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【受賞・書籍化】無能だと追放された王女、謎スキル【草生える】で緑の王国を作ります  作者: 灰猫さんきち
第4章

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47:火山


『なんだ、なんだ。精霊が喋って悪いかね。そう、俺は火の精霊。長らくこの地で眠っていたが、こうして目覚めたというわけだ』


「――火の精霊よ。妙な揺れで目覚めかけたと言ったな。ここ最近の地響きはあなたのせいではないのか」


 レオンの問いに火の精霊はぐるっと目玉を回した。


『この土地の地響きは俺のせいさ。揺れはまた別だな。遠い遠い土地から、精霊に干渉する力を感じた。おかげでほれ、封印の石碑が壊れおった』


 火の精霊は崩れかけた石碑を前足でたしたしと叩いてみせた。


「遠い土地。どの方角から?」


『東』


 荒れ地のずっと東には魔道帝国アイゼンがある。小国ミルカーシュと国境を接する強国だ。


(魔道帝国は魔力と魔法についての研究が盛んな国。まさか精霊の魔力を利用する何かがある……?)


 クロエは考えて、すぐに首を振った。ただの憶測を飛躍させすぎてはいけない。


『まあ東の原因は知らんが、こうして目覚めてみれば、水と大地はもう息を吹き返している。しかも大地の愛し子と守り人が揃っていて、世界樹の種まであると来たもんだ! こりゃあ精霊の森の復活は近いな!』


 火トカゲは楽しそうにコロコロと笑った。


「ちょっと待って。大地の愛し子と守り人とは何のこと?」


『ん? お前たちのことだぞ。女、お前が大地の愛し子。男が守り人』


「……どういうこと?」


『どういうことも何も、お前、大地の祝福持ちだろう。生まれながらにして我ら精霊、特に大地と結びつきの強い人間だよ。自分のことなのに分からないのか?』


 クロエは呆然として自らの両手を見た。

 彼女のスキルは【草生える】。言われてみれば、大地から奇跡を引き出す力である。

 けれど精霊を邪悪なものとする救世教の影響下にあるセレスティア王国では、精霊の祝福など悪魔の刻印に等しい。


「どうして……」


 スキル鑑定の儀式では、確かに【草生える】だった。理解が追いつかずクロエは呟く。


『精霊の祝福は稀有なもの。大事にするといい。……さてと』


 火の精霊は石碑から飛び降りて、地面に立った。


『俺も大地と水に習い、目覚めの返礼をするとしよう。少々力を振るうからな、避難してくれ。まあ大したことはない、ここから三マイル(約五キロメートル)も離れておけば安全だ。そうら、行くぞ!』


 火の精霊の体積が膨れ上がった。小さなトカゲだったのがあっという間に何倍にもなって、炎が噴き上げる。

 クロエの水の障壁では耐えきれず、熱波が襲ってくる。


「待って! まだ聞きたいことがあるの。守り人とは何のこと!?」


 もう答えはない。渦巻く炎に呑まれそうになり、クロエとレオンは慌てて道を引き返した。







 村まで駆け戻ったクロエとレオンは、大急ぎで村人たちを避難させた。

 火の精霊がいた場所から村までは一マイルと離れていない。もっと遠くに逃げる必要があった。

 幸いなことに移転先の新しい村であれば十分な距離がある。移転作業はまだ途中だったが、村人全員と魔牛と魔羊全部で必死に逃げた。


 地響きは今やはっきりと地震になって、激しく大地を揺るがせた。まるで地の底から突き上げられているかのような揺れだった。

 クロエが振り返ると、真っ赤に染まった地面が盛り上がっているのが見える。地割れの中に溶岩が煮えたぎっているのだ。


 大地はさらに膨張し、隆起する。やがて決壊するかのようにひび割れて、噴煙が噴き上げた。

 火口以外でも爆発がいくつも起こり、そのたびに灰や岩石が宙を舞う。昼間にもかかわらず、空へ舞い上がった灰のせいで辺りは薄暗くなった。


「石が!」


 村人が叫んだ。噴火で巻き上げられた石、それも人頭大の大きな石がいくつもうなりを上げて飛んできたのだ。


「逃げて!」


 クロエも叫ぶが、石が飛んでくるスピードは速い。灰が降り注ぐ視界で確実に避けられるようなものではない。

 クロエの初歩の障壁魔法で防ぎきれるとはとても思えない。それでもやろうと魔力を込める。すると。

 ざわ、と大地が揺らめいた。草が生える時に似た、けれどももっと強い力が立ち上る。

 瞬間、大地がそそり立った。壁のような土は石を受け止めて、音もなく崩れていく。

 あわや石がぶつかりそうになった人たちは、大地の盾に目を丸くしている。


(この力は何!?)


 クロエがやったのは間違いない。障壁魔法を起動するはずが、大地と共鳴して盾が生み出された。

 大地の盾は飛来する石を防ぎ、時間を稼いでくれた。


「火の精霊、やりすぎだわ! 人の危険も考えないで! とにかく逃げるのよー!」


 そうしてどうにか北の牧草地までたどり着いた後。

 分厚く舞う火山灰と噴煙の向こう側、黒ぐろとした巨大なシルエットがそびえ立っているのが見えた。


 生まれたばかりの小さな火山が、産声代わりの白煙を上げていた。







 新火山の鳴動と成長はそれから数日の間続いた。

 ようやく落ち着いたのは、十日ほども経ってからのことである。


 クロエを先頭に様子を見に行ってみると、山としては小さい、けれど人間から見れば見上げるほどに大きな火山が荒れ地のど真ん中に出現していた。

 火山は隆起した地層をむき出しにして、そこかしこから煙を噴き上げている。硫黄の臭いが鼻を刺激した。


「クロエ様、これを見てください!」


 技師が叫んでいる。彼の足元にはちょっとした池くらいの水たまりがあって、湯気が上がっていた。


「温泉です。温泉が湧き出ています!」


「おぉ」


 反応したのは薬師のバジーラである。


「なんと、嬉しや。我らが故郷ミルカーシュは火山の国、温泉が豊富でしてなあ。たっぷりとした湯に浸かるのは、極楽気分でございます。まさかこの土地で温泉に入る機会があるとは……」


「へえ、そうなのね。じゃあこれも名物になるかしら」


 セレスティア王国には温泉がない。湯浴みはするが、風呂を楽しむ文化は薄かった。


「なりますとも! セレスティアとエレウシス、遊牧民の皆様も、温泉の虜となること請け合いでございますよ」


 バジーラは嬉しそうな顔で、早速お湯に手を差し入れている。クロエは苦笑した。


「これが火の精霊の『返礼』ね。大変な目に遭ったけど、温泉と硫黄と、貴重なものが手に入ったわ」


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