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再会

 ◆


 風呂から上がり食堂で寛いでいると、ようやくリナとルナが報告を携え帰ってきた。最初に口を開いたのは、ルナの方だ。

 今日一日で、かなりの魔力を消費したのかもしれない。目の下に隈を作って、不満気に早口で捲し立てている。


「ご主人、こんな所で何してやがるんですか? こちとら一日中、情報を集めてヘトヘトなんすよ? それを呑気にだらしなく寝転んで飯食って!」


「寝ながら食べるのが作法なんだ」


「そんな作法、ラヴェンナじゃ聞いたことねぇですっ! だいたい我が家だって、寝台は寝るところにしかねぇじゃねぇですかっ!」


「うちは貧乏だし俺自身にこだわりもないから、普段は座って食べているだけだよ」


 頭を掻きながら、リナに説明をする。

 別に俺だって好きで寝ながら食べてる訳じゃないし、家に食事用の寝台が無いことだって事情があるのだ。

 実際、俺のような下級貴族の家庭で横臥しながら食事をする者は少ない。作法を知れども金は無い、というのが現実。だから必然的に椅子に座りテーブルに向かって食べるし、我が家でもそのようにしている。しかしレオ家ほどの名家ともなれば、夕食時の作法は絶対的だ。


 もっとも日本人的な感覚からすれば、「寝ながら食事」というのはいかにも行儀が悪い。だから俺としては違和感しかないのだが――

 とにかくこの世界では、座って食事をする行為が日本で云うところの立ち食い感覚。急いでいるから仕方なく、という雰囲気だ。

 ちなみにガブリエラは物心がついた頃からの習慣なので、寝ながら食べることに違和感は無いらしい。


「いやおれ、日本でも寝ながらポテチとか食ってたし。常在戦場だから、寝ながら色々できるし」


 とのことで彼女の場合、むしろ日本にいた頃からの習慣だったのかもしれないが。とはいえガブリエラの言動は、何かが少しズレていると思う。


 今は複数の寝台をコの字形に並べ、中央のテーブルに料理を並べている。各人横たわったり、座ったり、好きな体勢で食事をするのだ。

 ここにいるのは、俺、ガブリエラ、ミネルヴァの三人と、メディア、セルティウス、それからレオ家の重鎮が数名だ。

 ミネルヴァは最初、「奴隷だから」と言って遠慮していたが、ガブリエラによる「友達だろう」発言によってここにいる。


「なあ、ミネルヴァ。ここにこいよ」


「なによ、ガブリエラ。気持ち悪いわね。私、奴隷なのよ? 貴方達とは身分が違うから駄目よ」


「友達だろ、気にするな」


「気にするわ……それに私、肉奴隷だからアレクシオスさまと床を共にするのは、アレの時だけなの」


「あ? ぶっころすぞ? とにかくお前は、おれの隣にこい。誰がアレクと床を共にしろと言った?」


「なによ、怒ったの? それは嫉妬かしら? まったく、器の小さな女ね」


「怒ってないし、おれは男だ。器も大きく、心も広い!」


「は? 大きいのは胸だけじゃない。広いのは頭の中身の空洞の範囲だわ。何より貴女のどこをどう見たら、男に見えるわけ?」


「あ、あ、あ……ふんがぁ! とにかくお前はココッ!」


「私、ココなんて名前じゃないわ……変な名前にしないでよね、ガブリエラ」


「ふぐぅぅ……」


 最終的にガブリエラは悔しかったのか、涙を浮かべていた。そのお陰か、結局ミネルヴァは俺から離れてガブリエラの左隣に収まっている。

 真ん中で飲み食いしている金髪の猛将は、だから今ではご満悦だった。ていうかドMに泣かされるって……大丈夫か、ガブリエラ。

 

「はー、美味いなぁ! 葡萄酒ワインおかわりっ! 肉もっ!」


 飲み物は給仕担当の従者が常に壷をもって動き、足りなくなったら注ぎ足してくれる。まさに人間を駄目にするシステムだ。今もガブリエラが掲げた杯を取り、従者が酒を注いでいた。


 ガブリエラは寝台の上に座り、杯を片手に骨付きの鶏肉を食べている。油で揚げたものだ。ベタベタになった手をシーツで拭い、また次の料理へと手を伸ばす。食欲無尽蔵な彼女は、俺の皿に乗っている肉も食べる始末だった。


「いや、それ俺の……」


「早いもの勝ち」


「大貴族の令嬢として、それはどうなんだ?」


「おれは男だ、文句あるか?」


「その胸はなんだ?」


「う、うう……! そんなこと言うと、揉ませてやらんぞ」


「誰が揉みたいと言った?」


 無言で口の中へ、俺の肉を放り込むガブリエラ。ぷいとそっぽを向いて、さっさと飲み込んだ。


「ふんっ! そんなことより、リナとルナが怒ってるぞ。いい加減に話を聞いてやったらどうだ?」


 そうだった。

 リナとルナがプルプルと震え、三白眼で俺を睨んでいる。


「背徳! 背徳ですわ! ルナ!」


「ありえねぇです! こっちがヘトヘトになってんのに、コイツら何やってやがるっすか? もうこれ、乱交っすか? リナも混ざるっすか?」


「それではミネルヴァさまとしっぽり……」


「あ! リナ、ずるいっすよ! 私もっ!」


 ガブリエラの隣で葡萄酒を飲むミネルヴァに抱きつく、褐色のロリエルフ暗殺者アサシン。一方で後れをとった精霊使いロリエルフも、慌ててミネルヴァに抱きついた。


「やめなさい、二人とも。ご主人(へんたい)がニヤついているわよ?」


 ミネルヴァが唇の片端を上げて、紫色の瞳を俺に向けている。何だかんだでこの人、俺の性癖に気付いているのかもしれない。


「うわ、気持ち悪いですわ」


「気持ちわりぃです。何を考えてやがることやら」


 二人のロリエルフは舌打ちをしている。

 だが、それでいい。百合たるもの、男に媚びてはいかんのだ。デュフフ……。


 それはさておき……俺は一つ咳払いをして、二人に報告を促した。


「おほん。そんなことよりリナ、論文の在処はわかったのか? ルナの方は、黒幕の特定ができたのか?」


 リナはミネルヴァから房ごと葡萄を貰い、笑みを浮かべている。と、同時に俺を見つめ、フフンと無い胸を反らした。


「当然、見つけました。大聖堂にあり、総大主教が自ら自室の机に保管していますわ。ただし魔術的な結界が幾重にも張り巡らされていて、奪取は困難かと思われます」


「なるほど……」


 大聖堂の中、総大主教が保管しているとなれば、確かに奪取は困難だろう。しかしその事実が、論文の重要性をより確実なものにしている。


「それから、総大主教と息子――クロヴィス・アルヴィヌスとの間で、少し面白い会話がありましたわ。彼はディアナ・カミルを妻にしたいと申し出て、総大主教もしぶしぶ認めていましたの」


「ぶっ!」


 思わず吹いてしまった。

 ガブリエラもニヤリとして、「みたび、ウケる」と言っていた。どうやら他人事だと楽しいらしい。ディアナの方もガブリエラのことを笑っていたから、どっちもどっちだ。


「その件で気になることがあるっす」


「どうした、ルナ」


 胸元の魔術紋が輝き、ルナの掌に緑色の妖精が乗った。


「たいへん、たいへん」


 大きく両手を振って、小さな妖精が騒いでいる。


「この子の話だと、今日、ご主人とモメた男がクロヴィスの邸で殺されたって話です。名前はペトルスって野郎っす。しかもそいつを殺した犯人を、アントニア・カルスとかいう男に押し付けるんだとか。しかも理由が、ご主人の味方を奪う為って話らしいっすよ」


 俺は目をつむり、今朝と昼のことを思い出した。


 ペトルスの死を利用してアントニアを罪に問い、結果として俺の力を弱めようというのなら、随分と手が込んでいるし勘違いも甚だしい。

 いや――アントニアは元々ディアナの友人だ。ならばそれを奪う事で、ディアナを一層孤立させることが出来る。だから結果としては、こちらに不利に働くだろうな。

 クロヴィスがそこまで考えているなら、厄介な相手だ。油断しない方がいいだろう。


「ただ、ユリアヌス皇子とクロヴィスは、世間が言う程の仲良しじゃなさそうっすよ。皇子はクロヴィスを親友だと思ってるかもしれねぇですけど、少なくともクロヴィスの方は腹の中に何かがありそうっす」


 なるほど。

 だとすれば、組みし易いのは皇子の方か……。

 

 ◆◆


 翌朝、賢者の学院に同行する仮面の騎士が二人に増えた。

 

「なあ、ミネルヴァ! この仮面、すごく息苦しいぞ。あと視界も悪い!」


 長い金髪を後頭部で纏め、一房のアホ毛を揺らす女将軍が馬上で喚いている。一方、昨日と同じく顔も髪も隠したミネルヴァが、「はぁ〜」と長い溜め息をついた。


「私が色々隠しても、名前を呼ばれた時点で台無しだわ。この馬鹿将軍をどうにかして頂戴」


「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは! おれはアレクに頼まれたから、こうして変装までして出てきてやってるんだぞ! アレクに頼まれたからなっ!」


 鼻息も荒く、ガブリエラが捲し立てる。俺に頼まれた、という点を二回言ったのは、きっと彼女にとって重要だからなのだろう。ああ、うざい。


「貴女が必要というより、レオ家の紋章が必要なだけよ。おめでたい頭ね……ほんとう」


「あっ、あー! そうやって馬鹿にして! このメスブタめっ!」


「メ、メスブタですって……そ、そ……はぁはぁ……確かに私はメスブタかもしれないけど……」

 

 あ、やばい。ミネルヴァがゾクゾクしてる。このままじゃ馬鹿が二人に増えるだけだ、まずいぞ。

 この癖さえなければ、ミネルヴァは絶世の美女にして知勇兼備の良将なのに……。

 

「おい、ブタ」


「な、なによ……ガブリエラ……さま」


「おれの足を舐めろ」


「え、え……こ、ここで?」


「そうだ。アレクの見ている前で、だ。くくく」


 おい、ガブリエラ。調子に乗って何をやらせようとしている。馬を止めるな、遅刻するだろう。

 あ、こら、ミネルヴァ。馬から下りるな。足を舐めようとするな。仮面も取るな、目立つから!

 ……とはいえ、ドSな金髪のご主人様とドMな銀髪の変態百合もなかなか……デュフフ……ではなく!


「二人とも、もうすぐ学院だ。そろそろやめないと、仮面の変態騎士と呼ばれることになると思うよ」


「「ふぁっ!?」」


 ミネルヴァは慌てて仮面をつけ、ガブリエラは鳴らない口笛を吹く。それから慌てて俺に言い訳をした。


「べ、別に本気で言ったんじゃないぞ! お、おれは女に足を舐められて喜ぶような変態じゃないからな!」


「わかってる。それよりガブリエラ、今回の件、概要は理解してるよね?」


「もちろんだ。おれがディアナを庇護する。そのあと、晩餐会――は嫌だから、一度だけユリアヌス皇子主催の舞踏会に出ればいいんだろ? えんじゅの為だ、大丈夫!」


「それからアントニア・カルスとティグリス・キケロも保護して、配下に加えてほしい」


「それも、当然だ。二人とも、音に聞こえし勇者だぞ。むしろアレク、お前、本当に知らなかったのか? ガイナスと戦って損害を与えたのは今までティグリスだけだし、逆に拠点を守り通したのはアントニアだけだ。そんな二人を麾下に迎えられるなら、こんなに嬉しいことはない――ただ……」


「ただ?」


「あの二人は貴族嫌いで有名なんだ。おれの麾下に入ることを、納得するだろうか……」


「別に、それは本人達次第さ。麾下に入ることを拒めば、それは自殺と同義になる。俺は彼等が自殺志願者とは思っていないから、納得せざるを得ないと考えているけどね。それに、貴族なら俺も嫌いだよ」


「そんなこと言うなよ。おれだって貴族だぞ」


「はは。今は俺も貴族だって。しがない騎士爵だけど」


「なんだよ、それ」


 俺は念の為ガブリエラに確認をしてみたが、これなら大丈夫だ。

 彼女の理解が足りなければ、いざという時、問題になりかねない。

 要するにディアナの後ろ盾に、レオ家がなる。さらにはユリアヌス皇子にこちらが近づき、ディアナの安全を保障させるのだ。 

 その際に鍵となるのが、ガブリエラと皇子の関係性。


 ユリアヌス皇子がガブリエラに気があることは、間違いの無い事実。これを利用するのだ。

 アホの子であるガブリエラは気付いていないが、これは明らかに女であることを利用した交渉となるだろう。

 これに成功すれば、クロヴィスとユリアヌスの間に楔を打ち込める。そうなれば総大主教の息子だろうと、レオ家なら権威負けしない。


 学院に到着すると、朝から大勢の人々が行き交い、騒然としていた。

 皆が口々に、「ペトルスが殺された」とか「犯人はアントニアだ」などと言っている。

 この辺は恐らく、クロヴィスの情報操作だろう。証拠があろうが無かろうが、大勢の人に「犯人はアントニア」と植え付けることで、事実をねつ造してゆくのだ。

 

 俺達は馬を厩舎に預けると、急いでディアナの研究室へ向かった。


「アントニーが殴ったからって、ペトルスが死ぬわけないだろう! そもそもここは賢者の学院だ! 治癒魔法に長けた者だっている! それがどうして! いや、この際ペトルスの野郎がどうなろうと、どうだっていい! どうしてアントニーが捕まる必要があるんだっ!」


 今日は珍しく解剖中の死体が無い。その代わりティグリスが部屋中を歩き回っていた。ディアナは部屋の隅にある椅子に座り、昨日と同様の不味い茶を啜っている。


「十中八九、ボクと仲が良かったから見せしめだろうね。予想通りなら、もう間もなくクロヴィスがここにくるんじゃないかな……」


 部屋に入ると、少しやつれた顔をディアナが俺に向けてきた。仮面の騎士が二人に増えていることを訝しんでいるようにも見えるが、今はそれどころではない――といった雰囲気だ。


 俺はディアナの正面にあった椅子に腰を下ろし、軽く手を挙げた。


「クロヴィスが来る、と予想しているのかい?」


「うん、そりゃあ……」


 黒く長い睫毛を上下に揺らし、ディアナが口ごもる。


「ボクがクロヴィスの妻になれば、アントニーを助けてくれるかもしれない……けど……」


「それだけじゃ、アントニアは救えない」


 二度、三度と瞬きをして、ディアナが狼狽えた。


「どうして? だってクロヴィスはボクのことを……」


「背後にはユリアヌス皇子もいるし、彼が俺を邪魔だと思っているから。アントニアもティグリスも、俺の一派だと思われている」


 俺の言葉に、ティグリスが反応した。


「――ああ、上等だ。だったら皇子と喧嘩しようじゃねぇか、アレクシオス!」


 その言葉に、今度は俺が驚いた。コイツは俺の一派だと思われることが、迷惑じゃないのか?


「アレクシオス……あんた、戦場で皇子を殺そうとしただろう? 俺には考えもつかないことだったぜ……この国がおかしいって思っていても、皇子を殺そうなんて夢にも思わなかったんだ。情けないがな……だから、いいぜ、アンタがやるならこの命、預けてもよ」


 あれ……話がおかしな方向に流れてないか。


「皇子のこと、どうして……」


「俺はこれでも地獄耳でね。まあ、そんなことはいい。とにかく俺は、あんたが国を敵に回すなら、一緒にやるぜ?」


「……いや、俺は別に、この国をどうこうしたいんじゃない。そもそも、その前に、アントニアを助ける方が先だろう?」


「ああ、ああ、そうだ。けど、出来るのか? 実際にそんなことが……!」


 拳を握りしめ、歯ぎしりをするティグリスは悔しそうだった。


「うん、出来る。そんなに難しいことじゃない、かな」


「本当か? 本当なのか、アレクシオス……!」


 俺は頷き、ディアナとティグリスの二人にこれからのことを説明した。

 まず実務的に、ペトルスの死因が頭部打撲によるものかどうか確認する。その結果が打撲によるもので無ければ、裁判を要求すればいいのだ。

 幸いディアナは医者でもあるから、死体さえ見る事が出来れば確認は容易い。


「しかし、仮に結果が打撲によるものでなかったとしても、相手はクロヴィスだ。死因なんてどうとでも出来るぞ?」


 頭を左右に振り、ティグリスが呻く。


「だから大丈夫なんだって、対抗馬がいるから。ほら、ガブリエラさま、仮面を外して下さい」


「お、おう」


 おっかなびっくりに周囲の骨を指先でつついていたガブリエラが、勢い良く振り返った。それから俺の後ろに立ち、白い仮面を外す。「ふぅ、息苦しかった」


「お前がティグリス・キケロか。会えて光栄だ」


 白い右手を差し出し、ガブリエラが微笑んだ。


「アントニアを助けてくれる……のですか? 閣下が……」


「すべては、アレクシオスの策だ。おれは、乗っているに過ぎない。だが、ティグリス・キケロとアントニア・カルスを配下に迎えることが出来るのなら、クロヴィスを敵に回すことくらい安いものだと思う」


「なるほど、取引ですか……」


「そうとも言う」


「では、ディアナは?」


「もちろん、今後ディアナ・カミルの身分はレオ家が保証する」


 俺はティグリスの肩を軽く叩き、「他に道はない。それにガブリエラは、俺の親友だ。貴族といっても、悪いヤツじゃない」と伝えた。

 ティグリスは天井を見つめ、暫く考えた後にゆっくりと頷く。


「わかった、アレクシオス。お前を信じよう……ていうか、大貴族の令嬢を自分の女にしちまうとか、すごいな、お前!」


「ち、違っ……!」


「お、おれがアレクの女? ……そ、そう見えるのか? そうなのか? そう見えるんだろうなぁ!」


 赤面した頬に手を当て、ガブリエラがモジモジとしている。お前、何やってんだ!


「流石だぜ、大将。俺はお前に付いて行くことにする。よろしくな」


「だ、だから違うって……ティグリス、お前はガブリエラさまの麾下に入って……」


「あーそうだ、アレクシオス。アントニーが無事に帰ってきたら、アイツにも言っとくぜ? これから俺達の大将はアレクシオスだ、ってな。だから頼む、アイツを助けてくれ!」


「だ、だからそれはガブリエラさまの……」


 ニヤリと笑って、ガブリエラが俺の腕を引っ張る。


「な、だから言ったろ。アイツ等、本当に貴族が嫌いなんだよ。ここに来たのも、貴族の指揮下で軍にいるのが嫌で、勉強を名目に軍から距離を置いたくらいなんだから。だけどお前に忠誠を尽くすっていうなら、何も変わらないじゃないか。だっておれとお前は、ひとつだろ?」


「うーん……確かに問題はないけど……」


「だろ?」と言いつつ、ガブリエラが憔悴しているディアナの側に行った。


「ぷっ……美人になったな、みたび」


「……ガブリエラ……えんじゅ? 恭弥の女になったんだ? ぷぷっ。童貞の前に処女を捧げちゃって。だけどものすごく美人だもんね、わかるよ」


「な、なっ……!? 誤解だ……! おれと恭弥は別にそんなんじゃ……!」


「分かってるさ、冗談。えんじゅも無事で良かった」


「みたび……」


 アイスブルーの瞳が揺れて、透明な雫が頬を伝う。

 黒髪の美女――みたびの方は、呆れたように瞼を閉じた。僅かに唇が震えている。きっとこっちは泣くのを我慢しているのだろう。

 二人は抱き合って、再会を喜んでいた。しかし、パッと見は明らかに尊い。ああ、尊い……。


「つもる話は後だ、二人とも。予想通り、招かれざる客がきたようだぞ」


 ノックの音が聞こえ、ミネルヴァが扉を開いた。するとそこにはクロヴィスと、小太りで小さな男が立っている。


 あれがリー・シェロンか。


 ルナの報告では、ペトルスを殺した男は小さくて小太り、可愛らしい顔をしていたと言う。ならば、彼のことだろう。

 愛らしい顔とは反対に、不気味な気配を放っている。まさに強者のそれだ。

 事実ミネルヴァの右手が、剣の柄にかけられている。彼女にあそこまで警戒させるのだから、かなりの手馴れであることは間違いないだろう。

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