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【38】ヒュマニオン王国の危機①

ヴィルム達がヒュマニオン王国に到着してから十日程経ったその日。


そろそろ王宮から外に出られない事に不満を持ち始めながらも、クーナリアやリーゼロッテとの訓練はきっちりつけていたヴィルムの元に、一人の男が拍手と共に現れた。


「ヴィルムさん、クーナリアさん、リーゼロッテ騎士団長、朝から精が出ますね」


にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべて現れた男にはどこかで見たような気がする。


年の頃は三十代前半といった所だろうか。


豪華なローブに身を包み、肩までかかる茶髪を後ろでまとめた姿は魔導士を思わせ、繊細な細工が施されたモノクルが印象的である。


「これはベイルード様、このような場所に何か御用でしょうか?」


その男性(ベイルード)に気が付いたリーゼロッテは、姿勢を正して出迎える。


気が付けば周囲で訓練をしていた兵士達もその動きを止め、ベイルードに向かって拝礼していた。


どうやら騎士団長(リーゼロッテ)よりも上の地位を持つ人物らしい。


「あぁすみません。訓練の邪魔をしてしまいましたか。今日はヴィルムさん達とリーゼロッテ騎士団長に用があって来ましたので、皆さんは訓練を続けて頂いて結構ですよ」


「「「「「はっ!!」」」」」


ベイルードの言葉にそれぞれの訓練に戻っていく兵士達。


その様子を見ていたヴィルムはベイルードの方に向き直るが、彼の顔には怪訝な表情を浮かんでいた。


「・・・誰だ?」


「ちょっ!? ヴィルム殿!」


「ははは。仕方ないですよ、リーゼロッテ騎士団長。彼と直接話したのはこれが初めてなのですから」


内々に友誼が決まったとは言え、重臣の地位を持つベイルードに対するヴィルムの態度に慌てるリーゼロッテだったが、当のベイルードはそこまで気にした様子はない。


「ヴィルムさんにクーナリアさん。ここは初めまして、と言っておきましょうか。僕はこのヒュマニオン王国で筆頭精霊魔術士を務めております、ベイルード=ハヴォンと申します。先日の友誼の場でお二人を見て一方的に見知っていただけなので、あまり気にしないで下さい」


「そうか。わかった」


「よ、よろしくお願いしますです」


ベイルードの自己紹介でクーナリアは身を固くするが、ヴィルムの方は平常運転である。


ヴィルムに悪気がないのは十分にわかっているリーゼロッテだが、流石に落ち着かないのか、聞かれてもいないベイルードの紹介を勝手にし始めた。


「ベイルード様はメルディナ殿と同じ精霊魔術士で、戦場や魔物討伐において数々の功績を残しておられます。特に、我が国の領内に巣を作ろうと集まってきたオークの群れを精霊と共に凪ぎ払った話は有名ですよ」


「オークの群れをですか!?」


「へぇ・・・」


「やめて下さいよ、リーゼロッテ騎士団長。自慢話をしに来た訳ではないんですから」


オークの群れよりも圧倒的に強い魔霧の森に生息する魔物達を簡単にあしらう師匠が隣にいるにも関わらず、驚嘆の声をあげるクーナリアと明らかに適当だとわかる発音で相槌するヴィルム。


リーゼロッテを止めようとはしているものの、満更でもないような照れた笑みを浮かべていベイルードは、彼女が落ち着くのを見計らってヴィルムの方へと向き直り、口を開いた。


「今日はヴィルムさんにお話があって来たんですよ。精霊魔術士と召喚士という違いはありますが、精霊と・・・いえ、精霊獣という強大な存在と契約したヴィルムさんの事を是非とも教えて頂けないか、と思いましてね」


〝スッ〟とヴィルムの眼が細くなり、その周囲に静かな威圧感が漂い始める。


「あぁいえ、勘違いさせてしまうような発言をしてすみません。精霊と契約している者として興味があるだけなんですよ。サンドラ、来なさい」


ヴィルムの放つ威圧感を感じたのか、はたまた剣呑な雰囲気を察したのか、慌てたように弁解し、それと同時に指を〝パチン〟と鳴らすと空間に小さな雷撃が迸り、青紫の肌をした、人間の子供よりも少し小さいくらいの精霊が姿を顕す。


「彼女が僕の契約精霊、名をサンドラと言います。こう見えて上位精霊なんですよ? さ、ご挨拶なさい」


ベイルードに促され、ぎこちない表情と仕草でペコリとお辞儀をするサンドラ。


ヴィルム達の視線がサンドラに集中するが、当の彼女は目を伏せてしまった。


「彼女がベイルード様の契約精霊・・・。流石、上位精霊。凄い存在感ですね」


「えーっと、こちらこそよろしくお願いしますです」


「・・・?」


リーゼロッテが感心し、クーナリアがお辞儀を返す中、ヴィルムはサンドラを見て違和感を覚える。


『ッ!』


そのままサンドラの様子を見ていたヴィルムだったが、ゆっくりと顔を上げた彼女と目が合うと、身体をビクリと震わせ、何かに怯えるかのように目を逸らされてしまった。


(この精霊・・・ベイルードと契約しているにしては人に対する反応がおかしい。まさか、人を怖がっているのか?)


精霊にも様々な性格があるものの、契約の対象である人に対してここまで恐怖感を抱いている事はあり得ないと言っていいだろう。


契約者(ベイルード)のみに心を開いている可能性はあるが、その割には自分から彼に近寄ろうとはしない。


「あぁすみません。彼女は人見知りが激しくて・・・」


「おい━━━」


〝ドッゴオオォォォン!!!〟


仕方がないなぁといった表情を浮かべるベイルードに対して、いよいよおかしいと感じたヴィルムが声を掛けようとした瞬間、上の方で何かが爆発したような音が城内に鳴り響いた。


「「「「!?」」」」


反射的に爆発音がした方向に目を向けるヴィルム達。


数秒間の沈黙後、ベイルードが何かに気が付いたかのように口火を切った。


「こ、この方角は・・・まさか、王の間ですか!? リーゼロッテ騎士団長! すぐに向かいますよ!」


「は、はっ!」


その声に慌てながらも正気を取り戻したリーゼロッテ。


「ヴィルムさんとクーナリアさんも━━━」


一緒に、と言いたげなベイルードの言葉を遮るように背を向けるヴィルム。


「悪いが、後から向かわせてもらう。メルディナの姿が見えないんでな。彼女の安全を優先させてもらう」


「・・・そうですか。わかりました」


承諾の言葉と同時にベイルードは王の間へと向かって走り出した為によく見えなかったが、一瞬、彼の顔に憎らしげな表情が宿っていたように感じたのは気のせいだろうか。


「リーゼロッテ」


駆け出したベイルードを追い掛けようとするリーゼロッテを、背を向けたまま呼び止めるヴィルム。


「ヴィルム殿?」


「・・・気をつけろ。メルディナを見つけたらすぐに向かう」


「はい、ありがとうございます!」


呼び止められた事に疑問を浮かべたリーゼロッテだったが、それが自分への励ましだと知ると、少し嬉しそうな笑顔を浮かべて走って行った。


「クーナリア、行くぞ」


「は、はいです!」


リーゼロッテ達とは反対側へと走り出すヴィルムの表情は、どこか怒りの感情が含まれているように見える。


(お師様・・・?)


そんなヴィルムを見たクーナリアは、その様子に違和感を覚えながらも、メルディナを探す為に追走し始めた。

いつもより遅い更新で申し訳ありません。

熱中症になりかけて3日間くらい執筆する元気がありませんでした。

復帰一日目はマジでヤバかったです。

皆様も熱中症には十分に気を付けて下さいね。


さて、ヒュマニオン王国での騒動が開始しました。

連載開始前から考えていたイベントを書きたくてウズウズしてますが、もう少し先になりそうですね。

更新が疎かにならないように頑張ります。


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