「あんたの連れてきたエルフの娘――美人だなぁ。シエラさんも、いいよなぁ。あんな子達に酌をしてもらいてぇモンだぜ。そうしたら、さぞや酒も美味いってモンだろうよォ?」


 広大なペドリオン宮殿の片隅で、衛兵も暇だったのだろう。

 彼の緊張感の無さに呆れながら、一応は話に付き合ってみる。

 まあ、ここで彼等に嫌われても仕方が無いからね。

 

「美人が酌をしてくれる酒場も、帝都には多いでゲショ? そういった場所に行ってはどうでゲス?」


「まあな――でも大体が奴隷女だろ? 相手にしたら、病気をもらっちまわぁ」


「そうなんでゲスか?」


「ああ。だからよ、あの娘、女官になれないようだったら売ってくれねぇか? 女官になるってこたぁ、まだ誰も手を付けてねぇんだろ? 金は言い値で出すからよ?」


「はは……ナナは、奴隷じゃないでゲスので」


 俺は愛想笑いで応えたものの、少し不愉快だった。

 こんなヤツが近衛兵とは、帝国軍の質も知れるというもの。

 言い値で奴隷を買えるというのは、それだけ賄賂で儲けたという証左だ。


 確かに宮殿の作りと人員の配置を見れば、鉄壁と言える防備だろう。蟻一匹入る事は許さない――という前提で作られ、人員を配置していることが解る。


 しかし肝心の配置された人員がこれでは、ざるだ。

 現に俺もこうして身分を偽り入っているし、皇女の側にまで簡単に人を送り込んだ。

 もしも俺が暗殺者の類なら、少なくともテオドラまで爪が届くということ。

 腐敗しつつある帝国は、こうして徐々に形を崩しているのかも知れないな……。


 ◆◆

 

 衛兵の猥談などに適当な相槌を打って、ぼんやりと待つ。

 すると一時間後くらいだろうか、ようやくナナが戻って来た。

 彼女は清楚な微笑を浮かべて見せて、俺に会釈する。


「連れて来ていただき、ありがとうございます。おかげさまで、女官になることが出来そうですわ」


 ナナは無事、任務をやり遂げたのだろう。何だか調子に乗っていた。


 シエラさんも笑顔で、「採用なさるそうです。今日中に部屋を用意しますので、明日から後宮に詰める様に――とのこと。良かったですね。お休みは五日に一度、交代制です」と言っていた。

 これで連絡役も確保出来たし、あとは一度、テオドラと直接会って話すことが出来れば完璧だ。


「あ、あの、ピタゴラスさん。ナナさんのお休みの日には、あなたが迎えにくるのかしら?」


「ん〜……そうでゲスね、そのつもりでゲス」


「そ、その……お二人は恋人なの?」


 ナナがチラリと俺を見て、シエラさんを見て――


「ピタゴラスさんには、国に残した美人の恋人がいますのよ、シエラさん」


 と言って片目を瞑る。


「恋人?」


「ほら、ディアナ。アイーシャだって」


 どことなく肩を落としたシエラさんが、「ふ、二人も!? そうですか……おモテになるのね。そうよね……」と小さな溜め息を吐いた。


「いや、違います、誤解です。モテないでゲス!」


「あら?」


 今度は顔を明るく輝かせるシエラさん。

 それを見て、ナナが俺の脇を肘で小突く。早く帰ろう、との合図であった。


「じゃあ、明日からナナがお世話になるでゲス」


「はい。ピタゴラスさんも、ごきげんよう。またお会いしましょうね」


「分かったでゲス。またでゲス」


 俺はシエラさんに一礼すると、急いでナナと馬車に乗る。

 散歩に連れて行って欲しいワンコと同レベルの帰りたいオーラを、ナナが出していたのだ。

 馬車に乗るとナナは、鼻息も荒く「褒めて」オーラを出しまくっていた。

 さて、褒めつつ状況を聞くか……。


「流石だね、ナナ。上手くいったんだろう?」


「ああ、完璧! 今夜来てくれってさ!」


 ナナが親指を立てている。指紋を俺の眼前に出し、眼球を押さんばかりの勢いだ。


「ありがとう――やっぱりナナに頼んで良かったよ。だけど、今夜とはね。思ったよりも動きが早い」


「どうやらテオドラも、事態が切迫している事に気付いていたみたいでさ!」


「へえ」


 テオドラって案外、勘が良かったのかな?


「にしても、こんな風に髪を纏められると、肩がこるねぇ――ははは」


 髪飾りを取り、せっかく纏めた髪を降ろしてナナが笑う。褐色の肌と白い歯のコントラストが、健康的な美を発散していた。


「でも、明日からは暫くの間、その恰好だよ」


「まあねぇ……着飾るってのは柄じゃないんだけど……」


 言いながら、満更でも無さそうな笑みをナナが浮かべている。


「ところで皇女殿下は、他に何か仰っていたかい?」


「いいや――テオドラも危機感を持っていたみたいでね。二つ返事だったよ。それで今夜、会いたいってさ」


「そっか――令旨りょうじの件は伝えてくれたのかい?」


「いや、さすがにそれは……近くに侍女もいたしね。だけど、どうせ今夜会うんだ、大丈夫だろ?」


「まあ、そうだね。テオドラ殿下が状況を理解してくれているのなら、令旨はすぐに頂けるだろう」


「そんなことよりさ!」


「ん、何?」


「シエラって子、どうすんだよ!?」


「は? どうする、とは? 今日会ったばっかりだけど?」


「はぁ……あの子、アンタのことばっかり聞いてきたぜ?」


「まさか――疑われているのか?」


「ちげぇよ! せっかく恋人がいるって言ってやったのに!」


「嘘はよくないでしょ」


「でもアイツってばよ、ピタゴラスさんの実家がどうとか、収入はどうとか……色々聞いてくんだよ! ったく……アンタって何で色恋になると、いきなりポンコツになるんだよッ! どうなっても知らねぇからなッ!」


「ん?」


「ああああああ! もういいわ! 勝手にしろ!」

 

 ナナとそんな話をしていたら、いつの間にか自宅の前に到着したらしい……。

 安っぽい門を通り抜け、自宅の狭い車寄せの前で馬車を降りたら、弾ける笑顔が迎えてくれた。


「おかえりなさい、提督! お久しぶりですッ!」


 紅い房飾りの付いた帝国近衛兵の鎧姿、この凛々しい姿はまさしくランス君ではないかッ!

 思わずキュン――と俺の胸が高鳴り、またもホモ疑惑が浮上。

 俺は家にいた兵に馬車と馬を片付けるよう伝えて、玄関先に立つランス君の肩に手を乗せた。


「久しぶりだね」


「呼んで頂けるなんて、光栄ですッ!」


 俺が肩から手を離すと、胸元に拳を付ける最敬礼のランス君。

 ホンノリと上気した頬が眩しくて。

 だけど俺とランス君は今、部隊が違う――つまり部下ではないのだから……。


「敬礼は無用だ。私と君の仲だろう」


 俺は友情を示す為にランス君の腰を抱き、家の中へと促した。


「お、俺と提督の、な、なななな仲ッ!?」


 途端――ギチギチに固まるランス君。

 え、なんで? もしかしてランス君にもホモ疑惑?

 ランス君は頭を少しだけ俺に寄せ、口をムニムニとしていました……。

 まあ、身長差のせいだと思っておこう。きっとそうに違いない。


「まさか、今日来てくれるとは思わなかったよ」


「て、提督が呼んでくれたなら、何を置いても駆け付けます! あっ……もう提督じゃありませんね……ええと、閣下――とお呼びすればよろしいでしょうか?」


「あ、いや――アレクでいいよ」


「そんなっ、呼び捨てにするなんて、恐れ多いです!」


「そうかなぁ……」


「じゃ、じゃあ……アレクさま、とお呼びしてよろしいですか?」


「構わないよ」


 俺が頷くと、ランス君は俺を見上げて瞳を輝かせた。

 なんだろう、これ。

 身を寄せ合って見つめ合い、廊下を歩く男同士。

 そうか、ランス君は俺の新たなる親友なのだ。と思っていたら……


「なあ、アンタはランスみたいなのが好みなのか? 胸がペッタンコで子供……そんで髪をパッツンと切りそろえた、人形みたいなヤツが、さ」


 ――ナナの容赦無い言葉が突き刺さった。


「え、あ、え、あ? そりゃランス君はペッタンコだろうけど、それは当たり前な訳で……私はそりゃ、ランス君のこと、好きだよ? でもその好きっていうのは友人としてだねぇえええええええ!?」


 横でランス君が、慌てて自分を抱え込む俺の腕を放そうとしている。


「はわわわ! そ、そうですよ! 俺と閣下なんて、全然まったく釣り合ってなくて……! 恐れ多いっていうかッ! 何ていうかッ!」


 ああ、ランス君……取り乱し方が凄く可愛い。

 釣り合っていないっていうか、そもそも俺達は男同士だから釣り合っちゃマズいんだよ。

 でもだからこそ、ランス君が可愛くってがっちりホールド。ああ、俺って変態だ。


「ちょっと、アレクさま! 放して! そんなにくっつかれたら、わ、私――じゃない、俺――おかしくなっちゃうッ!」


「むむ……ランス君は、私のことが嫌いなのかな?」


「はわ、はわわわ! 誰がそんなこと、言いましたかぁ〜〜〜っ! す、好きです、好きですから、放して下さい〜〜っ!」


 ランス君、涙目になってジタバタ……その結果、こけた。


 “ドン”


 俺もランス君につられて転び、床を大回転。

 兜が外れ、ランス君の茶色いパッツン髪がハラリと零れ……。

「うぅ……ん、あっ」と艶かしい声が、ランス君の口から漏れていて。


 いつの間にか俺は、ランス君を下敷きにしていた。

 そして、なんだろう……唇が、柔らかく温かな何かに触れている。

 それは少し水気を含んでいて……ちゅく……舌を軽く動かすと、ヌメリとした感触があり……同時にクルンと舌先に何かが纏わりつく。


「んっ、んくっ、んんんんん〜〜〜〜〜!」


 五月蝿いな――と思って俺が目を開くと、俺の口がランス君の唇に押し当てられている。

 否――俺がランス君を押し倒し、強引にキスをしている恰好だ!


「――って、ごめん! ランス君!」


 涙目のランス君が、「ぷはぁっ」とようやく呼吸再開。

 なんだ、これ。男相手にラッキースケベか!?

 よっぽど俺は、ホモ神さまに愛されているんだなぁ……フフ、フフフ。


「だ、大丈夫です……アレクさまが相手ですし……それより、どうしました? 目が死んでますけど……」


「いや……何でも無いよ……ハハ……」


「すみません。俺なんかとキスなんて、事故でも……嫌ですよね」


「あ、その――嫌とかではなくて……!」


 こんなことを言うランス君に思わずキュンとして。

 それがヤバいと思ったから、俺は慌てて立ち上がろうとした。


「でも、男同士――どぉぉぉわぁあああ!?」


 しかし、それが災いのもと。

 慌てて立ち上がろうとしたら、ずるりと滑って手がランス君の股間を直撃だ。

 どういうわけか彼の鎧をすり抜け、ズボンの下に俺の右手が大侵入。


「ひゃんっ!」


 しかし、感触は壁面。良かった、彼の子孫繁栄を阻止することは無かったらしい。


 だが、おかしい。


 ここにあるべきリボルバーはどこだ? 

 まさか、驚くほどのスモールサイズなのだろうか。

 思わず興味に駆られた俺は、そのまま手をニギニギと動かしてしまった。

 

「あっ、あんっ」


 するとランス君から再び艶かしい声が上がり――潤んだ瞳が俺を見つめている。

 そうかっ! すでに俺は触っていたのだ!

 しかし――彼のち○こは極小であり……俺の無骨な右手では認識し得ないというアレかッ!


 ああ……俺は何と酷い事を!


 ランス君のち○こが凄く小さいからって、興味本位で触ってしまった。

 彼はきっと、身体的劣等感を抱いているに違いない。

 それなのに俺は、何ということをッ!


「す、すまない、ランス君。このこと(ち○こが極小だということ)は、誰にも言わないよ」


「ありがとうございます……でも、いつか閣下には、このこと(女だということ)がバレるだろうなって……思っていました。軽蔑――しましたか?」


「まさか。こんなこと(ち○こが極小だということ)くらいで軽蔑なんて、絶対にしないよ。そりゃ、軍では差別もあるだろう。特に地位の低い者や荒くれ者なら、尚更かもしれない……女性だって、真実を知れば侮蔑の目を向けてくるだろう……そう思えば、きっとランス君は苦労しただろうね」


「はい……だから、このこと(女だということ)をずっと隠していました。その方が将軍になるにも、近道ですし――」


「そっか、そうだったんだね……だけどね、ランス君。私は君がどうあれ、勇者だと知っている。それで今回も、協力して欲しいと思ったのさ。そうだな――君さえ良ければ、ずっと私の下に居て欲しい……いつか君が大軍を率いる手助けも、きっとするよ」


「アレクさま……」


 俺は立ち上がると、ランス君に手を差し出す。

 こんな苦労人、放っておけるかっての!


 ランス君はしっかりと俺の手を握り――それから跪き頭を垂れた。

 肩口で切り揃えられた髪がサラリと揺れて、横顔を隠している。


「このような身ではありますが、ランス・ヒューリー……アレクシオスさまの御為ならば、身命を惜しみませぬ」


 俺はランス君の前にしゃがんで、彼の髪を耳に掛けてやった。

 それからニッコリ笑って、頷いてみせる。


「私は私の為に誰かが死んだら、とても辛い気持ちになるよ。だから命だけは、惜しんで欲しいな」


 何故かランス君は顔を真っ赤にして、茹で蛸のようになっていた。

 やっぱりランス君、ホモなのかな……。

 いや――顔を赤くしたからって俺のことが好きだと思うとか、自意識過剰だ。

 

 何にせよ、今のところは全て順調。

 テオドラとは今夜会い、ランス君の協力も取り付けたのだから――ね。


「まあ、あたしはフツーに知ってたけどね。だってバレバレだし」


 ナナの言葉に――俺とランス君は揃って絶句した。

アレク……あんたって子は……。

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