命懸けで守る、でも結婚はしない
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目の前でオクタヴィアン氏が目を細めた。椅子に腰掛け、俺を睨んでいる。
その顔は決して、娘を溺愛する父のモノではない。
帝国中枢を担う大貴族の、怜悧な仮面を付けた腹黒いイケメン中年紳士――その姿がここにある。
対するはこの俺――百合の花香る変態紳士――アレクシオス・セルジュゥゥゥゥクッ!
と……こんな事を考えている場合じゃあない。
ガブリエラは家族だから気付いていないのかも知れないが、オクタヴィアンが最優先にしているのは、父であることよりも、レオ家当主としての責務。
つまりユリアヌス殿下の意図はどうあれ、オクタヴィアン氏にとってこれは、紛れも無く政略結婚なのだ。
だとすれば、これはオクタヴィアン氏の策略でもある。
だが俺に言わせれば、そんなものは糞くらえだ。たとえノブリス・オブリージュだと言われても、それでガブリエラが不幸になって良い道理なんて無い。
彼女はディアナと「チュッチュ、イチャイチャ、ラーブラブ」することこそ真の幸せなのだ。
それを邪魔する如何なるものも、俺は必ず排除するッ!
「クッハハハハ」
「おい、アレク……どうした、いきなり左手で顔を押さえて笑い出すとか……厨二臭いぞ……」
「ああ、すまない、ガブリエラさま。君の父上の底が見えたものだから」
「父上の底? なんだ……それ?」
「大貴族の――と言い換えても良いが。今、露骨に表情が変わっただろう」
「そうか? ……そう言えば、そうだな……」
「無礼だろう、アレクシオス・セルジューク――提案とやらを聞いて、良ければ娘を……と考えているのに」
「無礼、ですか? 先ほどまでの閣下は、ガブリエラさまの父上であらせられた。だからこそ私は親友の父君への礼を失さぬよう、努力していたのです。が――今のあなたは途端に大貴族のオクタヴィアン・レオとなられた。つまり欲望と打算が鎌首を擡げている。それを閣下の底と申し上げたのですよ」
「ふむ……なるほど、ずけずけと言う。が、そうだな……まあ私にも色々とある。卿の提案を聞くのに、父親の顔だけ、という訳にもいかんのが現状だ。察してくれるな?」
オクタヴィアン氏が眉根を寄せた。どうにも演技くさい。
娘の前で、父親ぶって見せているだけだろう。
ガブリエラを大切にしているのは本当らしいが、しかし結局は、大貴族の理論を優先している。
もっとも俺は、そんな貴族の弱みを利用してガブリエラを解放するつもりだ。
貴族だからこそ受けなければならない婚姻ならば、貴族だからこそ出来ないこともある。
つまりオクタヴィアン氏にとっては、帝国四公爵であることが全て。
ならば彼には、最も四公爵らしい選択を用意してやろう。
とにかく、オクタヴィアン氏は測っている。
ガブリエラをユリアヌス皇子と結婚させた場合と、俺が結婚相手になった場合のことを。
そしてどちらがレオ家に利益を齎すのか、分析をするだろう。
もちろん現状では、俺に軍配が上がるはずなど無い。
皇位継承権第一位の皇子と成り上がりの子爵など、比べるだけ時間の無駄。
象と蟻、月とスッポン、美女と野獣――まあ、ざっと、その位の違いがある。
だが逆に言えばレオ家にとって、ユリアヌス殿下と結婚するよりも良い結果を導き出せるのなら……少なくともオクタヴィアン氏が、そのように判断すれば、ガブリエラの結婚は流れるのだ。
オクタヴィアンが俺を真剣に見つめ、口の端を僅かに歪めている。
試してやろう――という表情に見えた。そして口を開く。
「で、一体何を、私に提案しようというのかね?」
俺が態度を豹変させたから、逆に興味を示したのだ。
ここまで食いつけば、言下に否定されることは無い。
あとは興味を引き続けること――そして彼の思考を誘導することだが……面倒だな……。
自分の意志で考えていると思わせて、俺の思う通りにさせなければならないってのは。
俺は軽く唇を舐めて、喋り始めた。ゆっくりと聞き取りやすく――それでいて不安を煽るよう、押し殺した声で……。
「その前に、閣下にはご了承頂きたい件がございます。ことは帝国の内憂にも関わること――決してご他言無き様に願います」
「ほう――大きく出たな。ガブリエラの結婚が、帝国の内憂にも関わってくるのか? ふっはっは」
「笑い事ではありません。何故と申せば恐れながら――ユリアヌス殿下のガブリエラさまに対するお気持ち、これを利用せんとする、由々しき輩がございますゆえ」
「殿下を利用するだと、誰だ、そのような不忠者は……何の為に? 証拠はあるのか?」
「順にお答え致します……まず殿下を利用なさる者は、マヌエル・ロムヌス総大司教猊下。何の為になど申し上げずとも、この名だけでご理解頂けましょう。最後に証拠ですが――現状を放置致せば、それがそのまま私の言の正しさを物語ることに……」
「なるほど、自信があると云うことか……よかろう、他言無用は約束する。だが――」
背もたれに沈み込んで、オクタヴィアンが目を閉じた。小さく溜め息を吐いている。次に目を開くと、俺を威嚇するように睨んできた。
「アレクシオス卿、貴殿が私を誑り、帝国に仇為すことも考えられる。その時は、このオクタヴィアンが容赦なく斬り捨てるぞ」
「父上ッ! アレクはそんなんじゃあ無いッ! なんで信じないんだ!」
ガブリエラの悲鳴が上がる。が、俺は頷き「ご随意に」とだけ言った。
「まず私が閣下に知って頂きたいのは帝国内部に巣食う虫が、既に屋台骨深くまで浸透している――という事実。ゆえに提案すべきは、これに対処する方法にございます」
「勿体ぶるな。相手が総大司教ともなれば、一子爵にどうこう出来るものではない」
「仰る通り、総大司教猊下の野望を阻止する意図など、微塵も御座いません。そもそも私の目的は、ガブリエラさまの婚姻を阻止することに御座いますれば」
「なんだと? 帝国に危機があると言いながら、卿には――防ぐ気が無いと申すか」
「帝国の命運など、なるようにしかなりません。もちろん帝国軍から給料を頂いている身ですから、それなりには働いているつもりですが……そんな事より私にとっては、ガブリエラさまの将来の方が遥かに心配なので。
とはいえ今回の場合はガブリエラさまの婚姻を阻止することが、帝国内部の火種を小さくすることに繋がります。となれば四公爵である閣下にとっても、看過出来ぬ問題でありましょう?」
「うむ、確かにな――なるほど、これが『黒狼』か。くっくっく……まあよい、説明を続けよ」
「御意」
一呼吸おいて、俺は説明を続けた。
「総大司教マヌエル・ロムヌス猊下の父君は、言わずと知れたロサ家の当主。そして甥――正確には息子がクロヴィス・アルビヌス伯爵であることは、ご存知でしょうか?」
「当然、知っておる。公然たる秘密だからな」
「では、その猊下が直属の軍団、即ち騎士団を新たに有する――というお話は?」
「騎士団だと? なんだそれは」
「いわゆる常備軍であると、ご理解下さい。帝国に属さぬ軍団です」
「バカな――それでは我ら貴族と同じではないか。ヨハネス教団は武力を有さぬ。それゆえに、皇室も彼等の権威を認めているのだぞ」
「いえ、現状でも武力は有しています。教会領には相応の戦士団が存在している」
「分かっておる。だが、それはあくまでも教会領に限っての自警組織であろう。それが軍団となれば、話が変わる。皇帝陛下とて、そんなものを認めはせぬ」
「仰る通り、武力を有さぬが故に教会は皇室を上回る権威を持っている。ですが……残念ながら今の教会にはロサ家の後ろ盾があり、彼等であれば新たなる騎士団の創設も容易でしょう。
それに皇帝陛下が認めなくとも、ユリアヌス皇子が認めると仰れば、如何です――?」
「だとして……他の公爵家が認めるものかッ! ましてやユリアヌス殿下が父帝に反対意見を唱えるなど、有り得んッ!」
「そうでしょうか?」
「……アレクシオス卿……君は、いったい何を知っているのだ?」
俺はここで、恭しく頭を垂れた。
頭を上げると、俺はマヌエル・ロムルスの企みを虚実織り交ぜて話す。
虚実というのは、俺の予測の部分も入るからだ。
もちろん言わなくても良い部分――例えば、本当の黒幕はクロヴィス・アルビヌスであろう、などと云うことは伏せておく。
「まず、クロヴィス・アルビヌス伯とユリアヌス殿下は、親友であらせられます。この事実を念頭に置き、話をお聞き下さい」
「うむ」
「では、現状に目を向けましょう。現在帝国は大軍をもって、モンテフェラート攻略作戦を継続中。裏を返せば帝都近隣から軍団が出払っていることを意味します。
このような状況で帝都に何事かが起きた際、真っ先に動くのは誰でしょうか?」
「むろん、近衛軍団だ」
「然様です。しかしながら近年の近衛軍団は第二軍団と同じく、ユリアヌス皇子が指揮なさっておいでだ」
「それは当然だろう、殿下こそ陛下の共同統治者であると、世間に知らせる意味がある。ひいてはそれが、皇太子となられる為の布石となろう」
「では、他に帝都の近くで駐屯している軍団は、何処でしたか?」
「それは、おれの第三軍団だが――……あッ!」
ガブリエラが俺とオクタヴィアンの顔を交互に見て、眉根を寄せた。
俺は頷き、言葉を続ける事にする。
「もう、お気付きのようですね。もしも殿下とガブリエラさまの婚約がなれば、帝都近隣の軍団を全て掌握出来るのです」
「まさか、それで我が娘を寄越せとユリアヌス殿下が?」
オクタヴィアン氏が悔しそうに、目の前の机を拳で打ち付けた。
「――私の見立てでは、殿下がガブリエラさまを想う気持ちは本物。しかし、それが故にユリアヌス殿下は総大司教に利用されているのです。そして同時に、レオ家も利用されることとなる。
レオ閣下と云えども娘婿の賛成する『教会直属騎士団の成立』に、反対することは出来ないでしょう?」
「つまりユリアヌス殿下の名において、我がレオ家を総大司教が走狗の如くに使うというのか……!」
「まあ、権勢を保てると考えれば、場合によっては悪く無い話かも知れませんね」
「何を馬鹿なッ! そのようなこと、陛下がお許しになる訳がないわッ!」
喚くオクタヴィアン氏の目を見つめ、俺は頭を振った。
「いまさら陛下に何が出来ますか。帝都は既に、教会勢力の手に落ちています。その上で四公爵を始め、皇帝陛下も元老院議会に出席なさる――全員が人質ですよ」
「……馬鹿な……ユリアヌス殿下が政変を起こす――と言うのか?」
「そこまでは分かりません。ですが彼等が過激で急進的なら、そのような結果になることも有り得ますが……」
オクタヴィアンは頭を振って、苦笑した。
「世迷い言だ。そもそもクラン・サーペンスが出征したのは、アレクシオス卿、貴殿の功績を羨んでのこと。であれば、これは偶然の産物。
仮に事実だとして、今からクランを呼び戻すよう元老院で決議すれば――」
「間に合わないでしょうね。どころか彼を呼び戻すのは愚策です。そうなれば皇帝陛下が崩御なさって、ユリアヌス殿下が登極されるでしょう。そして四公爵家は従属を強いられ、ロサ家が筆頭にでもなるでしょうね。
いや、そもそもクランどのは戻れないか――負けるのだから」
「バカなッ! 見てもいない戦さを負けるなどと……なぜ分かるッ!?」
「分かります。そもそもこれは、クロヴィス・アルビヌスが巧妙に仕組んだ罠なのですよ。ですから、せめてガブリエラさまの婚約は待って頂きたいのです。それこそが、抑止力となる」
うなり声を上げて、オクタヴィアン氏が天上を仰ぎ見る。
それから真っ直ぐに俺を見て、静かに言った。
「むぅ。それが――事実であれば、帝国の存亡に関わる問題だ。事実でなくとも、確認が必要だろう。ならば皇子の求婚は、暫く返事を保留とする。我々が第三軍団を確保するには、必要な処置だからな」
よし、作戦成功。
これでガブリエラの婚約は、当面回避出来た。
「信じて頂けたようで、何よりです」
「別に信じた訳では無い。ただ状況を鑑みれば、危険だと判断した。もしもこれが真実だと裏付ける物的証拠があるのなら、速やかに提出してもらいたい。そうであれば、ペガサス、サーペンスの当主と掛け合い、対策を練ることが可能なのだが……」
「残念ながら物的な証拠を残す程、彼等は無能じゃありません。ですからロサ家の誰かを寝返らせて、証言を得る方が良いでしょうね」
「ふむ、道理か。良かろう……この件が見事に片付けば、卿にガブリエラを与えても良い」
「はは……それがですね、実はガブリエラさまは皇子との結婚が嫌で、私を利用なさったに過ぎません。求婚を閣下がはねつけて下さるのなら、私の役目は終わりです」
「なに? すると卿は、テオドラ殿下と結婚するのか?」
「は? いや、それは無いでしょう」
「お前さ、テオドラ殿下に求婚されていることを、忘れていないか?」
ガブリエラの顔が、ぐりんと俺の方を向く。
俺は頭を掻いて誤摩化す、という訳にもいかず……。
「もともとユリアヌス殿下とガブリエラさまの婚姻がありき――だったはずです。そうでなければ私がレオ家において伯爵家の門地を継ぐ事も有り得ませんし、そうなれば子爵と皇女殿下では釣り合いが取れませんので」
「しかし、この件が真実で見事片付けば、伯爵家の門地程度、与えぬではないぞ」
「そうなれば伯爵家の門地を継ぎ、皇女殿下を妻とした私は――レオ一門において、どれ程の地位になるのでしょうか? 新参でありながら当主に次ぐ地位になるのでは? 歪に過ぎます」
「そう――だな。迂闊なことを言った、すまん」
「いえ、閣下が謝ることはありません。私は今回、提案をしただけのこと。もしも何事かを未然に防ぐのなら、それは閣下のご采配によるのですから」
「そうか……」
オクタヴィアン氏はこめかみに指を当てて、何事かを考えているようだ。
もちろん、この状況だから俺には容易に察しがつく。
「ところで閣下としても、単にユリアヌス殿下の求婚を保留には出来ないでしょう。ですから、ここは私と仲違いをした――ということにしては如何ですか? テオドラさまの婚姻を差し置いて、皇子殿下の婚姻だけを進める訳には参りますまい」
「ふむ、そうだな」
「それに、そうすれば私はロサ家に連なる者ということになり、あちらへ出入りする口実にもなりますから。証言してくれる者を探しやすくなりますし」
「しかし――それは危険ではないかね?」
「大丈夫でしょう。彼等は私のことも、味方に引き込もうとしているように思えます。それにロサ家が一枚岩とも思えませんので」
「……ふむ……分かった、よろしく頼む。何か動きがあれば、すぐに知らせてくれ」
「承知しました」
これで当面の目的は達された。
けれど、代わりに面倒な問題が水面下から大量に顔を覗かせている。
さっさと戻って、対策をしないとな……。
そんなことを考えていたら、公爵が立ち上がった。
「では議会で、また会おう」
彼は俺に歩み寄り、握手を求めている。四公爵の一人が子爵如きに握手を求めるなど、異例のことだ。
まあ、彼も公爵家の当主。もともと、ある程度の情報網を持っていたのだろう。
そこから得られた情報と照らし合わせて、俺の言葉を信じてくれたのかも知れない。
「ありがとうございます。閣下も会期中は、なるべく身辺にお気を付け下さい」
「分かっている、それとなく陛下の御身にも気を配ろう」
俺は頷き、ガブリエラに目を向けた。オクタヴィアン氏から手を離し、扉へと向かう直前のことだ。
「あ、そうそう。ガブリエラも可能な限り第三軍団を帝都付近に寄せて、不測の事態に備えて欲しい」
「分かった。最悪の場合、近衛軍団と第二軍団をぶっ潰せば良いんだな?」
ガブリエラが緊張した面持ちで頷き……俺は首を左右に振る。
「いや――抑止力だから戦わないで……それにこちらから攻撃したら、反乱軍になるからさ……」
オクタヴィアン氏が咳払いをして、それから言った。
「私としては、これが君の狂言であることを願いたい。そうで無ければ、私は乱れ行く帝国の秩序を傍観していた愚か者――という事になるのだからな……」
「狂言……ですか……はは」
オクタヴィアン氏の言に頷き、俺は苦笑する。
うっかりした。ガブリエラをガブリエラと呼んだ事を、気にしているな。
オクタヴィアン氏のこめかみに、青筋が浮かんでいる。
「だが狂言と分かっても、それはそれで問題だ。その時は君の首を、刎ね飛ばす事になるのだからね……そうなれば、もしかして私の可愛い娘は悲しむことになるのかなぁぁあああ!?」
やばい……怒れる父の顔だ。眼球が大きくなっている。恐い。
そりゃ、いきなりやって来た男が娘の名を呼び捨てにして、応える娘が従順とか……。
日本人のお父さんであっても、これは許せないシチュエーションかも知れない。
「……ま、まあそれは、仕方が無いですね」
「アレク、仕方が無いって……! これ、命懸けだったのか!?」
ヤメロ、ガブリエラ。俺に抱きつくな……お父さん、激怒してるよ……。
「ん? まぁ……そうなるよね」
そっとガブリエラを引き離す。そしてさっさと逃れよう。
「おいー! そんなことなら、おれ、おれ……うわぁぁぁん!」
ガブリエラの悲鳴が聞こえた。しかし俺はそのまま扉を開けて、また書庫に入る。
彼女が俺の後に付いてきた。「ま、待て! 送るよ!」と言って、言葉を続けている。
「いいよ、おれ、我慢して皇子と結婚するから! そうしたらアレクは安全なんだろ!?」
「い、いや、違うって。いいんだよ、命掛けるくらい。だってさ、お前が皇子のベッドで寝るって思うと、それはちょっと許せないなって思うんだ」
「え? じゃあ、やっぱりおれと一緒に寝るのが好きなんだな! あんなにいっぱい、一緒に寝たもんな!」
パァァァァッとガブリエラの顔が輝いた。なんだこれ、後光が射しているぞ。
と、同時に“グワシャアアアアン”という激しい音が、後ろの書斎から響いた。
そして凄まじい叫び声が聞こえ……。
「ガァブリエラァァァ! 私のガブリエラがぁぁぁあああ! 大人の階段昇ったぁぁあああ! ちぇぇぇぇええすとぉぉおおおお!」
駄目だ、ガブリエラのやつ、天然で父の心を壊しているぞ……。
「じゃあさ、アレク、やっぱりおれと結婚を――」
この状態で頷いたら、間違い無くオクタヴィアン氏は羅刹となる。
きっと扉から飛び出して来て、今すぐ俺を斬り殺すことだろう。
だから俺はガブリエラが言い終わる前に、さくっと言った。
「しない。だってお前、皇子の求婚を断りたかっただけだろ?」
「そうだけど……でも、お前の子供とか……産んでやりたいなって」
「まあ、それはいいって。あとは任せておけ。なぁに、朝飯前だぜ、てやんでぇ」
「うぅ……話を聞けぇ……アレクぅ……こっちを見ろぉ……なんでここで江戸っ子なんだぁ……」
とは言うものの……皇子を袖にさせるってことは実際、容易じゃあ無い。
だってそうだろう、決して有耶無耶のままには出来ない相手なのだ。
だとすると皇子が現政権を転覆させようと画策した証拠が、どうしたって必要になる。
その時こそ晴れてガブリエラは、本当に皇子の求婚を断れることだろう。
まったく、まさか女になった親友の貞操を守るのが命懸けとか、笑えてくるな。ははは……。
守りきっても、ガブリエラのお父さんに殺されるかも、だけどさ……。
とても長くなりました、すみません。




