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【受賞・書籍化】無能だと追放された王女、謎スキル【草生える】で緑の王国を作ります  作者: 灰猫さんきち
第3章

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19:オオイ草


 クロエは手を握りしめた。同時に状況を打破するため考えを巡らせる。必死の思いで頭の中で植物図鑑をめくっていると、一つ思いついた。


「私にやらせて」


「え?」


 クロエは村人の返事を聞かず、膝をついて畑に手をつけた。手袋などは身につけていない。素手である。苦手な虫がいるとしても、もうためらいはなかった。


「おーっほほほ! 草ですわ!」


 にょき、にょき! 彼女の笑い声に反応し、草の芽が生えてくる。お馴染みのヒシメバ、テミア、クローバーなど雑多な雑草が芽を出して、霜をかぶった苗を覆った。


「おお、なるほど。草で覆うって手もありますか」


 村人の感心した声に、クロエは首を振った。


「いいえ、普通の草じゃ不十分なの。おーっほほほほ! さあ、草生えなさい!」


 そうして繰り返すこと何度か、クロエは草の中に目当ての種類を見つけた。その草に触れてさらに高笑いすれば、同じ草が多めに生えてくる。

 土地の魔力を感じ取りながら、馴染ませるように草を生やす。多種多様の草が生える中で選別を行う。クロエは草生えるスキルを使いこなしつつあった。


「それは……?」


「オオイ草よ。少し背の高い草で、苗をちょうどよく覆ってくれる。この草の特徴は、夜に花を咲かせて朝になるとしおれるの。つまり、霜が降りやすい寒い夜は花と葉でしっかり苗を覆って、暖かい昼間は花が閉じて日の光が差し込みやすくなる」


 植物図鑑によると、オオイ草はサボテンや胡蝶蘭と同じような特性を持つ。水分が少ない地域に自生していたこれらの植物は、専ら夜に活動を行う。多くの植物と同じく日光を必要としながらも、暑い昼間の活動を避けることで水分を節約しているのだった。

 王都にいた頃のクロエは、夜に活動する植物などさっぱり知らなかった。図鑑を贈ってくれた弟王子に改めて感謝した。


「他の雑草は抜いてしまってちょうだい」


「はい! 藁はどうしましょう?」


 村人の問いに答えたのは、少し遅れてやって来た村長だった。


「藁は苗を避けて地面に敷き詰めておけ。保温になる」


「分かりました」


 藁が敷き詰められた地面とオオイ草の隙間に手を入れてみると、ほんのりと暖かい。霜対策が間に合いますようにと、クロエは祈らずにはいられなかった。







 霜の被害は出たが、対処が早かったおかげで最小限に抑えられた。それから何度か遅霜が繰り返したものの、オオイ草のおかげでそれ以上の被害は出なかった。麦の苗は八割以上が無事で、すくすくと育っている。夏野菜の茄子やオクラ、豆類も順調だった。

 クロエと村人たちは収穫を楽しみににしながら、もう残り少ない備蓄で食いつないでいる。魔羊の乳やチーズがなければ、最悪餓死者が出ていたかもしれない。親は食べる量を最小限にして、子どもたちに食べさせた。


 魔羊の肉も一頭分だけもらうことにした。アオルシの解体の腕は見事で、心臓近くに入れた切れ込みから手を差し入れて、素早く生命を奪った。こうすれば大地に羊の血がこぼれることはなく、一滴余さず利用できる。改めて抜いた血は集めておいて、腸詰めに加工した。

 血まで食べる習慣のないクロエと村人たちは最初面食らったが、空腹には勝てない。血の臭みを取るために薬草が混ぜられているせいで、食べてみると案外食べやすく、栄養がある。


「あたし、これ好きかも」


 幼いペリテは物怖じせずに食べて、アオルシは笑顔になった。


「それが好きなら、ペリテは遊牧民になれるぞ」


「羊さんと旅ができる?」


「できるとも。荒れ地――いや、水が湧き出したんだからもう荒れ地じゃないかもな。広い草地をあちこち旅して、色んな場所に行くんだ」


「行きたい! 羊さんと一緒に歩きたい!」


 羊肉はみんなで大事に食べた。が、一頭のみでは五十人の村人と五人の遊牧民に行き渡らなくて、一人が食べられたのはわずかな量だった。


「はぁ、もう少し肉があればなぁ。せめて乳やチーズがもっとあれば」


 村人の一人がため息をついた。だが、これ以上魔羊を肉にするわけにはいかない。羊はそもそも遊牧民から借り受けたもの。繁殖をしたら仔はもらい受ける約束だが、いたずらに潰すのはできなかった。


 夏はもうすぐだ。しかし、食料はいよいよ底を尽きつつある。

 遊牧民に不義理をしてでも、魔羊を肉にするしかないのか。村人たちは飢えの中、悩み苦しんでいた。







 春も後半のある日のこと。

 北の川近くに作った牧草地帯では、様々な草が旺盛に生えている。魔羊たちの大好きなクローバーに加えて、根っこが地中長く伸びる風タンポポも増えてきた。

 風タンポポは食べられる植物。根っこを掘り出して煮物にすると、ゴボウのような食べ心地である。それに根が地中深く伸びるために、土を耕す効果もあった。牧草地に生えているのをペリテが見つけて、クロエに教えたのである。


「ペリテはますます草に詳しくなったわねぇ」


「うん! あたし、大きくなったら草博士になるの」


 そこは植物学者と言うべきではないかとクロエは思ったが、にこにこ笑って黙っておいた。


「めぇ」


 魔羊がトコトコとやって来て、ペリテの腕に頭をこすりつける。この羊は最初にアオルシから人質ならぬ羊質として預かった子で、ペリテによく懐いていた。


「羊さん、大丈夫だよ。あたし、草博士になってちゃんと旅に出るから。そんで、美味しい草をいっぱい探そうね!」


「めぇ~!」


 羊は嬉しそうだ。人間はお腹を空かせているが、羊は毎日しっかりと草を食べている。クロエの草は栄養がいいらしく、羊たちはみんな肉付きよく毛艶もよくなっていた。


 と。

 西の方角から何やら地響きがした。ドドドドド……と土煙も上がっている。

 最初クロエは、遊牧民たちが魔羊を引き連れて戻ってきたのかと思った。だが違う。牧草地の羊たちがおろおろとし始めたのだ。仲間であればこんな反応はしない。


 やがてもうもうと上がる土煙の向こうから、大きな影がいくつも、ぬうっと姿を現した。魔羊の四~五倍はあろうかという巨体だった。


「魔牛スラビー!? ペリテ、アオルシ、下がっていろ!」


 レオンが前に出て剣を構える。


「ちょっと! あなたが守るのは主である私でしょうが!」


「失礼。殿下は牛に踏まれた程度では死なないと思ったので」


「何よそれ!」


 魔牛の群れは牧草地に入り込むと、魔羊たちを追い立てながら草をむさぼり始めた。その数、十頭を超えている。


「レオン、追い払える?」


「数が多すぎる。あれは単体でもそれなりに強い魔物です。草に夢中になっているうちに、撤退するのが無難かと」


「あいつら、凶暴なんだ。怒らせたらどこまでも追いかけてくる。逃げた方がいいよ」


 アオルシも青い顔で頷いた。

 ところが……。


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